【プロトキ・No.001】「株式会社ポケモン、ブロックチェーン関係の特許を取得」を弁護士が解説

ニュース解説(プロトキ)

連載シリーズ「プロトキ」では、プロスパイア法律事務所の弁護士等の専門家が、ニュースや事問題について、法律の観点から解説をしていきます。

※本記事は、令和6年9月9日時点の情報に基づいて執筆されています。

今回は、「株式会社ポケモン、ブロックチェーン関係の特許を取得」というニュースについて、特許を取得するとはそもそもどういうことなのか今回取得された特許の内容はどのようなものか弁護士の目線からこれによって分かることはなにかあるのか?などを解説していきます。

ニュース概要「株式会社ポケモン、ブロックチェーン関係の特許を取得」について

株式会社ポケモンが、ブロックチェーン技術やNFT(非代替性トークン)に関する特許を取得していたことが分かったというニュースが各社によって報じられています。

引用:特許第7510475号特許申請図面【図19】

参考:CoinPost:2024/09/02「株式会社ポケモン、分散型台帳やNFT関連の特許を取得」
参考:ASCII.JP:2024/09/03「ポケモン、分散型台帳関連の特許取得 スマホ版「ポケカ」に関連か」
参考:Yahooニュース:2024/09/05「ポケモン社の“分散型台帳/NFT関連特許”について:ポケポケとの関係は?」
参考:CoinDeskJAPAN:2024/09/06「スマホ版「ポケモンカード」用に分散型台帳関連の特許取得か」

これは、出願された特許について情報公開がされ、自由に検索・閲覧が可能な特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」において、ポケットモンスターシリーズの事業などを手掛ける株式会社ポケモンが、ブロックチェーン技術と関係する特許として、特許第7510475号を出願していることが明らかになった旨を報じるものです。

参考:特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」

各メディアでは、令和6年10月30日にリリース予定であることが公開されているスマートフォンアプリ「Pokémon Trading Card Game Pocket(ポケポケ)」との関係や、特許の内容から予想されるポケポケの仕様などが語られています。

ポケポケとは、ポケモンカードをデジタルカードとしてコレクションすることができるアプリで、現状は、デジタルカードであるからこそ実現可能な体験を提供する演出面での工夫などが示唆されているところです。

引用:『Pokémon Trading Card Game Pocket』公式サイト

そもそも「特許」とは何か?

特許とは

特許とは、「産業上利用することができる発明」のうち、「新規性」と「進歩性」の2つの要件を満たすものについて、特許庁への出願及び設定登録をすることで、一定期間独占的に業として実施(使用・譲渡など)できる権利を付与する制度です。

条件1:「産業上利用できることができる発明」

「発明」は、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています(特許法2条1項)

したがって、自然界における科学法則で、実施可能性・反復可能性がある手段に関するアイディアで、相当程度高度なもの、が特許の対象となる「発明」となりうるということです。

そして、発明は、「物の発明」「方法の発明」「物を生産する方法の発明」の3つに区別されます(特許法2条3項等)

第二条(定義)
この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
(略)
3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。

一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為
二 方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為
三 物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

(略)

特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)

条件2:「新規性」

新規性とは、特許出願前に広く知られていたり、公然に使用等されていたりしないことを意味します。
内容が公然になる前に特許出願をしなければ、特許制度の保護を受けることができないということです。

第二十九条(特許の要件) 
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。

一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明

 (略)

特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)

条件3:「進歩性」

進歩性とは、平均的水準以上の技術者であれば誰でも生み出せるような発明ではないことをいいます。

誰でも生み出せる発明ではなく、その内容が特別なものだけが、特許制度の保護を受けることができるということです。

第二十九条(特許の要件) 
(略)
 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。

特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)

特許の効力

特許権を取得すると、その発明について、業として独占的に実施ができるようになります(特許法68条)。

第六十八条(特許権の効力)
特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。ただし、その特許権について専用実施権を設定したときは、専用実施権者がその特許発明の実施をする権利を専有する範囲については、この限りでない。

特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)

したがって、特許の効力は、対象の発明の独占的・排他的な実施、ということとなります。
なお、ここでいう「実施」の意味は、発明の種類に応じて定義がされています。

物の発明その物の生産・使用・譲渡・貸渡し・輸出・輸入・譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む)
方法の発明その方法の使用
物を生産する方法の発明その方法の使用、その方法により生産した物の使用・譲渡・貸渡し・輸出・輸入・譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む)

まとめ

以上のとおり、特許とは、一定の発明について、特許庁へ出願し、登録をすることで、一定の行為を独占的に行うことができるようになる制度のことをいうということとなります。

以上の前提で、今回のニュースについて解説させていただきます。

特許の内容を解説

今回、株式会社ポケモンが取得した特許は、特許第7510475号です。
こちらの内容は、特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」で公開されており、内容を閲覧することが可能です。

基本情報

該当の特許の基本情報は以下のとおりです。

出願日令和4年10月27日
公開日令和6年5月14日
登録日令和6年6月25日
特許番号特許第7510475号
特許権者株式会社ポケモン
発明の名称プログラム、方法、情報処理装置、システム
閲覧用URLhttps://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-7510475/15/ja

概要

特許の対象となる発明の内容を簡単に説明すると

  • デジタルカードの情報

一意に特定可能に区別して、ブロックチェーン技術を用いて記録するとともに

  • 当該デジタルカードの使用に関する情報(入れられたデッキ、そのデッキでの対戦の情報、そのデッキでの大会の情報など)
  • 当該デジタルカードと同一の効果を有するデジタルカードの使用に関する情報
  • 当該デジタルカードの譲渡に関する情報

ブロックチェーン技術を用いて記録し、
これらのカードの選択に応じて、デジタルカードの情報を提示する
という機能を持つシステムです。

デジタルカードの情報を記録

「 デジタルカードの情報
を一意に特定可能に区別して、ブロックチェーン技術を用いて記録」というのは、

ブロックチェーン技術を用いて、あるデジタルカードを他のデジタルカードとは異なる固有のものと識別・記録をすることで、

まったく同じ内容のカード(例えば「ピカチュウ」というカード)であっても、自分だけのカード(例えば去年の何月何日に買ったパックに入っていた自分の「ピカチュウ」というカード)として扱うことができるようにするということです。

デジタルカードの仕様に関する情報、譲渡に関する情報の記録

「当該デジタルカードの使用に関する情報(入れられたデッキ、そのデッキでの対戦の情報、そのデッキでの大会の情報など)

  • 当該デジタルカードと同一の効果を有するデジタルカードの使用に関する情報
  • 当該デジタルカードの譲渡に関する情報

ブロックチェーン技術を用いて記録」というのは、

ブロックチェーン技術を用いて、あるデジタルカードについて、同種のカードに関する使用率等のデータや、そのデジタルカードの譲渡履歴(元々誰がもっていたカードなのか)を記録し、分かるようにするということです。

そして、このような発明では、

「デジタルTCGでは、カードに実体がなく、かつ、多数のカードを所有しているため、デッキを使ったTCG対戦を行った場合であっても、カード自体に愛着がわきにくい。」という課題について、「デジタルTCGにおいて、カードに対する思い入れを残すことができる。」という効果を得ることができるとの説明がされています。

【発明が解決しようとする課題】
【0004】
 デジタルTCGでは、プレイをするために、所有するデジタルカードを組み合わせてデッキを構築する。デジタルTCGでは、カードに実体がなく、かつ、多数のカードを所有しているため、デッキを使ったTCG対戦を行った場合であっても、カード自体に愛着がわきにくい。
(略)
【発明の効果】
【0009】
  本開示によれば、デジタルTCGにおいて、カードに対する思い入れを残すことができる。

特許第7510475号「詳細な説明」

確かに、自分のカードが、同じ種類の別のカードと区別され、自分だけのカードといえる状態になり、そのカードの譲渡履歴や、大会での使用歴などが確認できるとすれば、まさに、自分だけのカードとしての思い入れ愛着を持つことができるようになるかと思います。

ブロックチェーンとは

上記のようなデータを記録する方法としての「ブロックチェーン技術」とは何かについては、以下の記事で詳しく解説していますので、ご興味がある方はこちらの記事もご覧ください。

簡単に言えば、複数のコンピューターに分散してデータを保存する技術で、これにより、改ざんされる可能性が低い高度なセキュリティをもったデータとする技術です。

ブロックチェーン技術では、データは取引履歴(=トランザクション)の形で記録されるため、デジタルカードの譲渡履歴の記録などと整合性が高い技術といえます。

どのような意味がある?ポケモンカードとの関係は?

以上の特許について、直ちにPokémon Trading Card Game Pocketのために用いられるということが名言されているわけではありませんが、仮にPokémon Trading Card Game Pocketにこの特許で出願された発明の内容が実装されるとすれば、以下のような影響が起こることがありうるかも知れません。

  • デジタルカードのコレクションやバトルだけでなく、譲渡(個別の売買等)などの取引もアプリ上・又は専用のプラットフォーム上で行うことができる
  • 大会優勝者のデッキに入っていたことのあるカードや芸能人・インフルエンサーが過去に所有していたカードなどが高額で取引される。

留意点

もっとも、以上の説明はあくまでも、株式会社ポケモンによって取得された特許の内容の説明であって、Pokémon Trading Card Game Pocket自体の仕様の説明ではありません

特許は、前述のように、発明を一定期間独占的に業として実施(使用・譲渡など)できる権利を付与する制度なので、自らが実施するために取得するものというよりは、他者に実施されることを防ぐ目的で取得されることがあります。

つまり、Pokémon Trading Card Game Pocketに上記のような機能を実装することが予定されているかどうかは、特許が取得された、というだけでは全く分からず、他者にこのようなシステムを利用されないように特許を取得しただけ、ということがありうるということとなります。

まとめ

本記事では、ニュースや時事問題について、法律の観点から解説をする「プロトキ」の第1回として、「株式会社ポケモン、ブロックチェーン関係の特許を取得」のニュースを解説していきました。

簡単にまとめると以下のような内容です。

  • 特許とは、一定の基準を満たした発明について、特許庁への出願及び設定登録をすることで、一定期間独占的に業として実施(使用・譲渡など)できる権利を付与する制度
  • 今回のニュースで取り上げられている特許は、ブロックチェーン技術を用いるものであって、デジタルカードに対する思い入れを残すことができるようにするシステムについてのもの
  • ブロックチェーン技術とは、複数のコンピューターに分散してデータを保存する技術
  • 今回の特許が、Pokémon Trading Card Game Pocketにどのように関係するかは、現時点では不明で、全くの無関係ということもありうる。

結局のところ、Pokémon Trading Card Game Pocketの詳しい仕様に関する予想との関係では「不明」という結論にはなってしまいますが、リリース予定の令和6年10月30日ももうすぐですので、楽しみに待ちましょう。

次回以降も、「プロトキ」では、ニュースや時事問題についてプロスパイア法律事務所の専門家が法的観点から解説をしていきます。

次回の更新をお楽しみにお願いいたします。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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