【プロトキ・No.005】「YouTubeでアカウントの誤ban多発」を弁護士が解説

ニュース解説(プロトキ)

連載シリーズ「プロトキ」では、プロスパイア法律事務所の弁護士等の専門家が、ニュースや事問題について、法律の観点から解説をしていきます。

※本記事は、令和6年10月4日時点の情報に基づいて執筆されています。

今回は、「YouTubeでアカウントの誤ban多発」というニュースについて、アカウントが誤ってbanされた場合の法律上の取扱はどうなるのかもし自分が誤ってアカウントbanされた場合にはどうすればよいのか?などを解説していきます。

ニュース概要「YouTubeでアカウントの誤ban多発」について

10月4日朝より、「何もしていないのにYouTubeのアカウントが誤って停止された」との報告が各種SNSで多数寄せられています。

SNS上での報告によれば、削除の理由は、「スパム、欺瞞行為、詐欺に関するポリシー」の違反とのことです。

これらについては、既に、一部のチャンネルをスパムと認識して削除処理がされる誤りが生じていることこれら誤ってbanされたアカウントについてはすべて普及すること、についてYouTubeサポートチームからのコメントもあり、徐々に収束に向かっていますが、各種メディアでも取り上げられる事態に広がっています。

参考:Yahooニュース|2024/10/4「「何もしてないのに」 YouTubeでアカウント“誤BAN”多発 YouTubeは「調査中」」
参考:ITmediaNEWS|2024/10/4「YouTubeで“誤BAN”相次ぐ 「全て戻ってくる」とサポートチーム」
参考:BIGLOBEニュース|2024/10/4「「何もしてないのに」 YouTubeでアカウント“誤BAN”多発 YouTubeは「調査中」」

なお、YouTubeのアカウント停止・削除(アカban)の流れや、今回理由とされた「スパム、欺瞞、詐欺に関するポリシー」の内容などについては、以下の記事で詳しく解説していますので、参考までにご参照ください。

誤アカbanは違法? 法的な視点からの解説

誤アカbanが違法かについて、日本の法律の観点から考察することは重要です。YouTubeに限らず、多くのSNSやプラットフォームは利用規約に基づきアカウントの凍結を行う権限を持っていますが、それが法的に問題ないかどうかは状況によります。ここでは、いくつかの重要な法律とユーザーの権利について詳しく解説します。

利用規約との関係性

利用規約と法律との関係性では、利用規約は法的に契約として認識されます。しかし、その内容が日本の消費者契約法やその他の法律に違反する場合、それは無効とされる可能性があります。たとえば、利用停止措置に関する条項があまりに一方的である場合、消費者契約法により無効とされることがあります。このため、運営者は利用規約が法律に反しないよう細心の注意を払う必要があります。

ユーザーの認識と同意

利用規約に対するユーザーの認識と同意も重要です。多くのケースでは、サービス利用時に利用規約への同意が求められますが、その詳細を理解しないで同意するユーザーも少なくないため、情報提供の透明性が求められます。

プロバイダ責任制限法

インターネット上のサービス提供者を規定するプロバイダ責任制限法も考慮が必要です。この法律は、違法なコンテンツが投稿された場合などに、プロバイダが責任を負う条件を定めています。この場合、SNSやプラットフォームはリスク回避のため利用者の権利を制限することがあります。しかし、その措置が適切かどうかは慎重に検討されるべきです。

プロバイダ側の免責条件

プロバイダ責任制限法における免責条件としては、著作権侵害の疑いがある場合においても、プロバイダが実際の違法性を問われないことがあります。しかし、削除要請に迅速に対応しなければ法的責任を負うこともありえます。

名誉毀損や業務妨害にあたるケース

誤ったアカウント凍結が名誉毀損や業務妨害に該当する可能性も検討が必要です。ユーザーが利用規約に違反していないにもかかわらずアカウントが凍結された場合、その情報が一般に伝わると社会的評価が低下する恐れがあります。このため、名誉毀損として損害賠償を求める可能性もあります。

商業アカウントの影響

特に、凍結されたアカウントが商業利用されていた場合は、業務が妨害されたとして訴訟に発展する可能性があります。運営者は凍結措置を講じる際には法律に基づいた理由を十分に確認し、その根拠を明確に示す必要があります。

法的措置の選択肢

法的手続としては、アカウントを利用できる地位を求める訴訟損害賠償請求があります。これによりユーザーは正当な権利を守るための手段を講じることが可能です。

これらの法律は、個々の事例によりその影響度が異なるため、実際の法律相談では法律の専門家の助言を受けることが推奨されます。

過去に裁判で争われた事例

アカウント停止・削除(アカban)行為の正当性について、過去に裁判で争われた事例は存在します。

ゲーム中の不具合に乗じた行為に対するアカウント停止がされた事例

事案の概要

オンラインゲームにおいて消費されるはずのアイテムが不具合により消失しないというバグが発生したところ、計15回にわたってアイテムが消費される行為を行ったところ、アカウントの永久停止措置がとられたという事例です。

オンラインゲームの利用規約中で禁止されていた「本件ソフトウェアの不具合,または障害を不正な目的で利用する行為」に該当するとして、アカウントの停止措置を行ったゲーム運営者の処理に対し、債務不履行又は不法行為に該当するとして、アカウントの復旧と損害賠償を求めて訴訟が提起されました。

結論

オンラインゲームの利用規約における禁止行為には合理性があるとされ、アカウントの復旧は認められませんでした

 ……弁論の全趣旨によれば,Yは,多数のユーザーが適正・公平にゲームを楽しめるようにするため,違反行為に対して一定の措置を講ずる必要があるとの考慮のもとに,本件利用規約に上記の規定を置いているが,規約違反,不正行為の内容は,様々であり,個別具体的,網羅的に記載することは現実的ではないことから,本件利用規約に上記のような条項を置いているものと認められるところ,弁論の全趣旨によれば,Xにおいても,自らの自由な意思のもとに本件利用規約を承認してYの会員になったものと認められる。
そうすると,本件利用規約の上記条項についてのXの主張は採用することができず,これらの条項が無効であるということはできない。

東京地方裁判所平成22年1月27日判決

SNSの禁止行為にあたる「面識のない異性との出会い等を目的として利用する行為」該当性の判断が争われた事例

事案の概要

SNSのメッセージで、イベントの不要なチケットの譲り受けを目的としてメッセージのやり取りをし、チケットの受け渡しのために会う約束をしたところ、運営議場者が、「面識のない異性との出会い等を目的として利用する行為」に該当するとして、アカウントの利用停止措置をとった事例です。

当該行為を「面識のない異性との出会い等を目的として利用する行為」に該当すると判断し、利用停止措置をとった行為は不当であるとし、サービス利用上の地位にあることの確認と引き続きサービスを提供することの請求を求めて訴訟が提起されました。

結論

SNS運営者の処置は不当ではないとして、原告の請求は棄却されました。

 ……上記条項の趣旨については、面識のない男女が出会って交際等の関係に至ることが助長されるような投稿を禁ずる点にあると解する余地があるものの、投稿自体から男女間の交際を直接の目的とすることが明らかな行為のみを禁止するのでは、上記の趣旨を実効あらしめることは困難であり、上記行為にとどまらず「面識のない異性との出会い等を目的として利用する行為」を対象とし、これに該当する行為を禁じているものと認められる。 ……そうすると、……原告が、不要なチケットを所持する者に対して男女を問わず譲り受けを申し入れ、これに応じる者とチケットの受け渡しをする目的であったことを前提としても、これにより原告の送信したメッセージが本件禁止事項に該当するか否かの判断が左右されるものとは認められず、……被告事務局の行った本件利用停止は、原告の本件禁止事項違反により本件利用規約に基づいてなされたものと認められ、本件利用停止をもって、被告の原告に対する債務不履行及び不法行為に当たるものとは認められず、原告は、本件アカウントを利用する地位にあるものとは認められない。

東京地方裁判所平成27年4月8日判決

アカウントが凍結される原因

利用規約違反

SNSプラットフォームでは、利用規約に基づく利用制限が一般的です。利用者が規約に反した行為を行った場合、アカウント凍結の対象となることがあります。プラットフォームごとに規約内容は異なるため、各サービスの具体的な違反例を理解しておくことは重要です。

前述のとおり、YouTubeの規約については以下の法律記事で解説していますので、参考までにご参照ください。

なりすましや不正アクセス

他人のアカウントを無断で使用したり、本人になりすまして情報を盗み取ったりする行為は、アカウントの凍結のみならず法的措置の対象となる可能性があります。これらの行為は個人のプライバシーを侵害するのみでなく、詐欺やサイバー犯罪につながるケースもあり、特に悪質な場合は刑事告訴に至ることがあります。

システムの誤作動

稀に、プラットフォームのシステムエラーによりアカウントが誤って凍結されることがあります。このような場合、異議申し立てを行う手続きが重要です。多くのサービスでは誤凍結に対してユーザーが迅速に対応できるよう、問い合わせフォームやサポート窓口を設置しています。

今回のYouTubeのアカウントbanは、システム上の誤りであることがYouTubeサポートチームからコメントされていますので、まさにこの場合に該当します。

凍結されたアカウントへの対処法

SNSやオンラインプラットフォームでのアカウント凍結は、一見困難に思えるかもしれませんが、appropriately対処することで問題を解決できる場合があります。ここでは、アカウント凍結に対する効果的な対応法を詳しくご紹介します。

運営会社への問い合わせ

アカウントが突然凍結された場合、まずは運営会社に対して問い合わせを行うのが一般的です。多くのプラットフォームは利用者向けに不当な凍結を報告するための窓口を設けています。以下に一般的なプラットフォームごとの問い合わせ方法と注意点をまとめました。

プラットフォーム問い合わせ方法
X(旧Twitter)Xヘルプセンター内「アカウントのロックまたは凍結に関する異議申し立て」から申請
InstagramInstagramのヘルプセンターから専用のフォームよ申請
YouTubeYouTube Studioから再審査請求を申請

問い合わせ方法と注意点

問い合わせを行う際には利用者の状況を正しく伝えることが最も重要です。正確かつ具体的な情報を提供することが肝要であり、アカウントがどのような状況で凍結されたのか、具体的な状況を明確に記載します。

また、強調したいのは虚偽の情報を提供しないことです。誠実さと透明性は、運営側の理解と対応を得るための鍵となります。可能であれば凍結に至るまでのスクリーンショットやメールなどを用意しておくことが望ましいです。

弁護士への相談

問い合わせを行っても問題が解決しない場合には、法的対応を考慮することも可能です。この際、法律の専門家である弁護士に相談することで、より適正な対応策を見つけ出すことができるでしょう。

以下は弁護士に相談する際に考慮すべきポイントです:

  • アカウント停止の理由
  • 利用規約やガイドラインの内容確認
  • 必要な証拠をしっかりと収集しておくこと

まとめ

本記事では、ニュースや時事問題について、法律の観点から解説をする「プロトキ」の第5回として、「YouTubeでアカウントの誤ban多発」のニュースを解説していきました。

簡単にまとめると以下のような内容です。

  • アカウントが誤って利用停止等された場合には、利用停止の復旧や損害賠償を求めることができる場合がある。
  • 「誤って」利用停止されたといえるかは、利用規約の解釈や有効性の問題となる。
  • いずれにしてもアカウント利用停止となった場合には、異議申し立て等の対応が必要な場合がほとんど
  • 今回のYouTubeの誤ban多発の事件については、順次アカウントの回復措置が取られることがすでに発表されている

次回以降も、「プロトキ」では、ニュースや時事問題についてプロスパイア法律事務所の専門家が法的観点から解説をしていきます。

次回の更新をお楽しみにお願いいたします。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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