「バーチャル株主総会ってなんとなくはわかるけど、実際にはどんな種類があるの?」 「ハイブリッド型とバーチャルオンリー型って何が違うの?」 そんな疑問をお持ちのあなたへ。 この記事では、バーチャル株主総会の基礎知識から、ハイブリッド型とバーチャルオンリー型のメリット・デメリット、比較ポイントまでわかりやすく解説します。
この記事を読めば、それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、自社に最適なバーチャル株主総会の開催方法が見えてくるでしょう。
※本記事は、令和6年8月19日時点の情報に基づいて執筆されています。
バーチャル株主総会とは
バーチャル株主総会とは、インターネットなどの情報通信技術を利用してオンライン上で参加可能な方法で開催される株主総会のことです。
従来の物理的な会場に株主が集まる形式ではなく、オンライン上で議決権を行使したり、質問をしたりすることが可能になります。近年、新型コロナウイルスの影響もあり、企業のBCP(事業継続計画)対策としても注目されています。また、従来型の株主総会に比べて、株主は場所や時間に縛られずに参加できるため、より多くの株主の参加を促進できる可能性があります。さらに、会場費や印刷費などのコスト削減にもつながることが期待できます。
バーチャル株主総会については以下の法律記事でも詳しく解説しておりますので、ご参照ください。
従来の株主総会との違い
従来の株主総会は、決まった日時に、決まった会場に株主が物理的に集まって開催されていました。株主は、会場で議案の説明を受け、議決権を行使します。しかし、近年では、インターネットの普及により、場所や時間に縛られないバーチャル株主総会が注目されています。従来の株主総会とバーチャル株主総会との違いを以下の表にまとめます。
項目 | 従来の株主総会 | バーチャル株主総会 |
開催場所 | 決まった会場(リアル) | オンライン上(バーチャル) |
参加方法 | 会場への物理的な参加 | パソコンやスマートフォンなどを利用したオンライン参加 |
議決権の行使方法 | 会場での挙手、投票用紙への記入など | 専用システムを通じた電子投票など |
質問方法 | 会場での口頭質問 | チャット、メールなどを通じた質問 |
メリット | 株主との直接的なコミュニケーションが可能 | 時間や場所を選ばずに参加可能コスト削減参加率向上 |
デメリット | 会場までの移動時間や費用がかかる参加率が低い場合がある | インターネット環境やITリテラシーが必要株主との直接的なコミュニケーションが難しい場合がある |
出典:経済産業省「場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株主総会)に関する制度」
メリット・デメリット
メリット
株主の利便性向上
インターネット環境があれば、いつでもどこでも参加できるため、株主の利便性が向上します。特に、遠方に住んでいる株主や、仕事などで忙しい株主にとっては、従来の株主総会に比べて参加しやすいというメリットがあります。
コスト削減
会場費や印刷費、郵送費などのコストを削減できます。また、会場設営や受付などの業務を省力化できるため、企業側の負担軽減にもつながります。
参加率の向上
従来の株主総会に比べて参加しやすいことから、参加率の向上が見込めます。多くの株主に参加してもらうことで、企業の透明性やガバナンスの強化につながります。また、株主と企業とのエンゲージメントを高める効果も期待できます。
デメリット
インターネット環境やITリテラシーが必要
株主は、インターネット環境やITリテラシーがなければ参加できません。高齢の株主など、インターネットの利用に慣れていない株主にとっては、参加が難しい場合があります。企業側は、参加方法について丁寧な案内を行うなどの対策が必要となります。
株主とのコミュニケーション不足
従来の株主総会のように、直接顔を合わせてコミュニケーションをとることができません。質疑応答の時間が短縮されたり、株主の質問が十分に伝わらない可能性もあります。株主とのコミュニケーション不足を解消するために、チャット機能を活用したり、事前に質問を受け付けるなどの工夫が必要となります。
上記に加えて、オンラインのシステムを用いることから、システムの不具合やサイバー攻撃などによる情報漏えいのリスクがあります。そのためセキュリティ対策を徹底する必要があります。
どのくらい使われているのか
バーチャル株主総会の利用状況については、経済産業省の資料によると
- 後述のバーチャルハイブリッド型バーチャル株主総会について
- 2019年6月時点で5社
- 2020年6月時点で124社
- 2021年6月時点で323社
- 後述のバーチャルオンリー株主総会について
- 2022年6月時点で約20社
- 2023年6月時点で約50社
- 2024年3月時点で64社
において実施されているようで、まだまだ少ないですが、徐々に増えてきている状況のようです。
ハイブリッド型バーチャル株主総会
ハイブリッド型とは
ハイブリッド型バーチャル株主総会とは、従来型の会場へ物理的に集まって開催する株主総会と、インターネットなどのオンラインで開催するバーチャル株主総会の両方の要素を併せ持つ株主総会の形式です。この形式は、従来型の株主総会とバーチャル株主総会のメリットを組み合わせたものと言えます。
さらに、このハイブリッド型バーチャル株主総会には、オンライン参加の株主は、会社法上の株主総会への「出席」とは認めず、審議等の確認・傍聴のみ可能とする参加型のハイブリッド型バーチャル株主総会とオンライン参加の株主も会社法上の「出席」と認め、議決権行使、質問、動議も可能とする出席型のハイブリッド型バーチャル株主総会が存在します。
ハイブリッド型のメリット・デメリット
メリット
株主の利便性向上
ハイブリッド型バーチャル株主総会は、株主が自分の都合に合わせて参加方法を選べるため、利便性が向上します。会場に足を運ぶのが難しい遠方の株主や、時間の都合がつかない株主も、オンラインで参加することができます。
また、会場に足を運ぶ株主にとっても、事前にオンラインで資料を確認したり、質問を投稿したりすることができるため、スムーズな議決権行使が期待できます。総務省の調査によると、株主総会に出席しない理由として「会場が遠い」「日時が合わない」などが上位を占めており、ハイブリッド型はこれらの課題解決に繋がると考えられます。
株主参加率の向上
オンライン参加の選択肢が増えることで、従来は参加が難しかった株主も参加しやすくなり、結果として株主総会の参加率向上に繋がると期待されています。参加率の向上は、企業と株主間のエンゲージメントを高めることにも繋がります。
コスト削減
会場費や印刷費などのコスト削減にも繋がります。オンライン参加者を増やすことで、会場の規模を縮小したり、印刷物を減らすことができます。また、株主総会後の議事録作成などの事務作業を効率化できるという点もメリットとして挙げられます。
デメリット
システムの導入・運用コスト
ハイブリッド型バーチャル株主総会を開催するためには、オンライン配信や議決権行使のためのシステムを導入する必要があります。これらのシステム導入には、ある程度の費用がかかることが想定されます。また、システムの安定稼働のために、セキュリティ対策や運用体制の整備なども必要となります。
運用ノウハウ不足
ハイブリッド型バーチャル株主総会は、従来型の株主総会とは異なる運営ノウハウが必要となります。例えば、オンライン参加者からの質問をリアルタイムで会場に伝える方法や、オンライン参加者と会場参加者の間で質疑応答をスムーズに行う方法などを検討する必要があります。ノウハウ不足を補うためには、専門業者への委託も検討する必要があるでしょう。
株主とのコミュニケーション不足
オンライン参加が増えることで、株主と直接顔を合わせてコミュニケーションを取る機会が減ってしまう可能性があります。株主とのコミュニケーション不足は、企業に対する理解や信頼関係の構築を阻害する可能性もあるため、注意が必要です。
ハイブリッド型開催の事例
ハイブリット参加型バーチャル株主総会
日本郵政株式会社
「第19回定時株主総会につきましては、株主さまがご自宅等からでも株主総会の模様をご視聴いただけるよう、インターネットでライブ中継いたします。」
「以下の点について、あらかじめご了承ください。
引用:日本郵政株式会社「第19回定時株主総会招集ご通知」
・ライブ中継を通じての議決権行使及び質疑はできません。」
ハイブリット出席型バーチャル株主総会
サイボウズ株式会社
本総会におきましては、実際に株主総会の会場にお越しいただかなくとも、株主様一人ひとりが自己に適した場所からご質問や議決権行使ができるよう、インターネットを通じたご質問や議決権行使の機会を提供する「バーチャル出席」の方法を採用しております。 以下にご案内する方法によりバーチャル出席株主様は、会場出席と同様、株主総会に「出席」したものと取り扱われます。
本総会では、会場出席株主様とバーチャル出席株主様とのお取扱いの違いをできるだけ少なくするため、また議事の円滑化・効率化を図るため、会場出席株主様にもインターネットを通じたご質問及び議決権行使を行っていただきますが、バーチャル出席株主様におかれましては、動議のご提出ができない等、システム等の都合上、会場出席株主様と完全に同じお取扱いをさせていただくことが難しい点、ご了承ください。
引用:サイボウズ株式会社「第27回定時株主総会招集ご通知」
ハイブリッド型開催を検討する上でのポイント
- 自社の株主構成やニーズを分析し、最適な開催方法を検討する
- オンライン配信システムや議決権電子行使プラットフォームは、使いやすさやセキュリティ面などを考慮して選定する
- オンライン参加者と会場参加者の間で、質疑応答がスムーズに行えるような環境を整備する
- 株主総会開催のノウハウを持つ専門業者への委託も検討する
ハイブリッド型バーチャル株主総会は、従来型の株主総会とバーチャル株主総会のメリットを併せ持つ、新しい株主総会の形です。企業は、自社の状況やニーズに合わせて、ハイブリッド型開催を検討してみてはいかがでしょうか。
バーチャルオンリー型バーチャル株主総会
バーチャルオンリー型とは
バーチャルオンリー型バーチャル株主総会とは、その名の通り、物理的な会場を設けず、インターネットなどのオンライン上だけで開催される株主総会のことです。従来の株主総会のように、株主が会場に足を運ぶ必要がなく、パソコンやスマートフォンなどを使って、どこからでも参加することができます。近年、新型コロナウイルスの影響で注目が集まり、企業が会社法及び産業競争力強化法上の対応を行った上で、オンラインでの開催を選択するケースが増えています。
バーチャルオンリー型のメリット・デメリット
メリット
株主にとってのメリット
- 場所を選ばずに参加できるため、遠方地に住んでいる株主や、仕事などで忙しい株主でも参加しやすい。
- 会場までの移動時間やコストが削減できる。
- オンライン上での質問がしやすい場合がある。
会社にとってのメリット
- 会場費などのコストを削減できる。
- 株主総会運営の効率化を図ることができる。
- より多くの株主に参加を促せる可能性がある。
デメリット
株主にとってのデメリット
- インターネット環境やITリテラシーが必要になるため、高齢の株主などにとっては参加が難しい場合がある。
- 対面でのコミュニケーションができないため、会社側との一体感を感じにくい、質問がしづらいと感じる場合がある。
- システムトラブルが発生した場合、参加が困難になる可能性がある。
会社にとってのデメリット
- システム開発やセキュリティ対策などの費用がかかる。
- 株主とのコミュニケーション不足が生じる可能性がある。
- 株主総会特有の雰囲気や一体感を醸成することが難しい。
バーチャルオンリー型開催の事例
バーチャルオンリー型株主総会の事例としては、株式会社ユーグレナが2021年8月26日に日本初のバーチャルオンリー型臨時株主総会を開催しています。
参照:株式会社ユーグレナ「ユーグレナ社が日本初のバーチャルオンリー株主総会を実施 99.5%が「評価する」と回答」
バーチャルオンリー型株主総会を実施するための条件
バーチャルオンリー型の株主総会は、従来の会社法では、会社法298条1項1号が、株主総会招集にあたり「場所」を定めることを要求していることから認められていませんでした。
第二百九十八条(株主総会の招集の決定)
1 取締役(前条第四項の規定により株主が株主総会を招集する場合にあっては、当該株主。次項本文及び次条から第三百二条までにおいて同じ。)は、株主総会を招集する場合には、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 株主総会の日時及び場所
二 株主総会の目的である事項があるときは、当該事項
三 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
四 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、その旨
五 前各号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項2 (略)
会社法(平成17年7月26日号外法律第86号)
これに対して、2021年6月16日に施行された改正産業競争力強化法により、以下の要件を満たした会社に限って認められました。
- 上場会社であること
- 経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて、経済産業大臣と法務大臣の確認を受けること
- 定款で、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨を定めること
- 株主総会の招集決定時に省令要件を充足すること
したがって、これらの要件を満たさなければならないという事前手続の重さが注意点の一つとしてあります。
ハイブリッド型とバーチャルオンリー型の比較
開催方法
- ハイブリッド型
会場とオンラインの両方に対応した方式です。会場に来るのが難しい株主もオンラインで参加できます。会場では、議決権行使や質疑応答を専用の端末やシステムを使って行います。出席型の場合、オンラインでも同様に、専用のプラットフォームを通じて議決権行使や質疑応答に参加できます。 - バーチャルオンリー型
株主総会を完全にオンライン上で行う方式です。株主は、パソコンやスマートフォンを使って、いつでもどこからでも参加できます。議決権行使や質疑応答も、オンラインプラットフォームを通じて行います。
費用
- ハイブリッド型
会場費や会場設営費、印刷費など、従来の株主総会と同様の費用に加えて、オンライン配信やシステム利用の費用が発生します。 - バーチャルオンリー型
会場費や会場設営費、印刷費などは不要になりますが、オンライン配信やシステム利用の費用は同様に発生します。
一般的に、ハイブリッド型の方がバーチャルオンリー型よりも費用がかかります。これは、会場費や会場設営費などのコストがかかるためです。
株主の参加率
- ハイブリッド型
従来の株主総会と比べて、参加率が向上する傾向があります。これは、オンラインで参加できるため、会場まで足を運ぶのが難しい株主にとっても参加しやすいためです。 - バーチャルオンリー型
ハイブリッド型よりもさらに参加率が向上する傾向があります。これは、場所や時間に縛られずに参加できるためです。
株主とのコミュニケーション
- ハイブリッド型
会場では、株主と直接対話することができます。オンラインでも、チャット機能などを利用して、株主とコミュニケーションをとることができます。 - バーチャルオンリー型
オンラインでのコミュニケーションが中心となります。チャット機能やアンケート機能などを利用して、株主と双方向のコミュニケーションをとることができます。
項目 | ハイブリッド型 | バーチャルオンリー型 |
開催方法 | 会場とオンラインの両方で実施 | オンラインのみで実施 |
費用 | 会場費などが発生するため高額になる傾向 | 会場費などが発生しないため比較的安価 |
株主の参加率 | 従来型より向上、バーチャルオンリー型よりは低い傾向 | 最も参加率が高い傾向 |
株主とのコミュニケーション | 会場では直接対話、オンラインではチャットなどを活用 | オンラインでのコミュニケーションが中心 |
ハイブリッド型とバーチャルオンリー型は、それぞれにメリット・デメリットがあります。自社の状況やニーズに合わせて、最適な方法を選択することが重要です。
まとめ
この記事では、ハイブリッド型とバーチャルオンリー型のバーチャル株主総会について解説しました。それぞれにメリット・デメリットがあり、自社の状況に合わせて最適な方法を選択することが重要です。
近年、株主の利便性向上や、会場費などのコスト削減を目的として、バーチャル株主総会を導入する企業が増えています。特に、ハイブリッド型は従来の株主総会に慣れ親しんでいる株主も参加しやすく、柔軟性が高い開催方法として注目されています。今後、企業は、株主とのエンゲージメントを高めるため、バーチャル株主総会の更なる進化が期待されます。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。