電子契約書を導入する際に、「印紙ってどうなるの?」「保管はどうすればいいの?」と疑問に思う方は多いのではないでしょうか。本記事では、電子契約書における印紙税の有無や納付方法、そして安全かつ法令に準拠した保管方法について、分かりやすく解説します。
電子契約書に関する印紙と保管方法の疑問を解消し、安心して電子契約を導入・運用しましょう。
電子契約と印紙税の関係
電子契約を利用する際に、印紙税の取り扱いについて疑問を持つ方は少なくありません。
電子契約の場合、印紙税を納付する必要がない場合がほとんどです。ただし、すべての電子契約が印紙税不要となるわけではないので注意が必要です。
電子契約と印紙税の関係、そして印紙税の納付方法について詳しく解説します。
印紙税法における課税文書の定義
印紙税は、印紙税法に規定されている特定の文書を作成した際に課税される税金です。課税対象となる文書は「課税文書」と呼ばれ、文書の種類や記載金額によって税額が異なります。
印紙税法では、課税文書を「課税物件たるべき文書」と定義しています。これは、印紙税法別表に掲げられている文書の種類に該当し、かつ一定の要件を満たす文書を指します。印紙税法別表には、請負契約書、金銭消費貸借契約書、領収書など、様々な種類の文書が列挙されています。
第三条(納税義務者)
印紙税法(昭和四十二年法律第二十三号)第三条
別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。
2 一の課税文書を二以上の者が共同して作成した場合には、当該二以上の者は、その作成した課税文書につき、連帯して印紙税を納める義務がある。
電子契約の場合、印紙は必要?
電子契約では印紙税を納付する必要がない場合がほとんどです。
印紙税法第三条では「別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。」と定められています。
ここでの「作成」について、印紙税法基本通達第44条では下記の通り定義されています。
第44条 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。
印紙税法基本通達第44条
(略)
電子契約はこの「課税文書」の「作成」にはあたらないので、電子契約の締結時には印紙税は不要と解釈されています。
ただし、電子契約で契約締結がされた場合にすべての印紙税が不要となるわけではありません。
例えば、電子契約で売買契約を締結した場合、その契約に基づいて発行される領収書には印紙税が課税されます。
印紙が必要な場合の納付方法
課税文書に該当する場合、印紙税の納付が必要となります。印紙税の納付方法には、従来の収入印紙による方法と、電子納付による方法の2種類があります。
収入印紙による納付
収入印紙による納付は、従来から行われている一般的な方法です。課税文書に収入印紙を貼付し、消印することで納付が完了します。印紙税額に合った収入印紙を用意し、文書にしっかりと貼付、消印することが重要です。
消印は、印紙と文書の両方にまたがるように行い、二重消印にならないように注意しましょう。収入印紙は、郵便局やコンビニエンスストアなどで購入できます。
電子納付による納付
電子納付は、インターネットを利用して印紙税を納付する方法です。国税庁のウェブサイト「e-Tax」を利用することで、自宅やオフィスから24時間いつでも納付が可能です。
電子納付を利用するには、事前に利用者識別番号の取得などの手続きが必要です。また、電子納付に対応したソフトウェアが必要となる場合があります。
電子契約書の保管方法
電子契約書は、紙の契約書と同様に適切に保管することが重要です。電子契約書の保管方法には法的な要件があり、これらの要件を満たしつつ、安全かつ確実に保管するための具体的な方法を理解しておく必要があります。
電子契約書の保管方法に関する法的要件
電子契約書の保管は、主に電子帳簿保存法に基づいて行われます。その他にも関連する法令が存在する場合があります。
電子帳簿保存法の要件
電子帳簿保存法では、電子契約書を含む電子文書の保存について、以下の要件を定めています。
- 真実性の確保:データの改ざんを防止するための措置が必要です。例えば、タイムスタンプの付与や改ざん検知システムの導入などが挙げられます。
- 可読性の確保:保存期間中はいつでも内容を確認できる状態である必要があります。適切なシステムやソフトウェアを導入し、将来にわたって閲覧可能な環境を維持することが重要です。
- 検索性の確保:必要な時に迅速に検索できるよう、適切な検索機能を備えたシステムを構築する必要があります。例えば、契約日や契約相手などで検索できる仕組みが必要です。
その他の法令の要件
業種によっては、電子帳簿保存法以外にも電子契約書の保管に関する法令が定められている場合があります。例えば、金融機関は金融商品取引法に基づく記録保存義務があります。それぞれの業種に関連する法令を確認し、適切な保管方法を採用する必要があります。
電子契約書の具体的な保管方法
電子契約書の具体的な保管方法には、主にクラウドストレージサービスを利用する方法と自社サーバーで保管する方法があります。
クラウドストレージサービスを利用した保管
クラウドストレージサービスを利用した保管は、手軽で費用を抑えられるというメリットがあります。Box、Dropbox Business、Google Workspace など、様々なサービスが提供されており、それぞれのサービスでセキュリティ対策やデータの保存期間などが異なります。サービスを選ぶ際には、電子帳簿保存法の要件を満たしているか、セキュリティ対策は十分かなどを確認する必要があります。
自社サーバーでの保管
自社サーバーでの保管は、セキュリティレベルを高く保つことができるというメリットがあります。ただし、サーバーの構築や維持管理に費用と手間がかかるため、十分なリソースが必要です。自社サーバーで保管する場合も、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。
電子契約書に関するよくある質問
電子契約の導入を検討する際に生じる疑問点について、分かりやすく解説します。
電子署名と電子契約の違いは?
電子署名と電子契約は混同されがちですが、明確な違いがあります。電子署名は、紙文書における署名や印鑑のように、電子文書の作成者を証明し、文書の改ざんを防止するための技術です。
一方、電子契約は、契約の締結までを電子的に行う仕組み全体を指します。 電子契約の中には電子署名が含まれることが一般的ですが、電子署名は電子契約の一部に過ぎません。
項目 | 電子署名 | 電子契約 |
---|---|---|
目的 | 文書の真正性・非改ざん性の確保 | 契約締結の効率化・コスト削減 |
範囲 | 電子文書の一部 | 契約締結プロセス全体 |
電子契約の法的効力は?
電子契約は、適切な方法で締結された場合、紙の契約書と同様に契約書どおりの意思表示があったことを証明する証拠として機能します。
ただ、あくまでも証拠の一つという位置づけであるため、成立の真正が争われた場合には、電子契約を用いた側は、契約締結の事実を証明する必要があります。そのため、時刻認証や電子署名などの信頼性を高める技術の活用が重要です。また、契約内容が書面でなければ効力を生じない契約は電子契約の対象外である場合があるため注意が必要です。
電子契約書の作成方法は?
電子契約書の作成方法は、主に以下の2つの方法があります。
- 電子契約サービスを利用する:クラウドサイン、DocuSignなどの電子契約サービスを利用すれば、Web上で簡単に電子契約書を作成・締結できます。多くのサービスでテンプレートが用意されているため、手軽に始めることができます。
- WordやPDFなどのファイルをアップロードする:既存の契約書ファイル(Word、PDFなど)を電子契約サービスにアップロードし、電子署名を追加することで電子契約書として利用できます。
いずれの方法でも、契約内容が正しく反映されているか、署名欄などが適切に設定されているかを確認することが重要です。
まとめ
電子契約書における印紙と保管方法について解説しました。
電子契約はなぜ印紙税が不要なのか、その理由と注意点についても理解することで、ビジネスをスムーズに進めることができるでしょう。
さらに電子契約書の保管については、電子帳簿保存法などの法令で定められた要件を満たす必要があります。電子契約書を適切に管理することで、紛失や改ざんのリスクを低減し、法的効力を確実に担保することができます。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。