動画撮影中に意図せずBGMが入ってしまい、著作権侵害になるのではないかと不安な方はいませんか?
こちらの記事では、BGMが動画に混入してしまうケース別に著作権侵害の判断基準を解説し、違反にならないための対処法を具体的に紹介します。
BGMの著作権について
動画制作においてBGMの著作権は非常に重要な要素です。BGMを適切に使用しないと、著作権侵害となり、法的責任を問われる可能性があります。BGMの著作権について正しく理解し、適切な対応をすることが不可欠です。
著作権とは
著作権とは、著作者の創作物を保護するための権利です。音楽、小説、絵画、写真、映画など、様々な創作物が著作権によって保護されています。BGMも音楽作品であるため、著作権の対象となります。著作権は、著作者の死後70年(または公表後70年)まで存続します。 つまり、古い楽曲だからといって自由に使用できるわけではないことに注意が必要です。
第五十一条(保護期間の原則)
著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)
(略)
2 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同著作物にあつては、最終に死亡した著作者の死後。次条第一項において同じ。)七十年を経過するまでの間、存続する。
著作権で保護される権利
著作権には、著作者が持つ様々な権利が含まれています。BGMに関して特に重要な権利は以下の通りです。
権利 | 内容 |
---|---|
複製権 | CDやデータとしてBGMをコピーする権利 |
演奏権 | BGMを公の場で演奏する権利 |
公衆送信権 | インターネットなどでBGMを配信する権利 |
翻案権 | BGMを編曲したり、歌詞を付けたりする権利 |
これらの権利は著作者に帰属し、無断で行うと著作権侵害となります。動画にBGMを使用する場合、これらの権利を侵害しないように注意する必要があります。
BGMの使用許諾を得る方法
BGMを合法的に使用するためには、著作者または著作権管理団体から使用許諾を得る必要があります。主な方法としては以下の2つがあります。
JASRACなどの著作権管理団体に問い合わせる
JASRAC(日本音楽著作権協会)などの著作権管理団体は、多くの楽曲の著作権を管理しています。JASRACが管理している楽曲を使用する場合、JASRACに利用申請を行い、使用料を支払う必要があります。 使用料は、楽曲の使用目的や方法、期間などによって異なります。JASRACのウェブサイトで詳細を確認できます。
権利者へ直接連絡する
著作権管理団体に登録されていない楽曲を使用する場合、権利者(作曲者やレコード会社など)に直接連絡を取り、使用許諾を得る必要があります。権利者の連絡先は、楽曲のCDジャケットやウェブサイトなどで確認できる場合があります。 権利者との交渉によっては、使用料が発生する場合としない場合があります。
BGMが動画に入ってしまうケースと著作権侵害の判断基準
動画撮影中にBGMが入ってしまうケースは、大きく分けて「意図せずBGMが入ってしまった場合」と「意図的にBGMを使用したものの、権利処理が不明確な場合」の2つに分けられます。それぞれの場合について、著作権侵害の判断基準を詳しく見ていきましょう。
意図せずBGMが入ってしまった場合
街中や商業施設など、BGMが流れている場所で撮影を行う際に、意図せずBGMが動画に録音されてしまうケースはよくあります。
このように撮影時に偶然、音楽などの著作物が収録されてしまう、いわゆる「写り込みについては、著作権法第30条の2で、権利者の許諾を得ることなく音楽などの著作物を複製でき、この複製された著作物については利用することができる場合が規定されています。
第三十条の二(付随対象著作物の利用)
著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)
1 写真の撮影、録音、録画、放送その他これらと同様に事物の影像又は音を複製し、又は複製を伴うことなく伝達する行為(以下この項において「複製伝達行為」という。)を行うに当たつて、その対象とする事物又は音(以下この項において「複製伝達対象事物等」という。)に付随して対象となる事物又は音(複製伝達対象事物等の一部を構成するものとして対象となる事物又は音を含む。以下この項において「付随対象事物等」という。)に係る著作物(当該複製伝達行為により作成され、又は伝達されるもの(以下この条において「作成伝達物」という。)のうち当該著作物の占める割合、当該作成伝達物における当該著作物の再製の精度その他の要素に照らし当該作成伝達物において当該著作物が軽微な構成部分となる場合における当該著作物に限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該付随対象著作物の利用により利益を得る目的の有無、当該付随対象事物等の当該複製伝達対象事物等からの分離の困難性の程度、当該作成伝達物において当該付随対象著作物が果たす役割その他の要素に照らし正当な範囲内において、当該複製伝達行為に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 前項の規定により利用された付随対象著作物は、当該付随対象著作物に係る作成伝達物の利用に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
著作権法第30条の2による「写り込み」の要件
著作権法第30条の2を理由に権利者の許諾を得ることなく利用可能となる要件は以下のとおりです。
① | 写真、オーディオ、ビデオの作品への写り込みであること |
② | 写り込む著作物が、本来の撮影などの対象とする事物又は音ではないこと |
③ | 写り込む著作物が、撮影などの対象とする事物などから分離困難であること |
④ | 軽微な構成部分であること |
⑤ | 著作権者の利益を不当に害さないこと |
そして、文化庁のウェブサイトでは、この条文の解釈について、「街角の風景をビデオ収録したところ,本来意図した収録対象だけでなく,ポスター,絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれる場合」にはこれに該当し、著作権者の許諾は不要と判断されています。
ただし、撮影時に偶然入り込んでしまったBGMであれば、常に著作権法30条の2で許諾を得なくても問題がなくなるわけではなく、実際には著作権法30条の2の各要件の検討は必要になります。
例えば、BGMの音が大きく、映像のメインになってしまっているような場合には、要件②「写り込む著作物が、本来の撮影などの対象とする事物又は音ではないこと」や要件④「軽微な構成部分であること」に該当しないとの判断になる可能性があり、著作権法30条の2には該当せず、著作権違反となるリスクがありますので注意しましょう。
意図的にBGMを使用したものの、権利処理が不明確な場合
インターネット上で無料配布されているBGMや、市販の音楽CDからリッピングした音源などを、権利処理が不明確なまま動画に使用してしまうケースも少なくありません。「著作権フリー」と謳われているBGMでも、実は商用利用が禁止されていたり、特定の条件下でのみ使用が許可されている場合もあります。
また、JASRACなどの著作権管理団体に登録されていない楽曲であっても、著作権は存在します。権利処理が不明確なBGMを使用した場合、たとえ悪意がなかったとしても、著作権侵害となる可能性があります。
BGMの種類 | 著作権侵害のリスク | 注意点 |
---|---|---|
著作権フリー音源(商用利用可) | 低い | 利用規約を必ず確認する |
著作権フリー音源(商用利用不可) | 高い(商用利用の場合) | 利用規約を必ず確認する |
市販の音楽CD | 非常に高い | 私的使用の範囲を超える複製・利用は違法 |
JASRAC未登録楽曲 | 高い | 権利者に直接使用許諾を得る必要がある |
BGMを使用する場合は、必ず事前に権利処理を行い、使用許諾を得ることが重要です。JASRACなどの著作権管理団体に問い合わせるか、権利者に直接連絡を取り、使用条件や許諾料金などを確認しましょう。
著作権管理団体について詳しく知りたいかた、管理楽曲か否かを調べる方法を知りたいかたは下記の記事をご覧ください。
BGMの著作権侵害を避けるための予防策
動画撮影時にBGMの著作権侵害を避けるためには、事前の準備と撮影時の注意が重要です。無許可でBGMを使用してしまうと、著作権侵害となり、動画の公開停止や損害賠償請求などの法的措置を取られる可能性があります。そうした事態を避けるために、以下の予防策を徹底しましょう。
撮影前のロケハンでBGMの有無を確認
屋外で撮影を行う場合、周囲の店舗や施設からBGMが流れてくる可能性があります。撮影前にロケハンを行い、BGMの有無や音量を確認しましょう。
BGMが流れている場合は、その音量や聞こえ方を確認し、撮影に影響がないか、著作権的に問題がないかなどを判断します。もしBGMが大きく聞こえる場合は、場所を変更するか、撮影方法を工夫する必要があります。
撮影場所のBGMの著作権
商業施設や公共の場、イベント会場など、場所によってはBGMが常に流れている場合があります。これらのBGMは、著作権で保護されていることがほとんどです。
BGMが流れている場所で撮影許可を得ていたとしても、それはあくまで撮影場所の使用を許可されただけであり、BGMの使用まで許可されたわけではありません。BGMを使用するには、著作権者から別途許諾を得る必要があります。
無許可でBGMが録音された動画を公開すると、著作権侵害とみなされる可能性があります。撮影前に管理者または担当者にBGMの著作権について確認し、使用許可を得る必要があります。許可を得られない場合は、BGMが録音されないように対策を講じるか、別の撮影場所を検討しましょう。
場所のタイプ | BGMの著作権確認方法 | 注意点 |
---|---|---|
商業施設(ショッピングモール、飲食店など) | 店員または施設管理者に問い合わせる | 施設独自のBGMを使用している場合や、JASRACなどに権利委託している場合など、状況は様々です。 |
公共の場(公園、駅など) | 管轄の自治体または管理団体に問い合わせる | BGMの使用自体が許可されていない場合もあります。 |
イベント会場 | イベント主催者に問い合わせる | イベントで使用するBGMの権利処理は主催者の責任で行われていることが一般的です。 |
上記以外にも、路上ライブやパフォーマンスが行われている場所も注意が必要です。演奏されている楽曲は、演奏者自身または別の作曲家が著作権を保有している可能性があります。無許可で撮影・公開することは著作権侵害に当たるため、必ず許可を得るようにしましょう。
使用する機材の著作権に関する設定
一部のカメラやマイクは、著作権保護された音楽を検知して録音レベルを下げる、または録音自体を停止する機能が搭載されている場合があります。これらの機能は、意図せず著作権侵害となることを防ぐのに役立ちます。
使用する機材の取扱説明書をよく読み、著作権に関する設定を確認しておきましょう。特に、自動的にBGMを検出して除去する機能や、特定の周波数帯の音を抑制する機能などが搭載されている場合は、撮影前に設定を確認し、必要に応じて調整することが重要です。
また、外部マイクを使用する場合も、マイクの指向性や感度によっては周囲のBGMを拾いやすくなるため注意が必要です。指向性の強いマイクを使用したり、マイクの位置を調整したりすることで、BGMの録音レベルを下げることができます。マイクの特性を理解し、適切な設定で使用するようにしましょう。
無音環境で撮影する
最も確実な方法は、無音環境で撮影することです。 スタジオや防音設備のある部屋を利用することで、外部からのBGMの混入を防ぐことができます。また、周囲の音を遮断する機材を使用するのも有効です。無音環境であれば、後から自由にBGMを追加することができ、著作権の問題を気にする必要もありません。
著作権フリー音源を用意しておく
動画にBGMを追加したい場合は、著作権フリーの音源を用意しておきましょう。 著作権フリー音源は、無料で使用できるものや、有料でライセンスを購入することで使用できるものがあります。
ただし、「著作権フリー」と謳っているBGMでも、完全に自由に使えるとは限りません。「著作権フリー」には様々な種類があり、利用条件がそれぞれ異なります。
例えば、クレジット表記が必要な場合や、商用利用が制限されている場合、改変が禁止されている場合などがあります。
また、「著作権フリー」と表記されていても、実は著作権が放棄されていない場合もあります。BGMを使用する際は、必ず利用規約を確認し、使用条件を遵守するようにしましょう。下記の表に、著作権フリー音源の種類と注意点の例をまとめました。
種類 | 説明 | 注意点 |
---|---|---|
パブリックドメイン | 著作権の保護期間が満了した、または著作権者が権利を放棄した音源。 | 著作者人格権への配慮が必要な場合がある。 |
クリエイティブ・コモンズ | 著作権者が特定の条件下で利用を許可している音源。 | ライセンスの種類(CC BY、CC BY-SAなど)によって利用条件が異なる。 |
ロイヤリティフリー | 一度料金を支払えば、著作権使用料を支払うことなく何度でも使用できる音源。 | 利用規約で商用利用や改変が制限されている場合がある。 |
上記の表はあくまで一例であり、他にも様々な種類があります。必ず個々の音源の利用規約を確認することが重要です。
BGMの使用許諾を得る
どうしても特定の既存のBGMを使用したい場合は、権利者から使用許諾を得る必要があります。 権利者への連絡方法は、JASRACなどの著作権管理団体に問い合わせるか、楽曲の販売元やレコード会社に問い合わせることで確認できます。
使用許諾を得るためには、楽曲の使用目的や期間、使用範囲などを明確にし、権利者との交渉が必要です。許諾を得るまでには時間がかかる場合があるので、余裕を持って手続きを行いましょう。
上記の方法を参考に、状況に応じて最適な方法を選択し、BGMの著作権侵害を未然に防ぎましょう。著作権を尊重し、適切な方法でBGMを使用することで、トラブルなく動画制作を楽しむことができます。
まとめ
動画撮影中にBGMが入ってしまうと、著作権侵害になる可能性があります。意図せずBGMが入ってしまった場合でも、著作権侵害となるケースがあるため、注意が必要です。
BGMの著作権侵害を避けるためには、撮影前にBGMの有無を確認したり、無音環境で撮影するなどの予防策を講じることが重要です。
著作権を尊重した動画制作を心がけましょう。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。