誹謗中傷について法律はどのように規定している?関係する法律とその内容を紹介

風評被害対策法務

インターネット上で誹謗中傷を受け、深刻な悩みを抱えている方は少なくありません。

この記事では、プロバイダ責任制限法の概要や発信者情報開示請求の手順、開示請求できる情報の種類などを詳しく解説します。

また、誹謗中傷に関連する法律として、刑法上の名誉毀損罪・侮辱罪、民事上の損害賠償請求についても分かりやすく解説します。

インターネット上の誹謗中傷とは

インターネット上の誹謗中傷とは、インターネットを通じて、他人の名誉や信用を傷つけるような情報を発信する行為を指します。具体的には、掲示板、SNS、ブログ、レビューサイトなど、あらゆるオンラインプラットフォームが舞台となりえます。匿名性が高いインターネットの特徴から、加害者特定が難しいケースも多く、被害者は深刻な精神的苦痛を受ける可能性があります。

誹謗中傷については下記の記事でも詳しく解説しています。

誹謗中傷が法律でどのように規定されているのか、刑法上、民法上の観点からみていきましょう。

刑法上の規定|名誉毀損罪・侮辱罪

インターネット上で他人を誹謗中傷した場合、刑法上の名誉毀損罪や侮辱罪に問われる可能性があります。これらの罪は、表現の自由と個人の名誉を守る権利のバランスを取るために重要な役割を果たしています。名誉毀損罪と侮辱罪は、どちらも人の名誉を侵害する犯罪ですが、保護される法益や構成要件に違いがあります。

名誉毀損罪についての法律の規定

名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立します。「公然」とは、不特定または多数人に認識される可能性のある状態を指します。「事実の摘示」とは、具体的な事実を言い表すことを意味し、単なる意見や評価は含まれません。「名誉を毀損」とは、社会的な評価を低下させることを指します。真実であるか否かは問われませんが、真実であると証明でき、かつ公共の利害に関する事実に該当する場合は、違法性が阻却されます。

真実性の証明責任は被告人にあり、証明が難しいため、真実であっても名誉毀損罪が成立する可能性は否定できません。

第二百三十条(名誉毀損)

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
(略)

刑法(明治四十年法律第四十五号)第230条

刑法上の名誉毀損罪の要件については以下の法律記事でも詳しく解説していますので、ご参照下さい。

侮辱罪についての法律の規定

侮辱罪は、事実の摘示を伴わず、公然と人を侮辱した場合に成立します。「侮辱」とは、人の社会的評価を低下させるような軽蔑的な表現行為を指します。事実の摘示は必要ありません。例えば、相手を罵倒したり、嘲笑したりする行為が該当します。ただし、正当な業務行為や正当防衛に該当する場合は、違法性が阻却されます。

第二百三十一条(侮辱)
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

刑法(明治四十年法律第四十五号)第231条

親告罪であるということ

名誉毀損罪と侮辱罪は親告罪です。親告罪とは、被害者またはその法定代理人が告訴しなければ、検察官が公訴を提起できない犯罪を指します。告訴期間は、犯罪を知った日から6ヶ月以内です。告訴状は、加害者の住所地を管轄する警察署または検察庁に提出します。

第二百三十二条(親告罪)
この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
(略)

刑法(明治四十年法律第四十五号)第232条

刑法上の侮辱罪の要件については以下の法律記事の中でも触れていますので、ご参照下さい。

刑法上規定された誹謗中傷まとめ

犯罪保護法益構成要件親告罪
名誉毀損罪外部的名誉公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損する行為
侮辱罪内部的名誉・人格の尊厳公然と人を侮辱する行為

罰則に関する規定(法定刑)

名誉毀損罪の法定刑は、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。侮辱罪の法定刑は、1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。実際の量刑は、裁判所が事件の具体的な状況を考慮して決定します。インターネット上の誹謗中傷事件では、損害の程度や態様、反省の有無などが考慮されます。 初犯の場合、罰金刑で済むケースが多いですが、悪質な場合には懲役刑が科されることもあります。執行猶予が付く場合もあります。

示談が成立した場合、告訴が取り下げられ、刑事手続きは終了します。示談の内容には、謝罪、損害賠償金の支払い、再発防止策などが含まれることが多いです。示談交渉は弁護士に依頼するのが一般的です。

民事上の規定|損害賠償請求

民事上では、「誹謗中傷」となる行為について、明文の規定はありません

インターネット上の誹謗中傷で精神的苦痛を受けた場合には、誹謗中傷以外の違法な方法で加害行為を受けた場合と同様、「不法行為」(民法709条、710条)が生じたとして、加害者に対して民事上の損害賠償請求を行うことができます

損害賠償請求では、主に慰謝料の支払いを求めることになります。

第七百九条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

第七百十条(財産以外の損害の賠償)
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

民法(明治二十九年法律第八十九号)

損害賠償請求できる内容

誹謗中傷によって受けた損害には、誹謗中傷によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料、誹謗中傷が原因で仕事を失った場合の逸失利益や、弁護士費用などが該当します。

内容具体例
慰謝料誹謗中傷による精神的苦痛に対する賠償
逸失利益誹謗中傷を理由に解雇された場合の将来得られるはずだった収入の損失
弁護士費用損害賠償請求のために弁護士に依頼した場合の費用
治療費誹謗中傷によって精神疾患を発症し、治療が必要となった場合の費用

慰謝料の相場

誹謗中傷による慰謝料の相場は、内容の悪質性拡散の範囲期間被害者の精神的苦痛の程度など様々な要素を総合的に考慮して決定されます。一般的には、数十万円から数百万円程度とされています。

立証責任について

民事訴訟では、被害者側に立証責任があります。 つまり、誹謗中傷の事実、損害の発生、そして誹謗中傷と損害との因果関係を、被害者側が証明しなければなりません。そのため、誹謗中傷を受けた場合は、スクリーンショットなどを用いて証拠を保全することが非常に重要です。 また、誹謗中傷と精神的苦痛との因果関係を証明するために、医師の診断書を取得することも有効です。

誹謗中傷の損害賠償請求については下記の記事で詳しく解説しています。

民事上の損害賠償請求を実現するための法律|プロバイダ責任制限法

インターネット上で誹謗中傷を受けた場合、加害者を特定するために重要な役割を果たすのがプロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求です。

プロバイダ責任制限法の概要

プロバイダ責任制限法は、誹謗中傷について規定した法律というわけではないですが、インターネットサービスプロバイダ(ISP)などの特定電気通信役務提供者の損害賠償責任を制限する代わりに、権利侵害情報の発信者情報の開示を義務付ける法律です。

実際に誹謗中傷がされた場合には、この法律により、被害者は一定の条件を満たせば、ISPに対して発信者情報(氏名、住所、メールアドレスなど)の開示を請求できます。プロバイダ責任制限法は、インターネット上の表現の自由と権利侵害救済のバランスを図ることを目的としています

第一条(趣旨)
この法律は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示を請求する権利について定めるとともに、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続に関し必要な事項を定めるものとする。

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)

開示請求できる情報の種類

開示請求できる情報は、以下の通りです。

情報の種類内容
氏名発信者の氏名または名称
住所発信者の住所
電話番号発信者の電話番号
メールアドレス発信者のメールアドレス
IPアドレス発信者のIPアドレス
書き込み日時誹謗中傷の書き込み日時

ただし、プライバシー保護の観点から、すべての情報が開示されるわけではありません。裁判所は、開示の必要性とプライバシー保護のバランスを考慮して、開示する情報の範囲を決定します。

開示請求については以下の法律記事で詳しく解説していますので、こちらをご参照下さい。

発信者情報開示請求以外の対処法

発信者情報開示請求は、誹謗中傷者を特定するための有効な手段ですが、時間や費用がかかる場合もあります。また、必ずしも開示が認められるとは限りません。そのため、発信者情報開示請求以外の対処法も検討することが重要です。ここでは、発信者情報開示請求以外にどのような対処法があるのか、具体的に解説します。

サイト管理者への削除依頼(法律に規定なし)

誹謗中傷の書き込みが掲示板やブログ、SNSなど特定のウェブサイト上にある場合は、そのサイトの管理者に削除を依頼する方法があります。

ただし、削除請求については法律上に根拠規定はありません

多くのサイトでは、利用規約で誹謗中傷を禁止しており、違反している書き込みに対しては削除対応を行っています。削除依頼は、各サイトに設置されている問い合わせフォームやメールアドレスを通じて行うのが一般的です。依頼する際には、誹謗中傷にあたる具体的な書き込みの内容とURLを明確に示すことが重要です。迅速な対応のためにも、スクリーンショットなどの証拠を添付することも有効です。

削除依頼のメリット・デメリット

メリットデメリット
発信者情報開示請求に比べて、比較的迅速かつ低コストで対応できる。サイト管理者が削除依頼に応じない場合もある。
手続きが比較的簡単である。発信者の特定には繋がらない。

検索エンジンからの削除依頼(法律に根拠なし)

誹謗中傷の情報がGoogleなどの検索エンジンの検索結果に表示されている場合、検索エンジンに対して削除依頼を行うことができます。

ただし、検索エンジンからの削除依頼についても、法律の規定には根拠がありません

検索エンジンは、プライバシー侵害や名誉毀損にあたる情報が表示されないよう、一定の基準に基づいて削除要請を受け付けています。ただし、すべての削除依頼が認められるわけではなく、検索エンジンの判断によって削除の可否が決定されます。 削除依頼を行う際には、検索結果に表示されている具体的なURLと、それがなぜ削除されるべきかを明確に説明する必要があります。Googleの場合は、「法的トラブルシューター」から手続きを進めることができます。

削除依頼のメリット・デメリット

メリットデメリット
検索結果から情報が削除されれば、多くの人がその情報にアクセスできなくなる。検索エンジンが削除依頼に応じない場合もある。
情報の発信元自体を削除できなくても、検索結果から見えなくすることで拡散を防げる可能性がある。発信者の特定には繋がらない。
元の情報自体が削除されるわけではないため、URLを直接知っている人はアクセスできてしまう。

これらの方法は、発信者情報開示請求と並行して行うことも可能です。状況に応じて適切な対処法を選択し、あるいは組み合わせることで、より効果的に誹謗中傷に対処することができます。

まとめ

インターネット上の誹謗中傷は、名誉毀損罪や侮辱罪といった刑法に触れる可能性があり、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求を通じて、加害者を特定し、損害賠償請求などの法的措置を取ることが可能です。

刑事告訴や民事上の損害賠償請求をする際は構成要件を確認したり、しっかりと証拠をそろえる必要もあります。

早めの対応が、被害の拡大を防ぎ、適切な解決につながりますので、早めに専門家に相談することが重要です。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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