資金調達方法の違いを法律・手続と共に徹底比較!最適な方法を見つけるガイド

ベンチャー企業法務

資金調達の方法を検討中だけど、種類が多くて違いが分からない…法律や手続きも複雑で、どこから手をつけたらいいか迷っていませんか?

この記事では、エクイティファイナンス(株式発行、種類株式など)、デットファイナンス(銀行融資、社債発行、リースなど)、助成金・補助金、クラウドファンディングなど、主要な資金調達方法の違いを、法律・手続きの面も含めて徹底的に比較解説します。

資金調達とは何か

資金調達とは、事業活動に必要な資金を外部から調達することを指します。企業は、設備投資、研究開発、運転資金、買収など、様々な目的で資金を必要とします。この資金を、自己資金のみで賄うことが難しい場合、外部から調達する必要が生じます。資金調達は、企業の成長や事業継続に不可欠な要素であり、適切な方法を選択することが重要です。

資金調達の目的

資金調達の目的は多岐に渡りますが、主なものとしては以下の点が挙げられます。

  • 設備投資:新たな工場や機械設備の導入、オフィスの拡張など
  • 研究開発:新製品や新技術の開発
  • 運転資金:日々の事業運営に必要な資金(人件費、材料費、広告宣伝費など)
  • 買収:他社の買収による事業拡大
  • 借入金の返済:既存の借入金の返済

資金調達のメリット・デメリット

資金調達には、メリットとデメリットが存在します。調達方法によってメリット・デメリットは異なるため、自社の状況に合わせて最適な方法を選択する必要があります。

項目メリットデメリット
全般事業拡大のための資金を確保できる事業の成長スピードを加速できる返済義務や利息負担が発生する場合がある経営の自由度が制限される可能性がある
エクイティファイナンス返済義務がない財務体質が強化される経営権の希薄化配当による利益の流出
デットファイナンス経営権を維持できる利息は損金算入できる返済義務がある担保や保証が必要な場合がある

資金調達方法の違い

資金調達方法は大きく分けて、エクイティファイナンスデットファイナンスの2つに分類されます。そして、これらとはまた異なる観点の資金調達方法として、助成金・補助金クラウドファンディングがあります。

それぞれの特徴を理解し、自社の状況に最適な方法を選択することが重要です。

資金調達方法メリットデメリット返済経営への影響
エクイティファイナンス返済不要、資金調達額が大きい株式の希薄化、経営への干渉不要大きい
デットファイナンス株式の希薄化なし、経営の独立性維持返済義務、利息負担必要小さい
助成金・補助金返済不要審査が厳格、採択率が低い不要小さい
クラウドファンディング少額から調達可能、マーケティング効果手数料負担、目標未達の場合資金調達できない購入型・融資型は必要、寄付型は不要小さい

以下、それぞれの資金調達方法について詳しく説明します。

エクイティファイナンス

エクイティファイナンスとは、企業の株式を発行することで資金を調達する方法です。資金の返済義務はなく、投資家には株主として経営に参加する権利が生じます。

成長資金の確保や信用力の向上といったメリットがある一方、経営への影響や株式価値の変動リスクといったデメリットも存在します。

エクイティファイナンスは、主に株式発行、種類株式発行、新株予約権の発行といった方法で行われます。

エクイティファイナンスの種類

株式発行による資金調達

株式発行による資金調達は、主に公開会社と非公開会社で行われます。

公開会社における資金調達

公開会社は、株式市場で新規株式公開(IPO)や増資を行うことで資金調達できます

IPOとは、未上場の企業が証券取引所に株式を上場し、広く一般投資家から資金を調達することです。増資とは、既に上場している企業が新たに株式を発行し、資金を調達することです。

非公開会社における資金調達(ベンチャーキャピタル等)

非公開会社は、ベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などから資金調達を行います

ベンチャーキャピタルは、高い成長性を持つ未上場企業に投資を行う投資会社です。エンジェル投資家は、個人でスタートアップ企業に投資を行う個人投資家です。

種類株式による資金調達

種類株式とは、議決権や配当などに特別な権利が付与された株式です。種類株式を発行することで、経営権を維持しながら資金調達を行うことができます。 

法律と手続

エクイティファイナンスには、会社法や金融商品取引法などの法律が関わってきます。手続には、定款の変更、株主総会の決議、株式発行の登記などが必要です。

会社法における規定

会社法では、株式の発行、種類株式の内容、株主総会の決議方法などが規定されています。例えば、株式の発行には株主総会の特別決議が必要となる場合があり、種類株式の内容は定款に定める必要があります。

第百九十九条(募集事項の決定)

 株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。

一 募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び数。以下この節において同じ。)
二 募集株式の払込金額(募集株式一株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額をいう。以下この節において同じ。)又はその算定方法
三 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
四 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間
五 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項

2 前項各号に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)の決定は、株主総会の決議によらなければならない。

(略)

会社法第199

金融商品取引法における規定

金融商品取引法は、株式の募集や売出しに関する規制を定めています。公開会社が株式を発行する場合、有価証券届出書や有価証券報告書などの書類を金融庁に提出する必要があります。

第五条(有価証券届出書の提出)

 前条第一項から第三項までの規定による有価証券の募集又は売出し(特定有価証券(その投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす情報がその発行者が行う資産の運用その他これに類似する事業に関する情報である有価証券として政令で定めるものをいう。以下この項、第五項、第十項及び第十一項、第七条第四項、第二十四条並びに第二十四条の七第一項において同じ。)に係る有価証券の募集及び売出しを除く。以下この項及び次項において同じ。)に係る届出をしようとする発行者は、その者が会社(外国会社を含む。第五十条の二第九項、第六十六条の四十第五項及び第百五十六条の三第二項第三号を除き、以下同じ。)である場合(当該有価証券(特定有価証券を除く。以下この項から第四項までにおいて同じ。)の発行により会社を設立する場合を含む。)においては、内閣府令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した届出書を内閣総理大臣に提出しなければならない。ただし、当該有価証券の発行価格の決定前に募集をする必要がある場合その他の内閣府令で定める場合には、第一号のうち発行価格その他の内閣府令で定める事項を記載しないで提出することができる。

(略)

金融商品取引法第5条

エクイティファイナンスについては、下記の記事で詳細を解説しております。

デットファイナンス

デットファイナンスとは、返済義務のある資金調達方法です。主に金融機関からの借入や社債発行を通じて資金を調達します。エクイティファイナンスとは異なり、企業の所有権を希釈することなく資金調達できるメリットがありますが、定期的な利息の支払い、元本の返済義務が生じます。

デットファイナンスの種類

銀行融資

銀行融資は、最も一般的なデットファイナンスです。企業は、事業計画などを銀行に提出し、審査に通れば融資を受けることができます。

短期融資

短期融資は、運転資金など短期的な資金ニーズに対応するための融資です。返済期間は1年以内が一般的です。

長期融資

長期融資は、設備投資など長期的な資金ニーズに対応するための融資です。返済期間は1年を超えるものが一般的です。

社債発行

社債とは、企業が発行する債券のことです。投資家は社債を購入することで企業に資金を提供し、企業は投資家に利息を支払います。満期になると、企業は投資家に元本を返済します。

劣後債

劣後債とは、他の債権よりも弁済順位が低い社債です。倒産した場合、他の債権者よりも後に弁済を受けます。

普通社債

普通社債とは、一般的な社債です。

リース

リースとは、設備などを一定期間借り受け、使用料を支払う方法です。リース会社が設備を購入し、企業に貸し出します。

法律と手続

デットファイナンスには、様々な法律や手続きが関わっています。以下に主なものを示します。

銀行法、金融商品取引法における規定

銀行融資は銀行法、社債発行は金融商品取引法の規制を受けます。また、社債発行には、有価証券届出書の作成・提出など、一定の手続が必要です。

会社法における社債発行の規定

社債発行は会社法にも規定されています。社債発行には、株主総会の決議が必要となる場合があります。また、社債の種類や発行条件なども会社法で定められています。

デットファイナンスについては以下の記事でも解説しています。

助成金・補助金

経済産業省、中小企業庁、農林水産省など、様々な省庁がそれぞれの政策目標に沿った助成金・補助金制度を設けています。例えば、創業支援、事業承継、新技術開発、設備投資、省エネルギー化など、多岐にわたる分野を対象とした制度が存在します。これらの制度は、日本経済の活性化や社会課題の解決に貢献することを目的としています。

助成金・補助金の種類

国からの助成金・補助金

経済産業省や中小企業庁などが、様々な分野の企業に対して助成金・補助金を提供しています。

主な国からの助成金・補助金
制度名概要対象関連リンク
ものづくり補助金中小企業等の生産性向上を支援するための補助金中小企業等ものづくり補助金総合サイト
IT導入補助金中小企業・小規模事業者等のITツール導入を支援するための補助金中小企業・小規模事業者等IT導入補助金
小規模事業者持続化補助金小規模事業者の販路開拓等を支援するための補助金小規模事業者小規模事業者持続化補助金

地方自治体からの助成金・補助金

地方自治体も、地域経済の活性化などを目的として助成金・補助金を提供しています。各自治体のウェブサイトなどで情報を確認できます。

法律と手続き

助成金・補助金は、それぞれ独自の法律や制度に基づいて運用されています。申請手続きや要件、資金の使途、報告義務なども制度ごとに異なるため、事前に詳細な情報を確認することが重要です。また、不正な申請や不正な資金の使用は厳しく罰せられるため、法令遵守を徹底する必要があります。

各制度の申請手続き

一般的には、申請書類の作成、提出、審査、交付決定、資金の交付、実績報告といった流れで手続きが進められます。申請書類は、制度ごとに定められた様式を使用する必要があり、事業計画書や収支計画書などの提出が求められる場合もあります。審査は、専門家による評価現地調査などによって行われ、採択基準を満たしているかどうかが厳格に審査されます。

クラウドファンディング

クラウドファンディングとは、インターネットを通じて不特定多数の人々から資金を集める方法です。近年、資金調達手段の多様化やインターネットの普及により、資金調達方法の選択肢として注目を集めています。主に購入型、寄付型、融資型の3つの種類があります。それぞれの特徴を理解し、自社の事業内容や目的に合ったクラウドファンディングの種類を選択することが重要です。

クラウドファンディングの種類

購入型クラウドファンディング

購入型クラウドファンディングは、製品やサービスの購入を通じて資金提供を行う方法です。リターンとして、提供された製品やサービスを受け取ることができます。

寄付型クラウドファンディング

寄付型クラウドファンディングは、資金提供の見返りがない寄付を行う方法です。社会貢献活動やNPOなどの資金調達に利用されます。

融資型クラウドファンディング

融資型クラウドファンディングは、インターネットを通じて個人から融資を受ける方法です。ソーシャルレンディングとも呼ばれます。

法律と手続き

クラウドファンディングの実施にあたっては、関連法令を遵守する必要があります。主な関連法令は以下の通りです。

法律概要注意点
資金決済法資金移動業者や前払式支払手段発行者などに関する法律。購入型クラウドファンディングで返礼品を提供する場合、前払式支払手段発行業に該当する可能性があります。前払式支払手段発行業に該当する場合、登録が必要となる場合があります。
特定商取引法通信販売などにおける消費者保護のための法律。クラウドファンディングにおいても、事業者による不当な勧誘や虚偽の説明などを禁止しています。事業者情報は必ず明示し、返礼品の内容や提供時期なども明確に記載する必要があります。

クラウドファンディングは、資金調達手段として注目されていますが、それぞれの種類によって特徴やメリット・デメリットが異なります。また、関連法令の遵守も必要です。自社の状況に合わせて最適な方法を選択し、適切な手続きを行うことが重要です。

クラウドファンディングについては以下の記事でも詳しく解説しています。

資金調達方法の選択基準

最適な資金調達方法を選択することは、事業の成長と安定に不可欠です。調達額、返済の有無、事業の成長ステージ、経営への影響など、様々な要素を考慮する必要があります。これらの基準を理解し、自社の状況に最適な方法を選択しましょう。

調達額

必要な資金規模は、資金調達方法の選択に大きな影響を与えます。少額の資金であれば、クラウドファンディングや助成金・補助金を検討できます。大規模な資金調達が必要な場合は、エクイティファイナンスやデットファイナンスが選択肢となります。

少額資金の調達

  • クラウドファンディング
  • 助成金・補助金
  • 日本政策金融公庫の融資

大規模資金の調達

  • エクイティファイナンス (株式発行、ベンチャーキャピタル)
  • デットファイナンス (銀行融資、社債発行)

返済の有無

資金調達には、返済義務のあるものとないものがあります。エクイティファイナンスは原則として返済義務がありませんが、株式による資金調達の場合は、株主への配当義務が生じます。デットファイナンスは、元本と利息の返済義務があります。助成金・補助金は返済不要です。返済の有無は、資金繰りの計画に大きく影響するため、慎重に検討する必要があります。

資金調達方法返済の有無
エクイティファイナンス原則なし(配当の可能性あり)
デットファイナンスあり(元本と利息)
助成金・補助金なし

事業の成長ステージ

事業の成長ステージによって、適切な資金調達方法は異なります。シード期やアーリーステージのスタートアップ企業は、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルからのエクイティファイナンスが一般的です。成長期や成熟期にある企業は、銀行融資や社債発行などのデットファイナンスを活用できます。

シード期・アーリーステージ

  • エンジェル投資家
  • ベンチャーキャピタル
  • シードアクセラレータープログラム

成長期・成熟期

  • 銀行融資
  • 社債発行
  • IPO(新規株式公開)

経営への影響

資金調達方法によって、経営への影響も異なります。エクイティファイナンスは、株式を発行するため、経営権の希薄化が起こる可能性があります。デットファイナンスは、経営権に影響を与えませんが、返済義務があるため、資金繰りの負担となる可能性があります。助成金・補助金は、経営への影響は少ないですが、申請手続きが複雑な場合があります。

これらの要素を総合的に考慮し、自社の事業計画、財務状況、成長戦略に最適な資金調達方法を選択することが重要です。必要に応じて、専門家(弁護士、税理士、財務アドバイザーなど)に相談することも検討しましょう。

資金調達方法の法律と手続きに関する注意点

資金調達を行う際には、様々な法律や手続きが関わってきます。資金調達方法を誤ると、後々大きなトラブルに発展する可能性もあるため、事前に法律や手続きについてしっかりと理解しておくことが重要です。資金調達を成功させ、事業をスムーズに進めるためにも、以下の注意点に留意しましょう。

契約書の内容確認

どのような資金調達方法を選択する場合でも、契約書の内容をしっかりと確認することが不可欠です。契約書には、調達条件、返済方法、金利、担保、違約金など、資金調達に関する重要な情報が記載されています。契約内容を理解しないまま署名してしまうと、後々不利な立場に立たされる可能性があります。契約書の内容に不明点がある場合は、必ず専門家に相談し、内容を理解した上で署名するようにしましょう。

契約書の確認ポイント

  • 調達金額と使途:調達金額が事業計画に合致しているか、使途が明確に定められているかを確認しましょう。
  • 返済方法と返済期間:返済方法(元利均等返済、元金均等返済など)や返済期間が事業のキャッシュフローに無理がないかを確認しましょう。
  • 金利と手数料:金利や手数料が妥当な水準であるか、他の金融機関と比較検討しましょう。
  • 担保の有無:担保を提供する必要がある場合は、その内容とリスクを理解しましょう。
  • 違約金の有無:契約違反した場合の違約金の内容を確認しましょう。
  • 契約解除条項:どのような場合に契約が解除されるのかを確認しましょう。
資金調達方法関連法律手続きの注意点
株式発行会社法、金融商品取引法株主総会の承認、証券会社との契約等
銀行融資銀行法事業計画書の作成、担保の提供等
社債発行会社法、金融商品取引法社債発行登録、格付け機関による格付け等
助成金・補助金各制度の法律申請書類の提出、審査等
クラウドファンディング資金決済法、特定商取引法プラットフォームの選定、返礼品の設定等

まとめ

資金調達は、企業の成長に欠かせない重要な要素です。本記事では、エクイティファイナンス、デットファイナンス、助成金・補助金、クラウドファンディングといった主要な資金調達方法について、それぞれの特徴、法律、手続きを詳しく解説しました。

資金調達を成功させるためには、それぞれの方法のメリット・デメリットを理解し、自社の状況に最適な方法を選択することが重要です。

また、資金調達には、会社法、金融商品取引法、資金決済法など、関連する法律や手続きを理解することも必要不可欠です。必要に応じて、弁護士や会計士などの専門家に相談することも検討しましょう。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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