【プロトキ・No.0010】「記事を複製し社内で共有したコンサルティング会社の社長らが著作権法違反の疑いで書類送検」を弁護士が解説

ニュース解説(プロトキ)

連載シリーズ「プロトキ」では、プロスパイア法律事務所の弁護士等の専門家が、ニュースや事問題について、法律の観点から解説をしていきます。

今回は、記事を複製し社内で共有したコンサルティング会社の社長らが著作権法違反の疑いで書類送検されたというニュースについて、そもそも新聞記事は著作物にあたるのか、著作権法でいうところの「私的使用」とは等について、弁護士の目線から解説していきます。

ニュース概要「記事を複製し社内で共有したコンサルティング会社の社長らが著作権法違反の疑いで書類送検」について

5月30日、コンサルティング会社「ジェイ・ウィル・エックス」(東京都千代田区)の代表の男性と社員の男性が、著作権法違反の疑いで書類送検されました。

参考:著作権法違反で東京・千代田区のコンサルティング会社「ジェイ・ウィル・エックス」を書類送検 新聞記事を社内で無断共有か
参考:新聞など100社の記事1万3000本を無断で社内共有か コンサル会社代表ら書類送検 – 産経ニュース
参考:著作権法違反で東京・千代田区のコンサルティング会社「ジェイ・ウィル・エックス」を書類送検 新聞記事を社内で無断共有か | TBS NEWS DIG


男性らはインターネット上の新聞や雑誌の記事を許諾を得ずに複製し社内のシステムで共有したり、メールで送信したりした疑いとのことです。

こちらの記事では、このような行為が法的にどのような問題があるのか、著作権法についての詳しい説明とともに弁護士が解説します。

音声解説

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著作権とは?雑誌や新聞の記事は「著作物」?

著作権とは、創作活動によって生み出された著作物に対する権利のことです。具体的には、小説、音楽、絵画、写真、映画、ソフトウェアなど、様々な種類の作品が著作権によって保護されます。

これらの著作物を勝手にコピーしたり、公開したり、改変したりすることは、著作権者の権利を侵害する行為となります。

著作権の基本的な定義

著作権は、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものを著作物として保護する権利です(著作権法第2条第1項)。

ここで重要なのは「創作性」という概念です。単なる事実の羅列やアイデアだけでは著作物とは認められません。そこに作者独自の表現が加わることで、初めて著作物として保護されるのです。

第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
(略)

著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)

著作権法で保護される著作物とは

著作権法では、人間の思想や感情を創作的に表現したものを「著作物」として保護しています。 著作物であるためには、単なるアイデアや事実ではなく、具体的な形で表現されている必要があります。また、その表現には、作者独自の創作性が反映されていることが求められます。

雑誌や新聞の記事は「著作物」?

今回の事件では、インターネット上の新聞や雑誌の記事の利用法が問題となりましたが、そもそもインターネット上の新聞や雑誌の記事が「著作物」といえるでしょうか?

著作権法では、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」は、「著作物に該当しない」と規定されています。事実の伝達にすぎない場合には、作者独自の創作性が反映されていないためです。

第十条(著作物の例示)
1 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
(略) 
2 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作物に該当しない。
(略)

著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)

ただ、インターネット上の新聞や雑誌が、単に事実の伝達だけを行っていることは非常に稀で、基本的には、取り扱う事件の取捨選択や、事件の見方についての独自の解釈実際に生じた事実を踏まえた今後の展開などの独自の意見を加えて報道されている場合がほとんどです。

このような観点から、インターネット上の新聞や雑誌の記事は、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」ではなく、人間の思想や感情を創作的に表現したものであって、「著作物」であることが多いかと思います。

「私的利用」や「引用」との関係は?

著作物の利用において、私的利用や引用は、著作権法で認められた著作権侵害の例外規定にあたりますが、その範囲を正しく理解することが重要です。

複製とは何か?

著作権法における複製とは、印刷、写真撮影、コピー、録音、録画など、著作物を有形的に再製することを指します。デジタルデータについても、ダウンロードやコピー&ペーストなどは複製に該当します。単に画面に表示させるだけでは複製にはあたりません。

ですので、本件でも、インターネット上の記事について、そのURLを社内システムにアップロードする方法であれば、「複製」ではなく、著作権法の問題はなかったということになります。

私的利用と認められる複製

著作権法では、個人的または家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする複製は、私的利用として認められています(著作権法第30条)。具体的には、以下のような場合が該当します。

  • 個人的にインターネット上のニュース記事を印刷して読む
  • 将来振り返るために、自分用にニュース記事を保存しておく

ただし、私的利用であっても、以下の場合は認められません。

  • 私的利用の範囲を超えて、多数の人に配布する
  • 複製したものを改変して利用する

本件では、会社内のシステムにアップロードしたりメールで送信した疑いとのことなので、私的利用の範囲内と認められる可能性は低いかと思います。

引用の要件と著作権法違反にならない引用方法

著作物を引用する場合は、著作権法第32条で定められた以下の要件を満たす必要があります。これらの要件を満たさない引用は、著作権侵害となる可能性があります。

引用の目的

引用は、「公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」でなければなりません。つまり、自分の著作物に新たな価値を付加するために、補助的に利用する必要があり、引用自体が主目的となってはいけません。

引用量の適正

引用する量は、引用の目的上必要な範囲に限定されるべきです。記事全体をそのまま引用することは、原則として認められません。必要な部分のみを引用するようにしましょう。

出所の明示方法

引用する場合は、引用元を明確に示す必要があります。

第三十二条(引用)
1 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
2 国等の周知目的資料は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。

著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)

ニュースの「引用」については、以下の法律記事でも詳しく解説していますので、参考までにご参照ください。

本件では、新聞や雑誌の記事をそのまま全部転送した疑いとのことなので、適法な「引用」と認められる可能性は低いかと思います。

無料記事であれば問題はなかったのか?

インターネット上には、無料で読めるニュース記事がたくさんあります。今回の事件では、有料の新聞や雑誌の記事の利用法が問題になりましたが、無料の記事であれば問題はなかったのでしょうか?

無料記事の著作権

無料記事であっても、著作者人格権と著作財産権は著作者に帰属します。記事を自由に利用できるかどうかは、著作者がどのように権利を設定しているかによって決まります。たとえ無料であっても、無断で複製、改変、配布することは原則として著作権侵害となります。

無料記事の利用許諾範囲

無料記事を利用できる範囲は、それぞれのサイトや記事に記載されている利用規約やライセンスによって異なります。利用規約をよく読んで、許可されている範囲内で利用しましょう。例えば、以下のような条件が付されている場合があります。

  • 引用元を明示すること
  • 非営利目的での利用に限ること
  • 改変しないこと

これらの条件を守らずに利用すると、著作権侵害となる可能性があります。利用規約が不明確な場合は、サイト運営者や著作者に問い合わせて確認することをお勧めします。

新聞記事や雑誌の記事を適法に利用するには?安全な共有方法

今回のように著作権侵害の問題にならないよう、インターネット上の新聞記事や雑誌の記事を、適法に社内で共有するには、いくつかの方法があります。以下に、代表的な方法を3つ紹介します。

リンク共有

最も安全で簡単な方法は、記事のURLを共有することです。これは、記事のコピーを作成しないため、著作権侵害のリスクがありません。社内チャットやメールでURLを送るだけで、メンバーは元のサイトで記事を閲覧できます。

スクラップ機能の利用

一部のニュースサイトやブラウザには、記事をスクラップできる機能が備わっています。これらの機能を利用すれば、著作権法の範囲内で記事の一部を保存・共有できます。ただし、サービスによって利用規約が異なるため、事前に確認が必要です。

例えば、特定のサービスでは、スクラップした記事を社外の人と共有することは禁止されている場合があります。各サービスの利用規約をよく読んでから利用しましょう。

著作権者への許諾取得

上記の方法で対応できない場合は、著作権者(通常は出版社や通信社)に直接連絡を取り、利用許諾を得る必要があります

許諾を得る際には、利用目的、利用範囲(社内のみか社外にも公開するか)、利用期間などを明確に伝えましょう。場合によっては、利用料が発生することもあります。

以下に、各方法のメリット・デメリットをまとめました。

方法メリットデメリット
リンク共有安全かつ簡単。著作権侵害のリスクがない。元のサイトが閉鎖された場合、記事が閲覧できなくなる可能性がある。
スクラップ機能の利用記事の一部を保存して、オフラインでも閲覧できる場合がある。サービスごとに利用規約が異なり、外共有が禁止されている場合もある。スクラップできる範囲が限られている場合もある。
著作権者への許諾取得希望する利用方法が適法となる可能性が高い手続きに時間がかかる。利用料が発生する場合がある。

いずれの方法を選択する場合でも、著作権法を遵守し、適切な方法で記事を利用することが重要です。

まとめ

本記事では、ニュースや時事問題について、法律の観点から解説をする「プロトキ」の第10回として、「記事を複製し社内で共有したコンサルティング会社の社長らが著作権法違反の疑いで書類送検」のニュースを解説していきました。

簡単にまとめると以下のような内容です。

  • インターネット上の新聞記事や雑誌の記事も著作権法の著作物に該当する
  • 自分自身で使うのであれば「私的利用」である
  • 全部を会社のシステムにアップロードしたり、会社のメンバーに送るのは、「私的利用」を超えた「複製」であり、「引用」としても認められない
  • 無料記事であっても有料記事同様NG
  • 適法に社内共有をするためには、リンク共有やスクラップ機能、著作権者への許諾取得などの方法がありうる

次回以降も、「プロトキ」では、ニュースや時事問題についてプロスパイア法律事務所の専門家が法的観点から解説をしていきます。

次回の更新をお楽しみにお願いいたします。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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