これからインフルエンサーに広告の制作を任せたい場合、さまざまなポイントや注意点があります。
もちろん広告制作を任せることによってさまざまなメリットがありますが、ステルスマーケティング、通称ステマなどをはじめとする注意点もあります。
しっかりとしたインフルエンサーマーケティングを行うためにも、契約書を交わす必要性があるでしょう。
それでは、インフルエンサーマーケティングとは何か、インフルエンサーマーケティングのメリットや注意点、インフルエンサーマーケティングを行うときのポイントなどをご説明しましょう。
インフルエンサーマーケティングとは?
インフルエンサーマーケティングとは、主にYouTubeやTwitterなどで大きな影響力や拡散力を持つインフルエンサーを起用したマーケティングの方法です。
インフルエンサーマーケティングの最大の特徴は、インフルエンサーが消費者の視点で自社製品やサービスのPRをすることにより、高い共感力と訴求力によって消費者に購買行動を促して高い広告効果が期待できる点です。
キャスティングしたインフルエンサーのPR次第では、一気にユーザーの関心や興味を惹くことができるため、キャスティング次第で高い費用対効果が得られる可能性があるでしょう。
インフルエンサーマーケティングのメリット
インフルエンサーマーケティングのメリットは、以下の通りです。
- ダイレクトに広告宣伝をする必要性が少なくなる
- ターゲッティングがしやすい
- 自社製品やサービスのイメージがしやすくなる
- オンライン販売との相性が良い
それでは、インフルエンサーマーケティングのメリットについてご説明しましょう。
ダイレクトに広告宣伝をする必要性が少なくなる
ユーザーの中には、ダイレクトな広告宣伝を嫌う人もいます。
広告を流した途端に興味や関心を無くす人も多いため、インフルエンサーマーケティングによってダイレクトな広告宣伝をする必要性が少なくなるのが大きなメリットです。
インフルエンサーマーケティングは基本的にインフルエンサーによるPRによって宣伝するため、広告宣伝のように感じさせないのがポイントです。広告が流れないようにアドブロックされることがあったとしても、インフルエンサーマーケティングならSNSや動画投稿によって拡散されるため、ブロックされる心配もありません。
したがって、多くのフォロワーや閲覧者に自社製品やサービスの魅力を伝えることができるでしょう。
ターゲッティングがしやすい
インフルエンサーマーケティングのメリットは、自社製品やサービスのジャンルに応じたインフルエンサーに依頼することでターゲッティングがしやすいことです。
インフルエンサーは基本的に特定のジャンルに特化しているケースが非常に多く、そのジャンルに興味があるフォロワーや閲覧者が多い傾向にあります。
インフルエンサーごとのフォロワーや閲覧者の年代、男女別、ジャンル別の調査を行うことで、自社製品やサービスのターゲッティングに合わせたマーケティングができるのが大きなポイントです。
自社製品やサービスのイメージがしやすくなる
インフルエンサーマーケティングは、インフルエンサーが自社製品やサービスを実際に利用した感想を正直に紹介してくれるため、自社製品やサービスのイメージがしやすくなるのがメリットです。
フォロワーや閲覧者は好きなインフルエンサーが紹介している自社製品やサービスを見ることでイメージしやすくなるため、「自分も利用してみたい」という気持ちにさせやすいのがポイントです。
企業の中には自社製品やサービスのイメージをどう伝えるかが課題になりやすいですが、インフルエンサーマーケティングなら解決できるでしょう。
オンライン販売との相性が良い
インフルエンサーマーケティングはオンライン販売との相性が良いのもメリットです。
インフルエンサーが紹介した自社製品やサービスを、SNSならURLを貼り付けたり、YouTubeなら概要欄にURLを掲載することですぐに自社のオンラインショップに誘導できます。
インフルエンサーの紹介によって購買意欲が高まったとしても、すぐにオンラインショップにアクセスできないようではすぐに意欲が覚めてしまう可能性があるでしょう。
しかし、URLを掲載することで意欲を維持したまま利用できるため、効率良くオンライン販売に繋げられます。
インフルエンサーマーケティングのデメリット
インフルエンサーマーケティングのデメリットは、以下の通りです。
- インフルエンサーのキャスティングに苦労する
- 高いリテラシーを意識することが重要
- インフルエンサーのコントロールが難しいことがある
- SNSで炎上するリスクがある
- 景表法や薬機法などの法律に違反するリスクがある
それでは、インフルエンサーマーケティングのデメリットについてご説明しましょう。
インフルエンサーのキャスティングに苦労する
インフルエンサーマーケティングのデメリットとして、キャスティングの選定に苦労することが挙げられます。
インフルエンサーを選ぶ上でフォロワー数が多いかどうかも重要ですが、フォロワー数の多さだけで選んでしまうと想像していた効果が出ず、依頼料がかかっただけになる可能性があるでしょう。
こうしたことからフォロワー数だけで選ぶのではなく、自社製品やサービスとの親和性が高いかどうかなど様々な観点からキャスティングする必要性があります。
高いリテラシーを意識することが重要
ステマをしないようにするのはもちろん、高いリテラシーを意識してPRをすることが重要です。
インフルエンサーのキャスティングが非常に難しいことにも結びつきますが、インフルエンサーによってはモラルや配慮に欠けたPRをしたことで炎上する危険性があります。
たった一つの投稿で炎上することがある以上、モラルと配慮を最大限意識した投稿内容にすることを心がけなければなりません。炎上して自社製品やサービスのイメージを下げないように注意しましょう。
インフルエンサーのコントロールが難しいことがある
インフルエンサーマーケティングを行う上で、インフルエンサーのコントロールが難しいことがあるのがデメリットです。
自社製品やサービスのPR方法について事前に十分話し合っておかないと、企業が意図していたことと違った表現になることがあります。さらに、複数のインフルエンサーがいる場合、それぞれのスケジュールが合わなくて足並みが揃えられないこともあるでしょう。
こうしたコントロールが難しいことがあるので注意が必要です。
SNSで炎上するリスクがある
依頼したインフルエンサーが問題発言や問題行動を起こした場合、SNSで炎上するリスクがあります。
企業は何も悪くなくても飛び火してブランドイメージを下げてしまうので、インフルエンサーの人間性も同時にチェックすることが重要です。
景表法や薬機法などの法律に違反するリスクがある
インフルエンサーマーケティングを行うに当たって、景表法や薬機法などの法律は絶対に守らなければなりません。
景表法の場合、インフルエンサーが虚偽や誇張、誤認させるような情報を発信すると景表法違反になります。
薬機法の場合、たとえばインフルエンサーが医薬品に該当しない化粧品を紹介するときに「皮膚炎が治る」「シミやシワが消える」といった効果を断定するような発信をすると薬機法違反になります。
インフルエンサーに依頼するときは、景表法や薬機法を必ず守るように徹底しましょう。
インフルエンサーマーケティングを行うときのポイント
インフルエンサーマーケティングを行うときのポイントは、以下の通りです。
- 宣伝する自社製品とサービスに合ったインフルエンサーを選ぶ
- ステマにならないようにPRであることを徹底する
- ブランドの世界観を重視する
- 炎上リスクに対して契約で対処する
- 違法な広告方法とならないよう注意を払う
それでは、インフルエンサーマーケティングを行うときに気をつけるべきポイントを、インフルエンサーマーケティングの時系列に合わせてご説明しましょう。
インフルエンサーの選定時
PRする自社製品とサービスに合ったインフルエンサーを選ぶ
とにもかくにも自社製品やサービスに合ったインフルエンサーを選ぶことが何よりも重要です。
自社製品やサービスには必ずターゲット層が存在するため、そのターゲット層に刺さるインフルエンサーを選ぶことで効率良くPRすることができます。
また、過去の動画を確認して、どんな様子でPRしているのかどうかもチェックしましょう。丁寧に製品やサービスを紹介しているなら問題ありませんが、中にはイメージを損なうような紹介をしているケースもあります。
自社製品やサービスとの親和性にこだわってインフルエンサーを選ぶことが、インフルエンサーマーケティングを成功させる上でのポイントです。
ブランドの世界観を重視する
基本的に自社製品やサービスにはブランドの世界観というものがあるので、その世界観が壊れるようなSNSアカウントを運用していては意味がありません。
インフルエンサーが投稿した内容に興味を持って公式アカウントにアクセスすることも多くあるため、思っていたイメージと違う運用法では元も子もないでしょう。
日ごろから世界観を固定しつつ、イメージを損なわないように丁寧にアカウントを運用しているかが大切です。
インフルエンサーとの契約時
炎上リスクに対して契約書で対処する
インフルエンサーマーケティングを行う場合、依頼者としっかり契約書を交わすことが大切です。
契約書を交わすことによって契約内容に記載されている報酬やマーケティングの内容などをはじめとする項目に沿った依頼をインフルエンサーにすることができます。
特に、企業側としては、インフルエンサーが炎上しないよう、広告掲載時だけでなく、普段の活動から気をつけることを要求したいです。
そのような場合、契約書に以下のような条項を入れて、インフルエンサーに炎上しないよう注意する義務を負わせるのがよいでしょう。
第●条(イメージの保持)
乙は、本契約の有効期間中、自己のインフルエンサーとしてのイメージを保持するために、以下の各号に定める事項を行ってはならない。
(1)違法または公序良俗に反する行為
(2)乙が受託する企業案件における当該企業又は当該企業の商品若しくはサービスのイメージを損なう行為
(3)甲又は甲の取引先等の名誉又は信用を著しく毀損する行為
(4)その他不祥事、スキャンダル、炎上等、自己の社会的評価を低下させる一切の行為
以上の内容を明確に記載することによって、万が一インフルエンサーが契約違反をするようなことがあった場合に損害賠償等を請求することができます。
なお、契約書はどうやって作成すればいいのか、どんなポイントを押さえればいいのか分からない場合は、弁護士に相談しながら作成するのがおすすめです。
インフルエンサーに依頼する場合の法的リスクについて聞いておくと対処しやすくなるため、契約書の作成以外にもさまざまな相談をすることができるのもポイントです。
広告内容のリーガルチェックの責任をどちらが負うべきかを明確にする。
インフルエンサーが行う広告も、企業の広告となるため、その内容が景品表示法や薬機法に違反した場合には、企業も責任を追うことになります。
解決策としては、論理的には、インフルエンサーに違法な広告でないか確認をさせる方法と、企業側又はインフルエンサーとの間を繋いだ代理店が違法な広告でないかをチェックする方法があり得ます。
広告のリーガルチェックの必要性や方法については以下の法律記事で詳しく解説をしています。
インフルエンサーや代理店に違法な広告出ないかをチェックさせる場合、企業側として契約書に記載すべき条項は以下のような条項です。
第●条(表明保証)
乙は、本件広告記事の内容が、掲載時点における法律、政令、ガイドラインその他の業界団体等の自主基準(以下「法令等」という。)に適合していることを表明し、保証する。
逆にインフルエンサー側としては、景品表示法や薬機法の知識がなく、これらに違反しないかチェックをすることは現実的ではないかと思いますので、以下のような条項を入れるのが望ましいです。
第●条(非保証)
1.本件広告記事の内容が法律、政令、ガイドラインその他の業界団体等の自主基準(以下「法令等」という。)に従うものか否かは、甲の責任で確認するものとし、乙はこれに適合するものであることを保証するものではないものとする。2.前項の規定は、乙が、本件記事の内容が法令等に違反するものであることを認識しているにもかかわらず甲に報告しなかった場合には適用しない。
実際の現実的な対応策としては、前述の通りインフルエンサーが、景品表示法や薬機法の知識をもってこれらの法律に違反しないかを確認するというのは現実的ではない場合が多いかと思います。
そのため、インフルエンサーマーケティングを活用する企業は、
- まず、インフルエンサーに依頼をしようとしている広告内容について、広告時に問題となる点をまとめ、インフルエンサーへの発注時に、守るべきガイドラインを提示する。
- インフルエンサーの投稿案については、一度社内で確認をし、広告規制に違反をしていないかを確認する。
といった対応をすることが望ましいでしょう。
ステマにならないようにPRであることを徹底する
インフルエンサーマーケティングを行う上で第一に気を付けておきたいのは、ステルスマーケティング、通称ステマが行われる法的リスクがあることです。
ステルスマーケティングとは、内容がPRや広告、プロモーションといった宣伝行為であるにもかかわらず、宣伝であることを明記せずに行うマーケティングのことです。
ステマ行為はユーザーの興味や関心を惹くどころか、逆に反感を買って自社ブランドのイメージが悪くなってしまいます。
ステマとして炎上してしまうのは、動画内や投稿の中でしっかり企業からの案件によるPRだということを明確にしていないからです。
またステマ広告は景品表示法上、違法な広告方法とされており、もしも違反するようなことがあれば措置命令などの行政処分が下される可能性が高いでしょう。
詳細は下記の法律記事で解説していますので、ご参照ください。
インフルエンサーマーケティングを行うときは、依頼するインフルエンサーに対しても宣伝であることを明記するように徹底したり、インフルエンサーが制作した広告を投稿する前に下書きをチェックすること、そしてステマになっていないか確認することが大切です。
まとめ
以上の観点から、インフルエンサーマーケティングを行う際に、気をつけるべきポイントをまとめると、以下のとおりです。
- インフルエンサーの選定時
- PRする自社製品とサービスに合ったインフルエンサーを選ぶ
- ブランドの世界観を壊さないインフルエンサーか確認をした上で依頼に進む
- インフルエンサーとの契約時
- 炎上を起こさないよう契約書で義務を課す
- 広告のリーガルチェックの責任をどちらが負うべきかを明確にする。
- インフルエンサーへの具体的な発注時
- ステマにならないよう注意する。
- 広告規制との関係で守るべきポイントをガイドラインなどの形で示しながら発注する。
- インフルエンサーからの投稿案納品時
- 内容が広告規制に違反しないか、リーガルチェックを行う。
インフルエンサーマーケティングは宣伝だと思わせない広告を制作してSNS等に投稿することにより、高い広告効果が期待できるのがポイントです。
しかし、インフルエンサーの選定に慎重にならないと、ステマなどの現在法規制に違反する可能性があるため、厳正な審査やリサーチなどをする必要性があります。
信頼できそうなインフルエンサーを見つけたとしても、正式に依頼する前に必要事項を記載した契約書を交わすことが最重要です。
もしもしっかりとした契約書の作成に自信がない場合は、弁護士に依頼して契約書を作成してもらったり、作成のアドバイスを聞いたりしながら作成するのがおすすめです。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。