連載シリーズ「プロトキ」では、プロスパイア法律事務所の弁護士等の専門家が、ニュースや時事問題について、法律の観点から解説をしていきます。
※本記事は、令和6年9月19日時点の情報に基づいて執筆されています。
今回は、「Googleに命じた独禁法違反の制裁金支払い取り消し。EU敗訴」というニュースについて、そもそもGoogleに命じられていた制裁金支払いの根拠とはなにか?、日本における類似の制度はあるか?などを解説していきます。
ニュース概要「Googleに命じた独禁法違反の制裁金支払い取り消し。EU敗訴」について
欧州連合(EU)における司法裁判所の一審にあたる一般裁判所が、Googleに対して約14億9千万ユーロ(日本円で約2300億円)の制裁金支払いを命じた欧州委員会の決定を取り消したというニュースが各社によって報じられています。
参考:ロイター:2024/09/18「グーグル、EUに勝訴 競争法違反の制裁金14.9億ユーロ無効に」
参考:Yahooニュース:2024/09/18「EU裁でグーグルが勝訴 広告めぐる2300億円の制裁金は無効」
参考:NHK:2024/09/18「欧州裁判所 グーグルに制裁金命じた欧州委の決定無効の判決」
参考:日本経済新聞:2024/09/18「EU裁判所、Google制裁金取り消し」
参考:朝日新聞DIGITAL:2024/09/18「EU裁でグーグルが勝訴 広告めぐる2300億円の制裁金は無効」
参考:読売新聞オンライン:2024/09/18「欧州委がグーグルに科した2350億円の制裁金無効の判決…EU裁判所」
欧州委員会による制裁金を科す決定の根拠
EUにおけるEU競争法の執行機関である欧州委員会(the European Commission)は、Googleが、2006年から2016年にかけて、インターネット検索広告市場で支配的地位を利用し、広告配信サービスの利用者に対して、自社が有利になる条件などをつけるなどして、他社の広告を不当に排除することで市場をゆがめたと主張していました。
これにより、EU競争法(日本における独占禁止法に相当する法律)に違反したとして、2019年に科されたのが、今回取り消された約14億9千万ユーロ(日本円で約2300億円)の制裁金です。
これに対してGoogleは、2019年当時に「インターネット検索広告市場の定義と優越的立場の評価に誤りがある」として、制裁金の取消しを求め、一般裁判所に申立てをしていました。
一般裁裁判所の判断とその影響
一般裁判所は、欧州委員会の主張を概ね認めつつも、不当な行為として主張された「自社が有利になる条件をつける」という部分の認定について、欧州委員会の判断には、必要な情報を十分に考慮に入れていない部分があるとし、制裁金は無効としました。
結論としては、Googleの主張が認められた形であり、Google側の勝訴といえます。
上訴の可能性と今後の展開
この裁判結果に対しては、双方からさらに上訴が可能であり、最終的な判断が出るにはまだ時間がかかる可能性があります。これにより、欧州委員会とGoogleとの法廷闘争は続く可能性もあります。
双方の対応とコメント
Googleの広報担当者は、今回の判決に対して「裁判所が欧州委員会の決定に誤りがあると認識したことを歓迎する」と述べました。
他方、欧州委員会は、「次の段階の対応について、今回の判断の内容を慎重に精査した上で検討する」とコメントしています。
EU競争法とは?
今回問題となったEU競争法は、欧州連合内で競争の促進および市場の公正性を確保するための法律であり、以下のような内容を含んでいます。
1. 協定の禁止(EU機能条約第101条)
複数の企業が市場の競争を歪める協定や取り決めを禁止するものです。たとえば、価格カルテルや市場分割の合意が含まれます。これにより市場での価格秩序が維持され、消費者に対して不利益を与えないようにしています。
加盟国間の取引に影響を与えるおそれがあり,かつ,域内市場の競争の機能を妨害し,制限し,若しくは歪曲する目的を有し,又はかかる結果をもたらす事業者間の全ての協定,事業者団体の全ての決定及び全ての共同行為であって,特に次の各号の一に該当する事項を内容とするものは,域内市場と両立しないものとし,禁止する。
EU機能条約第101条
a 直接又は間接に,購入価格若しくは販売価格又はその他の取引条件を決定すること
b 生産,販売,技術開発又は投資を制限し又は統制すること
c 市場又は供給源を割り当てること
d 取引の相手方に対し,同等の取引について異なる条件を付し,当該相手方を競争上不利な立場に置くこと
e 契約の性質上又は商慣習上,契約の対象とは関連のない追加的な義務を相手方が受諾することを契約締結の条件とすること
2. 市場支配的地位の濫用の禁止(EU機能条約第102条)
市場シェアの大きな企業が、その影響力を用いて競争を阻害する行為を禁止しています。この法律の目的はマーケットでの競争を維持し、新たな競技者の参入を阻まないことであり、消費者の選択肢を広げることを目指しています。
域内市場又はその実質的部分における支配的地位を濫用する一以上の事業者の行為は,それによって加盟国間の取引が悪影響を受けるおそれがある場合には禁止される。この不当な行為は,特に次の場合に成立するおそれがある。
EU機能条約第102条
a 直接又は間接に,不公正な購入価格若しくは販売価格又はその他不公正な取引条件を課すこと
b 需要者の利益に反する生産,販売又は技術開発の制限
c 取引の相手方に対し,同等の取引について異なる条件を付し,当該相手方を競争上不利な立場に置くこと
d 契約の性質上又は商慣習上,契約の対象とは関連のない追加的な義務を相手方が受諾することを契約締結の条件とすること
3. 企業結合の監視
企業の合併や買収が市場に悪影響を与える可能性がある場合、その影響を事前に審査し調査します。これにより、大規模で影響力のある企業結合が市場に不均衡を生じさせないように監督しています。
日本における独占禁止法とは?
以上のEU競争法と同様、日本の独占禁止法も、公正で自由な競争を確保するための法律であり、主に市場の競争を阻害する行為を防止することを目的としています。この法律は、企業が市場の競争環境を不当に制限しないように規制しています。また、一般消費者や他の企業に対する不公正な取引方法を禁じています。
独占禁止法の概要
独占禁止法の主な目的は、公正な競争を促進することであり、主に企業の市場行動を規制します。この法律には、経済活動において公正な競争を阻害する不公正な取引や市場支配を規制する条項が含まれています。
主要内容 | 概要 |
不当な取引制限 | カルテルや談合、競合他社との協調行為が禁止されています。 |
不公正な取引方法 | 差別的な取引条件や強制的な取引条項の設定が規制されています。 |
事業の結合 | 企業の合併や買収が審査され、市場支配力の増大が問題視される際には制限されます。 |
独占禁止法の趣旨・目的
独占禁止法の趣旨は、市場の競争を維持・促進することであり、その行動は以下の目的を達成することを意識しています。
- 消費者の利益の保護
- 公正な競争の確保
- 自由な市場経済の維持
これにより、企業間の健全な市場競争が支援され、市場の効率性が高まり、新たなイノベーションが促進されます。
独占禁止法の詳細については、公正取引委員会の公式サイトでさらに情報を確認できます。詳しくは公正取引委員会のサイト上の「独占禁止法の概要」ページをご覧ください。
他に関係しそうな日本の法律は?
デジタルプラットフォーム取引透明化法
デジタルプラットフォーム取引透明化法は、日本におけるデジタルプラットフォーム事業者の役割と影響力の増加に対応するために制定された法律です。この法律は、プラットフォーム事業者の取引における透明性と公正性を確保することを目的としており、特に消費者とサプライヤーとの公正な取引を促進することに主眼を置いています。
デジタルプラットフォーム事業者は、自社の運営するプラットフォーム上で取引される商品やサービスに関して、その提供者と契約を締結する際には、透明性を確保するための情報を適切に開示することが求められます。具体的には、手数料の設定基準や、アルゴリズム変更の影響について明確に説明する義務があります。
項目 | 内容 |
施行日 | 2021年2月1日 |
正式名称 | デジタル社会の形成を図るための規制改革を推進するためのデジタル社会形成基本法等の一部を改正する法律(令和五年法律第六十三号) |
目的 | 取引の透明性と公平性の確保 |
対象 | デジタルプラットフォーム事業者 |
詳細は、経済産業省が概要のまとめを公開しているので、こちらをご覧ください。
スマホソフトウェア競争促進法
2024年に制定されたスマホソフトウェア競争促進法は、スマートフォン市場における競争を促進することを目的としています。この法律は、特定のソフトウェアにおいて競争を不当に妨害する行為を禁止し、特にモバイルアプリケーション市場内での公正な競争を支援する措置を盛り込んでいます。
具体的な規定としては、特定の支払い手段の使用強制の禁止や、特定ソフトウェアのデフォルト設定変更の自由化などがあります。
項目 | 内容 |
施行日 | 2024年6月19日 |
正式名称 | スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律(令和六年法律第五十八号) |
目的 | スマートフォン市場での競争促進 |
規制対象 | モバイルアプリケーションプラットフォーム |
詳細は、公正取引委員会で概要の説明が公開されていますのでこちらをご覧ください。
参照:(令和6年6月12日)「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」の成立について|公正取引委員会
まとめ
本記事では、ニュースや時事問題について、法律の観点から解説をする「プロトキ」の第2回として、「Googleに命じた独禁法違反の制裁金支払い取り消し。EU敗訴」のニュースを解説していきました。
本件は、グローバルな企業戦略における競争法理解の重要性を示すものといえるでしょう。
日本の独占禁止法やデジタルプラットフォーム取引透明化法なども、企業活動を監視し、健全な競争市場を維持するための役割を果たしています。国際間での法解釈の違いを理解し、適切な法的判断を行うことが企業に求められます。
次回以降も、「プロトキ」では、ニュースや時事問題についてプロスパイア法律事務所の専門家が法的観点から解説をしていきます。
次回の更新をお楽しみにお願いいたします。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。