名誉毀損とは?成立要件や侮辱との違いを弁護士が解説

風評被害対策法務

SNSやスマホの普及により誰でも容易に情報を発信できるようになった今日において、名誉毀損は深刻な社会問題となっています。名誉毀損の成立要件を正しく理解することは、知らず知らずのうちに自分が加害者になってしまうことを防いだり、誹謗中傷に対してどのように対応すべきかを検討したりする際にとても重要です。

そこで本記事では、名誉毀損について、その成立要件や侮辱との違いについて、詳しく解説します。

名誉毀損とは

名誉毀損とは、名誉権を侵害する行為のことです。

法律の規定としては、刑法には明文の規定があることから、刑法の名誉毀損罪に該当する行為のことを指すことが多いです。

ただし厳密には、刑事か民事かによって、名誉毀損の成立範囲や責任追及の手段は異なります。そのため、まずは「刑事上の名誉毀損」と「民事上の名誉毀損」の2つに大きく分けることができることを知っておくとよいでしょう。

  • 刑事上の名誉毀損(=名誉毀損罪)
  • 民事上の名誉毀損(=不法行為)

名誉毀損罪が成立する場合、基本的には民事上でも不法行為が成立することから、この場合には、民事か刑事かで名誉毀損の成立範囲は異ならず、刑事上の法的責任と民事上の法的責任の両方を追及できます。

一方で、名誉毀損罪が成立しない場合でも、民事上では不法行為が成立する場合があります(後述の「意見論評型の名誉毀損」など)。この場合、刑事上の法的責任は追及できませんが、民事上の法的責任は追及できます。

刑事上の法的責任

刑事上の法的責任を追及する手段は、刑事告訴です。名誉毀損罪が成立する場合には、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金が処される可能性があります。

第230条(名誉毀損罪)
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
(略)

刑法(明治四十年法律第四十五号)

民事上の法的責任

民事上の法的責任を追及する手段は、損害賠償請求です。ただし、名誉毀損が成立する場合には、損害賠償請求だけでなく、謝罪広告の掲載など名誉回復のための措置を求めることが可能な場合もあります。

第723条(名誉毀損における原状回復)
他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

民法(明治二十九年法律第八十九号)

なお、損害賠償請求をするためには相手方の氏名と住所が必要ですが、インターネット上の誹謗中傷の多くは匿名で行われます。そこで、一定の要件を満たす場合には、SNSやブログサイトなどの運営者に対して、投稿者を特定するために必要な情報の開示と投稿等の削除を求めることが可能です。

名誉毀損の成立要件

名誉毀損が成立するためには、基本的に次の3つの要件をすべて満たす必要があります。

公然と
事実を摘示して
人の名誉を毀損した

以下では、各要件の意味について、それぞれ詳しく解説します。

「公然」とは

「公然」とは、「不特定又は多数の者が認識しうる状態」という意味であり、「不特定」または「多数」のいずれかを満たしていれば認められます。

また、裁判例では、特定少数に対する表現の場合でも、当該表現が不特定又は多数に伝播する可能性がある場合には、公然性が認められます(これを「伝播性の理論」といいます)。

したがって、インターネット上の表現は、基本的に公然性があるものと考えるべきでしょう。いわゆる「鍵アカ」などの公開範囲が限定されている場合でも、裁判例では公然性が認められる傾向にあるため、注意が必要です。

「事実を摘示」とは

名誉毀損が成立するには、その表現の内容が「事実」である必要があります。「事実」とは、「証拠によって真偽を確かめられる事柄」という意味です。

例えば、「◯◯は会社の金を横領した」という発言は、証拠によってその真偽を判断することができる事柄です。一方で、「◯◯の会社の資金管理は杜撰だ」という発言について、杜撰か否かは個人的な意見や評価にすぎないため、事実の摘示には当たりません。

ただし、判例では、事実摘示を伴わない意見・論評に対しても、一定の場合には名誉毀損の成立を認めているため、注意が必要です。(意見・論評型の名誉毀損については別記事で解説)

なお、摘示した「事実」は必ずしも嘘である必要はなく、真実であっても名誉毀損は成立します。ただし、後述するように、摘示した事実が「真実であること(真実性)」場合には、例外的に名誉毀損が成立しない場合もあります。

「人の名誉を毀損」とは

「人の名誉を毀損」とは、「人の社会的評価を低下させること」を意味します。

つまり、名誉毀損における「名誉」とは、社会的評価(=その人の品性や信用等の社会から受ける客観的評価)のことであり、個人の尊厳や自己評価(名誉感情)などの主観的評価は含まれません

したがって、例えば「◯◯は反社と繋がりがある」といった発言は、Aさんの社会的評価を低下させるため名誉毀損が成立する可能性がありますが、単に「◯◯はバカだ」という発言は、名誉感情を傷つけうるものではあるものの、名誉毀損にはなりません。

社会的評価の低下を伴わない場合には、刑事上も民事上も名誉毀損が成立することはありません。しかし、名誉感情侵害については、一定の場合に不法行為に該当する可能性もあるため、注意が必要です。

同定可能性について

同定可能性とは、特定の人物や団体が対象であると明確に識別できるかどうかという問題です。名誉毀損の成立には、対象者が具体的に特定されていることが必要であり、同定可能性が認められない場合、名誉毀損は成立しません。

例えば、「〇〇が会社の金を横領した」という発言の「◯◯」が、特定の人物の氏名である場合には同定可能性が高いですが、「ある部署の社員」などのように抽象度が高く当てはまる人物が複数いる場合には、同定可能性は認められません。ただし、部長や課長など、特定の役職に就いている人物が一人しかおらず明確である場合には、具体的な氏名を示さなくても同定可能性が認められる可能性があります。

例外的に名誉毀損が成立しない場合

以上の要件を満たす場合でも、次の3つの要件をすべて満たす場合には、例外的に名誉毀損は成立しません。

公共の利害に関する事実であること(公共性)
専ら公益を図る目的であること(公益性)
真実であることの証明があったとき(真実性)、または、その事実が真実であると信じたことにつき相当の理由があるとき(相当性)

なぜなら、このような事実の摘示すらも名誉毀損になってしまうとすると、憲法で表現の自由を保障した意義が希薄になるとともに、ひいては公共の利益を大きく害することになるためです。

このように、上記3要件は、名誉権と表現の自由のバランスを調整するために定められた要件であり、上記3要件をすべて満たす場合には、名誉権よりも表現の自由を優先させるべきという価値判断です。

公共性とは

公共性とは、「多くの人にとって利害関係がある事実であること」という意味です。

例えば、政治家の汚職に関する事実などが典型例ですが、裁判例では、政治家や官僚などの公的な職業の場合だけでなく、宗教団体や大企業の役員など社会的な影響力が強い人物に関する事実についても公共性を認めています。また、中小企業などであっても営業活動等の対外的活動に関する事実については公共性を認める傾向にあります。

公益性とは

公益性とは、「当該表現が公益を図る目的でなされたこと」という意味です。

裁判例では、公益以外の目的が併存する場合でも、公益が主目的であれば公益性が認められていますが、単に相手を貶めたり、嫌がらせをする目的では公益性は認められません。

なお、公益性は、表現者の主観の問題であるため、公益性が認められるか否かは、表現方法などの客観的な事情から判断するしかありません。そのため、仮に本当に公益目的であったとしても、表現方法などによっては公益性が否定される可能性もあるため、注意が必要です。

真実性または相当性

真実性とは、「摘示した事実が真実である」という意味です。摘示した事実の細部まですべてが真実である必要はなく、そのうち重要な部分について真実であれば認められます。

相当性とは、「摘示された事実が誤りであっても、事実を摘示した人が真実であると誤信をしたことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由がある」という意味です。

つまり、故意に嘘の事実を摘示すれば免責の余地はありませんが、誤解であった場合には免責の余地があるということです。

侮辱との違い

刑法231条では、侮辱罪について、次のように規定しています。

第231条(侮辱罪)
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

刑法(明治四十年法律第四十五号)

侮辱罪の成立要件は、公然性侮辱行為であり、「侮辱」とは、社会的評価を低下させることを意味します。
つまり、名誉毀損と侮辱の大きな違いは、事実を摘示するか否かという点です。

また、侮辱は、名誉毀損と異なり、例外的に免責されるケースが少ないため、注意しましょう。

まとめ

名誉毀損には、大きく分けて、民事上の名誉毀損と刑事上の名誉毀損があり、厳密には成立範囲や法的責任の内容や追及手段が異なります。もっとも、基本的には名誉毀損罪の成立要件に沿って考えれば問題ありません。

名誉毀損罪は、不特定または多数に向けて、特定の人物や団体の社会的評価を低下させるおそれのある事実を摘示した場合に成立します。しかし、公共の利害に関する事実であり、かつ、公益目的でした行為については、当該事実が真実であることが証明された場合、例外的に名誉毀損は成立しません。

以上、名誉毀損の成立要件について詳しく解説しましたが、実際には判断が難しいケースも少なくあリません。また、特にインターネット上の名誉毀損については、法律だけでなく、インターネットに関する知識もとても重要です。

したがって、名誉毀損に関して早期に解決を望む場合には、インターネット問題に詳しい弁護士になるべく早く相談することをおすすめします。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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