食品、特に「機能性表示食品」「特定保健用食品」「サプリメント」「健康食品」と呼ばれる製品の広告を出す際には、一般的な企業広告よりも踏むべき規制のレイヤーが多いという特徴があります。景品表示法はもちろん、食品表示法、健康増進法、薬機法、そして業界の公正競争規約まで、複数の法令が同時に適用されるためです。
本記事では、機能性表示食品・健康食品の広告で押さえておくべき主要法令を一括して整理し、それぞれの規制と違反事例、社内チェック体制の作り方を実務視点で解説します。食品・健康食品・健康器具を扱う事業者の法務・マーケ担当者は、本記事の各セクションを社内チェックリストとしてご活用ください。
食品の保健・機能表示をめぐる法令体系
主要規制は4層構造
食品の広告規制は、概ね以下の4層で理解すると見通しが良くなります。

- 薬機法(医薬品・医療機器等法):医薬品と見なされる効能効果表示の禁止。食品に対して「○○に効く」「○○を治す」という表現をした時点で、「未承認医薬品」として規制対象となり得る。
- 食品表示法・機能性表示食品制度:届出をしない限り、機能性表示(「脳の健康を維持」「脳の健康をサポート」等)はできない。届出した場合も、届出範囲を超える表現は不可。
- 健康増進法健康増進法65条1項:誇大表示の禁止。食品の保健の効果・有効性に関して著しく事実に相違した表示、もしくは著しく人を誤認させるような表示を禁止。違反には勧告、命令、罰則の適用あり。
- 景品表示法:優良誤認表示・有利誤認表示の一般規制。不実証広告規制(7条2項)も適用されるため、効能・性能訴求は15日以内の根拠資料提出義務を伴う。
これらは一つの表現に対して同時に適用されるため、「薬機法はクリアしたが景表法で違反」「届出した表現だが他の規制でアウト」というケースが頻発します。
機能性表示食品制度の勘どころ
「届出したから安全」ではない
機能性表示食品制度は、消費者庁への届出により、事業者の責任において一定の機能性を表示できる制度です。届出をしたからといって、消費者庁に「承認」されたわけではない点が重要です。同時に、届出の範囲を超える表現は違反となります。
たとえば「脳の健康を維持」と届出している製品に、広告で「記憶力・集中力を取り戻す」「認知症予防」という表現を使えば、届出範囲を超えた不当表示となります。広告出稿前に、届出資料に記載された「機能性関係届出情報」の表現と一致しているかをチェックする社内フローの構築が必須です。
エビデンスの質と現在性
機能性表示食品の届出は、関係論文や自社臨床試験を根拠として行われます。そのエビデンスの質が不十分である、または届出後のさらなる研究で効果が否定されたというケースでは、措置命令・課徴金納付命令の対象となり得ます。直近では、2025年3月19日付けの機能性表示食品販売事業者に対する課徴金納付命令など、機能性表示食品に関する処分事例が複数公表されています。
健康増進法による誇大表示規制
健康増進法65条1項は、食品の保健の効果・有効性に関して、著しく事実に相違する表示、もしくは著しく人を誤認させるような表示をしてはならないと規定しています。違反には、勧告、命令、そして命令違反には罰則の適用があります。
実務で規制対象となりやすい表現は、「○○年取った体がスッキリ」「出るものが出る」「夜中起きなくなる」「歯周病に効果」「コレステロール値を下げる」といった、被験者データを伴わない効果訴求です。これらは一見して「よさそう」と思わせるだけで、その裏付けが不十分であれば健康増進法違反と認定される可能性があります。
薬機法との関係──「医薬品と見なされる表現」の禁止
薬機法は、未承認の医薬品、医療機器、再生医療等製品としての効能効果を見なし得る表示を禁止しています。つまり、医薬品としての承認を受けていない食品に対して、「○○を治す」「○○に効く」「○○を予防し、改善する」という表現を使うと、その食品が「未承認医薬品」として薬機法違反となり得るのです。
実務上重要なのは、「医薬品と見なされるかどうか」は、「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」という通知(いわゆる「46年通知」)の別紙「医薬品の範囲に関する基準」により詳細に示されている点です。この通知によれば、成分本質・効能効果訴求・形状・用法用量などを総合的に見て「医薬品」と認められるかを判断します。広告表現の一部だけではなく、商品製造当初からのコンセプト設計を含めて薬機法上の位置づけを考えることが必要となります。
景品表示法上の優良誤認との関係
上記の各規制をクリアしたとしても、景品表示法の優良誤認表示(5条1号)と不実証広告規制(7条2項)は独立して適用されます。効能・性能を訴求するあらゆる表現について、消費者庁から根拠資料の提出を求められたら、15日以内に提出しなければ違反と「みなされ」るため、広告出稿時点で「いま何を提出するか」を即答できる状態が必要です。
さらに、価格・効果の両者を訴求するケースでは有利誤認も併せて検討が必要です。
違反事例から学ぶ実務上の注意点

届出範囲を超える表現
届出時の「機能性関係届出情報」の文言と、広告で使う表現の一致性を厳密にチェック。動詞・修飾語のささいな違いでも「超えている」と判断されるケースがあります。
体験談・コメントとの組み合わせ
使用体験者のレビュー、医師・専門家の推薦コメント、ビフォアアフター画像など、製品本体の表示ではなくコンテンツ全体によって効能訴求が生じるケースも規制対象となります。コンテンツ全体として読んだときに誤認させないかをチェックしましょう。
SNS・インフルエンサー起用
インフルエンサーやアフィリエイターに依頼したSNS投稿・ブログ記事も、事業者の広告として表現全体が規制対象となります。依頼先に一任した表現も、事業者側に責任が帰します。インフルエンサーへの依頼書・PR表記のテンプレート提供・チェック体制を徹底しましょう。

社内チェック体制の作り方
複数規制を並走させるチェックシート
食品・健康食品の広告チェックでは、薬機法・食品表示法・健康増進法・景表法の4つの規制を並べたチェックシートを使用するのが効果的です。一つの表現をチェックする際に、この4つの列を順に見て、どれかでイエロー・レッドにならないかを検証していきます。
エビデンス資料の一元管理
効能訴求を含める表現ごとに、根拠となる論文・臨床データ・自社調査を一元管理します。担当者個人の手元だけにある状態は、不実証広告規制への対応が困難になるため、部門共有ストレージで「表現→根拠資料」の対応表を作り、出稿フローの中で使用します。
業界公正競争規約の活用
食品業界では、「アイスクリーム類」などのように、業種・カテゴリーごとに公正競争規約が存在します。これらは業界自主ルールでありながら、規約違反は極めて多くのケースで景表法違反とも評価されるため、実務上の重みは法令と同等です。自社製品に適用される公正競争規約を必ず社内で特定し、チェックシートに反映させましょう。

機能性表示食品の広告は「届出範囲」と「表現の射程」を二重に管理する
ここまで、機能性表示食品・健康食品の広告で押さえるべき4つの法令(薬機法・食品表示法・健康増進法・景表法)を見てきました。改めて強調したいのは、機能性表示食品の広告リスクコントロールは、「届出範囲」と「表現の射程」の二重の管理が不可欠だという点です。
届出資料の文言と広告表現の一致性を長期間保つためには、出稿フローの中に「届出資料との照合チェック」を明示的に組み込む必要があります。同時に、薬機法、健康増進法、景表法の各規制の「射程」を社内チェックシートに並走させて検証する体制を整えることで、複雑な多重規制を一元的にコントロールできます。
食品・健康食品の広告規制は、一般企業の広告規制と比べて複数法令の交錯が複雑で、グレーゾーンの判断も個別性が強い領域です。商品企画の段階から専門家を含めたレビュー体制を設計しておくことが、出稿後の修正不可能な事態を避けるための最も現実的な防御策となります。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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