ライブコマース事業を安全かつ成功させるには、法律知識が不可欠です。
本記事では、特定商取引法、景品表示法、薬機法など、ライブコマースに適用される主要な法律を網羅的に解説します。さらに、実際に起こりやすいトラブル事例とその具体的な対策、法的リスクを未然に防ぐための実践的な方法まで、これ一つで全てが分かります。法的リスクを回避し、安心してライブコマースを展開するための羅針盤としてご活用ください。
ライブコマースと法律の重要性
近年、インターネットとスマートフォンの普及により、ライブコマースは急速に成長し、私たちの生活に深く浸透しています。商品をリアルタイムで紹介し、視聴者とインタラクティブなコミュニケーションを取りながら販売するこの形態は、新たな消費体験を提供し、多くの企業や個人事業主にとって魅力的なビジネスチャンスとなっています。
しかし、その手軽さや即時性の裏には、知っておくべき法的リスクと、遵守すべき多くの法律が存在します。事業者は常に最新の情報を把握し、適切な対策を講じることが求められます。
ライブコマースの普及と法的リスク
ライブコマースでは、ライブ配信中に発せられる言葉一つ一つが「広告」となり、視聴者とのリアルタイムなやり取りが「契約」に直結するため、意図せず法律に抵触してしまうリスクが潜んでいます。
法律知識が不足している場合、以下のような重大なリスクに直面する可能性があります。
- 行政指導・罰則: 特定商取引法や景品表示法、薬機法などに違反した場合、消費者庁や各省庁からの行政指導、業務改善命令、さらには罰金や業務停止命令といった行政処分を受ける可能性があります。
- 損害賠償請求: 虚偽表示や不当な勧誘により消費者に損害を与えた場合、損害賠償請求を提起され、多額の賠償金を支払う事態に発展する可能性があります。
- 信用失墜: 法令違反やトラブルは、メディア報道やSNSでの拡散により、企業のブランドイメージや信頼性を著しく損ないます。
- 事業の停止: 重大な法令違反を繰り返したり、悪質な行為が認められたりした場合、事業そのものの継続が困難になることもあります。
ライブコマースにおける法律の重要性については、公的機関も注意喚起を行っています。例えば、消費者庁では、通信販売に関するガイドラインや注意点を公開しており、事業者はこれらを参考にすることで、適切な運営体制を構築することができます。

ライブコマースで起こりやすいトラブル事例と対策
ライブコマースの普及に伴い、残念ながら消費者との間で様々なトラブルが発生しています。ここでは、特に注意すべきトラブル事例とその背景にある法的問題、そして事業者として知っておくべき基本的な対策について解説します。
広告・表示に関するトラブル事例
ライブコマースでは、リアルタイムの配信で商品の魅力を伝えるため、意図せずとも誤解を招く表現や、過度な表現をしてしまうリスクがあります。これが広告・表示に関するトラブルに繋がります。
景品表示法違反による行政指導やクレーム
景品表示法は、消費者がより良い商品やサービスを自主的かつ合理的に選べるよう、不当な表示を規制する法律です。ライブコマースでは、以下の違反事例が散見されます。
- 優良誤認表示:商品やサービスの品質、規格その他の内容について、実際よりも著しく優良であると誤認させる表示。「このサプリでガンが治る」「最高級A5ランク和牛(実際はB3ランク)」など。
- 有利誤認表示:価格その他の取引条件について、実際よりも著しく有利であると誤認させる表示。「今だけ半額!(実は常に半額で販売している)」「通常価格10,000円を3,000円で!(通常価格の実態がない)」など。
- 比較広告:他社製品と比較して優位性を謳う際、比較の根拠が不明確であったり、不公正な比較であったりする場合。
- いわゆる「ステマ規制」:2023年10月1日より景品表示法の不当表示に追加された「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」に該当する表示。インフルエンサーや出演者が、事業者から報酬を得ているにもかかわらず、その事実を明示しないで商品を紹介する行為がこれに該当します。
これらの違反が確認された場合、消費者庁から措置命令(違反行為の停止、再発防止策の実施など)や課徴金納付命令が下される可能性があります。また、視聴者がこれらの表現を信じて商品を購入したものの、期待した効果が得られなかった場合、クレームや返金要求に発展する可能性があります。
対策:ライブ配信前に、広告内容やスクリプトを法務担当者や弁護士がチェックする体制を構築しましょう。特に、価格表示や他社製品との比較、インフルエンサーマーケティングを行う際は、景品表示法のガイドラインを遵守しているか入念に確認することが不可欠です。詳細は消費者庁が公表しているガイドブックで確認できます。

契約・取引に関するトラブル事例
ライブコマースは通信販売の一種であるため、特定商取引法が適用されます。この法律に則った適切な取引が行われない場合、消費者との間で契約上のトラブルが発生しやすくなります。
返品・返金に関する紛争
ライブコマースで購入した商品について、「イメージと違った」「サイズが合わない」「不良品だった」といった理由で、消費者から返品や返金の要求がなされることがあります。
特定商取引法では、通信販売には原則としてクーリングオフ制度の適用はありませんが、事業者が返品に関する特約を表示していない場合、消費者は商品到着から8日以内であれば返品が可能です。また、商品に欠陥があった場合や、商品説明と著しく異なる商品が届いた場合、注文と異なる商品が届いた場合は、特約の有無にかかわらず、民法上の瑕疵担保責任(契約不適合責任)や債務不履行に基づき、返品・交換・損害賠償の対象となることがあります。
対策: ライブ配信中に、返品・交換に関する条件(期間、費用負担、対象外商品など)を明確に告知し、ECサイトの購入ページや利用規約にも詳細を記載しましょう。特に、セール品や衛生商品など、返品不可とする場合は、その旨を分かりやすく表示することが重要です。また、誤配送については、出荷前の検品体制を強化することにより対策を講じましょう。
権利侵害に関するトラブル事例
ライブコマースでは、動画や音声、画像など様々なコンテンツが利用されるため、他者の知的財産権や肖像権などを侵害するリスクが潜んでいます。
著作権・商標権侵害による訴訟
他者が作成した音楽、画像、動画、キャラクターなどを、権利者の許諾を得ずにライブ配信で使用した場合、著作権侵害となります。また、他社が登録している商標(ブランド名、ロゴなど)を無断で使用して商品を販売する行為は商標権侵害にあたります。これにより、権利者から損害賠償請求や差止請求を受ける可能性があります。
対策: ライブ配信で使用するすべてのコンテンツ(BGM、画像、動画など)について、著作権や商標権の有無を確認し、必要な場合は必ず権利者から許諾を得ましょう。フリー素材や商用利用可能な素材を選ぶ場合も、利用規約をよく確認することが重要です。
肖像権・パブリシティ権の侵害
肖像権は、個人の顔や姿が勝手に撮影されたり、公開されたりしない権利です。ライブコマース配信中に、出演者以外の一般視聴者が意図せず映り込んでしまったケース等がこれに該当します。また、有名人の肖像や氏名を無断で商品や広告に利用した場合、パブリシティ権侵害となり、多額の損害賠償を請求される可能性があります。
対策: ライブ配信時には、不特定多数の人物が映り込まないようカメラアングルに注意しましょう。出演者やゲストには、肖像利用に関する明確な同意を得ておくことが不可欠です。有名人の肖像や氏名を利用する場合は、必ず事前に所属事務所等を通じて正式な許諾を得る必要があります。
個人情報漏洩・セキュリティに関するトラブル事例
ライブコマースでは、顧客の氏名、住所、電話番号、クレジットカード情報など、多くの個人情報を取り扱います。これらの情報が適切に管理されない場合、重大なトラブルに発展する可能性があります。
顧客情報の不正アクセス・漏洩
事業者が管理する顧客データベースが外部からの不正アクセスを受けたり、従業員の過失によって個人情報が漏洩したりするケースです。漏洩した情報は、悪用されたり、ダークウェブで売買されたりする危険性があります。
個人情報保護法では、事業者は個人情報の安全管理のために必要な措置を講じる義務があります。漏洩が発生した場合、個人情報保護委員会への報告義務や、本人への通知義務が生じ、違反すると罰則が科せられる可能性があります。
また、プラットフォーム側で大規模な情報漏洩が発生した場合、たとえ自社の過失でなくとも、そのプラットフォームを利用していた事業者も風評被害を受け、顧客からの問い合わせやクレーム対応に追われる可能性があります。
対策: 個人情報保護法のガイドラインに基づき、厳重なセキュリティ対策を講じましょう。万が一漏洩が発生した際の対応マニュアルを整備しておくことも重要です。また、 プラットフォームを選定する際は、そのプラットフォームがどのようなセキュリティ対策を講じているか、プライバシーマークやISMS認証などを取得しているかなどを事前に確認するようにしましょう。

ライブコマース事業者が取るべき法的リスク回避策
ライブコマース事業を安定的に継続し、顧客からの信頼を得るためには、法的リスクを事前に認識し、適切な回避策を講じることが極めて重要です。ここでは、ライブコマース事業者が取り組むべき具体的なリスク回避策について解説します。
事前準備とチェックリスト
ライブコマースを開始する前に、法的な側面からの徹底した事前準備が不可欠です。これにより、事業開始後のトラブルを未然に防ぐことができます。
法務チェック体制の構築
ライブコマースは、商品の販売から広告、顧客対応、個人情報管理に至るまで、多岐にわたる法律が複雑に絡み合います。そのため、専門的な知識に基づいた法務チェック体制の構築が必須です。
- 社内担当者の育成と配置: 特定商取引法、景品表示法、薬機法、個人情報保護法など、ライブコマースに関連する主要な法律知識を持つ担当者を配置し、定期的な研修を実施することで、社内の法的リテラシーを高めます。
- 外部専門家との連携: 法律の解釈や最新の法改正への対応は専門的な知識を要するため、弁護士や行政書士といった外部の法律専門家と顧問契約を結ぶことを強く推奨します。
- チェックリストの作成と運用: ライブ配信内容、販売商品、広告表現、取引条件、個人情報取り扱いなど、各プロセスにおける法的要件を網羅したチェックリストを作成し、配信前や商品掲載前に必ず確認する体制を構築します。
規約・プライバシーポリシーの整備
ライブコマースサイトやプラットフォームにおいて、利用者との間のルールを明確にするための規約、そして個人情報の取り扱いに関するプライバシーポリシーを適切に整備し、利用者が容易に確認できる場所に明示することが不可欠です。
- 利用規約:購入条件、禁止事項、免責事項、知的財産権に関する事項を明示的かつ具体的に記載することが重要です。
- 特定商取引法に基づく表記:この情報は、消費者が容易にアクセスできる場所に明確に表示する必要があります。消費者庁のウェブサイトでも特定商取引法ガイド等によって詳細な情報が提供されていますので、参考にすると良いでしょう。
- プライバシーポリシー:個人情報の取得方法と種類・利用目的・第三者提供の有無と条件、安全管理措置、開示・訂正・削除等の請求対応について具体的に明記するようにしましょう。
これらの規約やポリシーは、専門家と相談の上、自社の事業内容に合わせて作成し、常に最新の法令に準拠しているかを確認することが重要です。
ライブ配信中の注意点
ライブ配信はリアルタイムで行われるため、その場で発せられる情報が法的リスクに直結する可能性があります。配信中の発言や表示内容には細心の注意を払う必要があります。
発言内容の管理とスクリプト作成
- スクリプト(台本)の作成: 配信中に話す内容、商品の説明、価格、特典、注意点などを詳細に盛り込んだスクリプトを事前に作成します。特に、効能効果の表現や比較表現など、法的な規制を受けやすい部分は、慎重に言葉を選び、法務担当者や外部専門家によるチェックを受けることが望ましいです。また、スクリプトに基づいたリハーサルを繰り返し行うようにすると安心です。
- 表現のガイドライン: 配信中に使用してはならない禁止ワードや、推奨される表現方法をまとめたガイドラインを策定し、出演者や関係者全員に周知徹底します。
- アーカイブの保存: 配信した動画は、万が一トラブルが発生した場合に後から内容を確認できるよう、必ずアーカイブとして保存しましょう。
質問への回答と法的アドバイスの範囲
ライブ配信中に視聴者から寄せられる質問への対応も、法的リスクを伴う可能性があります。特に、以下のような質問への回答には注意が必要です。
- 健康・医療に関する質問: 健康食品や化粧品に関する質問で、特定の病状改善や治療効果を期待させるような回答は、薬機法違反となる恐れがあります。このような場合は、「個別の症状については医師にご相談ください」と専門家への相談を促すようにしましょう。
- 法的解釈を伴う質問: 法的な解釈が必要となる質問に対しては、安易に断定的な回答を避け、「規約をご確認いただくか、具体的なケースについては専門家にご相談ください」と案内することが賢明です。
回答に迷う質問に対しては、その場での即答を避け、「後ほど改めてお答えします」と伝え、事実確認や専門家への確認を行った上で、適切な情報を提供するようにしましょう。

まとめ
ライブコマースは手軽に販売できる反面、特定商取引法、景品表示法、薬機法、消費者契約法、個人情報保護法、知的財産権など、多岐にわたる法的規制が適用されます。
これらの法律を深く理解し遵守することは、返品トラブルや権利侵害といったリスクを回避し、事業の信頼性を築く上で不可欠です。事前の法務チェックや規約整備等を徹底することで、トラブルを未然に防ぎ、顧客からの信頼を獲得できます。法的リスクを適切に管理し、誠実な事業運営を心がけることが、ライブコマース事業の持続的な成功に繋がります。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。



