「インターネット上に残る逮捕歴、犯罪歴、前科の情報が消せないか?」と悩んでいませんか?過去の情報は、就職活動や人間関係に影を落とす可能性があります。
この記事では、インターネット上からこれらの情報を削除できるケース、具体的な削除依頼の方法、そして依頼時の注意点まで詳しく解説します。
インターネット上に公開される逮捕歴・犯罪歴・前科の情報
インターネットの普及により、情報はかつてないほど容易に拡散されるようになりました。特に逮捕歴、犯罪歴、前科といったセンシティブな情報は、一度公開されると長期にわたり残存し、個人の生活に深刻な影響を与える可能性があります。これらの情報は、主に以下の経路でインターネット上に公開される可能性があります。
報道記事による情報公開
事件や事故が発生した場合、新聞社やテレビ局などの報道機関は、事実関係を伝えるために事件の内容や容疑者の情報を報道します。報道機関は公益性を鑑み、実名報道を行う場合もあります。
これらの報道記事はインターネット上に公開され、検索エンジンで容易にアクセスできるようになります。特に重大事件や社会的に注目を集めた事件の場合、情報は拡散しやすく、長期間にわたってインターネット上に残存する可能性が高いです。
報道記事の中には、逮捕されたものの不起訴処分になったケースや、冤罪だったケースも含まれるため、情報の正確性には注意が必要です。
裁判記録のオンライン公開
裁判所は、裁判の透明性を確保するために、判決文などの裁判記録をオンラインで公開しています。これらの記録には、被告人の氏名、罪名、判決内容などが含まれる場合があります。
裁判記録は公的な情報源であるため、情報の信頼性は高いですが、個人のプライバシー保護の観点から、一部の情報は非公開とされている場合もあります。
掲示板やSNSでの拡散
インターネット上には、掲示板やSNSなど、誰でも自由に情報を発信できるプラットフォームが存在します。これらのプラットフォームでは、個人が特定できる情報、例えば実名、住所、勤務先などが公開されるリスクがあります。
悪意のある第三者によって、逮捕歴や犯罪歴といったセンシティブな情報が拡散される可能性も否定できません。
また、個人が特定できる情報が公開された結果、ネット上で誹謗中傷や嫌がらせを受けるリスクも高まります。一度拡散された情報は完全に削除することが困難な場合もあります。
情報の種類 | 公開される場所 | 特徴 |
---|---|---|
報道記事 | ニュースサイト、ポータルサイトなど | 拡散力が高い、情報が残りやすい |
裁判記録 | 裁判所ウェブサイト | 公的な情報、信頼性が高い |
個人情報 | 掲示板、SNSなど | 削除が困難、風評被害のリスク |
これらの情報がインターネット上に公開されることで、個人が社会生活を送る上で様々な不利益を被る可能性があります。就職活動や結婚、人間関係など、人生の様々な場面で影響を受ける可能性があるため、適切な対応が必要となります。
逮捕歴・犯罪歴・前科等の情報が公開されていることのリスク
逮捕歴や犯罪歴、前科の情報がインターネット上で公開されている場合、個人にとって以下のようなデメリットが発生する可能性があります。
社会的な偏見と差別
犯罪歴が公開されることで、社会的に偏見や差別を受ける可能性があります。たとえ罪を償って社会復帰を果たしても、その情報がインターネット上に残っている限り、「前科者」として不当な扱いを受けるリスクがあります。
これは就職活動や日常生活において、不利に働くことがあります。
就職や採用における影響
企業は採用時に候補者のインターネット上の情報を調査することが増えています。逮捕歴や前科がネット上に公開されていると、これが原因で採用を見送られたり、内定が取り消される可能性があります。
職種によっては特に厳格な背景調査が行われ、過去の犯罪歴が大きなハードルになる場合があります。
人間関係の悪化
知人や家族、友人が逮捕歴や犯罪歴をインターネット上で知ることにより、信頼関係が崩れる可能性があります。
また、地域社会でも犯罪歴が知れ渡ることで、孤立や疎外を感じるようになるかもしれません。こうした情報は人間関係に深刻な影響を与えることがあります。
逮捕歴・犯罪歴・前科等の情報を削除できるケース
インターネット上に公開された逮捕歴、犯罪歴、前科の情報は、個人の社会生活に大きな影響を与える可能性があります。そのため、これらの情報を削除したいと考える人は少なくありません。
しかし、すべての情報が削除できるわけではなく、一定の条件を満たす必要があります。削除ができる主なケースは以下の通りです。
名誉毀損にあたる場合
公開された情報が事実と異なり、あなたの社会的評価を不当に低下させる場合、名誉毀損に該当する可能性があります。名誉毀損にあたる情報は、裁判所への申し立てにより削除できる可能性があります。
ただし、単に不利益な情報であるというだけでは不十分で、虚偽の情報であること、または真実であっても公共の利害に関する事柄でなく、専ら私生活上の事実であることなど、一定の要件を満たす必要があります。
実際の報道記事などは、「●●の疑いで逮捕されました。」という記載ぶりになっており、犯罪を行っていないとしても、その疑いで逮捕された事自体は虚偽ではないというように、虚偽の情報ではないために名誉毀損ではないということがほとんどです。
プライバシー侵害にあたる場合
逮捕歴、犯罪歴、前科の情報は、個人のプライバシーに関わる非常にセンシティブな情報です。公開された情報が、あなたの私生活上の秘密を不当に暴露するものであり、社会通念上容認できないと判断される場合、プライバシー侵害にあたる可能性があります。
この場合、サイト運営者や検索エンジンに対して削除を要請することができます。特に、更生を妨げるような過去の犯罪歴の情報が、必要以上に詳細に公開されている場合は、プライバシー侵害にあたる可能性が高くなります。
過去の裁判例では、ある者が刑事事件につき被疑者とされたという事実は、みだりにこの事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益に該当するとされており(最高裁昭和56年4月14日判決)、前科等をみだりに公表されない利益はプライバシーに属するとされています(最高裁平成15年3月14日判決)。
したがって、実際には、逮捕歴、犯罪歴、前科の情報は、プライバシー侵害を理由に削除請求をすることが実務上ほとんどです。
「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有するのであつて、市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏えいしてはならないことはいうまでもないところである。」
最高裁昭和56年4月14日判決
「被上告人は,本件記事によって,乙が被上告人であると推知し得る読者に対し,被上告人が起訴事実に係る罪を犯した事件本人であること(以下「犯人情報」という。)及び経歴や交友関係等の詳細な情報(以下「履歴情報」という。)を公表されたことにより,名誉を毀損され,プライバシーを侵害されたと主張しているところ,本件記事に記載された犯人情報及び履歴情報は,いずれも被上告人の名誉を毀損する情報であり,また,他人にみだりに知られたくない被上告人のプライバシーに属する情報であるというべきである。」
最高裁平成15年3月14日判決
正確性に欠ける情報の場合
公開されている情報が、事実と異なっていたり、古い情報で現在の状況を正確に反映していない場合、削除できる可能性があります。 例えば、逮捕されたものの不起訴処分になったにも関わらず、逮捕された事実のみが掲載され続けている場合などが該当します。
また、過去の軽微な犯罪歴が、あたかも重大な犯罪を犯したかのように誇張して報道されている場合も、正確性に欠ける情報として削除対象となる可能性があります。
ケース | 概要 | 削除の可能性 |
---|---|---|
名誉毀損 | 事実と異なる情報で、社会的評価を不当に低下させる | 高(ただし虚偽の場合) |
プライバシー侵害 | 私生活上の秘密を不当に暴露し、社会通念上容認できない | 中~高 |
正確性に欠ける情報 | 事実と異なる、または古い情報で現在の状況を反映していない | 中 |
これらのケース以外にも、個々の状況に応じて削除できる可能性はあります。削除の可能性を高めるためには、弁護士などの専門家に相談し、適切な対応をとることが重要です。
削除依頼の方法
インターネット上から逮捕歴、犯罪歴、前科に関する情報を削除するには、いくつかの方法があります。状況に応じて適切な方法を選択することが重要です。
弁護士への相談
弁護士に相談することは、最も確実で効果的な方法です。弁護士は法律の専門家として、削除の可能性や具体的な手続き、法的根拠などをアドバイスしてくれます。また、サイト運営者や検索エンジンとの交渉も代理で行ってくれます。
特に、名誉毀損やプライバシー侵害にあたるケースでは、弁護士のサポートが不可欠です。費用はかかりますが、専門知識と経験に基づいた対応を受けられるため、削除の可能性を高めることができます。
サイト運営者への直接連絡
情報が掲載されているサイト運営者に直接連絡を取り、削除を依頼する方法もあります。連絡先は、多くの場合、ウェブサイトの「お問い合わせ」ページなどに記載されています。
依頼する際には、削除を求める具体的なURLや、削除理由を明確に伝えましょう。名誉毀損やプライバシー侵害にあたる場合は、その旨を伝え、法的措置も検討していることを示唆することも有効です。
ただし、必ずしも削除に応じてもらえるとは限りません。また、感情的な言葉遣いは避け、冷静かつ丁寧な対応を心がけましょう。
検索エンジンへの削除申請
GoogleやYahoo! JAPANといった検索エンジンへの削除申請も有効な手段の一つです。検索結果から情報を削除することで、情報の拡散を防ぐ効果が期待できます。
方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
弁護士への相談 | 専門家のアドバイスを受けられる、交渉を代理で行ってもらえる、削除の可能性が高まる | 費用がかかる |
サイト運営者への直接連絡 | 情報源を直接削除できる可能性がある | 必ずしも削除に応じてもらえるとは限らない、対応に手間がかかる |
検索エンジンへの削除申請 | 情報の拡散を防ぐ効果がある | 必ずしも削除されるとは限らない、情報源自体は削除されない |
どの方法を選択するかは、状況によって異なります。複数の方法を組み合わせることも有効です。
風評監視対策について
一度拡散された情報は完全に消すことが難しい場合や削除しても再度拡散されてしまう場合があります。
そのため、場合によっては長期的に監視し、早期に対策することも有効です。
風評監視は、ネガティブな情報や噂が広まらないよう、インターネット上でどのような情報が流れているかを常に把握し、必要な対策を取るためのプロセスです。
風評監視の目的
風評監視には以下のような目的があります。
- 早期発見と対応: ネガティブな情報や誤解が広まる前に、早期にそれを発見し、対策を講じることで被害を最小限に抑えることができます。特に逮捕歴や犯罪歴の情報が誤解や不正確な形で広まる場合、早急に対応することが重要です。
- 継続的なイメージ管理: 一度公開された情報は、時間が経過しても消えることなく残り続けることが多いため、継続的に監視し、社会的なイメージを管理することが必要です。
- 信頼回復のサポート: ネガティブな情報が広まった場合、風評監視を通じてその範囲や影響を把握し、適切な対策を講じることで、信頼回復を図ることができます。
風評監視の具体的な方法
風評監視は、インターネット上での情報の流れを把握するためにさまざまな手法を用います。特に逮捕歴や犯罪歴に関する情報が拡散している場合、以下の方法が効果的です。
検索エンジンでの定期的な検索
GoogleやYahoo!などの検索エンジンで、名前や関連するキーワードを定期的に検索することが、最も基本的な風評監視の方法です。これにより、逮捕歴や犯罪歴に関する情報がどのように表示されているか、また新たに公開された情報があるかどうかを確認できます。
- 検索キーワードの工夫: 本名やニックネームに加え、地名や事件名など関連するキーワードを組み合わせて検索することで、より詳細な情報を見つけることができます。
- Googleアラートの活用: Googleアラートを設定することで、名前や関連キーワードが新たにウェブ上に登場した際に、通知を受け取ることができます。これにより、タイムリーに情報をキャッチできます。
SNSや掲示板の監視
SNS(Twitter、Facebook、Instagramなど)や掲示板(5ちゃんねるやYahoo!掲示板など)は、ネガティブな情報が拡散しやすい場所です。これらのプラットフォーム上で自身に関する言及が行われていないかを定期的にチェックすることが重要です。
- ハッシュタグやメンションの追跡: 自身の名前や事件に関連するハッシュタグが使われていないか、またはメンションで言及されていないかを確認します。特にSNSでは、拡散が速いため注意が必要です。
- 特定キーワードの監視ツール: オンラインツールを使用して、特定のキーワード(自分の名前や事件名など)が言及されるたびにアラートを受け取ることができます。これにより、監視の手間を省くことができます。
自分で情報を監視するのは工数もかかる上に心理的負担も大きいことが予想されます。その場合は、専門家に依頼するのもおすすめです。
まとめ
インターネット上に公開された逮捕歴、犯罪歴、前科情報は、個人の社会復帰を阻む大きな障壁となる可能性があります。
本記事では、これらの情報の削除可能性、具体的な削除依頼の方法について解説しました。
前科情報は個人のプライバシーに関わるデリケートな問題であるため、慎重かつ適切な対応を心がけましょう。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。