電動キックボードの利用者が増加する一方で、事故も増えており、高額な賠償責任を負うケースも発生しています。そこで、万が一の事故に備えて加入すべき保険について解説します。
自賠責保険と任意保険の違い、電動キックボードにおすすめの任意保険の種類、保険を選ぶ上での注意点などを詳しく説明することで、読者は自分に最適な保険を選ぶことができ、安心して電動キックボードに乗ることができます。
電動キックボードの事故増加と保険の重要性
近年、手軽な移動手段として人気が高まっている電動キックボードですが、それに伴い事故も増加傾向にあります。警察庁の発表によると、電動キックボードが当事者となった人身交通事故は、2020年は4件だったのに対し、2022年では死者が発生した1件を含む41件と、かなりの増加傾向にあります。
死傷者のいる事故以外にも、電動キックボードの事故は、歩行者との接触や、道路上の障害物との衝突、自損事故など、その内容は様々です。
電動キックボードは手軽に乗れる反面、自動車に比べて車体が小さく不安定であること、運転操作に慣れていない人が多いことなどから、事故のリスクが高い乗り物であることを認識しておく必要があります。
電動キックボードによる事故で最も怖いのは、死亡事故や後遺症が残るような重大事故に繋がる可能性があることです。自動車と比較して、身体を守るものが何もない状態で走行するため、事故時の衝撃は大きく、重傷を負いやすいという特徴があります。
また、歩行者や自転車との事故では、加害者になってしまう可能性もあり、高額な賠償責任を負うケースも少なくありません。
事故の事例と賠償金額
電動キックボードによる事故の事例としては、以下のようなものがあります。
- 歩行者と衝突し、歩行者に重傷を負わせてしまったケース
- 駐車中の車に接触し、車を破損させてしまったケース
- 走行中に転倒し、自身が大怪我を負ってしまったケース
賠償金額は、事故の状況や被害の程度によって大きく異なりますが、高額になるケースも少なくありません。例えば、歩行者に後遺症が残るような重傷を負わせてしまった場合、1億円を超える賠償金が請求されることもあります。
また、物損事故の場合でも、高級車に傷をつけてしまった場合などは、数百万円の修理費用を請求されることもあります。
具体的な賠償事例としては、2024年6月に大阪地裁で、電動キックボードに2人乗りをしながら乗車中に他者と衝突し、首を骨折する重症を負わせた事例で、運転手だけでなく同乗者にも約1,110万円の賠償を命じる判決が出た事例があります。このケースでは、電動キックボードの運転者と同乗者に共同不法行為が成立したと認めたものです。(参考記事:朝日新聞デジタル「2人乗りキックボードの衝突事故、同乗者にも1100万円の賠償命令」)
電動キックボード利用時のリスク
電動キックボード利用時のリスクは、大きく分けて「人身事故」と「物損事故」の二つに分けられます。
人身事故
人身事故の場合、歩行者、自転車、自動車など、相手は様々です。特に、歩行者は電動キックボードの存在に気づいていないケースも多く、注意が必要です。また、夜間や視界が悪い状況では、事故のリスクがさらに高まります。
物損事故
物損事故では、駐車中の車や、ガードレール、電柱などに接触してしまうケースが考えられます。電動キックボードは車体が小さく、運転操作にも慣れていないと思わぬ事故に繋がる可能性があります。また、路面状況が悪い場所での走行は、転倒やスリップのリスクが高まるため注意が必要です。
電動キックボードは、便利で楽しい乗り物ですが、使い方を誤ると重大な事故に繋がる可能性があります。安全に走行するために、交通ルールを守り、周囲の状況に注意しながら走行することが重要です。また、万が一事故を起こしてしまった場合に備え、保険に加入しておくことも大切です。
電動キックボードに関係する法律と保険
電動キックボードは、その走行性能や車両区分によって、適用される法律や加入すべき保険が異なります。ここからは、電動キックボードの法律上の位置づけと、関連する保険について詳しく解説していきます。
道路交通法における電動キックボードの分類
電動キックボードは、道路交通法上では以下のいずれかに分類されます。区分によって、走行可能な場所や運転に必要な免許などが異なるため注意が必要です。
- 原動機付自転車(原付)
ナンバープレートを取得し、自賠責保険への加入、ヘルメットの着用が義務付けられます。原付免許または普通自動車免許が必要で、車道の左側走行が基本となります。16歳未満の運転は禁止されています。
- 特定小型原動機付自転車
令和5年7月1日より施行された新しい車両区分です。最高速度20km/h以下など、一定の基準を満たす電動キックボードが分類されます。16歳以上であれば運転免許は不要ですが、ヘルメットの着用は努力義務となります。
- 特例特定小型原動機付自転車
特定小型原動機付自転車の中でも、特に車体の構造上、6km/hを超える速度を出すことができないなどの一定の条件を全て満たすものです。一定の条件で歩道が走行可能となります。
電動キックボードの区分やそれぞれに課せられる規制の違いについては以下の法律記事をご確認ください。
自賠責保険加入の義務
電動キックボードは、原動機付自転車に区分されるものだけでなく、特定小型原動機付自転車であっても、自賠責保険への加入が法律で義務付けられています。自賠責保険は、交通事故発生時に被害者に対して最低限の補償を行うための保険です。加入していない場合は、法律で罰せられる可能性や、走行が認められない場合があります。
任意保険の必要性
自賠責保険は対人賠償のみを対象としており、補償額も限られています。そのため、事故による高額な賠償責任や自身の怪我、車両の損傷に備えるためには、任意保険への加入が強く推奨されます。任意保険では、自賠責保険ではカバーできない範囲まで補償を拡充することができます。
項目 | 自賠責保険 | 任意保険 |
加入義務 | あり(原動機付自転車) | なし |
補償対象 | 対人賠償のみ | 対人賠償、対物賠償、搭乗者傷害など |
補償限度額 | 死亡・後遺障害:3,000万円傷害:120万円後遺障害:120万円 | 設定した保険金額による(無制限も可能) |
電動キックボードの事故では、高額な賠償責任が発生するケースも少なくありません。万が一に備え、自身に合った任意保険への加入を検討しましょう。
電動キックボードにおすすめの任意保険
電動キックボードに乗る際は、自賠責保険に加えて、任意保険への加入が強く推奨されます。なぜなら、自賠責保険だけでは十分な補償が得られない場合が多いからです。そこで、ここでは電動キックボード利用時におすすめの任意保険について詳しく解説します。
対人賠償責任保険
対人賠償責任保険は、万が一事故を起こしてしまい、他人を死傷させてしまった場合に備える保険です。治療費はもちろんのこと、休業損害や慰謝料など、高額になる可能性のある賠償金に備えることができます。
電動キックボードは歩行者との距離が近く、事故を起こした場合、重大な被害を与えてしまうリスクが高い乗り物です。そのため、対人賠償責任保険は必ず加入しておきましょう。
対人賠償責任保険の選び方
- 補償金額は最低でも1億円以上を目安にしましょう。近年、賠償金額の高額化が進んでおり、万が一の際に備え、十分な補償額を設定することが重要です。
- 示談交渉サービスが付帯されていると安心です。保険会社が示談交渉を代行してくれるため、専門知識がない方でもスムーズに手続きを進めることができます。
対物賠償責任保険
対物賠償責任保険は、事故によって他人の財物に損害を与えてしまった場合に備える保険です。例えば、駐車中の車に接触してしまったり、お店の看板を壊してしまったりした場合に補償されます。高額な修理費用が発生するケースもあるため、対物賠償責任保険も加入しておくことが望ましいです。
対物賠償責任保険の選び方
- 対人賠償責任保険と同様に、補償金額は高めに設定しておきましょう。特に、高級車との事故も想定し、1000万円以上の補償があると安心です。
- 事故相手が自動車の場合に備え、「無保険車傷害保険」が付帯されているとさらに安心です。これは、相手が無保険車の場合でも、自分の保険会社から補償を受けられるというものです。
搭乗者傷害保険
搭乗者傷害保険は、事故によって自身や同乗者がケガをしてしまった場合に備える保険です。治療費や入院費、通院費などが補償されます。
自賠責保険では搭乗者への補償は対象外となるため、自身を守るためには任意保険への加入が必須です。特に、電動キックボードは転倒しやすく、自分自身が怪我をしてしまうリスクも高いため、搭乗者傷害保険への加入は非常に重要です。
搭乗者傷害保険の選び方
- 補償内容をしっかり確認しましょう。治療費や入院費だけでなく、通院費や手術費用、入院一時金などが含まれているかを確認することが大切です。
- 保険金額は、自身のライフスタイルや経済状況に合わせて設定しましょう。通院日数や入院日数に応じて保険金が支払われるタイプもあります。
車両保険
車両保険は、事故や盗難などによって、電動キックボード自体に損害が生じた場合に補償される保険です。電動キックボードは比較的高価なものが多く、修理費用も高額になる可能性があります。そのため、車両保険に加入することで、万が一の際も安心です。
車両保険の選び方
- 電動キックボードの購入金額や使用頻度などを考慮して、保険金額を設定しましょう。一般的には、新車購入時や高額な電動キックボードの場合には加入を検討する人が多いです。
- 保険料と補償内容のバランスを考慮しましょう。車両保険は他の保険と比べて保険料が高くなる傾向があります。そのため、自身のニーズに合った補償内容かどうか、保険料と比較しながら検討することが重要です。
電動キックボードは手軽な移動手段として人気が高まっていますが、その反面、事故のリスクも伴います。万が一の事故に備え、自賠責保険だけでなく、任意保険への加入を強くおすすめします。
保険選びは、自身のニーズや予算に合わせて、最適なプランを選びましょう。また、保険の内容は保険会社やプランによって異なるため、必ず保険会社のウェブサイトや資料で詳細を確認するようにしてください。
自賠責保険と任意保険の違い
電動キックボードの保険を選ぶ際に、自賠責保険と任意保険の違いを理解することは非常に重要です。どちらも交通事故による損害賠償をカバーする保険ですが、その補償範囲や保険料は大きく異なります。
補償範囲の違い
自賠責保険と任意保険の最も大きな違いは、その補償範囲です。以下の表に、それぞれの保険の補償範囲の違いをまとめました。
保険の種類 | 対人賠償 | 対物賠償 | 搭乗者傷害 |
自賠責保険 | 死亡:最大3,000万円後遺障害:最大4,000万円傷害:最大120万円 | 補償なし | 補償なし |
任意保険 | 無制限も選択可能 | 無制限も選択可能 | 契約内容による |
自賠責保険は、法律で加入が義務付けられていることからわかるように、あくまで被害者救済を目的とした最低限の補償内容となっています。そのため、対人賠償のみを対象としており、その補償額も限られています。
一方、任意保険は、自賠責保険でカバーしきれない損害を補償する目的で加入する保険です。そのため、自賠責保険よりも手厚い補償が期待できます。対人賠償では、無制限の補償を選択することも可能です。また、対物賠償や搭乗者傷害も補償の対象となります。
ただし、具体的な補償内容は契約する保険商品によって異なるため、注意が必要です。
保険料の違い
自賠責保険と任意保険では、保険料にも大きな違いがあります。自賠責保険は、毎年1月に金融庁が開催する「自動車損害賠償責任保険審議会」で保険料が決定します。
一方、任意保険の保険料は、保険会社や契約内容によって大きく異なります。一般的には、補償内容が手厚いほど保険料は高くなります。
電動キックボードの任意保険を選ぶ際には、複数の保険会社の商品を比較検討し、自身にとって最適な保険を選ぶことが大切です。
電動キックボード保険を選ぶ上での注意点
電動キックボードの保険を選ぶ際には、いくつかの重要な注意点があります。自分に最適な保険を選ぶために、以下のポイントを参考に比較検討しましょう。
補償内容の確認
保険を選ぶ上で最も重要なのは、補償内容です。保険商品によって、事故の種類や損害の程度によって補償される範囲が異なります。具体的には、以下の項目について確認しましょう。
項目 | 内容 |
---|---|
対人賠償責任保険 | 事故で他人をケガさせてしまった場合や、死亡させてしまった場合の損害賠償を補償します。 |
対物賠償責任保険 | 事故で他人の物を壊してしまった場合の損害賠償を補償します。 |
搭乗者傷害保険 | 事故で自分がケガをしてしまった場合の治療費などを補償します。 |
車両保険 | 事故で自分の電動キックボードが壊れてしまった場合の修理費などを補償します。 |
これらの補償項目は、保険商品によって含まれるものと含まれないものがあります。また、補償限度額も商品によって異なるため、事前にしっかりと確認することが重要です。
例えば、対人賠償責任保険は、自賠責保険だけでは十分でない場合もあるため、高額な補償限度額を設定できる任意保険への加入を検討する必要があります。
保険料と補償内容のバランス
保険料は、補償内容の充実度によって異なります。そのため、保険料と補償内容のバランスを考慮して選ぶことが大切です。例えば、補償範囲が広く、補償限度額も高い保険は、保険料が高額になる傾向があります。
一方で、補償範囲が狭く、補償限度額も低い保険は、保険料が安価になる傾向があります。自分に必要な補償内容を検討し、無理のない範囲で保険料を抑えるようにしましょう。そのためには、複数の保険会社の商品を比較検討することが重要です。
保険会社の信頼性
保険会社を選ぶ際には、保険会社の信頼性も重要な要素となります。万が一、事故を起こして保険金請求をする際に、保険会社が迅速かつ適切に対応してくれるかどうかは非常に大切です。
保険会社の信頼性を判断する材料としては、以下のものがあります。
- 保険金の支払い実績
- 顧客満足度
- 会社の規模や経営状況
これらの情報は、各保険会社のホームページや、保険比較サイトなどで確認することができます。また、保険会社の評判や口コミなども参考にすることができるでしょう。
ファミリーバイク特約でカバーされている可能性もある
自身や同居の家族が既に自動車をもっており、その自動車について任意保険に加入している場合には、その自動車の任意保険に、ファミリーバイク特約が付随している可能性があります。
ファミリーバイク特約とは、保険契約者やその家族が、保険の対象の自動車だけでなく、原付バイク等を利用して他人を死亡・ケガさせた場合や、他人の車や塀等の財物を壊した場合等に負う、法律上の損害賠償責任を補償するものです。
多くの保険会社の約款では、ファミリーバイク特約の保障対象に、電動キックボードも含まれているのが通常です。
そのため、ファミリーバイク特約によって保障対象となっている場合には、別途電動キックボードについての任意保険に加入する必要はない場合があるので注意しましょう。
まとめ
電動キックボードは手軽な移動手段として人気が高まっていますが、事故のリスクも高まっています。事故を起こした場合、高額な賠償金を請求される可能性もあるため、自賠責保険への加入は必須です。
さらに、自賠責保険では補償されない範囲もカバーするために、任意保険への加入も強くおすすめします。任意保険には、対人賠償責任保険、対物賠償責任保険、搭乗者傷害保険、車両保険など、さまざまな種類があります。
ご自身の利用状況やニーズに合わせて、最適な保険を選び、安全・安心な電動キックボードライフを送りましょう。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。