名誉感情侵害とは?名誉毀損との違いや判断基準について弁護士が解説

風評被害対策法務

名誉毀損と似た概念として、「名誉感情侵害」というものがあるのをご存知ですか?

インターネット上の誹謗中傷に対して、名誉毀損が成立しない場合でも、名誉感情侵害であれば損害賠償請求が可能な場合があります。

そこで本記事では、名誉感情侵害と名誉毀損との違いや判断基準などについて詳しく解説します。

名誉感情侵害とは

名誉感情侵害とは、その名のとおり、名誉感情を侵害する行為です。刑法上に規定はないため犯罪ではありませんが、民事上の不法行為として損害賠償請求が可能な場合があります。

名誉毀損との違い

名誉毀損とは、名誉権を侵害する行為であり、刑法230条に規定された犯罪です。そのため、まずは犯罪であるか否かという点で大きな違いがあります。

名誉毀損は、成立要件を満たす場合、基本的に民事上の不法行為にも該当しますが、以下の違いから、不法行為に該当するといえるための要件に違いがあります。

なお、名誉毀損の成立要件については、下記記事で詳しく解説しています。

「名誉」の意味

まず、名誉毀損の「名誉」と名誉感情侵害の「名誉感情」では、それぞれの意味が異なります

名誉毀損における「名誉」とは、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を意味する「外部的名誉」です。したがって、名誉毀損が成立するためには、社会的評価の低下が必要となります。

一方で、名誉感情侵害における「名誉感情」とは、人が自分自身の人格的評価について有する主観的な評価を意味する「主観的名誉」です。したがって、社会的評価が低下するとまでは認められなくても、プライドや自尊心が傷つけられたと言えれば、名誉感情侵害は成立します

  • 名誉毀損の「名誉」=外部的名誉(人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価)
  • 名誉感情侵害の「名誉感情」=主観的名誉(人が自分自身の人格的評価について有する主観的な評価)

公然性の要否

名誉毀損の成立には、公然性(不特定または多数の者が認識しうる状態での事実摘示)が必要ですが、名誉感情侵害の場合は、対象者のみが認識すれば成立します。逆に言えば、対象者が認識していなければ、名誉感情侵害は成立しません。前記のとおり、名誉感情は、被害者自身の主観の問題であるためです。

名誉回復措置の可否

名誉毀損が成立する場合、損害賠償請求とは別に、謝罪広告などの名誉回復措置を裁判所に請求できる制度がありますが、名誉感情侵害では名誉回復措置の請求はできません。これも、主観的評価の問題である名誉感情侵害は、社会的評価の回復を目的とする名誉回復措置とは馴染まないためです。

侮辱との違い

名誉感情侵害は「侮辱」と表現されることもありますが、侮辱罪における「侮辱」とは意味が異なる点には注意が必要です。

侮辱罪における「侮辱」とは、「社会的評価を低下させること」を意味します。

これは、侮辱罪が、外部的名誉の保護を目的とした規定であるためです。

一方で、前記のとおり、名誉感情侵害は主観的名誉を保護するものであることから、名誉感情侵害の文脈で言及される「侮辱」は、社会的評価の低下を伴わないものも含まれます

ただし、厳密な定義があるわけではありません。したがって、最終的に当該表現が違法であるか否かは、判例が示す判断基準に沿って判断するしかありません。

つまり、

  • 民事上の「侮辱」=名誉感情侵害=主観的名誉の侵害
  • 刑事上の「侮辱」=(事実を伴わない)社会的評価の低下=(事実を伴わない)外部的名誉の侵害

という整理になります。

名誉感情侵害の違法性判断基準

判例では、名誉感情侵害が違法であるか否かの判断基準について、次のように判示しています。

「…『気違い』といった侮辱的な表現を含むとはいえ,被上告人の人格的価値に関し,具体的事実を摘示してその社会的評価を低下させるものではなく,被上告人の名誉感情を侵害するにとどまるものであって,これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて被上告人の人格的利益の侵害が認められ得るにすぎない。」

最高裁平成22年4月13日判決(民集64巻3号758頁)

つまり、名誉感情侵害のすべてが違法になるのではなく、「社会通念上許される限度を超える侮辱行為」であると認められて初めて違法になる、ということです。

「社会通念上許される限度を超える侮辱行為」とは

実際にどのような場合であれば「社会通念上許される限度を超える侮辱行為」であるのかは、事案によって様々な事情が考慮された上で認定されています。

以下では、裁判例をもとに、どのような事情が考慮されるのかを解説します。

「死ね」などの表現

多くの裁判例において、「死ね」という表現は、「人格を完全に否定する著しく不適切な表現」であるとして、社会通念上許容される限度を超えた侮辱に当たるとされています。

このように、文言そのものが強い侮蔑性を有する場合には、その文言単体の記載で違法性を認めるケースが多いです。

なお、「氏ね」や「タヒね」などのネットスラングに関しても、裁判例では「死ね」を意味するものとして柔軟に解釈する傾向にあるため、注意しましょう。

「キモい」などの表現

裁判例では、「キモい」という記載について、「侮蔑的な意味合いは有するものの、単なる揶揄として使用されることもある表現であるほか、前後の脈絡なくそれぞれ一回ずつ投稿されたにとどまるものであり、また、特段の根拠も示すことなく、投稿者の意見ないし感想として述べられているに過ぎないもの」として、社会通念上許される限度を超えて原告の名誉感情を侵害するものではないとされています。

つまり、文言そのものに強い侮蔑性がない場合であっても、根拠や具体性を伴う場合や複数回繰り返し述べられた場合などは、違法となるケースがあるということです。

その他の判断要素

上記裁判例は、いずれも主に表現内容に着目して判断したものですが、当該表現が社会通念上許される限度を超えるか否かは、表現内容だけでなく、その方法や場所、前後の文脈や経緯、当事者の関係性や年齢、職業、動機や意図など様々な事情を総合的に考慮して判断されます。

まとめ

名誉感情侵害とは、名誉感情(主観的名誉)を侵害する行為のことであり、名誉権(外部的名誉)の侵害である名誉毀損とは、社会的評価の低下を伴わない場合であっても民事上の不法行為が成立しうる点で異なります。

しかし、名誉感情侵害の全てが違法になるわけではなく、当該表現が社会通念上許される限度を超えた侮辱行為であると認められて初めて違法となります。

社会通念上許される限度を超えた侮辱行為であるか否かは、表現内容だけでなく、その方法や場所、前後の文脈や経緯、当事者の関係性や年齢、職業、動機や意図など様々な事情を総合的に考慮して判断されます。

以上のように、名誉感情侵害の事案では、考慮要素が事案によって様々であり、判断が難しいケースも少なくありません。したがって、判断に悩んだら、インターネット問題に詳しい弁護士になるべく早く相談することをおすすめします。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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