連載シリーズ「プロトキ」では、プロスパイア法律事務所の弁護士等の専門家が、ニュースや時事問題について、法律の観点から解説をしていきます。
※本記事は、令和6年9月27日時点の情報に基づいて執筆されています。
今回は、「永谷園がMBOを成立させ上場廃止へ」というニュースについて、MBOや上場廃止とはそもそもどういうことなのか、今回の「MBOを成立させ上場廃止へ」というのはどういうことなのかなどを解説していきます。
ニュース概要「永谷園がMBOを成立させ上場廃止へ」について
永谷園の上場廃止について
株式会社永谷園ホールディングスは、東証プライム市場に上場していた企業でしたが、令和6年9月10日に臨時株主総会を開き、上場廃止に向けた株式併合と定款変更の議案が可決されたことを発表しました。
参考:株式会社永谷園ホールディングスIRニュース2024/9/10「株式併合、単元株式数の定めの廃止及び定款の一部変更に係る承認決議のお知らせ 」
そしてその後、令和6年9月26日に上場廃止を発表しました。
参考:株式会社永谷園ホールディングスIRニュース2024/9/26「当社株式の上場廃止のお知らせ」
一連の流れは、意思決定を迅速にするため、創業家が三菱商事系の投資ファンド丸の内キャピタル株式会社とともに株式公開買い付け(TOB)の方法により自社株の買収にあたるMBOをしたことで、起きたものであるとの報道がされています。
参考:日本経済新聞2024/09/10「永谷園HD、9月27日上場廃止 臨時総会で株併合など可決」
参考:Yahooファイナンス2024/09/27「永谷園HD、27日上場廃止=MBOで」
参考:読売新聞オンライン2024/09/10「永谷園HD、27日に上場廃止…創業家が三菱商事系投資ファンドと組みMBO」
その他近年の上場廃止について
永谷園だけでなく、昨今では有名企業の上場廃止が相次いでいます。
具体的には以下の上場廃止のニュースが大きく巷を賑わせました。
会社名 | 上場廃止日 |
---|---|
株式会社東芝 | 令和5年12月20日 |
株式会社ベネッセホールディングス | 令和6年5月17日 |
大正製薬ホールディングス株式会社 | 令和6年4月9日 |
上場廃止とはそもそもどういうものなのか、同時に報じられているMBOとはなんなのか、以下で詳しく解説していきます。
MBOとは?
MBO(マネジメント・バイアウト)とは、経営陣が自社の株式を買い取り、経営権を確保する手法のことを指します。これは、企業の株式を市場から非公開にし、経営の意思決定を迅速化するために行われることが多いです。
MBOの仕組みと目的
MBOの基本的な仕組みは、現経営陣が外部からの支援を受けたり、自己資金を投入して企業の持ち株を買い集めることです。これにより、外部株主からの圧力を減少させ、企業が長期的な戦略を柔軟に実現できるというメリットがあります。
主な目的は以下の通りです。
- 経営の安定化と迅速化
- 企業戦略の長期化
- 外部株主からの圧力軽減
MBOのメリット・デメリット
MBOには次のようなメリットがあります。
- 経営陣による柔軟な経営判断が可能になる
- 非公開化による情報漏洩リスクの低減
- 企業価値向上のための自由な施策実行
一方で、デメリットも存在します。
- MBOに伴う資金調達と財務負担の増加
- 市場参加者からの透明性確保の観点での懸念
- 従業員や株主への説明責任の拡大
項目 | 内容 |
---|---|
主な目的 | 経営の安定化、長期戦略の実施 |
メリット | 柔軟な経営判断、情報漏洩リスクの低減 |
デメリット | 資金調達の負担、透明性への懸念 |
上場廃止とは?
上場廃止は、企業が株式市場での取引から退くことを指します。これは、取引所が定めた基準を満たせなくなる場合や、企業が自発的に上場を取り止める場合に発生します。上場廃止は、株主や投資家にとって重要な出来事であり、企業の経営戦略や財務状況に大きな影響を与えます。
上場廃止基準
上場廃止基準は、各証券取引所が定めており、企業がこれらの基準に該当してしまうと上場廃止となります。一般的な基準には、以下のようなものがあります:
- 財務的な要件:資本金や株主資本の減少、負債の増加などが基準を超える場合。
- 業績不振:連続する赤字決算や利益の急激な減少。
- ガバナンス不備:経営陣の不正やコンプライアンス違反。
- その他の基準:株主数の減少や取引量の極端な低下。
具体的な基準は日本取引所グループ(JPX)の公式サイトで公開されています。
上場廃止になるとどうなるのか
企業が上場廃止になると、その株式は市場で自由に取引されなくなります。これにより株主は、次のような影響を受ける可能性があります:
- 流動性の不足:株式を買いたい人と売りたい人が減少し、売買が困難になる。
- 株価の変動リスク:市場での取引がなくなることで、株価が大幅に変動する可能性。
- 情報の透明性の低下:上場企業としての規制報告義務が軽減されるため、経営情報の公開度が下がる。
上場廃止後の株式の取り扱いについては、企業側からの情報を注意深く確認することが重要です。
「MBOを成立させ上場廃止へ」とはどういうこと?
MBOによる上場廃止の具体的な流れ
ここまでをまとめると
MBO(マネジメント・バイアウト)とは、会社の経営陣や取締役が中心となり、自社の株式を買い取ることにより経営権を獲得する取引のことです。上場廃止は、株式を証券取引所から外し、一般投資家が市場で売買できなくなることを指します。
そして、MBOによって上場廃止へ進むプロセスは以下の通りです。
ステップ | 内容 | 目的 |
1 | 経営陣による株式の取得発表 | 企業の経営戦略に沿った株式買収 |
2 | 公開買い付け(TOB)の実施 | 必要株数の取得を目指す |
3 | 株式取得後に上場廃止申請 | 市場流動性の抑制と経営の自由度向上 |
4 | 上場廃止の承認と実施 | プライベートカンパニーへの転換 |
MBOで上場廃止になるケース・ならないケース
MBOによる上場廃止は、一般的に以下の条件下で進められますが、必ずしも全てのケースで上場廃止となるわけではありません。
- 上場廃止となるケース:株主の賛同を得て、取引所が廃止を認可した場合。
- 上場廃止とならないケース:株主による反対、資金不足、あるいは市場条件により計画が頓挫する場合。
MBOと上場廃止に関するよくある質問
Q. MBOで上場廃止になると株はどうなる?
MBOによって上場廃止が実行された場合、株主が保有する株式は非公開会社のものとなります。この場合、株式市場での売買ができなくなります。しかし多くのケースでは、MBOの実行前に会社側が株主に対して株式の買い取りを提案します。これにより、株主は一定の価格で株を売却することが可能です。
MBO後の詳細は、各企業の公式発表を参考にすることが重要です。
Q. 上場廃止になった企業の株は売買できない?
上場廃止後、株式は証券取引所での売買ができません。したがって株式市場での流動性が失われます。しかし、上場廃止後も株式そのものは失われるわけではないため、会社との直接交渉や非公開市場を通じて売買することが可能です。ただし、これには相当のリスクと手間がかかります。
上場廃止の手続きや詳細情報は、証券取引所のガイドラインを確認してください。
質問 | 回答 |
MBO後の株の取り扱い | MBOが成立した場合、株は非公開株として扱われ、株式市場での売買はできなくなります。 |
上場廃止後の株の流動性 | 上場廃止後は株式市場での取引は不可能になり、流動性が大幅に低下します。 |
まとめ
本記事では、ニュースや時事問題について、法律の観点から解説をする「プロトキ」の第4回として、「永谷園がMBOを成立させ上場廃止へ」のニュースを解説していきました。
簡単にまとめると以下のような内容です。
- MBOは「マネジメント・バイアウト」の略で、経営陣が自社株を買い取り会社の支配権を得る手法です。
- 上場廃止は企業が証券取引所から株式を取り下げる行為であり、これにより株式の売買は制限されます。
- MBOによる上場廃止は、経営改善や企業価値向上を目的に行われることが多いですが、株式の流動性が失われるデメリットもあります。
- 今回の永谷園のMBOは、企業としての意思決定を迅速にするために経営権を確保するために行われたものである可能性が高いです。
次回以降も、「プロトキ」では、ニュースや時事問題についてプロスパイア法律事務所の専門家が法的観点から解説をしていきます。
次回の更新をお楽しみにお願いいたします。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。