広告制作を制作会社に業務委託する場合のポイントは?注意点や罰則などを解説

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自社の知名度向上や、販売促進、顧客獲得のための広告制作を制作会社に業務委託する場合があります。円滑な契約締結のためには、様々な重要項目を確認し、双方で合意しておくことが必要です。

少しの見落としで、トラブルに繋がる可能性があります。また、契約違反をすると、法的責任を問われる可能性がありますし、契約内容によっては罰則や罰金の対象になる場合もあります。

このページでは、広告制作について制作会社と業務委託契約をする際の注意点についてお伝えします。

広告の制作を制作会社に任せる場合「業務委託契約」を締結

業務委託契約とは

業務委託契約は、企業や個人が特定の事務や業務を他者に任せるための契約です。

この契約は、委託者と受託者がお互い対等な立場で締結され、指揮命令権限がないため、柔軟に業務を進めることができます。

例えば、企業が特定のプロジェクトを専門家に依頼する場合、その専門家が受託者となり、自分のペースで業務を進めることが可能です。

なお、業務委託契約は、必要な範囲の業務だけを依頼することもできます。

業務委託契約の種類

業務委託契約の種類は、一般に、請負契約」「委任契約」の2つに分かれます。

このうち「委任契約」は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託することをいい(民法643条)、本来的には法律行為を受託業務とする場合に使う用語なので、法律行為以外を委任の形式で業務委託する場合には、「準委任契約ということもあります(民法656条)。

請負契約企業が自社以外の人材に業務を依頼し、その成果に対して報酬を支払う契約
委任契約業務の遂行自体を目的とし、法律行為を伴う契約
準委任契約法律行為を伴わない業務を行う場合の契約

第六百三十二条(請負) 
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

第六百四十三条(委任) 
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

第六百五十六条(準委任) 
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

民法(明治二十九年法律第八十九号)

業務委託契約を結ぶ際、上記の区別が難しいことも多くあります。
業務内容によっては、どの契約に該当するかが曖昧になることがあるからです。
業務の内容や目的に応じて、どの契約形態が適しているかを双方で確認し判断しましょう。

広告制作の業務委託契約書に記載しておきたい12項目

委託業務の内容

「委託業務の内容」は、受託者に委託する業務内容を具体化するための項目です。
広告制作においてどこからどこまでを任せるのか範囲をはっきりさせておく必要があります。

例えば、以下のような業務が挙げられます。

  • 広告キャンペーンの企画立案
  • デザイン制作
  • コピーライティング
  • 納品
  • 修正対応

具体的な業務内容とどこまでを頼みたいのかの範囲を詳細に記載しましょう。

双方が業務の範囲を理解していることが重要です。これにより、ここまでの内容は行わなければ十分に業務を遂行したとは言えないこと、それ以外の部分については業務の範囲外であることが明確になり、「ここまでやってくれると思っていた」「ここまでやらなければいけないと思っていなかった」というようなトラブルを未然に防ぎ、スムーズな業務遂行を実現できます。

委託料

委託料は、特定の業務や作業を他の個人や会社に依頼する際に支払う報酬です。
業務に対する対価であり、提供する労働や専門知識の価値を正当に評価するものです。
また、双方の合意を明確にすることで、円滑な業務遂行とトラブルを防止できます。

例えば、以下の内容は必ず記載するようにしましょう。

  • 税抜金額
  • 税込金額
  • 単価
  • 数量
  • 源泉徴収税

契約に応じた必要項目を必ず含み、契約後にトラブルが起きないよう細心の注意を払いましょう。

支払い時期・支払い方法など

委託料の決定後、「支払条件」「支払時期」「支払方法」も明確に記載します。
報酬支払いのトラブルを防ぎ、双方の合意を確実にしておくためです。

例えば、以下のように詳細を明記しておきましょう。

支払条件委託者は、受託者の納品物を検収し、合格の場合に委託料を支払う
支払い時期報酬の支払日は、最終納品後30日以内とする
支払い方法報酬は、指定された銀行口座に振り込むものとする

円滑な取引を実現するために、細かく明記する必要があります。

成果物の権利

「成果物の権利」は、受託者から納品された成果物に知的財産権が発生する場合、その権利の帰属先を明記する項目です。

委託者側に権利を帰属させたい場合は、契約前に受託者に伝えて合意を得る必要があるためです。

例えば、以下のような権利が発生する場合があります。

著作権広告のデザインやコンテンツに関する権利
商標権広告に使用されるロゴやスローガンに関する権利
著作契約権受託者の人格的な権利。譲渡できないため、利用の際に問題が発生しないようにする必要がある
使用権広告素材の利用に関する権利

業務内容や成果物によってはリーガルチェックを受け、契約書を作成しましょう。

再委託の可否

「再委託の可否」は、受託者が委託された仕事をさらに第三者に委託できるかどうかの許可です。納品物の質や納期管理、情報漏洩のリスクにも関わってくるので、大切な項目です。

例えば、受託者A社が広告デザインを依頼され、再委託を禁止されている場合、A社は自社で全てのデザイン作業を行う必要があります。委託者はA社の一貫した品質管理と納期遵守を期待できます。

再委託を禁止したい場合は、事前にその旨を契約書に明記することが大切です。

秘密保持に関する条項

秘密保持に関する条項は、機密情報の漏えいを防ぐための詳細を記載します。

個人情報の管理、自社や顧客情報など取り扱いには細心の注意が必要だからです。

例えば、企業B社が新製品の広告制作を外部の制作会社Cに委託します。C社の社員が制作においての機密情報をSNSで誤って公開してしまい、競合他社に知られてしまった場合、自社の機密事項の漏洩となり、競合の優位性を失ってしまいます。

委託する業務に自社の機密事項や取引先、顧客の情報が含まれる場合、必ず秘密保持契約を結びましょう。

反社会勢力の排除

反社会勢力の排除は、委託先が反社会勢力に関わっていた場合、すぐに契約を解除できる項目です。

委託先が反社会勢力と知って取引することはコンプライアンス違反となるからです。

自社だけでなく、委託先にも反社会勢力との関わりがないか確認し、契約書に反社会勢力に関する条項を詳細に記載しましょう。コンプライアンス違反のリスクを回避し、健全な取引関係を維持しましょう。

禁止事項

「禁止事項」は、委託者が受託者に対して禁止したい事項を記す項目です。

業務委託契約を結ぶ際に、禁止事項を詳細に明記することでトラブルを防ぎます。

例えば、以下のような項目が挙げられます。

  • 業務時間外の作業
  • 許可のない外部関係者との接触
  • 契約範囲外の業務の実施

契約の段階で双方の理解を深めておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。

契約解除の条件

契約解除の条件とは、途中で契約解除となる条件を設定することです。

受託者が合意された納期を過ぎたり、契約に定められた義務範囲を遂行しなかったりした時に途中で契約を解除できるようにするためです。

様々なトラブルを想定して条件を決めておくことで、未然にトラブルを防ぐことができます。また、片方が決めてしまうと、別のトラブルに繋がる可能性もあるので必ず双方で合意できる内容で締結しましょう。

損害賠償

損害賠償とは、成果物の不備や納期の遅れなどの契約違反があった場合の補償です。
万一の際に発生する損害への対応を明確にし、トラブルを防ぐためです。

例えば以下のような場合、損害賠償を請求できるようにしておくといいでしょう。

納品物の不備や欠陥納品物に不備や欠陥があった場合
納期の遅れ合意した納期を過ぎた場合
契約の未遂行受託者が契約を遂行しなかった場合
契約解除契約違反が発生した場合

細かく設定しておくことで、万一の際に発生した損害に対して効果的に対応できます。

契約期間の設定

契約期間は、委託契約の効力が続く有効期間のことです。期間の長さは、案件によって異なります。

案件ごとに必要な期間が異なるからです。

例えば、制作会社が広告制作について業務委託契約を結んだ場合、その期間は広告ができるまでの1週間から1カ月程度が一般的です。しかし、企業の広告運営を行うような大規模な案件では、1年以上かかる場合もあります。

制作期間によって契約期間を設ける業務委託では、特定の契約期間を一概に決めることが難しいです。案件ごとに適切な期間を設定し、契約書に明記することが重要です。

管轄裁判所

「管轄裁判所」とは、万が一裁判沙汰になる場合にどこの裁判所に訴えを提起することができるのかをあらかじめ決めた上で明記しておく項目です。

委託者と受託者の本店所在地が離れている場合、どこで裁判が行われるか合意しておかないと、自社で無駄な出費や手間を負う場合が想定されるからです。

例えば、遠方の企業や個人と契約を結ぶ際には、自社(又は自社の弁護士の法律事務所)の最寄りの裁判所を指定します。

「本契約に関する一切の紛争は、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とします」と記載し、相手方の合意を得ておきましょう。

ただ、昨今では、裁判所でもWEBで期日を開催することが多くなってきており、結局どちらの裁判所を管轄としてもWEBで対応をするのであまり変わらないということも多いです。

業務委託契約でトラブルを防ぐためのポイント

信頼できる委託先を選定する

トラブルを防ぐためには、信頼できる委託先を選定することが重要です。
人柄や実績を確認しないまま契約してしまうと、トラブルが起きやすくなるためです。

例えば、実績や人柄の確認はもちろんですが、契約前に面談を行う、簡単なテストを行うなどするといいでしょう。

優良な委託先を見極めるには、多角的な視点から判断することが大切です。後でトラブルに発展しないためにも、契約前の確認に時間をかけ、委託先を決定しましょう。

情報セキュリティ対策の徹底

情報セキュリティ対策を徹底することも、トラブル防止に役立ちます。

情報漏洩や不正アクセスを防ぎ、企業の信頼性を維持するためです。

前述した通り、秘密保持契約について規定し、契約書に記載し、情報を必要とする人にのみ情報に接する権限を与えます。

アクセス制限を設定し、機密情報へのアクセスは業務上必要な担当者のみに限定しましょう。

情報漏洩のリスクを最小限に抑え、トラブルを未然に防ぐことができます。

契約書の確認を専門の弁護士に依頼する

業務委託契約を締結する際は、契約書のリーガルチェックを行うことが重要です。

リーガルチェックを専門家に依頼することで、法律違反や不利な条件で契約するリスクを軽減できるからです。

契約条項が法的に適正であるか、双方にとって公平な内容であるかをチェックしてもらいます。そうすることで、安心して契約締結に進めるでしょう。

業務委託契約を締結する際は、弁護士に契約書のリーガルチェックを依頼しましょう。契約の安全性と公平性が確保され、トラブルのリスクが軽減します。

広告制作の業務委託契約での注意点と罰則

企業が業務委託契約を締結するには、「偽装請負」と「二重派遣」による法律違反にならないよう、注意しなければいけません。

「偽装請負」や「二重派遣」は、労働関係法規に違反するからです。違反となれば、企業は法的責任を問われ、罰則や罰金を課される可能性があります。

偽装請負とは

偽装請負とは、実際には派遣として労働させているにも関わらず、契約書では請負(業務委託)として記載することで、労働者派遣業の許可を得ずに派遣を行う違法な行為のことです。

偽装請負は、以下のようなことが懸念されます。

労働者派遣法等に定められた派遣元(受託者)・派遣先(発注者)の様々な責任が曖昧になり、労働者の雇用や安全衛生面など基本的な労働条件が十分に確保されないという事が起こりがちです。

東京労働局

以下のことに注意しなければなりません。

  • 指示・命令の範囲
  • 業務内容の明確化
  • 独立性の保持
  • 設備・資材の提供
  • 二重派遣の回避
  • 契約書の詳細

上記を徹底することで、偽装請負のリスクを回避し、適正な業務委託を行うことができます。

二重派遣とは

二重派遣とは、派遣元に雇われている従業員が、派遣先の意向でさらに別の会社へ派遣されることです。

業務委託契約を結んでいる委託者からの命令で別の企業への出向を命じられたり、無関係の会社で働かされたりすると、二重派遣に該当する恐れがあります。

  • 例えば、以下のようなことに気をつけないといけません。子会社や関連会社で勤務させる
  • 取引先で勤務させる

このケースが発生すると、二重派遣に該当し、労働者の権利の侵害になります。

契約書において明確に業務範囲と場所を定め、無関係の企業で働かせないようにしましょう。

違反した場合の罰則

偽装請負や二重派遣を行った委託者には、以下の法律に基づき罰則が科される可能性があります。労働者の権利を守るためです。

例えば以下の通りです。

  • 偽装請負にかかわる違反行為

第五十九条
次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第四条第一項又は第十五条の規定に違反した者
二 第五条第一項の許可を受けないで労働者派遣事業を行つた者
三 偽りその他不正の行為により第五条第一項の許可又は第十条第二項の規定による許可の有効期間の更新を受けた者
四 第十四条第二項の規定による処分に違反した者

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号)
  • 二重派遣にかかわる違反行為

第四十四条(労働者供給事業の禁止) 
何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。

第六十四条 
次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、これを一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
(略)
十 第四十四条の規定に違反したとき。

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号)

企業は、偽装請負や二重派遣を行わないよう、契約内容と実態を一致させ、適法な労働環境を確保することが重要です。

まとめ

このページでは、広告制作を制作会社に業務委託する場合に気をつけることについてお伝えしました。

業務委託契約は、注意しなければならない点が多く、双方で納得のいく合意ができていないと後にトラブルや契約違反に繋がります。

業務委託において契約書の作成に不安がある方は弁護士に相談してみるといいでしょう。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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