誹謗中傷の損害賠償請求の流れとは?示談交渉から裁判後までを総まとめ

風評被害対策法務

インターネット上で心ない誹謗中傷を受け、泣き寝入りしていませんか?名誉毀損や侮辱罪にあたる場合、被害者は加害者に対して損害賠償請求を行うことができます。

この記事では、インターネット誹謗中傷の損害賠償請求の流れを、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求や示談交渉、訴訟、強制執行まで、具体的に解説していきます。泣き寝入りせずに、適切な手段で権利を回復しましょう。

インターネット誹謗中傷とは?

インターネット上の誹謗中傷とは、インターネット上の掲示板やSNS、ブログなどを通じて、特定の個人に対して行われる、事実無根の情報を拡散したり、悪口を書き込んだり、名誉を傷つけるような行為を指します。これらの行為は、書き込んだ内容によっては名誉毀損罪や侮辱罪などの犯罪に該当する可能性があり、また、プライバシー権侵害で民事上の責任を問われる可能性もあります。

具体的には、以下のような行為がインターネット上の誹謗中傷に該当する可能性があります。

行為内容
事実無根の情報の拡散真実ではない情報を、あたかも事実であるかのように書き込む行為「Aさんは会社のお金を横領した」「Bさんは浮気をしている」など
悪口の書き込み特定の個人に対する罵詈雑言や、社会的に評価を低下させるような書き込み行為「Cさんは性格が悪い」「Dさんは仕事ができない」など
名誉を傷つけるような行為特定の個人の社会的評価を低下させるような写真や動画の投稿、個人情報の公開などEさんの容姿を一方的に貶める画像を投稿する、Fさんの過去の犯罪歴を暴露するなど

これらの行為は、たとえ匿名で行われたとしても、発信者情報開示請求などによって身元が特定され、法的責任を問われる可能性があります。インターネット上での発言は、一度拡散されると削除が難しく、被害が拡大する可能性も高いため、注意が必要です。

何が誹謗中傷に該当し、何は誹謗中傷に該当しないかの線引きについては、以下の記事でも解説をしていますので、参考までにご参照ください。

損害賠償請求の対象となる行為

名誉毀損

  • 公然と事実を摘示して人の名誉を毀損すること
  • 「Aさんは、顧客のお金を横領した。」のような投稿

侮辱(名誉感情侵害)

  • 人の名誉感情を侵害する表現
  • 「Aさんは、最低なクズ人間だ。」のような投稿

プライバシー権侵害

  • 個人の自宅住所や電話番号を、インターネット上に書き込む行為
  • 個人の恋愛関係や家族関係に関する情報を、インターネット上に書き込む行為

肖像権侵害

  • 個人の許可なく、その個人の顔写真をインターネット上に掲載する行為

損害賠償請求の流れ

インターネット上の誹謗中傷で精神的苦痛を受けた場合、被害者は加害者に対して、民事上の損害賠償請求をすることができます。ここでは、損害賠償請求の流れを、示談交渉から裁判後までを網羅して解説していきます。ただし、事案の状況によって、対応は大きく変わる可能性があることをご理解ください。

1. 加害者の特定

インターネット上の誹謗中傷では、匿名の書き込みなど、加害者が誰かわからないケースも少なくありません。損害賠償請求を行うためには、まず加害者を特定する必要があります

(1) プロバイダ責任制限法に基づく開示請求

プロバイダ責任制限法とは、インターネット上のサービスを提供するプロバイダ(接続業者)の責任について定めた法律です。この法律に基づき、被害者は、発信者情報開示請求を行うことができます。

開示請求が認められると、プロバイダから、書き込みを行った時間や使用されたIPアドレスなどの情報が開示されます。

2. 示談交渉

加害者が特定できたら、損害賠償請求訴訟を行う前に、示談交渉を行うのが一般的です。示談交渉とは、裁判によらずに、当事者間の話し合いで解決を目指す手続きです。

(1) 示談交渉のメリット

示談交渉には、以下のようなメリットがあります。

  • 時間と費用の節約:裁判を行うよりも、短期間で解決できる可能性が高く、弁護士費用などの費用も抑えられます。
  • 当事者間の秘密保持:示談の内容は当事者間だけの秘密として扱われるため、プライバシーを守ることができます。
  • 柔軟な解決:損害賠償金の支払いだけでなく、謝罪文の掲載など、状況に応じた柔軟な解決が可能です。

(2) 示談交渉の内容

示談交渉では、主に以下の内容について話し合います。

  • 損害賠償金の金額:精神的苦痛に対する慰謝料、弁護士費用などを考慮して決定します。
  • 謝罪文の掲載:ウェブサイトやSNSなどで謝罪文を掲載してもらうよう求めることができます。
  • 誹謗中傷情報の削除:該当する書き込みの削除を求めます。
  • 秘密保持:示談の内容を第三者に漏らさないことを約束します。

(3) 示談書の締結

示談の内容が決まったら、書面に残すことが重要です。示談書には、示談の内容、損害賠償金の金額、支払方法などを明確に記載します。また、示談が成立した日付、当事者の署名捺印も必要です。

3. 訴訟

示談交渉が成立しない場合、または示談に応じてもらえない場合は、訴訟を提起することになります。訴訟とは、裁判所に紛争の解決を求める手続きです。

(1) 訴状の提出

訴訟を起こすためには、まず裁判所に訴状を提出します。訴状には、原告(被害者)、被告(加害者)の氏名や住所、請求する損害賠償金の金額、請求の理由などを記載します。訴状は、被告の住所地を管轄する地方裁判所に提出します。

(2) 口頭弁論

訴状が受理されると、裁判所によって口頭弁論の期日が指定されます。口頭弁論とは、裁判官の前で、原告と被告がそれぞれ主張や証拠を提出する手続きです。口頭弁論は、原則として公開で行われます。

(3) 判決

口頭弁論を経て、最終的に裁判所から判決が言い渡されます。判決には、原告の請求が認められるかどうか、認められる場合は損害賠償金の金額などが記載されます。判決に不服がある場合は、一定期間内に控訴することができます。

4. 財産調査

裁判で勝訴判決が出ても、加害者が任意に損害賠償金を支払わない場合は、強制執行の手続が必要になります。強制執行を行うためには、まず加害者の財産を調査する必要があります。財産調査は、裁判所に申し立てることで行うことができます。

5. 強制執行

財産調査の結果、加害者に財産があることが判明した場合、裁判所に強制執行を申し立てます。強制執行には、以下のような種類があります。

  • 不動産執行:加害者が所有する不動産を差し押さえ、競売にかけて換金する手続きです。
  • 動産執行:加害者が所有する自動車や貴金属などの動産を差し押さえ、競売にかけて換金する手続きです。
  • 債権執行:加害者が第三者に対して持っている債権を差し押さえ、債務者に直接支払いを求める手続きです。

強制執行の手続きは、複雑で時間と費用がかかる場合もあるため、弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士に依頼するメリット

インターネット上の誹謗中傷の損害賠償請求は、法律や手続きが複雑なため、弁護士に依頼するメリットが大きいと言えます。具体的には、以下のようなメリットがあります。

  1. 専門知識と経験
    弁護士は、法律の専門家として、インターネット上の誹謗中傷に関する豊富な知識と経験を持っています。そのため、法的観点から適切なアドバイスやサポートを受けることができます。
  2. 交渉力
    弁護士は、依頼者の代理人として、加害者との示談交渉や裁判手続きを行うことができます。弁護士に依頼することで、冷静かつ客観的な立場から交渉を進めることができます。
  3. 時間と労力の軽減
    損害賠償請求の手続きは、時間と労力がかかる作業です。弁護士に依頼することで、これらの負担を軽減し、他の重要なことに集中することができます。
  4. 精神的な負担軽減
    誹謗中傷被害は、精神的な苦痛を伴うものです。弁護士に依頼することで、法的問題を安心して任せられ、精神的な負担を軽減することができます。

弁護士費用はかかりますが、それ以上のメリットを得られる可能性があります。一人で抱え込まず、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

損害賠償請求で認められる金額の相場

インターネット上の誹謗中傷で受けた精神的苦痛に対して、どの程度の損害賠償が認められるのか、気になるところでしょう。損害賠償額は、ケースバイケースで判断されますが、いくつかの要素を考慮して算出されます。主な要素としては、以下の点が挙げられます。

損害賠償額算定の要素

  • 被害の内容・程度
    • 具体的にどのような誹謗中傷を受けたのか、その内容や程度は重要な要素となります。名誉毀損の程度が深刻であるほど、損害賠償額は高額になる傾向があります。
    • 例えば、社会的な評価に大きな影響を与える嘘の情報を拡散された場合や、社会的な評価を低下の程度が結果的に著しいものであった場合などは、高額な損害賠償が認められる可能性があります。
  • 期間・回数・拡散範囲
    • 誹謗中傷が、どれだけの期間にわたって行われたのか、何回繰り返されたのか、また、どれだけの範囲に拡散されたのかによって、損害賠償額は大きく変わります。
    • 長期間にわたり、執拗に誹謗中傷を繰り返したり、不特定多数の人が閲覧できるようなサイトに書き込まれた場合には、高額な損害賠償が認められる可能性があります。
  • 被害者の社会的地位
    • 被害者が芸能人や公職者など、社会的に高い地位にある場合には、名誉毀損による社会的評価の低下がより大きくなる可能性があるため、損害賠償額が高額になる傾向があります。
  • 慰謝料請求の慣行
    • 過去の裁判例などを参考に、慰謝料請求の慣行を考慮して損害賠償額が決定されます。
    • 過去の判例では、インターネット上の誹謗中傷による損害賠償額は数十万円程度で認められることが多いようです。ただし、これはあくまで一般的な傾向であり、具体的な事案によって金額は大きく異なります。

適切な損害賠償額算定のために弁護士に相談を

上記のように、インターネット上の誹謗中傷における損害賠償額は、様々な要素を考慮して決定されます。そのため、ご自身のケースで適切な損害賠償額を算定するためには、弁護士に相談し、専門的なアドバイスを受けることが重要です。弁護士は、過去の判例や法律に基づいて、あなたのケースにおける妥当な損害賠償額を算定し、交渉や訴訟をサポートします。

まとめ

インターネット上の誹謗中傷は、名誉毀損罪や侮辱罪、プライバシー権侵害として、損害賠償請求の対象となります。泣き寝ねいりせず、適切な手段を講じることが大切です。被害に遭ったら、まずは証拠を保全し、弁護士に相談しましょう。示談交渉や訴訟手続きなど、法的専門知識に基づいたサポートを受けることで、スムーズな解決を目指せます。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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