プロバイダ責任制限法(プロ責法)が改正され情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)に!新しい法律と変更部分を解説【比較表・改正後条文全文付き】

風評被害対策法務

インターネット上での誹謗中傷などの権利侵害が発生した場合に、プロバイダ等が負う損害賠償責任の範囲や、被害者が投稿者を特定するために利用できる手続などを定めた法律であるプロバイダ責任制限法について、法改正によって、法律の名前が変更されることになりました。

この大規模な法改正により何がどのように変わったのか、改正の趣旨や内容について解説させていただきます。

プロバイダ責任制限法の改正概要

プロバイダ責任制限法改正の根拠

この度の改正は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第25号)を根拠とするものです。

参照:「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第25号)【PDF】

2024年の第213回通常国会で成立しました。

参照:参議院ウェブサイト「議案情報」

プロバイダ責任制限法改正スケジュール

改正法は以下のスケジュールで改正されることとなっています。

交付日令和6年5月17日
施行日公布の日から1年以内

改正の趣旨

今回の改正は、誹謗中傷等のインターネット上の違法・有害情報の流通が、社会問題化する中で、被害者からの要望が多い投稿の削除に関しては、制度化が進んでおらず、課題が多く存在することから、これらの課題に対応するために行われるものと発表されています。

総務省「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律案の概要」【PDF】

プロバイダ責任制限法改正と情報流通プラットフォーム対処法の概要

プロバイダ責任制限法と情報流通プラットフォーム対処法の改正条文比較

今回の改正について、プロバイダ責任制限法から情報流通プラットフォーム対処法に変更された箇所について、条文の形で変更点を反映させたものは以下のとおりです。




また、改正箇所に関する新旧比較表は以下のとおりです。

法改正による変更点概要

そして、以上の内容について、簡単にまとめると、プロバイダ責任制限法から情報流通プラットフォーム対処法に法改正がされたことによる変更点は以下のとおりです。

  • 法律の題名の変更
  • 大規模特定電気通信役務提供者の義務
  • 義務違反の罰則

以下で、より詳しく解説させていただきます。

プロバイダ責任制限法改正の改正内容

改正点1:法律の題名の変更

今回の改正により、法律の規定する範囲が、①特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限と②発信者情報の開示に関するものにとどまらず、広く権利侵害等への対処について規定することとなったことに伴い、法律の名前が変更されました。

新しい法律が成立するのではなく既存の法律の名前が変更となることは珍しいですが、これ自体が何らかの実務への影響を与えるものではありません。

改正前改正後
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(情報流通プラットフォーム対処法

改正点2:大規模特定電気通信役務提供者の義務

この部分が本改正で最も実務に影響がある部分です。

大規模特定電気通信役務提供者(大規模プラットフォーム事業者)の定義

情報流通プラットフォーム対処法により義務が課される大規模特定電気通信役務提供者(大規模プラットフォーム事業者)は、以下の要件をすべて満たすものと規定されています(情報流通プラットフォーム対処法20条1項)。

総務省令で規定された「平均月間発信者数」又は「平均月間述べ発信者数」のいずれかを超えること
当該サービスの一般的な性質に照らして侵害情報送信防止措置)を講ずることが技術的に可能であること
当該サービスが、その利用に係る特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害が発生するおそれの少ない特定電気通信役務として総務省令で定めるもの以外のものであること。
その利用に係る特定電気通信による情報の流通について侵害情報送信防止措置の実施手続の迅速化及び送信防止措置の実施状況の透明化を図る必要性が特に高いと認められるもの
以上のすべてを満たすものとして総務大臣により指定されるもの

第二十条(大規模特定電気通信役務提供者の指定) 総務大臣は、次の各号のいずれにも該当する特定電気通信役務であって、その利用に係る特定電気通信による情報の流通について侵害情報送信防止措置の実施手続の迅速化及び送信防止措置の実施状況の透明化を図る必要性が特に高いと認められるもの(以下「大規模特定電気通信役務」という。)を提供する特定電気通信役務提供者を、大規模特定電気通信役務提供者として指定することができる。 

一 当該特定電気通信役務が次のいずれかに該当すること。 

イ 当該特定電気通信役務を利用して一月間に発信者となった者(日本国外にあると推定される者を除く。ロにおいて同じ。)及びこれに準ずる者として総務省令で定める者の数の総務省令で定める期間における平均(以下この条及び第二十四条第二項において「平均月間発信者数」という。)が特定電気通信役務の種類に応じて総務省令で定める数を超えること。 
ロ 当該特定電気通信役務を利用して一月間に発信者となった者の延べ数の総務省令で定める期間における平均(以下この条及び第二十四条第二項において「平均月間延べ発信者数」という。)が特定電気通信役務の種類に応じて総務省令で定める数を超えること。

二 当該特定電気通信役務の一般的な性質に照らして侵害情報送信防止措置(侵害情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われるものに限る。以下同じ。)を講ずることが技術的に可能であること。 

三 当該特定電気通信役務が、その利用に係る特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害が発生するおそれの少ない特定電気通信役務として総務省令で定めるもの以外のものであること。 

2(略)

(略) 

特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)

したがって、一定の基準により総務大臣が指定する一部のプラットフォーム事業者だけが大規模特定電気通信役務提供者として、本改正で新たに課される義務を負うことになります。

他方、これに該当する事業者は、新たに以下の義務を負うこととなります。

義務1:総務大臣に対する届出(情報流通プラットフォーム対処法21条)

大規模特定電気通信役務提供者に指定を受けてから3ヶ月以内に以下の事項を総務大臣に届け出るとともに、変更があった場合には遅滞なく届け出ることが義務付けられました。

  • 氏名又は名称、住所、代表者の氏名
  • 外国法人や外国の個人の場合の国内に置ける代表者又は代理人の氏名又は名称及び国内の住所
  • その他総務省令で定める事項

義務2:被侵害者からの申出を受け付ける方法の公表(情報流通プラットフォーム対処法22条)

特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が、侵害情報送信防止措置を講ずるよう申出を行うための方法を定め、これを公表しなければならないものとされました。

さらに、その方法は、下記のいずれにも適合しなければならないものとされています。

  • 電子情報処理組織を使用する方法による申出を行うことができるものであること
  • 申出を行おうとする者に過重な負担を課するものでないこと
  • 当該大規模特定電気通信役務提供者が申出を受けた日時が当該申出を行った者に明らかとなるものであること。

義務3:侵害情報に係る調査の実施(情報流通プラットフォーム対処法23)

義務2で公表した申出の方法にしたがった申出があったときは、当該申出に係る侵害情報の流通によって当該被侵害者の権利が不当に侵害されているかどうかについて、遅滞なく必要な調査を行わなければならないこととなりました。

義務4:侵害情報調査専門員の選任・届出(情報流通プラットフォーム対処法24条)

義務3の調査のため、専門員を専任し、総務大臣に届け出なければならないこととなっています。

義務5:送信防止措置の申出者に対する通知(情報流通プラットフォーム対処法25条)

一定の例外を除き、義務2の申出があったときは、義務3の調査の結果に基づき侵害情報送信防止措置を講ずるかどうかを判断し、当該申出を受けた日から14日以内の総務省令で定める期間内に、以下の事項を申出者に通知しなければならないこととなりました。

当該申出に応じて侵害情報送信防止措置を講じたときその旨
当該申出に応じた侵害情報送信防止措置を講じなかったときその旨及びその理由 

義務6:送信防止措置の実施に関する基準等の公表(情報流通プラットフォーム対処法26条)

大規模特定電気通信役務提供者が情報の送信防止措置を講ずることができるのは、一定の例外を除き、事前に公表している削除基準などに従う場合に限られることになりました。

これによって、送信防止措置を求めた場合に、実際に削除がされるかどうか、事前に判断がしやすくなります。

義務7:送信防止措置を講じた場合の発信者に対する通知等(情報流通プラットフォーム対処法27条)

特定電気通信による情報の流通について送信防止措置を講じたときは、一定の場合を除き、遅滞なく、その旨及びその理由を発信者に通知し、又は当該情報の発信者が容易に知り得る状態に置く措置を講じなければならないこととなりました。

義務8:送信防止措置の実施状況等の公表(情報流通プラットフォーム対処法28条)

大規模特定電気通信役務提供者は、毎年一回、次に掲げる事項を公表する義務を負います。

  • 第24条の申出の受付の状況
  • 第26条の規定による通知の実施状況
  • 第26条の規定による通知等の措置の実施状況
  • 送信防止措置の実施状況
  • 第26条各号に掲げる事項について自ら行った評価
  • 第26条各号に掲げる事項のほか、大規模特定電気通信役務提供者がこの章の規定に基づき講ずべき措置の実施状況を明らかにするために必要な事項として総務省令で定める事項

まとめ

以上の義務についてまとめると以下のとおりです。

改正点3:義務違反に対する罰則

大規模特定電気通信役務提供者の義務を実行化するため、義務違反への処置として、総務大臣による勧告及び命令(情報流通プラットフォーム対処法31条)、違反事業者等に対する罰金・過料(情報流通プラットフォーム対処法36条~39条)などが新たに規定されました。

プロバイダ責任制限法改正のポイントまとめ

発信者情報開示請求の手続には影響がない

以上のとおり、本件は、主に、送信防止措置(記事の削除)との関係で、一部のプラットフォーム事業者に義務を課すという改正内容なので、プロバイダ責任制限法がよく利用される場面である発信者情報開示請求の手続には影響がありません

投稿者の特定をする場面では、本改正とは無関係に従前どおりの手続きが取られることとなります。

削除の手続

削除の手続との関係では、裁判外の手続について、これまでと異なり、一部のプラットフォームでは、裁判外の削除が実効的になる可能性があります。

しかしながら、削除請求権・送信防止措置請求権が法律上の権利として認められたわけではありませんので、裁判上の請求として投稿の削除・非表示を求めることができる範囲には影響がありません

プラットフォーム事業者は指定された場合のみ

プラットフォーム事業者については、総務大臣による指定をされて初めて本改正の対応が必要となるという関係にあります。

総務省令で定める基準がどの程度かについてはまだ明らかにはなっていませんが、相当程度大規模なプラットフォーム事業者以外には本改正は影響がないかと思います。

まとめ

以上のとおり、今回の改正で、発信者情報開示請求の根拠として用いられるプロバイダ責任制限法が改正され、新たに情報流通プラットフォーム対処法という名前となりました。

しかしながら、今回の改正では発信者情報開示請求に関する改正はなく、投稿者の特定への影響はありません。

実務への影響としては専ら裁判外の送信防止措置請求に関するもので、この点については、これまで以上に実効化が期待されます。今回の法改正が、実際に実務でどのように運用されるかは実際に運用がされてみて初めて分かる部分もありますので、インターネット上の投稿による被害にあわれている場合には、今回の改正による影響なども含め、専門家である弁護士への相談をおすすめします。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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