インターネット上の誹謗中傷やプライバシー侵害は、深刻な問題となっています。もし、あなた自身の情報が許可なく拡散されたり、事実無根の書き込みによって名誉を傷つけられたりした場合、泣き寝入りする必要はありません。 「削除請求」という方法を使えば、違法な書き込みや情報をインターネット上から削除できる可能性があります。
この記事では、削除請求の対象となる媒体、削除可能な内容、具体的な削除請求の流れ、費用、弁護士に依頼するメリットなどを詳しく解説します。安心してインターネットを利用できるよう、正しい知識を身につけていきましょう。
削除請求の対象となり得る媒体
SNSの投稿
Facebook、X(旧Twitter)、InstagramなどのSNSは、個人が情報を発信しやすい一方で、誹謗中傷やプライバシー侵害の温床になりやすいという側面も持ち合わせています。誹謗中傷やプライバシー侵害にあたる投稿は、削除請求の対象となりえます。
- 実名登録式のSNSの場合、投稿者を特定しやすいというメリットがあります。反面、匿名で利用できるSNSの場合、投稿者の特定が難しいケースもあります。
- SNSの運営会社は、独自のコミュニティガイドラインを設けており、削除請求の手順や判断基準が異なります。ガイドラインをよく確認した上で、削除請求を行いましょう。
掲示板の書き込み
2ちゃんねるのような匿名掲示板は、発信者の特定が困難な場合が多く、削除請求が難しいケースもあります。ただし、掲示板の管理者に削除を依頼することは可能です。また、プロバイダ責任制限法に基づき、プロバイダに対して発信者情報の開示を請求することもできます。
- 掲示板の多くは、利用規約において、違法な書き込みや誹謗中傷を禁じています。削除請求を行う際には、利用規約に違反する書き込みであることを具体的に指摘する必要があります。
- 発信者情報開示請求は、裁判所の手続が必要となるため、弁護士に相談することをおすすめします。
ブログの記事
個人が自由に情報を発信できるブログですが、誹謗中傷や名誉毀損にあたる内容が掲載されている場合は、削除請求の対象となります。ブログサービスの運営会社に削除を依頼する、またはプロバイダ責任制限法に基づき、プロバイダに対して発信者情報の開示を請求することができます。
- ブログサービスによっては、削除請求の手続が簡略化されている場合があります。まずは、ブログサービスの運営会社に問い合わせてみましょう。
動画投稿サイトなどの投稿
YouTube、ニコニコ動画、TikTokなどの動画投稿サイトは、近年利用者が急増しており、それに伴い、権利侵害やプライバシー侵害などの問題も増加しています。動画投稿サイトの運営会社に削除を依頼する、またはプロバイダ責任制限法に基づき、プロバイダに対して発信者情報の開示を請求することができます。
- 動画の内容によっては、著作権法や肖像権法に違反する可能性があります。削除請求を行う際には、どの権利が侵害されているかを明確に伝えることが重要です。
ブログや投稿などに対するコメント
ブログの記事やSNSの投稿に対するコメント欄も、削除請求の対象となります。コメントの内容が誹謗中傷やプライバシー侵害にあたる場合、ブログやSNSの運営会社に削除を依頼することができます。
- コメント欄は、誰でも自由に書き込めるため、誹謗中傷やプライバシー侵害の温床になりやすい場所です。定期的にコメント欄をチェックし、問題のあるコメントは削除するなどの対策が必要です。
- コメントの削除を依頼する際には、問題となるコメントを特定し、その理由を明確に伝えることが重要です。
ウェブページ自体
企業のウェブサイトや個人のホームページなど、ウェブページ自体が削除請求の対象となる場合があります。例えば、ウェブサイトに掲載されている情報が虚偽の情報で、風評被害が発生している場合や、ウェブサイトの内容が著作権法に違反している場合などが挙げられます。
- ウェブサイトの管理者に直接削除を依頼する方法もありますが、応じてもらえないケースもあります。その場合は、裁判所に削除を求める訴訟を提起する必要があります。
- ウェブページ事態の削除はSNSや掲示板、動画投稿サイトなどのように、ウェブページの制作者以外の管理者、というものが存在しない場合が多いので、削除請求には裁判手続が必要な場合が多いです。
検索結果
Googleなどの検索エンジンで、特定のキーワードを検索すると、自分の過去の失敗や逮捕歴に関する記事が表示されてしまうことがあります。このような場合、「検索結果から削除するよう求める権利」に基づき、検索結果から記事を削除するよう、検索エンジンに要請することができます。
- 検索結果からの削除は、必ずしも認められるわけではありません。削除が認められるかどうかは、検索結果の表示内容、検索結果の表示による影響の大きさ、表現の自由とのバランスなどを総合的に判断されます。
- 検索結果からの削除請求は、裁判手続が必要なため、弁護士に相談することをおすすめします。
「検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。」
最高裁判所平成29年1月31日判決
削除が可能なものとは?
違法な記事
インターネット上で公開されている情報の中には、名誉毀損罪や侮辱罪などの犯罪に該当したり、プライバシーの侵害となる違法な情報も少なくありません。このような違法な情報に関しては、裁判所の手続などを経て削除を求めることが可能です。 具体的には、名誉毀損罪や侮辱罪などの犯罪に該当する書き込みや、プライバシーを侵害する個人情報、他人の著作権を侵害するコンテンツなどが該当します。
違法な記事を放置しておくと、事業者だけでなく、個人の場合でも損害賠償請求をされる可能性があります。特に、風評被害が発生しやすいSNSでの炎上や、誹謗中傷を目的とした掲示板への書き込みなどは、早急な対応が必要です。
ある記事が違法かどうかの線引きについては、以下の法律記事で詳細を解説していますので、併せてご参照ください。
媒体の規約違反の記事
各ウェブサイトやSNSには、利用規約が定められています。
例えば、X(旧Twitter)の利用規約では、暴力、嫌がらせ、スパムなどに関するポリシーが定められており、具体的には、下記のような行為が禁止されています(X:ルールとポリシー)。
- 暴力の脅迫:他者に対する暴力の脅迫は禁止されています。
- テロ行為:テロ組織やその活動を称賛、美化、またはその他の方法で支援することは許可されていません。
- 嫌がらせ:個人またはグループに対する嫌がらせは許可されていません。
- ヘイト行為:人種、民族、出身国、性的指向、性別、性同一性、宗教、年齢、障害、または深刻な病気など、保護されたカテゴリーに基づいて、他者に対する暴力、脅迫、または嫌がらせを扇動、助長、または正当化するコンテンツは許可されていません。
このように、各ウェブサイトやSNSが定める利用規約に違反する投稿は、削除の対象となる可能性があります。
ウェブサイトの規約の一例として、YouTubeのコミニティガイドラインについては、以下の記事で解説をしていますので、是非ご覧ください。
違法な書き込みでなくても、媒体の規約に違反している場合は、サイト管理者に削除を依頼することができます。
例えば、誹謗中傷などを目的とした悪質な口コミを投稿された場合、名誉毀損罪などの違法性を問えなくても、媒体の規約に違反していることを理由に削除を依頼することができます。
違法な書き込みを放置することの危険性
違法な書き込みを放置しておくと、以下のようなリスクがあります。
リスク | 内容 |
風評被害の拡大 | 違法な書き込みを放置することで、その情報が拡散され、企業や個人の評判を著しく低下させる可能性があります。 |
顧客の喪失 | 風評被害により、顧客からの信頼を失い、顧客離れに繋がる可能性があります。 |
採用活動への影響 | 企業に関するネガティブな情報が拡散されることで、優秀な人材の獲得が困難になる可能性があります。 |
法的責任の発生 | 違法な書き込みを放置した場合、場合によっては、サイト運営者も法的責任を問われる可能性があります。 |
上記のように、違法な書き込みを放置することは、様々なリスクを伴います。書き込みを発見次第、速やかに対応することが重要です。
削除請求の方法
投稿者に対する削除請求
問題のある投稿の投稿者を特定し、削除を求める方法です。
この場合、今後同じような投稿を繰り返さないことを約束させることで、新しい投稿による”いたちごっこ”に終止符を打つことができるので、粘着質なアンチ活動を行う相手や炎上状態ではより有効な手段となることがあります。
サイト管理者に対する削除請求
ウェブサイト・サービスの管理者に対して削除を求める方法です。
この場合、問題となる投稿に対する単発の対応しかできない一方で、投稿者が誰か分からなくとも削除や非表示処理を求めることができる点や、内容が法律上違法でなくても、そのサービスの利用規約に違反していることを理由に削除に応じてもらうことができる場合があります。
検索結果からの除外
Googleで検索をしても問題のウェブサイトが検索結果に出てこないように請求するものです。
主に前科や逮捕歴については、これを行うことで就職活動の際の企業からの評価や物件の賃貸の際の身元審査で不利になることを避ける事ができる場合があります。
上記3種類の削除方法以外に、違法な投稿への対抗策としては、以下の記事にまとめてある方法などが考えられます。
参考までにご参照ください。
削除請求の流れ
証拠の保全
削除請求を行う際、まずは証拠の保全が重要です。なぜなら、投稿者やサイト管理者が削除要請に応じる前に、問題の投稿を削除してしまう可能性があるからです。画面のスクリーンショット(キャプチャ)やウェブページのHTMLデータなどを保存しておくことで、後々に証拠として提出することができます。具体的な方法としては、以下の方法が挙げられます。
- スクリーンショット
パソコンやスマートフォンの画面をそのまま画像として保存する方法です。日時やURLなども含めて記録できるため、証拠としての価値も高いと言えるでしょう。 - HTMLデータの保存
ウェブページのHTMLデータをダウンロードする方法です。これにより、投稿内容だけでなく、投稿日時やURLなどのメタ情報も保存することができます。
削除方法の検討
削除請求を行う前に、どのような方法で削除請求を行うかを検討する必要があります。前述の削除請求の方法について、それぞれを比較すると以下のような特徴があります。
投稿者への削除請求 | サイト管理者への削除請求 | 検索結果からの除外 | |
メリット | 投稿者と直接交渉するため、その記事だけでなく、今後の投稿の抑制に繋がる可能性がある | 投稿者を特定する必要がなく、比較的対応が早い場合がある | 検索結果に表示されなくなるため、多くの人の目に触れることを防ぐことができる |
デメリット | 投稿者を特定することが難しい場合がある。また、反論や嫌がらせを受ける可能性もある | サイト管理者の判断によっては削除に応じてもらえない場合がある | 問題のページ自体が削除されるわけではないため、URLを知っている人はアクセスできてしまう |
上記のように、どの削除請求の方法にもメリット・デメリットがあります。そのため、事案に応じて適切な方法を選択する必要があります。例えば、
- 誹謗中傷をそもそもの目的とした投稿
投稿者を特定できる場合は、投稿者に対する削除請求を行うのが有効です。 - プライバシーの侵害
迅速な対応が必要なため、サイト管理者に対する削除請求や検索結果からの除外が有効です。
削除方法に対応した手続の進行
削除方法を決定したら、それぞれの方法に応じた削除請求の手続を行います。
- 投稿者に対する削除請求
投稿者に対して直接削除を依頼します。この際、単に削除を依頼するだけでなく、損害賠償や刑事告訴等の他の法的措置を検討していることを伝えることで、より効果的に削除に繋げることができます。
- サイト管理者に対する削除請求
各ウェブサイトやサービスが定める削除請求の手続に従って、削除を依頼します。一般的には、ウェブサイト上に設置された専用のフォームから必要事項を記入して送信する形式が多いです。
また、サイト管理者を相手方として裁判手続(仮処分・訴訟)を行うことも考えられます。
- 検索結果からの除外
Googleなどの検索エンジンに対して、特定のページを検索結果に表示させないように依頼します。
また、Googleを相手方として裁判手続(仮処分・訴訟)を行うことも考えられます。
いずれの方法で削除請求を行う場合でも、証拠となる資料を添付する必要があります。証拠が不十分な場合、削除請求が認められない可能性もあるため注意が必要です。
削除請求にかかる費用
費用の種類
削除請求にかかる費用は、大きく分けて以下の3つです。
- 着手金
着手金は、弁護士に事件を依頼する際に支払う費用のことで、弁護士活動の初期費用として位置づけられます。着手金は、事件の難易度や内容によって異なり、一般的には、経済的利益の有無や請求金額を基準に算定されます。また、着手金は、成功報酬とは異なり、事件の結果に関わらず返金されません。
- 報酬金
報酬金は、事件が解決した際に支払う成功報酬のことです。報酬金の額は、事件の難易度や内容、解決までに要した時間や労力によって異なります。一般的には、経済的利益の有無や獲得した経済的利益の額を基準に算定されます。例えば、削除請求が成功した場合にのみ、一定の金額を報酬として支払うという契約を結ぶことがあります。
- 実費
実費とは、事件処理のために必要となる費用のことで、郵便料金や交通費、印紙代、裁判所に納める手数料などが含まれます。実費は、事件の進捗状況に応じて随時請求される場合と、事件終了後に精算される場合があります。
費用相場
弁護士に削除請求を依頼する場合の費用相場は、事案の難易度や弁護士事務所によって異なりますが、目安として以下の表をご参照ください。
費用 | 相場 |
着手金 | 20万円~40万円程度 |
報酬金 | 20万円~40万円程度 |
実費 | 数千円~数万円程度 |
上記はあくまで目安であり、実際の費用は、弁護士との個別相談で決定されます。弁護士に依頼する前に、費用の詳細についてしっかりと確認することが重要です。
費用を抑える方法
弁護士に削除請求を依頼する際の費用を抑える方法としては、以下の点が挙げられます。
- 無料相談を利用する
多くの弁護士事務所では、無料相談を実施しています。無料相談を利用することで、費用に関する疑問や不安を解消することができます。また、弁護士に直接相談することで、費用対効果の高い解決策を検討することができます。
- 費用体系が明確な弁護士事務所を選ぶ
弁護士事務所によって、費用体系は異なります。費用体系が明確な弁護士事務所を選ぶことで、費用に関するトラブルを未然に防ぐことができます。弁護士事務所のウェブサイトなどで、費用体系を確認するようにしましょう。
- 早期に相談する
問題が深刻化する前に、早期に弁護士に相談することで、費用を抑えられる可能性があります。早期に相談することで、弁護士は、より多くの選択肢の中から、最適な解決策を提案することができます。
弁護士に削除請求を依頼することは、費用がかかるというデメリットがある一方で、専門知識に基づいた適切な対応を受けられる、交渉を代理で行ってもらえる、裁判手続きにも対応してもらえるなど、多くのメリットがあります。費用とメリットを比較検討した上で、弁護士に依頼するかどうか決めるようにしましょう。費用のことや手続きの流れなどが不安な場合は、一度法律事務所に相談してみることをおすすめします。
自分で削除請求をする際の注意点
費用を抑えるために、自分で削除請求を行うことを検討する方もいるかもしれません。しかし、専門知識がないまま安易に削除請求を行うと、かえって事態が悪化してしまう可能性もあるため注意が必要です。 自分で削除請求を行う場合は、以下の点に注意しましょう。
- 証拠の保全
削除請求を行う前に、誹謗中傷やプライバシー侵害の証拠を保全しておくことが重要です。証拠がないと、削除請求が認められない可能性があります。具体的な方法としては、問題のページのスクリーンショットを撮影する、URLを保存しておく、内容を印刷するなどがあります。万が一、裁判になった場合でも証拠として認められるように、日時情報を含めて保存することが重要です。また、可能であれば、公証役場による証拠保全も検討しましょう。
- 削除請求の手順の確認
削除請求の手順は、サイトの運営会社やサービスによって異なります。削除請求を行う前に、各サイトのガイドラインやヘルプページをよく確認し、適切な手順で進めるようにしましょう。誤った手順で削除請求を行ってしまうと、時間がかかってしまったり、削除請求が却下されてしまう可能性もあります。
- 感情的にならない
削除請求を行う際には、冷静かつ丁寧な言葉遣いを心がけましょう。感情的になってしまったり、脅迫めいた表現を使ってしまうと、相手との関係が悪化し、削除請求が受け入れられにくくなってしまう可能性があります。あくまでも、冷静に、法的な根拠に基づいて削除請求を行うように心がけましょう。
- 専門家への相談
自分で削除請求を行うことに不安がある場合や、状況が複雑な場合は、無理をせずに弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。専門家は、豊富な知識と経験に基づいて、適切なアドバイスやサポートを提供してくれます。特に、名誉毀損罪やプライバシー侵害など、法律が関係する可能性がある場合は、早めに専門家に相談することが重要です。
自分で削除請求を行う場合は、時間と労力を要するだけでなく、法的リスクも伴います。安易に削除請求を行うのではなく、まずは弁護士に相談し、状況に応じて最適な方法を選択することをおすすめします。
まとめ
違法な書き込みや風評被害は、放置すると大きな損害に繋がりかねません。早急に対処することが重要です。削除請求は、投稿者やサイト管理者、検索エンジン運営会社に対して行います。
自分自身で行うことも可能ですが、専門知識が必要となる場合や、手続きが複雑な場合もあるため、弁護士に依頼することも検討しましょう。弁護士に依頼することで、法的なアドバイスを受けながら、スムーズに削除請求を進めることができます。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。