合意書、覚書、契約書、それぞれの効力や違い、適切な使用場面とは?

企業法務全般

ビジネスの場でしばしば用いられる覚書合意書という書面について、契約書の違いや使い分けは、どの程度正しく認識されているでしょうか。

本記事を読まれている方は、契約の締結に関わるビジネスパーソンの方が多いと思いますが、契約書覚書合意書の3つの書面は必ずついてまわる存在といえるでしょう。事業所を借りるとき、人を雇うとき、取引の内容を変更するとき、取引を終了したいときなど、取引の相手方と書面のやり取りが必要な場面は多くありますね。その時に、どの書面が適切かを判断ができるようにすることが、スムーズな業務遂行には重要となります。

契約書について

契約とは

契約書の説明に入る前に、まず、「契約」とは何かについてお話しましょう。

契約とは、簡単に言えば、法的効力を持つ約束です。

民法には、契約について、当事者同士の意思表示が合致することで成立すると明記しています(522条1項)。つまり、単なる「これあげる」「これもらう」といった口約束であってもお互いの意思表示が合致していれば成立し、権利と義務が発生します。権利と義務とは、マンションの売買契約であれば、買い主には、「このマンションの1室について、支配権(これを「区分所有権」といいます。)を得る権利」+「代金を支払う義務」が発生し、売り主には、「マンションの1室の区分所有権を譲り渡す義務」と「代金を受け取る権利」が発生します。

第五百二十二条(契約の成立と方式)
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。

2 (略)

民法(明治二十九年法律第八十九号)522条

なお、民法には13種類の契約類型があらかじめ規定されています(売買、雇用、請負、委任など)が、ここに規定された契約類型以外の内容の契約を締結することも可能です(契約自由の原則)。もし、民法に規定された契約類型に該当する契約を締結した場合、原則として民法に規定された内容の契約が成立したものとみなされ、別途合意をすることで契約内容が民法の原則ルールから変わるということとなります。

例えば、先程のマンションの1室の例でいうと、売買契約に関する費用は、当事者双方が等しい割合で負担するのが原則とされています。

第五百五十八条(売買契約に関する費用)
売買契約に関する費用は、当事者双方が等しい割合で負担する。
(略)

民法(明治二十九年法律第八十九号)558条

したがって、例えば、売買契約書に添付する印紙代については、各自が等しい割合で負担するのが原則ですが、当事者間で別途合意することで、売主側の全額負担にしたり、買主側の全額負担にすることが可能です。

※ 印紙代については、下記をご参照ください。

参考:国税庁HP「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」

契約書とは

しかし、単なる口約束だけでは、不十分であるとお分かりかと思います。当事者が具体的な内容を忘れてしまったり、後から言った・言わないの水掛け論が生じてしまったりすることもあり、紛争となることが容易に想定されるからです。それを回避するために当事者の間で締結するのが、契約書です。

つまり、契約書とは、当事者間の契約内容について、その内容や成立を証明する目的で作成される文書をいうといえます。

では、契約書にはどのようなことを記載するのでしょうか。次の項目で説明します。

契約書のタイトル

まずは、契約書の最初に書かれるタイトルについて説明します。

タイトルは、その取引の実態に合ったものをつけるのが一般的です。「業務委託契約書」、「取引基本契約書」、「賃貸借契約書」などがよく見かける類型でしょう。タイトルは、絶対にこれにしなければならない、というような法律やルールはありません。

重要なのは、タイトルではなく、契約の中身ですので、タイトルが単に「契約書」というだけでも問題なく成立します。

したがって、基本的には当事者が自由に決めることができます。ただ、保管や管理の都合上、取引の実態に沿ったものが望ましいでしょう。特に、担当者が変わったり退職したあとも継続するような取引の場合、後任の人が分からないと困ります。また、そうしておくことで、契約の相手方や第三者(裁判所など)も、当該契約書にどのような内容が記載されているか予測しやすくなります。

なお、基本的には、契約書の内容や契約締結前後のやりとりの方がより重視されますが、ある契約書について、民法所定の契約類型に該当するか、その契約類型について定められた民法の規定が適用されるかを解釈する際、契約書のタイトルも解釈に斟酌されます。

契約書の内容

契約書は、相手方との約束の具体的な内容を記載するものですから、「誰と」「どのような内容」なのかを詳しく記載します。

前述のとおり、契約書の存在意義に紛争の防止機能があるため、契約書を作成することで契約内容を明らかにして、内容を曖昧、不明確にしないことが重要です。契約書に記載することで、内容について相手方と自分たちとの間に認識の齟齬がないかを確認することができます。

また、万が一紛争になってしまったとしても、証拠としても役立つのが契約書です。どちらにどのような権利と義務があるのかを明確に定めてあって、署名または押印がなされていれば、裁判でも十分な証拠となります

有効要件

契約の内容ですが、当事者全員が納得していれば何を書いてもいい、というわけではないことに注意が必要です。契約が有効となるためには、①社会的妥当性、②適法性、③特定性、④実現可能性、の4つが充足していることが要件となります。

①社会的妥当性

例えば、お金を払うから人を騙してほしい、愛人になってほしい、というような内容は認められません。前者は、契約内容が違法であることにより、後者は契約内容が公序良俗(民法90条)に反することにより、無効となります。つまり、合意内容が著しく社会的妥当性を欠くものではないことが必要です。

第九十条(公序良俗)

公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

民法(明治二十九年法律第八十九号)90条
②適法性

契約の内容は「強行規定(法律において、強制的に守ることが定められた規定)」や「取締規定(行政上の取締の観点から、違反に対し刑罰を課す規定)」に違反する場合には有効な効力を発生しないものとされています。

③確定性

契約内容が両当事者にとって客観的に確定できている必要があります。

例えば、何かいいことをする代わりにちょうどいいお礼をする契約、というのは、両当事者の権利義務の内容が特定されておらず、約束としては成り立っても契約としては有効なものではないということになります。

④実現可能性

契約内容が社会通念上、およそ実現不可能な場合には契約は有効に成立しません。

例えば、ある物品(先程のマンションの1室でもいいです。)についての売買を合意した際に、契約締結時点ですでにその物品が滅失していた場合(マンションが火事で燃えていた等の場合)などで、存在しない物品を売買する契約となっていた場合などは、この契約は契約自体が無効となります。

覚書について

覚書とは

契約書については、確認しました。では、覚書とは何でしょうか。

「●●に関する覚書」という書面もよく見かけるかと思います。結論から言いますと、覚書は、契約書の一種である場合もあれば、契約書(=当事者間の契約内容について、その内容や成立を証明する目的で作成される文書)とはいえない場合もある書面で、その法的性質は多義的です。

辞書で覚書を調べると次のように出てきます。

おぼえ‐がき【覚(え)書(き)】

1.忘れないように書き留めておくこと。また、その文書。メモ。備忘録。覚え。
2.(略)
3. 契約をする者同士が交わす、契約の補足や解釈などを記した文書。

したがって、覚書とは、契約書のように、当事者間の契約内容について、その内容や成立を証明する目的で作成される文書をいうこともあれば、契約の内容・成立についての証明以外の事実経過を確認する意味で用いられることもある文書一般をいうといえます。

覚書が使われる一般的な場面

覚書が、多く用いられる場面としては、契約や取引に関連して、覚書を締結するというものです。契約書の内容を一部変更したり(「契約変更覚書」)、締結済みの契約書の有効期間を延長したり(「契約延長覚書」)、契約書には明記されていなければ必要な情報を追記したり、その使用方法は幅広いといえます。

覚書は、契約書に関する、比較的簡易的な内容の合意に用いられることが多いです。また、相手方から、『契約書ほど仰々しいものではなく、もう少し簡単な形式のものがいい』というような要望を受けることがあり、その時に用いられます。契約書だと、少し堅苦しいというイメージをお持ちの方も一定数いらっしゃいます。

前述のとおり、「契約書」としての効力は、タイトルが何かに影響を受けないので、タイトルを「覚書」としても、効力には変わりなく、印象的な問題でしょう。タイトルを変えるだけで交渉がスムーズにいくのであれば、変えてしまうことも一案です。

覚書と契約書の使い分けについて

覚書と契約書の使い分けについては、こうしなければならないというものはありません。

ただ、一つの案としておすすめなのは、以下のルールです。

  1. 契約を締結する場面では「契約書」を使う。
  2. 「契約書」に基づく契約を更新・変更・終了させる場合などには「覚書」を使う。
  3. 契約以外の事実関係について書面に残しておく場合には「覚書」を使う。

厳密に言えば、上記2.の場面も、当事者間の権利義務を発生させる「契約」ではあるので、「変更契約」などとしても間違いではないです。

しかし、上記のように使い分けることで、旧契約と新契約とで2枚の契約書が発生することがなく、契約の数は契約書の数と一致する。その内容の変更などは契約書に紐づく覚書で管理する。という仕組みになるのでおすすめです。

合意書について

最後に、合意書について解説します。こちらも結論としては、覚書と同様の効力を持つ書面です。

合意書は、その名の通り、当事者が協議した結果について記載し、その内容について合意したことの証拠として残すものとなります。また、重要事項をまとめた文書の表題としても用いられることも多いです。

覚書との違いは、契約や取引自体ではない当事者間の合意に用いられることが多いです。

例えば、示談や和解などに用いられることがあります。これも、先ほどと同様に、「示談書」というタイトルよりは「合意書」の方が印象がよいから、とタイトルにすることもあります。

また、M&Aについて交渉を進める際に、独占交渉権の有無やM&Aの基本合意の内容などについて細かい条件を詰める前にあらかじめ合意する際にも基本合意書(「Letter of Intent」や「Memorandum of Understanding」という言い方をすることがあります。)という合意書を締結する場合が多いです。

合意書の内容で重要なのは、相手方が有利になってしまっていないかどうか、つまり、自分側が不利な内容となっていないかどうか、です。例えば、「当事者間に債権債務が一切ないことを確認する」というような文言が入っていると、締結後には相手方に何か求めることができなくなってしまいます。

締結が完了してしまうと、当然、記載されている内容に合意したものとみなされてしまうので、曖昧・不明確な表現は避け、誰が読んでも同じ解釈ができるようにすることが肝要です。事前に十分な検討を行った上で締結しましょう。

契約書・覚書・合意書それぞれの使い方について

契約書・覚書・合意書は、前述のとおり、契約書という言葉は厳密に契約成立の場合にしか使わないことが多い、覚書や合意書は契約成立以外の場面でも使うことがあり覚書は契約の変更や事実関係の確認の場面で使うことが多く、合意書は取引ではなく示談や和解の場面で使われることが多い、という傾向があります。

しかしながら、これらは傾向の問題でしかなく、厳密にどの書面かにより効力に違いがあるわけではないですし、書面のタイトルをどれにするかによって実質的な違いが生じるわけではありません

まとめ

以上の要点をまとめると、以下のとおりです。

  • 契約書は、当事者間の契約の内容や成立について証明するために締結する書面
  • 覚書は、法的には「契約書」に該当するものも含まれるが事実関係を確認するだけのものも含まれ、契約の変更や更新の場面ではよく使われる
  • 合意書も、覚書と同様のものであるが、取引そのものではない当事者間の合意がされた場合に使われることが多い。
  • それぞれは「呼び方」の問題に過ぎず、どのようなタイトルにするかによって効力は変わらない
  • ただ、わかりやすさの観点から、よりよい使い分け方というものは存在するし、何らかの社内ルールを持って使い分けるのが望ましい

最後になりますが、大事なことは、「契約書」、「覚書」、「合意書」のどのタイトルであろうとも、当事者間が確認した内容を明記させるものであるということです。それぞれ、使用する場面、相手方やその取引内容、合意内容で使い分けたり、社内で何らかのルールを整備することがいいでしょう。

重要な取引や合意について定める場合には、内容について注意深く検討する必要がありますので、自分たちだけではなく、弁護士などの専門家に書面作成を依頼することが確実といえます。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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