フリーランス法の取引条件明示(3条通知)とは?雛形/書式と各項目の注意点・記載方法を解説

企業法務全般

本記事では、令和6年11月1日に施行されたフリーランス法における取引条件明示(3条通知)について、基本的な知識から具体的な書式や注意点まで、包括的に解説をします。

この法律が求める明示事項やその背景を詳しく解説することで、フリーランスとしての取引活動時に何を注意すべきか、逆に事業者がどのように準備すべきかを理解しましょう。特に3条通知がなぜ必要か、その違反がもたらす影響に関する結論を示し、実務における安心・安全な取引をサポートします。

  1. フリーランス法の取引条件明示(3条通知)の概要
    1. フリーランス法とは?
    2. 取引条件明示(3条通知)とは何か
    3. なぜ3条通知が必要なのか
  2. フリーランス法の取引条件明示(3条通知)の対象者
    1. クライアント(事業者):「業務委託事業者」
    2. フリーランス(受託者):「特定業務受託事業者」
    3. 取引条件明示(3条通知)の対象となる取引
  3. 取引条件明示(3条通知)の方法
    1. 契約書への記載
    2. 契約書以外での明示
    3. 取引条件明示方法のまとめ
  4. 取引条件明示(3条通知)が必要な事項
    1. 発注事業者・フリーランス(特定受託業務従事者)の名称
    2. 業務委託をした日
    3. 給付/役務の内容
    4. 給付を受領/役務提供を受ける日
    5. 給付を受領/役務提供を受ける場所
    6. (検査を⾏う場合)検査完了⽇
    7. 報酬の額
    8. 報酬の支払期日
    9. (現⾦以外の⽅法で⽀払う場合)報酬の⽀払⽅法に関する必要事項
    10. (再委託を行う場合)再委託に関する事項
  5. 取引条件明示(3条通知)の雛形/書式と記載例
    1. 契約書への記載の場合
    2. 独立した取引条件通知書の場合
  6. 取引条件明示(3条通知)に関するよくある質問
    1. 3条通知は口頭ではダメ?
    2. 施行日以前に契約成立した取引についても改めて取引条件明示(3条通知)が必要か?
    3. フリーランス法と下請法の両法の適用条件が満たされている場合はどのように通知すればよい?
  7. 取引条件明示(3条通知)違反の効果
    1. 法的措置とその内容
    2. 違反のリスク管理
  8. フリーランスが取引条件明示(3条通知)を受け取った際の注意点
    1. 内容をよく確認する
    2. 不明点は質問する
    3. 記録を残しておく
  9. まとめ

フリーランス法の取引条件明示(3条通知)の概要

フリーランス法とは?

フリーランス法は、フリーランスや個人事業主として働く人々を保護する重要な法律です。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。この法律の目的は、フリーランスと彼らに業務を委託するクライアントとの間で不当な取引が行われるのを防ぐことにあります。これは、フリーランサーが安心して働ける環境作りを支援するためのものです。

フリーランス法の内容について具体的な解説は、以下の法律記事で包括的に行っています。
フリーランスの全体像についてはこちらの記事をご参照下さい。

取引条件明示(3条通知)とは何か

取引条件明示、通称「3条通知」はフリーランス法に基づき、クライアントがフリーランスに対して明確に契約条件を提示するために必要とされるプロセスです。具体的には、契約の内容や報酬、支払期日などを文書またはデジタル形式で詳細に通知します。この手続きは、契約条件の透明性を確保し、フリーランスが安心して業務に従事できる環境づくりに寄与します。

例えば、契約書には業務の内容や予算、支払い期間などの具体的な項目が記載されます。これにより、契約条件に不明点がない状態で業務を開始できるため、後からのトラブルを回避できます。

第三条(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならない。
2 業務委託事業者は、前項の規定により同項に規定する事項を電磁的方法により明示した場合において、特定受託事業者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく、公正取引委員会規則で定めるところにより、これを交付しなければならない。ただし、特定受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合として公正取引委員会規則で定める場合は、この限りでない。

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)

なぜ3条通知が必要なのか

3条通知が必要なのは、フリーランスとクライアント間で透明で対等な関係を築くためです。この通知によって契約条件が不透明なままであるリスクが削減され、トラブルを未然に防ぎます。このプロセスを通じて、クライアントはフリーランスと信頼関係を構築でき、双方にとって透明性の高い取引が実現します。

契約条件が不明瞭であると、誤解や争いが起こりやすくなります。3条通知はそのような問題を避けるための手段として機能しており、この制度により双方が安心して契約を履行できる環境が整うのです。こうした取り組みは、フリーランス市場全体の信頼性を向上させ、業界の労働環境の改善にもつながっています。

フリーランス法の取引条件明示(3条通知)の対象者

フリーランス法の取引条件明示(3条通知)は、「業務委託事業者」から、「特定業務受託事業者」への「業務委託」で要求されます

それぞれの具体的な定義は以下のとおりです。

以下のとおり、取引条件明示(3条通知)は、事業者から特定業務受託事業者への業務委託全般に適用されるので、単発の取引や、フリーランスからフリーランスへの取引でも適用される点に注意が必要です。

クライアント(事業者):「業務委託事業者」

取引条件明示(3条通知)の対象となるクライアントは、フリーランスに対して業務を委託する事業者全般が該当します。事業者は、業種や規模を問わず、商業活動を行うすべての法人および個人事業主が含まれます。例えば、中小企業やフリーランス事業者も、特定業務受託事業者に業務を委託する場合には適用されます。

第二条(定義)
(略)
5 この法律において「業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者をいう。
(略)

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)

フリーランス(受託者):「特定業務受託事業者」

フリーランスとして3条通知が必要になるのは、「特定受託事業者」に対する業務委託です。

「特定受託事業者」とは、業務委託の受託をする事業者で以下のいずれかに該当する者をいうと定義されており(フリーランス法2条1項)、リモートワークやプロジェクトベースで契約するクリエイターや、ITエンジニアなどがこれに該当します。

  1. 個人であって、従業員を使用しない者
  2. 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役またはこれらに準ずる者をいう)がなく、かつ、従業員を使用しない者

第二条(定義)
1 この法律において「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 個人であって、従業員を使用しないもの
二 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。第六項第二号において同じ。)がなく、かつ、従業員を使用しないもの

(略)

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)

取引条件明示(3条通知)の対象となる取引

3条通知の対象取引は、以下のように特定の取引に限定されています。これにより、すべての取引が3条通知の適用を受けるわけではなく、特に注意が必要です。

業務委託の種類概要
物品の製造・加工に関する委託クライアントから指定される物品の製造や加工業務を行う場合。製造工程や製品仕様に関する条件が重要となります。
情報成果物の作成に関する委託ソフトウェアの開発やデジタルコンテンツの作成など。契約において成果物の具体的な内容が明示されている必要があります。
役務の提供(物品の修理を含む)サービスやサポートを提供する委託で、直接的な成果物がなくても、役務提供の日程や報酬について契約が明示されるべきです。

取引条件明示(3条通知)の方法

3条通知は、フリーランス法に基づき業務委託契約に明確な条件を記載し、発注者からフリーランスに通知されるものです。この通知には、契約書への記載と契約書以外での明示の2つの方法があります。

契約書への記載

契約書への記載は、最も理想的かつ一般的な3条通知の方法です。契約書に規定された内容は双方が同意の上で共有されるため、取引条件が明確化され、誤解や後々のトラブルを未然に防ぐことができます

契約書以外での明示

契約書以外での明示は、メールや書面などで特定の情報をフリーランスに伝達する手段です。特に、契約書には含めきれない詳細情報や進行中の業務の変更内容の通知に用いられます。次にその手段について解説します:

取引条件明示方法のまとめ

取引条件明示対象の事項について、あらかじめ契約書に盛り込んでいく方法と、契約書とは別に取引条件通知書のような書類を用意して、契約書とは別途明示を行う方法では、それぞれ以下のような特徴があります。

メリット・デメリットを相互的に検討し、どちらの方法で明示を行うか、自社にあった方法を検討しましょう。

契約書へ記載の方法の方が優れている点

  • 通知書面を受領したか否かについての争いがなくなる。
  • 書類の管理を1本化することができ、事務手続き上の手間や、契約書との矛盾・整合性について留意する必要がなくなる。

契約書へ記載以外の方法の方が優れている点

  • 契約書締結時点で、明示事項について確定している必要がない。
  • 契約書の記載ぶりの調整・交渉等によるカスタマイズの過程で、取引条件明示事項が漏れてしまうことを防ぐことができる。

このように、いずれの方法を選択しても、法的に有効な証拠として残すことが重要です。これによって、将来的な紛争の際に正当性を主張する際の有力な証拠となります。各方法にはそれぞれの長短がありますが、最も適した手法を選択し、常に記録を保管しておくことが望ましいです。

取引条件明示(3条通知)が必要な事項

取引条件の明示が必要な事項とその根拠は以下のとおりです。

区分明示が必要な取引条件根拠
発注内容①業務委託事業者及び特定受託事業者の名称施行規則第1条第1項1号
発注内容②業務委託をした日施行規則第1条第1項2号
発注内容③業務内容施行規則第1条第1項3号
納期等④給付・役務提供の期日施行規則第1条第1項4号
納期等⑤給付・役務提供の場所施行規則第1条第1項5号
報酬支払等⑥報酬の額及び支払期日施行規則第1条第1項6号
報酬支払等⑦検査完了日施行規則第1条第1項7号
報酬支払等⑧支払方法に関すること施行規則第1条第1項8号から10号
(再委託に関する事項)⑨再委託である旨施行規則第1条第2項、
施行規則第6条第1号
(再委託に関する事項)⑩元委託者の名称施行規則第1条第2項、
施行規則第6条第2号
(再委託に関する事項)⑪元委託業務対価の支払い期日施行規則第1条第2項、
施行規則第6条第3号

第三条(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容報酬の額支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならない。

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)

第一条(法第三条第一項の明示)
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「法」という。)第三条第一項に規定する明示(以下単に「明示」という。)をするときは、次に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供により、示さなければならない。

一 業務委託事業者及び特定受託事業者の商号、氏名若しくは名称又は事業者別に付された番号、記号その他の符号であって業務委託事業者及び特定受託事業者を識別できるもの
二 業務委託(法第二条第三項に規定する業務委託をいう。以下同じ。)をした日
三 特定受託事業者の給付(法第二条第三項第二号の業務委託の場合は、提供される役務。第六号において同じ。)の内容
四 特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日(期間を定めるものにあっては、当該期間)
五 特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所
六 特定受託事業者の給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日
七 報酬の額及び支払期日
八 報酬の全部又は一部の支払につき手形を交付する場合は、その手形の金額及び満期
九 報酬の全部又は一部の支払につき、業務委託事業者、特定受託事業者及び金融機関の間の約定に基づき、特定受託事業者が債権譲渡担保方式(特定受託事業者が、報酬の額に相当する報酬債権を担保として、金融機関から当該報酬の額に相当する金銭の貸付けを受ける方式)又はファクタリング方式(特定受託事業者が、報酬の額に相当する報酬債権を金融機関に譲渡することにより、当該金融機関から当該報酬の額に相当する金銭の支払を受ける方式)若しくは併存的債務引受方式(特定受託事業者が、報酬の額に相当する報酬債務を業務委託事業者と共に負った金融機関から、当該報酬の額に相当する金銭の支払を受ける方式)により金融機関から当該報酬の額に相当する金銭の貸付け又は支払を受けることができることとする場合は、次に掲げる事項

イ 当該金融機関の名称
ロ 当該金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとする額
ハ 当該報酬債権又は当該報酬債務の額に相当する金銭を当該金融機関に支払う期日

十 報酬の全部又は一部の支払につき、業務委託事業者及び特定受託事業者が電子記録債権(電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子記録債権をいう。以下同じ。)の発生記録(電子記録債権法第十五条に規定する発生記録をいう。)をし又は譲渡記録(電子記録債権法第十七条に規定する譲渡記録をいう。)をする場合は、次に掲げる事項

イ 当該電子記録債権の額
ロ 電子記録債権法第十六条第一項第二号に規定する当該電子記録債権の支払期日

十一 報酬の全部又は一部の支払につき、業務委託事業者が、資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第三十六条の二第一項に規定する第一種資金移動業を営む同法第二条第三項に規定する資金移動業者(以下単に「資金移動業者」という。)の第一種資金移動業に係る口座、同法第三十六条の二第二項に規定する第二種資金移動業を営む資金移動業者の第二種資金移動業に係る口座又は同条第三項に規定する第三種資金移動業を営む資金移動業者の第三種資金移動業に係る口座への資金移動を行う場合は、次に掲げる事項

イ 当該資金移動業者の名称
ロ 当該資金移動に係る額

(略)

公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則(令和六年公正取引委員会規則第三号)

発注事業者・フリーランス(特定受託業務従事者)の名称

すべての書面には、発注事業者とフリーランスの商号や名前など、それぞれを特定するために必要な事項が記載される必要があります。これにより、関係者全員が取引の透明性を確保することができます。

こちらは、当事者間でトラブルにならない程度に双方を特定できるものであれば足り、登記されている名称や戸籍上の氏名である必要はなく、当事者間で双方を特定できるものであれば、ハンドルネームやペンネームでもよいとされています(公正取引委員会Q&A|Q37)。

業務委託をした日

業務委託を行った具体的な日付として、「業務委託をすることについて合意した日」を明記する必要があります(公正取引委員会・厚生労働省|「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方 」)。この情報は契約が有効に成立していることを確認するために不可欠です。この項目は、あくまでも合意をした日であって、フリーランサーが業務に着手する日のことではないので注意が必要です(公正取引委員会Q&A|Q36)。

給付/役務の内容

業務が遂行された結果、フリーランサーから提供されるべき物品や情報成果物、役務の内容について、モノに応じて、品目、品種、数量、規格、及び仕様などを明確に記載することが要求されています(公正取引委員会・厚生労働省|「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方 」)。

また、成果物として知的財産権を委託者に譲渡・許諾させる場合には、その内容も明確に記載する必要があるものとされています(公正取引委員会・厚生労働省|「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方 」)。

業務内容の明確化が不十分だと、後々のトラブルを避けるための重要な基礎情報が提供されないことになります。

給付を受領/役務提供を受ける日

契約に基づく給付や役務提供が行われる具体的な期日や期間を特定して記載します。納期や検収日としての基準となり、これがないとスケジュールの遅延が発生する可能性があります。

給付を受領/役務提供を受ける場所

受領や役務提供が行われる場所を明確にします。アクセス可能な方法や物理的な場所だけでなく、オンラインの場合、電子メール送付先やデータ共有サービスの指定が含まれることもあります。

また、委託内容に給付を受領する場所等が明示されている場合や、給付を受領する場所等の特定が不可能な委託内容の場合には、場所の明示は要しないものとされています(公正取引委員会・厚生労働省|「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方 」)。

(検査を⾏う場合)検査完了⽇

給付内容に関する検査が必要な場合、その完了期日を含めます。この情報が提供されることで、契約の品質基準が満たされていることを確認できます。

報酬の額

契約に基づく報酬の具体的な金額を示します。報酬が依頼内容に見合ったものであるか、また知的財産権の譲渡などに関係する場合は追加の対価も含まれていることを確認します。

金額自体について

報酬の額として、具体的な金額を明示することが困難なやむを得ない事情がある場合には、具体的な金額の代わりに報酬の具体的な金額を定めることとなる算定方法を明示することも認められています(施行規則第1条第3項

)。

この場合、金額の算定方法は、報酬の額の算定根拠となる事項が確定すれば、具体的な金額が自動的に確定するものでなければならないものとされています。

また、算定方法の明示と3条通知が別のものである場合、これらの相互の関連性を明らかにしておく必要があるほか、報酬の具体的な金額を確定した後、速やかに特定受託事業者に当該金額を明示する必要があるものとされています(公正取引委員会・厚生労働省|「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方 」)。

第一条(法第三条第一項の明示)
(略)
3 第一項第七号の報酬の額について、具体的な金額の明示をすることが困難なやむを得ない事情がある場合には、報酬の具体的な金額を定めることとなる算定方法の明示をすることをもって足りる。
(略)

公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則(令和六年公正取引委員会規則第三号)

費用等について

フリーランサーが要する費用(交通費や材料費など)について、委託者側が負担する場合には、当該費用等の金額を含めた総額が把握できるように「報酬の額」を明示する必要があります。

ただし、3条通知の時点ではは費用等の発生の有無又はその金額が確定しておらず、「報酬の額」として具体的な金額を明示することができない場合には、金額確定後に速やかに協議をして決定し、改めて明示をすることを条件に、「ただし、諸費用の取扱いは、発注者・受注者間で別途協議の上、定める。」のような記載も許されています(公正取引委員会Q&A|Q38)。

消費税・地方消費税について

「報酬の額」の明示に当たっては、本体価格だけでなく、消費税・地方消費税の額も明示することが望ましいものとされています(公正取引委員会・厚生労働省|「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方 」)。

報酬の支払期日

報酬が支払われる期日を明記し、相手方もそれに関する認識を持っていることが重要です。報酬支払の遅延が発生するリスクが考えられる場合は、契約にて予防策を定めることが推奨されます。

なお、取引条件明示の問題とは別の問題として、この支払期日については、単なる業務委託事業者ではなく、特定業務委託事業者から特定受託事業社への業務委託の場合、給付の内容について検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から起算して60日以内(給付を受領した日を算入する。)のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定める義務があることには注意が必要です(フリーランス法第4条)

(現⾦以外の⽅法で⽀払う場合)報酬の⽀払⽅法に関する必要事項

手形や電子記録債権など、現金以外の方法で支払う場合、その方法に関して詳細を述べる必要があります。

(報酬の全部又は一部を手形で⽀払う場合)手形の金額及び満期

手形で支払う場合は、その金額と満期を正確に記載し、受領者が将来にわたって受取保障ができるようにします。

(報酬の全部又は一部を金融機関からの貸付等で支払う場合)当該金融機関に関する事項

金融機関からの貸付が絡む場合、その金融機関の名称、条件、および支払調整に必要な情報を示します。

(報酬の全部又は一部を電子記録債権とする場合)当該電子記録債権に関する事項

電子記録債権が使用される際は、その詳細(記録方法や支払条件)を明らかにします。

(報酬の全部又は一部を資金決済法条の資金移動業者への資金移動でする場合)当該資金移動に関する事項

資金移動業者を通じた支払では、業者の名称と支払いに関する情報を具体的に明示します。

(再委託を行う場合)再委託に関する事項

前述のように、取引条件明示とは別の問題として、単なる業務委託事業者ではなく、特定業務委託事業者から特定受託事業社への業務委託の場合、給付の内容について検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日から起算して60日以内(給付を受領した日を算入する。)のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定める義務があります。

ただ例外として、再委託として行われる取引の場合、以下の事項を取引条件明示(3条通知)の中に含めることで、報酬の支払期日を元委託業務の対価の支払を受ける日から起算して30日以内の期間とすることが可能です。

再委託である旨

これは再委託であることを明確に示すことで、契約当事者間の認識の不一致を避けるためです。

元委託者の名称

発注事業者・フリーランス(特定受託業務従事者)の名称と考え方は同一です。元々の委託者の名称や識別情報を提供し、契約の背景の理解を深めることが重要です。

元委託業務の対価の支払期日

元委託業務に関連した支払期日を記載することで、連鎖する契約義務の遂行が確保されます。この情報は非常に重要であり、全関係者の業務遂行能力に影響を与える可能性があります。

取引条件明示(3条通知)の雛形/書式と記載例

フリーランス法における3条通知は、発注事業者がフリーランスに対して契約内容を明示するための重要な手続であり、透明性の高い業務関係を構築する助けとなります。ここでは、その雛形や書式について詳しく解説します。

契約書への記載の場合

フリーランス法の取引条件明示(3条通知)の内容が含まれた契約書の例は、フリーランスガイドラインに雛形の例が設けられています。

以下の書式を参考にしましょう

厚生労働省|フリーランスガイドライン|<別添1>本ガイドラインに基づく契約書のひな型及び使用例について

独立した取引条件通知書の場合

契約書とは別にフリーランス法の取引条件明示(3条通知)を満たすための「取引条件通知書」を交付する場合、以下のような書式を用いるのが適切です。

こちらを参考に、実際の取引条件に応じてカスタマイズをしましょう。

取引条件明示(3条通知)に関するよくある質問

3条通知は口頭ではダメ?

契約締結自体は口頭でも可能ですが、フリーランス法に基づく3条通知は、必ず書面または電磁的方法で明示する必要があります。これは、取引の透明性と信頼性を確保するための重要なプロセスです。口頭のみでの通知は法律に反し、後で発生する可能性のあるトラブルや誤解を回避できません。確実な証拠を残し、双方の理解を一致させるためにも、契約内容を詳細に記した書類を作成することが求められます。

施行日以前に契約成立した取引についても改めて取引条件明示(3条通知)が必要か?

フリーランス法は、施行日以降に行われた業務委託を適用対象としているため、業務委託契約の成立がフリーランス法施行日以前である場合には、施行日以後も業務が継続している場合でも取引条件明示(3条通知)は不要です。

ただ、自動更新を含む契約の更新がされた場合には、新たな業務委託が成立したものと考えられることとなるので注意が必要です(公正取引委員会Q&A|Q33)。

フリーランス法と下請法の両法の適用条件が満たされている場合はどのように通知すればよい?

フリーランス法と下請法が両法適用される場合、下請法の3条書面とフリーランス法の3条通知を一回の書面交付で兼ねることは認められています(公正取引委員会Q&A|Q32)。

ただ、フリーランス法の3条通知と下請法の3条書面とでは、記載を要する事項、交付方法に違いがある点は注意が必要です(公正取引委員会Q&A|Q35)。

取引条件明示(3条通知)違反の効果

フリーランス法の取引条件明示に違反した場合、法的措置が取られる可能性があります。特に取引条件が適切に通知されなかったり、不正確であると判断された場合、関係者は厳しいペナルティを受けることがあります。このような措置は、フリーランスとクライアント間の取引の透明性を確保するために非常に重要です。

法的措置とその内容

法的措置として、以下のような対応が考えられます:

法的措置内容
勧告フリーランス法に基づいた違反を是正するための勧告が行われます。この勧告が出された場合、迅速に改善することが求められます。改善が見られない場合、さらに厳しい措置が取られる可能性があります。
命令勧告に従わない場合には、法的な強制力を持つ命令が発出されます。この命令に従わないことは、法令違反として非常に重く見られ、さらなる法的手続きが開始されることがあります。
罰金命令が無視された場合、企業だけでなく個人にも罰金が科される可能性があります。特に個人に対しては、最大50万円の罰金が科され得る深刻な措置です。この罰金は、法令遵守の重要性を強調しています。
企業名公表違反が重大と判断された場合、企業名が公表される場合があります。公表は、社会的信用を失う結果となり、企業に対する信頼が大きく損なわれます。

違反のリスク管理

フリーランス業者及びクライアント双方にとって、自らの契約が適法であるかどうか確認することが重要です。適正な契約書の整備、法令遵守の体制作りにより、違反によるリスクを最小化できます。

また、特にフリーランスの方々は、契約内容が明示されているか注意深く確認しましょう。受け取った契約条件の記録を残し、不明な点があれば必ず質問し解決しておくことが、法的トラブルの予防につながります。

フリーランスが取引条件明示(3条通知)を受け取った際の注意点

フリーランスとして取引条件明示(3条通知)を受け取った際には、もっぱら確認とコミュニケーションのスキルを活用して、効果的に情報を整理し、保護することが重要です。以下はその際に考慮すべき主な注意点です。

内容をよく確認する

まず、受け取った取引条件明示書面のすべての内容を細かく確認することが不可欠です。これには、報酬金額や支払期日、業務内容、契約開始日と終了日が含まれます。これらの項目が予め合意された条件と一致しているかを詳しく確認し、不備があれば速やかに指摘することが求められます。特に報酬の支払方法や期日はフリーランスのキャッシュフローに直接影響を及ぼすため、十分に確認する必要があります。

不明点は質問する

もし、取引条件の内容に疑問や不明な点がある場合、ためらわずに依頼主に具体的な質問を行うことが推奨されます。不明瞭な点をそのままにしておくことは、後々のトラブルの原因になりうるため、事前に解決しておくことが重要です。より具体的な対話を通じて、内容のクリアな理解が得られるよう努めるべきです。

記録を残しておく

受け取った通知や、取引の連絡記録は詳細に保存しておくことが賢明です。重要なメールやファイルはバックアップを取り、契約が終了した後も一定期間保管しておくことで、後々の紛争防止や保険として役立ちます。具体的には、保存方法としてクラウドストレージを活用することをおすすめします。これにより、データの紛失リスクを大幅に削減できます。

上記の手順に従うことで、フリーランスとしての業務をスムーズに進め、適切な契約管理を実現することが可能になります。取引条件明示はただの書類ではなく、依頼主との大切なコミュニケーションツールですので、適切に扱うことが望ましいです。これにより、契約の透明性が増し、安心して業務に集中できる環境が整います。

まとめ

フリーランス法の取引条件明示(3条通知)は、フリーランスとクライアント双方にとって重要な制度です。この通知があることで、業務内容や報酬に関する誤解を未然に防ぎ、契約が円滑に進むことが期待されます。

取引条件は書面で明示することが求められ、口頭のみでの通知は認められません。条件を明示しない場合や違反した場合には法律上のペナルティが設けられているため、両者ともに慎重に対応する必要があります。

フリーランスは通知を受け取った際には、内容をしっかり確認し、不明点があれば即座にクライアントに質問をすることが重要です。また、条件内容を記録として残しておくことで、万が一のトラブルにも備えることができます。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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