インフルエンサーとして活躍の場を広げる中で、事務所に所属せず、自身でマネジメントを行うことを検討している方もいるのではないでしょうか。自由度が高く、収益を最大化できる一方、法的リスクへの理解と対策が不可欠です。
もし法的リスクを軽視すると、思わぬトラブルに巻き込まれ、活動に支障をきたす可能性も。
本記事では、インフルエンサーが自身でマネジメントする際のメリット・デメリットを踏まえ、契約、発信内容、税務など、様々な法的リスクを具体例を交えて解説します。
無所属インフルエンサーがセルフマネジメントするメリット・デメリット
インフルエンサーとして活動していく上で、事務所に所属するか、自身でマネジメントするかという大きな選択を迫られます。どちらにもメリット・デメリットが存在し、自身のキャリアプランや活動スタイルによって最適な選択は異なります。
どちらを選ぶべきか、しっかりと検討するために、それぞれのメリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。
メリット
自身でマネジメントを行う最大のメリットは、自由度の高さです。自分の好きなように活動内容や方向性を決め、ペース配分も自身でコントロールできます。
- 収益の最大化:事務所に所属する場合、収益の一部を手数料として支払う必要がありますが、自身でマネジメントすれば、収益の全てを受け取ることができます。
- 柔軟な活動:事務所の意向に縛られることなく、自分の好きな案件やコラボレーションを選択できます。また、活動時間や場所も自由に設定できます。
- 自己成長の促進:マネジメント業務を自身で行うことで、ビジネススキルや交渉力、自己ブランディング能力など、様々なスキルを身につけることができます。
- ダイレクトなファンとの繋がり:事務所を介さずにファンと直接コミュニケーションをとることで、より深い関係性を築き、コミュニティ形成を促進できます。例えば、YouTubeのメンバーシップ機能や、Instagramのライブ配信などを活用することで、より密なファンとの交流が可能です。
デメリット
自身でマネジメントを行う場合、自由度が高い反面、多くの業務を自身でこなさなければならないというデメリットも存在します。また、専門知識の不足からトラブルに巻き込まれるリスクも高まります。
- 時間的制約:コンテンツ制作だけでなく、営業活動、契約交渉、経理処理、法務対応など、多くの業務を自身で行う必要があるため、時間的な負担が大きくなります。
- 専門知識の不足:契約、法律、税務など、専門的な知識が必要となる場面が多く、適切な対応ができない場合、トラブルに発展する可能性があります。
- 交渉力の不足:企業との交渉において、自身で適切な条件を提示・交渉することが難しく、不利な契約を結んでしまう可能性があります。
- トラブル対応の負担:炎上や誹謗中傷など、予期せぬトラブルが発生した場合、自身で対応しなければならず、大きな精神的負担がかかります。
項目 | 事務所所属 | セルフマネジメント |
---|---|---|
収益配分 | 事務所と配分 | 全額自身のもの |
活動の自由度 | 制限あり | 高い |
時間的負担 | 少ない | 多い |
トラブル対応 | 事務所がサポート | 自身で対応 |
このように、自身でマネジメントすることにはメリットとデメリットの両方が存在します。自身の状況や性格、将来の展望などを考慮し、どちらが自分に合っているのかを慎重に判断することが重要です。
無所属インフルエンサーがセルフマネジメントする場合の法的リスク
インフルエンサーが個人で活動する場合、様々な法的リスクに直面する可能性があります。企業との契約、発信内容、税務など、多岐にわたるリスクを理解し、適切な対策を講じる必要があります。
契約に関するリスク
インフルエンサー活動においては、企業とのタイアップ契約をはじめ、様々な契約を締結する機会があります。自身でマネジメントする場合、契約内容を理解し、適切な対応をすることが重要です。契約に関するリスクとして、以下のようなものがあります。
企業とのタイアップ契約における注意点
企業とのタイアップ契約では、報酬額、契約期間、活動内容、成果物、権利関係、違約金など、様々な項目が規定されます。契約内容を十分に理解しないまま契約を締結すると、予期せぬトラブルに発展する可能性があります。
例えば、契約内容に不明瞭な点があった場合、後々トラブルに発展する可能性があります。
肖像権・著作権に関するトラブル
インフルエンサーが企業やブランドと契約を結ぶ際、肖像権や著作権に関するトラブルは、契約に関連した重要な法的リスクの一つです。これらのトラブルは、契約内容の不備や曖昧さ、あるいはインフルエンサーと企業間の認識の違いから発生することがあります。
肖像権は、インフルエンサー自身の顔や身体などの画像や映像が使用される際に関わる権利です。
企業との契約において、インフルエンサーの肖像がどのように利用されるかが明確でない場合、企業が契約期間後もインフルエンサーの画像や動画を無断で使用し続ける、インフルエンサーの承諾なしに他のメディアや国際的なマーケティング活動で肖像が利用される等のリスクがあります。
インフルエンサーが制作するコンテンツ(動画、写真、ブログ記事、ソーシャルメディア投稿など)は、著作物として著作権に保護されます。
契約で著作権に関する取り決めが不明確な場合、企業によるインフルエンサーが作成したコンテンツの無断使用、権利の帰属に関する争い等のリスクがあります。
また、インフルエンサーが企業に提供したコンテンツを別のブランドやプロジェクトで使用したことでトラブルになる場合もあります。
発信内容に関するリスク
インフルエンサーは、SNSなどを通じて情報発信を行う際に、様々な法的リスクに注意する必要があります。発信内容によっては、法令違反となる可能性があるため、注意が必要です。
景品表示法違反
商品やサービスの宣伝を行う際に、事実と異なる情報を発信したり、過大な表現を用いたりすると、景品表示法違反となる可能性があります。 優良誤認表示や有利誤認表示に該当しないよう、事実を正確に伝える必要があります。たとえば、「痩せる効果が確実にある」といった断定的な表現は避けるべきです。
有利誤認表示については以下の記事で詳しく説明しています。
薬機法違反
医薬品や医薬部外品の効果・効能を謳う表現は、薬機法で厳しく規制されています。 「〇〇で病気が治った」といった体験談や、特定の成分の効果効能を謳う表現は、薬機法違反となる可能性があります。健康食品やサプリメントについても、効果効能を謳う表現には注意が必要です。
名誉毀損
特定の個人や団体を誹謗中傷するような内容を発信した場合、名誉毀損に該当する可能性があります。 事実の有無に関わらず、他人の社会的評価を低下させるような発信は避けるべきです。また、プライベートな情報の暴露なども名誉毀損に該当する可能性があります。
誹謗中傷への対応
インフルエンサー自身も、誹謗中傷の被害者となる可能性があります。 誹謗中傷を受けた場合は、発信者情報開示請求を行い、法的措置を検討することも可能です。また、プラットフォーム事業者への通報や削除依頼なども有効な手段となります。
税務に関するリスク
インフルエンサー活動で得た収入は、事業所得または雑所得に該当し、確定申告が必要となる場合があります。適切な税務処理を行わないと、追徴課税や延滞税などのペナルティが課される可能性があります。
確定申告の必要性
インフルエンサー活動で得た収入が一定額を超える場合、確定申告が必要となります。 確定申告の手続きを怠ると、ペナルティが課される可能性があります。収入の種類や金額に応じて、適切な申告方法を選択する必要があります。
経費計上に関する注意点
インフルエンサー活動に関連する経費は、適切に計上することで税負担を軽減することができます。 ただし、経費として認められる範囲は限定されているため、注意が必要です。
例えば、衣装代や美容代、撮影機材の購入費、事務所の家賃などは経費として計上できる場合があります。領収書などの証拠書類を保管し、適切な会計処理を行うことが重要です。
無所属インフルエンサーが法的リスクを回避するための対策
インフルエンサーとして活動する上で、法的リスクを回避するための対策は不可欠です。自身を守るためにも、そしてフォロワーからの信頼を維持するためにも、以下の点に注意しましょう。
契約書は必ず確認し、不明点は専門家に相談
企業とのコラボレーションやタイアップ案件は、契約書を必ず確認しましょう。契約内容に不明点や疑問点がある場合は、安易にサインせず、必ず弁護士などの法律専門家に相談することが重要です。口約束だけで契約を済ませることは絶対に避けましょう。契約書は、将来的なトラブルを未然に防ぐための重要なツールです。
契約内容を理解しないままサインすることは、後々大きな損失を招く可能性があります。
特に、報酬額、支払い方法、権利の帰属、違約金、契約期間、競業避止義務、秘密保持義務などの項目は注意深く確認しましょう。また、契約内容に変更が生じた場合は、必ず書面で修正契約を締結するようにしてください。
発信内容に責任を持ち、法的知識を身につける
インフルエンサーとして発信する情報は、不特定多数のフォロワーに影響を与える可能性があります。そのため、発信内容には常に責任を持ち、正確な情報を提供するように努めましょう。根拠のない情報や不確かな噂を拡散することは、名誉毀損や業務妨害などの法的リスクにつながる可能性があります。
景品表示法、薬機法などの法律を理解する
商品やサービスの宣伝を行う際には、景品表示法や薬機法などの関連法規を遵守する必要があります。誇大な表現や虚偽の広告は、法的責任を問われる可能性があります。
また、健康食品や化粧品に関する発信は、薬機法に抵触する可能性があるため、特に注意が必要です。効果効能を謳ったり、医薬品的な効果を暗示する表現は避けましょう。
広告規制については以下の記事をご確認ください。
誹謗中傷への適切な対応
インターネット上では、誹謗中傷を受けるリスクも存在します。誹謗中傷を受けた場合は、感情的に反応するのではなく、冷静に対処することが重要です。スクリーンショットなどで証拠を保存し、必要に応じて弁護士に相談しましょう。
誹謗中傷に対応したい場合は以下の記事も参考にしてください。
また、自身も誹謗中傷の加害者にならないよう、他者に対する発言には十分に注意する必要があります。
適切な会計処理を行い、税務リスクを最小限にする
インフルエンサー活動で得た収入は、適切な会計処理を行い、確定申告を行う必要があります。収入や経費の記録を適切に行わないと、税務調査で追徴課税を受ける可能性があります。
項目 | 内容 |
---|---|
収入の把握 | 企業からの広告収入、アフィリエイト収入、投げ銭など、すべての収入を正確に記録しましょう。 |
経費の計上 | 活動に関連する経費(機材購入費、交通費、通信費など)は、領収書を保管し、適切に経費計上しましょう。 |
確定申告 | 毎年、確定申告を行い、所得税を納付しましょう。必要に応じて、税理士に相談することをお勧めします。 |
顧問弁護士・税理士への相談
法的リスクや税務リスクを最小限にするためには、顧問弁護士や税理士に相談することをお勧めします。専門家のアドバイスを受けることで、トラブルを未然に防ぎ、安心して活動することができます。
特に、契約書の作成やレビュー、税務申告、トラブル発生時の対応など、専門家のサポートは非常に有効です。
まとめ
インフルエンサーとして活動する上で、事務所に所属せず自身でマネジメントを行うことは、自由度が高い反面、様々な法的リスクを伴います。
契約、発信内容、税務など、多岐にわたるリスクへの理解と対策が不可欠です。自身でマネジメントする場合は、法的リスクへの意識を高く持ち、継続的な学習と専門家への相談を怠らないようにしましょう。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。