誹謗中傷として違法になるのはどこから?違法な誹謗中傷になるかどうかの線引き・基準とは?

風評被害対策法務

SNSの発達により、誰もが読者・視聴者であると同時に投稿者・発信者となり得る昨今では、インターネット上の「誹謗中傷」についての関心も高まっています。

そんななか、「誹謗中傷」に該当し、違法な投稿と判断されるのはどのような表現で、違法な投稿とまでは言えない表現はどこまでなのか、についてはある程度曖昧な線引きとならざるを得ず、明確な基準を示すのは困難です。

この記事では、可能な限り具体的に誹謗中傷として違法となる線引を示し、違法な表現と違法とまでは言えない表現の基準を解説させていただきます。

誹謗中傷とは

「誹謗中傷」という言葉

日本語としての「誹謗中傷」という言葉は、「他人を悪く言うこと。そしること。」を意味する「誹謗」と「根拠のないことを言いふらして、他人の名誉を傷つけること。」を意味する「中傷」からなる四字熟語で、「根拠のない悪口を言ったり、非難して人の名誉を傷つけること」を意味します。

法律の観点からみた「誹謗中傷」

「誹謗中傷」という言葉は、法律で規定されている言葉ではなく、例えば、誹謗中傷罪という犯罪はありません

したがって、法律上の定義として「誹謗中傷」という語は存在しないことになります。

そのため、この記事では、根拠のない悪口を言ったり、非難して人の名誉を傷つけることによって、法律上「違法」となるような行動・表現という意味で「誹謗中傷」という言葉を使っていきます。

違法な誹謗中傷の種類

前提

「違法」という場合でも、民事上違法という場合と、刑事上違法という場合で若干の違いがあります。

民事上違法な場合には、違法な誹謗中傷であるインターネット上の書き込み・投稿については、削除を求めることができます。

また、そのような内容の書き込み・投稿行為は、不法行為(民法709条、710条)として、損害賠償の対象となります。

第七百九条(不法行為による損害賠償) 
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

第七百十条(財産以外の損害の賠償)
 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

民法(明治二十九年法律第八十九号)第709条、第710条

刑事上違法な場合には、刑事罰が課されることになります。

民事上の問題は、加害者対被害者の問題であるのに対し、刑事上の問題は、(被害者が一部手続きに関与することはあるものの)基本的には国家が加害者に対して罰を与えるという国家と加害者との間の問題です。

例えば、同じ「名誉毀損」でも、民事上「名誉毀損」であることを理由に不法行為に基づく損害賠償請求をする場合と、刑事上「名誉毀損罪」として処罰される場合とでは、若干内容に違いがあります。

民事上違法な誹謗中傷

民事上、誹謗中傷が違法になる場合としては、以下の場合があります。

名誉毀損
名誉感情侵害(=侮辱)
プライバシー侵害
不正競争防止法違反
営業権侵害・業務妨害
ストーカー規制法違反

その他、「根拠のない悪口を言ったり、非難して人の名誉を傷つけることによって、法律上「違法」となるような行動・表現」という内容に合致しないため、本記事では取り扱いませんが、同様にインターネット上の投稿により民事上違法とされるものとして、以下などもあります。

肖像権侵害無断で撮影した他人の顔写真を無断で公開する等、他人の姿態をみだらに公開する表現
氏名権侵害SNSにおけるなりすまし等、他人の氏名を冒用する表現
平穏な生活を営む権利の侵害特定の個人の私生活の平穏の侵害であって、社会通念上受忍すべき限度を超えた精神的苦痛を生じさせる表現
出自・国籍を第三者に正しく認識してもらう人格的利益の侵害「●●は、隠しているが、実は●●国出身だ」等、他人の出身や国籍について、誤った内容を広める表現
アイデンティティ権の侵害SNSにおけるなりすまし等、他人になりすます表現

刑事上違法な誹謗中傷

刑事上、誹謗中傷が違法になる場合としては、以下の場合があります。

名誉毀損罪(刑法230条)
侮辱罪(刑法231条)
偽計業務妨害罪(刑法233条)

その他、「根拠のない悪口を言ったり、非難して人の名誉を傷つけることによって、法律上「違法」となるような行動・表現」という内容に合致しないため、本記事では取り扱いませんが、同様にインターネット上の投稿により刑事上違法とされるものとして、以下などもあります。

威力業務妨害罪(刑法233条)「●月●日に●●ビルのどこかに爆弾を仕掛ける」等、威力を用いて、他人の営業活動を妨害する表現
脅迫罪(刑法220条)「謝らないなら、自宅に突撃して刃物で刺す。住所は特定できている。」等、相手を畏怖させる害悪を告知する表現
リベンジポルノ防止法違反裸の画像や性行為の様子を撮影した動画を投稿する等、相手のわいせつな画像や動画を晒す表現

各誹謗中傷の成立要件と罰則

上記で紹介した違法な誹謗中傷となる場合の要件は、それぞれ以下のとおりです。

民事上違法な誹謗中傷の成立要件

名誉毀損

民事上名誉毀損に該当するとして、違法な誹謗中傷となる投稿・表現の要件は以下のとおりです。

1公然とされる表現であること
2対象者」の名誉が毀損されること
3摘示内容が、対象者の「社会的評価を低下」させること
4以下のうち、いずれかに該当すること
-1公共の利害に関する事実ではないこと
-2公益を図る目的でなされたものではないこと
-3内容が真実ではなく、真実であると信じたことに相当の理由もないこと
-4人身攻撃等論評としての域を逸脱したものであること

名誉感情侵害(=侮辱)

民事上名誉感情侵害(=侮辱)に該当するとして、違法な誹謗中傷となる投稿・表現の要件は以下のとおりです。

1対象者」の名誉感情が侵害される内容であること
2摘示内容が、対象者の「名誉感情を侵害」する内容であること
3社会通念上許容される限度を超えた表現であること

プライバシー侵害

民事上プライバシー侵害に該当するとして、違法な誹謗中傷となる投稿・表現の要件は以下のとおりです。

1以下の全てを満たす内容の情報(=プライバシーに係る事柄)が開示されたこと
-1私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれのある情報であること
-2一般人の感受性を基準にして、被害者の立場に立った場合に、他者に開示されることを欲しないであろうと認められる情報であること
-3一般の人に未だ知られていない情報であること
2公表されない利益の方が公表する利益より優越すること

不正競争防止法違反

競業相手に対する誹謗中傷は、不正競争防止法違反(不正競争防止法第2条1項15号)に該当するとして、違法であると判断されることがあります。

第二条(定義) この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

二十一 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為

不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)第2条1項21号

これを、要件として分析すると、以下のとおりとなります。

1表現者と対象者が競争関係にあること
2対象者の営業上の信用を害する内容であること
3その内容が虚偽の事実であること
4その内容を告知又は流布すること

営業権侵害・業務妨害

民事上営業権侵害・業務妨害に該当するとして、違法な誹謗中傷となる投稿・表現の要件は以下のとおりです。

1当該表現によって他人の営業権平穏に業務を遂行する権利が害されるという関係にあること
2そのことについて、違法性があること
3そのことについて、故意又は過失があること

なお、インターネット上の投稿による営業権侵害・業務妨害の場合には、どのような場合に違法性があると判断され、どのような場合に違法性がないと判断されるかについては、画一的な基準はまだ示されていない状況です。

ストーカー規制法違反

いわゆるストーカー行為の一環として誹謗中傷が行われる場合には、ストーカー規制法違反(ストーカー規制法第2条1項7号)に該当するとして、違法であると判断されることがあります。

第二条(定義) 
この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。

七 その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。

ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成十二年法律第八十一号)第2条1項7号

これを、要件として分析すると、以下のとおりとなります。

1特定の相手に対する好意の感情又は好意が満たされなかったことに対する怨嗟の感情を充足する目的で表現を行うこと
2当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に関する内容の表現であること
32.の者の名誉を害する内容であること
4当該表現を相手方に告げるか又は知り得る状態に置くこと

刑事上違法な誹謗中傷の成立要件と罰則

名誉毀損罪(刑法230条)

第二百三十条(名誉毀損) 
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

第二百三十条の二(公共の利害に関する場合の特例) 
前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

刑法(明治四十年法律第四十五号)第230条、第230条の2

相手の社会的評価を低下させる事実を公開する表現です。

以下が、刑法上の名誉毀損罪の要件になります。

1公然とされる表現であること
2事実の摘示であること
3他人の社会的評価を低下させるものであること
4以下のうち、いずれかに該当すること
-1公共の利害に関する事実ではないこと
-2公益を図る目的でなされたものではないこと
-3内容が真実ではなく、真実であると信じたことに相当の理由もないこと

これに該当した場合の刑罰としては、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金となっています。

侮辱罪(刑法231条)

第二百三十一条(侮辱) 
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

刑法(明治四十年法律第四十五号)第231条

相手に対して悪質な悪口を言うなどして名誉感情を侵害する表現です。

以下が、刑法上の侮辱罪の要件になります。

1公然とされる表現であること
2他人を侮辱する表現であること

これに該当した場合の刑罰としては、1年以下の懲役若しくは禁錮又は30万円以下の罰金となっています。

信用毀損及び偽計業務妨害罪(刑法232条)

第二百三十三条(信用毀損及び業務妨害) 
虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

刑法(明治四十年法律第四十五号)第233条

虚偽の事実を述べることによって、相手の営業活動を妨害する表現です。

以下が、刑法上の信用毀損及び偽計業務妨害罪の要件になります。

1虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いること
2他人の信用を毀損し、又は他人の業務を妨害すること

これに該当した場合の刑罰としては、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています。

実例による各誹謗中傷の線引き

違法な誹謗中傷に該当するか否かについて、特にその判断が難しい民事上の名誉毀損と侮辱にしぼって例を上げると以下のとおりです。

名誉毀損

以下の表現については、名誉毀損として違法な誹謗中傷とならない可能性が高いです。

違法と判断されない可能性が高い表現その理由
InstagramのDMで「あなたは詐欺師に違いない」と送る等のように、対象者自身にしか見えない形でされた表現公然と、された表現とはいえない。
関西人は赤信号を守らない」のように、漠然と何らかの集団・グループ全般に言及するに留まる表現。「対象者」の名誉が毀損されるとはいえない。
●●というバンドのCDは、廃盤処置になった」のように、それ自体には様々な理由があり得、必ずしも悪い理由により生じた事実とは限らない事実を摘示する表現。悪い理由でこのような事実が生じたのか、それ以外の理由により生じたのかが分からない。
表現の一般読者からみて、当該人物の「社会的評価が低下」するとはいえない。

参考:東京地裁平成28年2月16日判決

この点、原告P1は、廃盤となった音楽CD及びその実演家等は、何らかの重大な問題を抱えている者であると認識されるなどと主張するが、これを認めるに足る証拠はないし……、かえって、証拠≪略≫によっても、CDの廃盤には様々な場合があることがうかがわれるのであって、本件廃盤処置が直ちに原告P1の名誉権又はその他の人格権を侵害するとは到底認めることができない。

東京地裁平成28年2月16日判決

他方、以下の表現については、名誉毀損として違法な誹謗中傷となる可能性が高いです。

違法と判断される可能性が高い表現その理由
Xにおける報道機関の公式アカウントに対し、DMで「●●という人物は詐欺師です」と送る等のように、表現の相手は1名でも、その1名から不特定多数に広がる可能性が高い表現広く流布される可能性が高いことから、公然とされた表現といえる。
「●●市で生産された農作物は、ダイオキシンで汚染されている」のように、何らかの集団を通して、その集団に属する個々人について言及していると言える表現。「対象者」の名誉が毀損されるとはいえる
●●というバンドのCDは、バンドメンバーの不倫という不祥事により廃盤処置になった」のように、一般的に見て悪質な行為を行ったとの虚偽の事実を摘示する表現。このような悪質な行為をする人なのだ、と周囲に思われることで、「社会的評価が低下」する。

参考:最高裁平成15年3月14日判決調査官解説
参考:最高裁平成15年10月16日判決

ある人の社会的評価が低下するといい得るためには、原則として名誉毀損事実が一定範囲に流布されることが必要であるが、現実に広く流布されたことまで必要ではなく、流布の可能性があればよいと解されており、相手方が特定少数であっても、間接に多数人に認識可能であれば、名誉毀損が成立する。

最高裁平成15年3月14日判決調査官解説

3 原審は,上記の事実関係の下で,次のとおり判断し,上告人らの請求を棄却すべきものとした。(1)本件放送は,一般の視聴者にほうれん草等の所沢産の葉物野菜の安全性に対する信頼を失わせ,所沢市内において各種野菜を生産する上告人らの社会的評価を低下させ,上告人らの名誉を毀損したものと認められる。……原審の上記(1),(2)の判断は是認することができる……。

最高裁平成15年10月16日判決

名誉感情侵害(=侮辱)

文脈にもよるため、抜き出している部分が全く一致していても異なる結論もありうるところではありますが、傾向としては、以下の表現としては社会通念上受忍すべき限度を超えず、違法な誹謗中傷とはならない可能性が高いです。

違法と判断されない可能性が高い表現
「短足」「貧相な顔」等の表現
「加齢臭が強烈」等の表現
「ゲスい女」「鬼畜」「ミーハー野郎」等の表現

同様に、傾向としては、以下の表現としては社会通念上受忍すべき限度を超えるものとして、違法な誹謗中傷とはなる可能性が高いです。

違法と判断される可能性が高い表現
「ブサイク」「デブス」「見た目はゴリラ」等の表現
「臭すぎる」「ワキガ」「息が臭い」等の表現
「いい加減」「勘違い」「見栄っ張り」等の表現
「逆恨み」「自演するな」等の表現

以上を比較しても分かる通り、名誉感情侵害(=侮辱)として違法か否かの線引きはかなり曖昧で、裁判官による判断次第で大きく結論が異なる場合がありうる部分です。

まとめ

本記事を簡単にまとめると要点は以下のとおりです。

  • 「誹謗中傷」は法律に規定された言葉ではなく、例えば「誹謗中傷罪」などはない。
  • 違法な誹謗中傷に該当するかどうかは、様々な法律との関係に照らして判断する必要があり、それぞれの法律によって違法となる要件が異なる。
  • 名誉感情侵害(=侮辱)については、違法か違法でないかの線引きはかなり曖昧

本記事を参考に、ご自身が投稿する表現について、違法な内容となっていないか確認をしたり、逆に何かご自身について言及する投稿がされた場合に、違法な内容であることを理由に何らかの対処ができるのかを検討することにお役立てください。

ただし、本記事の内容をご理解いただいても、実際のご判断には専門的な知見と経験がどうしても必要にはなりますので、その際にはお気軽に弊所にお問い合わせください。

タイトルとURLをコピーしました