インターネットの普及に伴い、様々な手続きがオンライン化する中で、株式会社における重要な手続きである株主総会についてもオンライン化する会社が、コロナ禍以降増えています。
オンライン上で開催される株主総会のことを一般にバーチャル株主総会というのですが、バーチャル株主総会にはどのような法的問題、導入にあたって検討することがあるのでしょうか。
そこで本記事では、バーチャル株主総会についてお伝えします。
バーチャル株主総会とは
バーチャル株主総会とは、株主がオンラインで参加することができる株主総会のことをいいます。
株式会社における最高意思決定機関である株主総会の開催を、インターネットを利用してオンラインで行うもので、株主の利便性の向上やコロナ禍の下では感染症対策として会社が利用することが増えています。
なお、バーチャル株主総会についての説明のために、従来通り株主・役員が出席をして行う株主総会のことを、リアル株主総会と呼ぶことがあります。
バーチャル株主総会の種類と違い
バーチャル株主総会には、2020年2月26日経済産業省で策定された、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」によると、次の種類に分類されます。
- ハイブリッド型バーチャル株主総会
- ハイブリッド参加型バーチャル株主総会
- ハイブリッド出席型バーチャル株主総会
- バーチャルオンリー株主総会
それぞれどのようなものか確認しましょう。
2-1.ハイブリッド型バーチャル株主総会
ハイブリッド型バーチャル株主総会とは、リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会が開催されている場所にいない株主が、株主総会にインターネット等の手段を用いて参加することが認められている株主総会です。
ハイブリッド複数の方式を組み合わせることを意味するもので、リアル株主総会とインターネットによる参加が認められるものが組み合わさっている状態です。
ハイブリッド型バーチャル株主総会は、インターネットによる参加の態様によってさらに2つに分けることができます。
ハイブリッド参加型バーチャル株主総会
ハイブリッド参加型バーチャル株主総会とは、「リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、株主総会へ の法律上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴すること ができる株主総会」をいいます。
引用:経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」
この方法はあくまで株主は株主総会の審議などをインターネットを通じて確認・傍聴できるにすぎず、株主総会に出席をするわけではないため、議決に参加できません。
ハイブリッド出席型バーチャル株主総会
ハイブリッド出席型バーチャル株主総会とは、「リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をすることができる株主総会」のことをいいます。
引用:経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」
この方法であれば、インターネットで参加している株主も出席したと扱われ、議決をすることができます。
バーチャルオンリー株主総会とは
バーチャルオンリー株主総会とは、「リアル株主総会を開催することなく、取締役や株主等が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をする株主総会」をいいます。
引用:経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」
この方法では、リアルの株主総会も開かずに、すべての株主がインターネットを通じて出席することになります。
バーチャル株主総会の種類
バーチャル株主総会の種類とそれぞれの特徴については、以下の法律記事でも詳しく解説しておりますので、ご参照ください。
バーチャル株主総会のメリット
バーチャル株主総会には、次のようなメリットがあります。
遠方に住んでいる株主であっても参加しやすい
バーチャル株主総会のメリットとして、遠方に住んでいる株主であっても参加しやすいというメリットが挙げられます。
株主総会は通常は本社・本社近くに会場を用意するなどで行うため、遠方に住んでいる場合には参加が難しいです。
バーチャル株主総会であればインターネットに接続できれば参加できるため、遠方に住んでいる場合でも株主総会に参加・出席ができます。
同日にいくつも株主総会が開催されても参加できる
バーチャル株主総会のメリットとして、同日にいくつも株主総会が開催されても参加できることが挙げられます。
我が国において3月末を決算期としている会社が多く、6月に株主総会が開かれる傾向にあります。
株式の投資家は複数の株式を保有することが多く、複数の株式を保有していると株主総会に参加したくても日時が重なってしまうことがあります。
バーチャル株主総会であれば、同日にいくつも株主総会が開催されても、参加ができます。
株主を重視する姿勢で投資家へのアピールができる
バーチャル株主総会のメリットとして、株主を重視する姿勢を投資家にアピールできることが挙げられます。
どのような方法でも、バーチャル株主総会によって参加する方法が多様化することになります。
このように投資家を重視する姿勢は、株式市場においては投資家へのアピール方法として有効です。
会社運営の透明性に寄与しコンプライアンスの強化につながる
バーチャル株主総会のメリットとして、会社運営の透明性に寄与することが挙げられます。
株主がオンラインでの参加が可能となれば、より会社に対する株主の監視も強いものとなります。
その結果、会社運営の透明性が促されることになり、コンプライアンスの強化につながります。
社会情勢的にリアルの参加が難しい場合でも参加できる
バーチャル株主総会のメリットとして、社会情勢的にリアルの参加が難しい場合でも、株主総会に参加が可能であることが挙げられます。
2019年12月に始まったコロナ禍では、不要不急の外出の自粛が要請され、株主総会の開催にあたっては感染症対策のために様々な対策を講じなければなりませんでした。
同じような全世界的な感染症が起きたような場合や、我が国特有の事情として地震や津波などの影響により、リアルの株主総会の開催が困難である場合が考えられます。
バーチャル株主総会であれば、社会情勢的にリアル株主総会の開催が難しい場合でも、株主総会を開くことができます。
バーチャル株主総会のデメリット
一方で、バーチャル株主総会には次のようなデメリットもあります。
設備の導入の負担がかかる
バーチャル株主総会のデメリットとして、設備への投資や制度の整備などに負担がかかることが挙げられます。
バーチャル株主総会の導入にあたっては、配信システムなどのインフラの整備が欠かせません。
安定したネットワークを構築し、サイバー攻撃などのセキュリティ対策を万全にすることはもちろん、出席型の場合には質疑応答や投票などのシステムを用意する必要があります。
スムーズに運営できるまでに時間がかかる
バーチャル株主総会のデメリットとして、スムーズに運営できるようになるまでに時間がかかることが挙げられます。
バーチャル株主総会を実施するにあたっては、慣れない配信のための作業などの運営のためのノウハウが必要です。
最初のころは、スムーズな運営ができず、ノウハウが出来上がるまで時間がかかることが考えられます。
バーチャル株主総会運営にあたっての法的・実務的注意点
バーチャル株主総会を運営するにあたって法的・実務的な注意点としては次のものが挙げられます。
株主の本人であることの確認
バーチャル株主総会に参加するのが株主本人であることの確認が問題となります。
株主総会において議決権を行使できるのは株主のみです。
バーチャル株主総会にオンラインで参加する人が株主本人であることを確認できるようにする必要があります。
経済産業省のハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイドによれば、「バーチャル出席株主の本人確認にあたっては、事前に株主に送付する議決権行使書面等に、株主毎に固有の ID とパスワード等を記載して送付し、株主がインターネット等の手段でログインする際に、当該IDとパスワード等を用いたログインを求める方法を採用するのが妥当と考えられる。」として一つの方法を示しています。
引用:経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」
そのほかにも2段階認証などの方法も検討すべきでしょう。
株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係
バーチャル株主総会に出席する株主については、株主総会当日の予定が流動的で、急に出席するなどの可能性が、リアル出席をする株主に比べて高いといえます。
そのため、事前の議決権行使をしていたものの、急なログインによって事前の議決権行使が取り消されてしまうと、その後に議決権行使をしない結果、無効票を作ってしまう可能性もあります。
当日の採決のタイミングで新たな議決権行使があった場合に限り、事前の議決権行使の効力を破棄するなど、リアル株主総会とは取り扱いを異にすることも考えましょう。
株主からの質問・動議の取扱い
株主からの質問・動議の取り扱いについてきちんとルール作り・周知をしておきましょう。
バーチャル株主総会では、気軽に株主総会に出席・参加できることから、株主からの質問・動議が増えることが予想されます。
質問・動議が乱発されると、株主総会のスムーズな運営に支障をきたすことになりかねません。
そのため、株主からの質問・動議について、例えば質問の文字数・長さを決めておく、オンライン出席をしている株主には動議の発動は認めないなどのルール作りをしておくようにしましょう。
株主総会当日の議決権行使のためのシステムは確実に
ハイブリッド出席型バーチャル株主総会では、出席する株主の議決権が確実に行える必要があります。
そのためのシステム構築を確実に行い、株主総会当日に混乱のないように行うようにしましょう。
招集通知の招集場所の記載方法
株主総会の招集にあたって、取締役は株主総会の開催場所を決定し、招集通知において通知しなければなりません(会社法299条1項)。
第二百九十九条(株主総会の招集の通知)
株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の二週間(前条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めたときを除き、公開会社でない株式会社にあっては、一週間(当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間))前までに、株主に対してその通知を発しなければならない。2 次に掲げる場合には、前項の通知は、書面でしなければならない。
一 前条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めた場合
二 株式会社が取締役会設置会社である場合3 取締役は、前項の書面による通知の発出に代えて、政令で定めるところにより、株主の承諾を得て、電磁的方法により通知を発することができる。この場合において、当該取締役は、同項の書面による通知を発したものとみなす。
4 前二項の通知には、前条第一項各号に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
会社法(平成十七年法律第八十六号)
バーチャル株主総会の場合には、会社法施行規則 72 条 3 項 1 号は、「当該場所に存しない(中略)株主が株主総会に出席をした場合における当該出席の方法を含む。」としています。
第七十二条(議事録) 法第三百十八条第一項の規定による株主総会の議事録の作成については、この条の定めるところによる。
2 株主総会の議事録は、書面又は電磁的記録をもって作成しなければならない。
3 株主総会の議事録は、次に掲げる事項を内容とするものでなければならない。
一 株主総会が開催された日時及び場所(当該場所に存しない取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。第四号において同じ。)、執行役、会計参与、監査役、会計監査人又は株主が株主総会に出席をした場合における当該出席の方法を含む。)
二 (略)(略)
会社法施行規則(平成十八年法務省令第十二号)
そのため、バーチャル株主総会出席のための、動画配信アドレスや議決権行使の方法などを明記することで招集場所の記載とすることが考えられます。
まとめ
本記事では、バーチャル株主総会についてお伝えしました。
株主総会に株主が出席しやすくなるための仕組みであるバーチャル株主総会ですが、その導入にあたっては配信設備などのインフラの問題とともに、法律面での問題もクリアにする必要があります。
このような先端技術を利用したものについては、未知の法律問題が発生する可能性があり、インターネット上の情報・書籍の内容では対応が困難なこともあります。
バーチャル株主総会の導入にあたっては、弁護士に相談しながら進めていくことをお勧めします。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。