クラウドファンディングの実施時に気をつけるべき法的問題と解決策

ベンチャー企業法務

会社の資金調達方法として最近注目を集めているのがクラウドファンディングです。
ある事業について簡易に資金調達をする新しい方法として注目されるほか、資金調達ができたことが商品の人気のバロメーターとなり、本格的に提供する際に「クラウドファンディングで○○円を調達!」などマーケティング戦略のためにもなることから多くの会社で用いられます。
しかし、新しい手法であり、どのような法的問題が潜んでいるのか、どんな注意が必要でしょうか。
本記事では、クラウドファンディングの実施時に気をつけるべき法的問題と、その解決方法などについてお伝えします。

※本記事は、令和6年8月16日時点の情報に基づいて執筆されています。

クラウドファンディングとは

クラウドファンディングとは、広く多数の人から少額の資金の提供を受ける資金調達のことをいいます。

英語のcrowd(群衆)とfunding(資金調達)を組み合わせた造語で、ソーシャルファンディングとも呼ばれたり、クラファンと略されることもあります。
資金調達をするには、銀行や投資家など、資金を有している人からの資金調達や、株式を上場させて広く少額の投資家から集める必要があります。
古くからある、カンパや募金、不特定多数から資金を集め、何らかのリターンを返すものは、クラウドファンディングという言葉が日本で定着する前から存在しました。

例えば大相撲の懸賞金制度は、会社が広告を出す権利をリターンとして金銭を出資するもので、クラウドファンディングに該当します。
昨今はインターネットを通じて広く情報発信することが可能で、広く一般に投資を呼びかけることが可能となった昨今、起業後のリスクマネーの供給強化の観点から法整備が進み、現在のようにクラウドファンディングが一般的になりました。

クラウドファンディングは、出資者にどのようなリターンがあるかによって、次の3つの種類に分かれます。

  • 購入型クラウドファンディング
  • 寄付型クラウドファンディング
  • 投資型クラウドファンディング

購入型クラウドファンディング

購入型クラウドファンディングとは、資金調達しようとしている会社の商品やサービスを、資金提供をした人が購入したと扱われるタイプのクラウドファンディングです。
例えば、特定の商品の開発を発表し、その商品の開発ができたときに資金調達者にその商品を引き渡すというものがこれに該当します。
画期的なアイデアであったり、開発に期待する人などからの資金調達を得ることができます。

寄付型クラウドファンディング

寄付型フラウドファンディングとは、資金提供者が提供した資金に見合うリターンがないタイプのクラウドファンディングです。
例えば社会貢献活動・ボランティア活動などで資金が必要な場合などに利用され、資金提供者への活動報告やイベントへの参加権、感謝の手紙のような金銭的な見返りにあたらないようなリターンが提供されます。
同じ想いを享有する人や、事業内容の理念に共感する人などからの資金提供を得ることができます。

購入型・寄付型クラウドファンディング事業者に資金移動業の登録が必要

以上の購入型・寄付型のクラウドファンディングにおいて、クラウドファンディングを取り扱うプラットフォーム事業者は資金移動業の登録が必要であることがほとんどです。

資金移動業とは

資金移動業とは、資金決済法で定められた概念で、「銀行等以外の者が為替取引を業として営むこと」をいいます。

第二条(定義)
(略)
2 この法律において「資金移動業」とは、銀行等以外の者が為替取引を業として営むことをいう。
(略)

資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)

為替取引とは、顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行することです。

同号にいう「為替取引を行うこと」とは,顧客から,隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて,これを引受けること,又はこれを引き受けて遂行することをいうと解するのが相当である。

最高裁判所第三小法廷平成13年3月12日決定

つまり、離れた場所にいる人同士が資金を送金することができる仕組みを提供することを「資金移動業」といいます。
その後、資金決済法の改正により、「為替取引」がより具体的に定義されました。

第二条の二 金銭債権を有する者(以下この条において「受取人」という。)からの委託、受取人からの金銭債権の譲受けその他これらに類する方法により、当該金銭債権に係る債務者又は当該債務者からの委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)その他これに類する方法により支払を行う者から弁済として資金を受け入れ、又は他の者に受け入れさせ、当該受取人に当該資金を移動させる行為(当該資金を当該受取人に交付することにより移動させる行為を除く。)であって、受取人が個人(事業として又は事業のために受取人となる場合におけるものを除く。)であることその他の内閣府令で定める要件を満たすものは、為替取引に該当するものとする。

資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)

具体的には、以下の要件を満たした場合には、「為替取引」に該当し(資金決済法2条の2)、銀行等以外の者が行えば、資金移動業に該当する(資金決済法2条2項)ということになります。

  1. 金銭の受取人からの委託・債権譲受・これらに類する方法により
  2. 金銭の支払者から自社で資金を受け入れ、あるいは他社に受け入れさせて
  3. 現金交付以外の方法によって受取人に資金を移動させる行為

クラウドファンディングが資金移動業に該当する場合

クラウドファンディングは、クラウドファンディング事業者からの委託により(要件1)自社でお金を集めて(要件2)、クラウドファンディング事業者が手数料を差し引いて、資金調達を行う会社の銀行口座に振り込みます(要件3)。
そのため、クラウドファンディング事業者は資金移動業を業として営んでいるという判断になりそうです。
この点。ある取引が資金移動業に該当するか否かについては、資金移動業者に関する内閣府令が以下のように基準を示しています。

第一条の二
法第二条の二に規定する内閣府令で定める要件は、受取人(同条に規定する受取人をいう。以下この条において同じ。)が個人(事業として又は事業のために受取人となる場合におけるものを除く。)であり、かつ、次に掲げる要件のいずれかに該当することとする。

一 受取人が有する金銭債権に係る債務者又は当該債務者からの委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)その他これに類する方法により支払を行う者(第三号において「債務者等」という。)から弁済として資金を受け入れた時(他の者に資金を受け入れさせる場合にあっては、当該他の者が弁済として資金を受け入れた時)までに当該債務者の債務が消滅しないものであること。
二 受取人が有する金銭債権が、資金の貸付け、連帯債務者の一人としてする弁済その他これらに類する方法によってする当該金銭債権に係る債務者に対する信用の供与をしたことにより発生したものである場合に、当該金銭債権の回収のために資金を移動させるものであること。
三 次に掲げる要件のいずれにも該当すること。

イ 受取人がその有する金銭債権に係る債務者に対し反対給付をする義務を負っている場合に、当該反対給付に先立って又はこれと同時に当該金銭債権に係る債務者等から弁済として資金を受け入れ、又は他の者に受け入れさせ、当該反対給付が行われた後に当該受取人に当該資金を移動させるものでないこと。
ロ 受取人が有する金銭債権の発生原因である契約の締結の方法に関する定めをすることその他の当該契約の成立に不可欠な関与を行い、当該金銭債権に係る債務者等から弁済として資金を受け入れ、又は他の者に受け入れさせ、当該受取人の同意の下に、当該契約の内容に応じて当該資金を移動させるものでないこと。

資金移動業者に関する内閣府令(平成二十二年内閣府令第四号)

したがって、これらの基準に照らして、資金移動業に該当するか否かを個別に判断されることになります。
そして、資金移動業に該当する場合、資金決済法37条で内閣総理大臣の登録を受ける必要があります。
購入型クラウドファンディング・寄付型クラウドファンディングを受ける場合、念のためきちんとこの登録を受けているか、受けていないとすれば受ける必要のない仕組みとなっているのかは確認しましょう。

投資型クラウドファンディング

投資型クラウドファンディングとは、資金提供者が提供した資金によって事業を行い、資金提供者に分配金等を返すものです。
従来からの会社の典型的な資金調達方法である株式の発行や融資を受けることを広く一般から行うものです。
投資によるリターンを期待する投資家からの資金提供を得ることができます。
投資型クラウドファンディングには、さらに細かく分けると次の3種類があります。

株式型

株式型とは、投資家がクラウドファンディング事業者に対して投資をし、クラウドファンディング事業者が資金を募っている会社に対して出資を行うものです。
会社は出資者に対して、第三者割当増資によって株式を発行します。

ファンド型

ファンド型とは、クラウドファンディング会社が資金調達が必要な企業ごとにファンドを組成し、そのファンドが持分を購入し、投資家に対して分配金が支払われるクラウドファンディングです。

融資型

融資型とは、資金調達を募る会社に対して、投資家がクラウドファンディング事業者に対して資金を提供し、クラウドファンディング事業者が集めた資金を会社に融資するものです。
クラウドファンディング事業者と資金調達をしたい会社の間で金銭消費貸借契約を結ぶもので、利息によって収益を挙げて投資家に分配金を支払います。

それぞれに必要な登録

なお、クラウドファンディングの利用者には直接関係のない法令の規制として、投資型クラウドファンディングにおけるクラウドファンディング事業者には、上記の3つの態様に応じて資格や登録が必要となることを知っておきましょう。

種類必要な資格・登録
株式型金融商品取引法第一種少額電子募集取扱業者
ファンド型金融商品取引法の第二種金融商品取引業者の登録投資家に対する投資判断に関する助言等を行う場合は、投資運用業・投資助言・代理業登録の登録も必要。
融資型金融商品取引法の第二種金融商品取引業者の登録貸金業法上の貸金業登録

なお、株式型については本来は第一種金融商品取引事業者としての登録が必要ですが、この登録をするためには非常に高い要件を具備する必要があり、事実上利用は難しいものでした。
平成26年の金融商品取引法の改正により、クラウドファンディング事業者が行うことを想定した、第一種少額電子募集取扱業者の制度ができており、現在に至っています。
クラウドファンディングにあたって、クラウドファンディング事業者を選ぶ必要があるのですが、このような登録がされている事業者かどうかは、トラブル回避のために慎重に確認するようにしましょう。

クラウドファンディングを実施する場合の法的問題

クラウドファンディングを実施する場合の法的問題としては次のものが挙げられます。

詐欺を疑われて問題になることがある

クラウドファンディングの実施にあたって問題になるのは、予定しているリターンを実施できなければ、詐欺を疑われることです。
2022年1月13日2ヵ月前に愛犬が死んだにもかかわらず、治療費のクラウドファンディングを実施して、407人から184万円以上を集めた女性が逮捕されました。
参照:東洋経済オンライン「クラファン詐欺で儲けようとした26歳女性の悪質 1ヵ月半で約185万円を騙し取ったケースも」

刑法246条1項は、「人を欺いて財物を交付させた者」については詐欺罪として、10年以下の懲役刑に処することを定めています。
本件のように、愛犬が死んでいるにもかかわらず、生きているように装ってクラウドファンディングを集めはじめたので、この詐欺罪に問われました。

第二百四十六条(詐欺)
1 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

刑法(明治四十年法律第四十五号)

もっとも、プロジェクトのためにお金を集めたにもかかわらず、お金が集まらなかったというだけでは、人を欺いたということはできないので犯罪としての詐欺罪には問われません。

他方、リターンを返せないような場合には詐欺を疑われ、ケースによってはSNSで炎上するような事態になることがあります。
かつて、クラウドファンディングで女性用の下着の開発費用を集めるも、開発ができなかった人が、後にフィリピンのセブ島に滞在しているインターネット上のSNSの投稿を行ったことから、女性用の下着のクラウドファンディングで集めたお金でセブ島に滞在しているかのような印象を持たれ炎上したものがありました。

冒頭のような虚偽のプロジェクトで資金を集めるのは論外として、万が一リターンが返せない(予定期日に返せない)ような場合に備えて、それまでの資金の使い道や進捗などをきちんと記録・報告できるようにしておきましょう。

購入型クラウドファンディングでリターンが返せない場合の返金義務

購入型クラウドファンディングでリターンが返せない場合には、返金義務があります。
購入型クラウドファンディングでは、資金提供者とクラウドファンディングを実施した人との間には、法律上は売買の予約が結ばれたものと評価できます。
そのため、リターンを返せない場合には債務不履行となり、契約は解除されることになり返金を請求されるとこれに応じる必要があります。
リターンが返せない場合の措置については、原則として当事者間の問題であり、クラウドファンディング事業者が、間に入ってくれたり、返金してくれるという仕組みではありません。実際の処理はクラウドファンディング事業者の規約にもよるので、事前に確認をしておくのがよいでしょう。

Makuakeの場合

リターンが返されない場合、クラウドファンディングの実施者は、資金提供者に資金を返金しなければならないものとされ、一定の条件を満たされたときには、株式会社マクアケが返金について保証をするものとされています。

第6条(返金の要請及び本保証の申請)
1.サポーターは、対象プロジェクトに関し、対象プロジェクトページに定めるリスク&チャレンジ期間を経過後もリターンが提供されない場合には、プロジェクト実行者に対し、応援購入金の返金を要請することができます。
2.サポーターは、前項に基づく返金要請を行った後、別紙「保証条件」に定める要件を満たした場合には、当社指定の申請フォーマットにより本保証の申請ができます。

Makuake返金保証規約

CAMPFIREの場合

リターンの履行義務や返金などについては、クラウドファンディングの実施者と資金提供者との問題であり、株式会社CAMPFIREは関与しないものと記載されています。

第22条(支援のキャンセル)
(略)
3項 プロジェクトの募集期間の終了後、プロジェクト進行不可能となった場合やリターンの履行遅延・履行不可能となった場合などいかなる理由を問わずCAMPFIREは支援金を返金する義務を負いません

第23条(リターンの取得)
(略)
3項 リターンの履行は、プロジェクトオーナーが支援契約に基づいて履行の責任を負うものであり、CAMPFIREは、リターンの履行、及びリターンの不履行による損害賠償責任を負いません。

CAMPFIRE利用規約

購入型クラウドファンディングは特定商取引法の通信販売に関する規定が適用される

同じく購入型クラウドファンディングは、インターネットを通じた売買となります。
そのため、特定商取引法の通信販売にあたるため、特定商取引法の法規制の対象となります。
表示義務や誇大広告の禁止など、インターネット通販と同様の対策が必要となります。

寄付型クラウドファンディングでは特に問題になる法律はない

寄付型クラウドファンディングは、契約の上で贈与契約となります。
そのため、特に問題になる法律はありません。
もっとも、クラウドファンディングで受けっとった資金を目的外で利用したり、対価的関係にないとはいえリターンを送らないことは、トラブルの元になるので注意しましょう。

投資型クラウドファンディングの中でも株式型では株主構成が変わる点に注意

投資型クラウドファンディングの中でも株式型を利用する場合には、クラウドファンディングの結果で株主構成が変わることに注意が必要です。
クラウドファンディングで株主を募ることになる場合、一人の投資家が多額の投資をする可能性があったり、非常に多くの投資家に株式が購入される可能性があります。
一人の投資家が多額の投資をしたような場合には、その投資家が高い割合の株式を持つことで、会社に影響を及ぼす可能性があります。
また、多数の株主が株式を保有することで、株主の管理や株主総会にかかるコストが上がる上に、ベンチャーキャピタルからの資金調達やIPOでマイナスの評価をされる要因となる可能性に注意が必要です。

まとめ

本記事では、クラウドファンディングを実施する場合の法的問題についてお伝えしました。
新しい資金調達手段として注目されるクラウドファンディングですが、その実施においては法的問題がいくつか存在します。
どのタイプのクラウドファンディングを実施するかを決めたならば、法的問題が生じないかをあらためて確認するようにしましょう。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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