企業が新規事業を立ち上げる際には、法令に抵触してしまうリスクが生じます。
法的な不確実性をなくし、安心して事業を進めるためにも、グレーゾーン解消制度について理解しておくことが重要です。
法的に曖昧な部分を放置すると、新規事業が法に抵触してしまい、責任を問われる可能性もあります。このページでは、制度の概要や申請手順、活用する際のメリットとデメリットなどについてお伝えします。
グレーゾーン解消制度
グレーゾーン解消制度とは、企業が新しいサービスや事業を始める際に、規制の適用有無を前もって確認できる仕組みです。
この制度は産業競争力強化法に基づいて導入されました。
新しいビジネスを始める際に、規制対象となるか、取得すべき許認可があるかなど、多くの確認項目があります。以前は、企業が自ら規制所管省庁に照会する必要があり、大変手間がかかりました。この制度の導入により、担当省庁が照会作業を行い、企業はスムーズに事業を進められるようになりました。
不明点がある場合には、グレーゾーン解消制度を活用して、規制の適用有無を事前に確認し、新規事業を安心してスタートさせることが重要です。
グレーゾーン解消制度の申請 4つのステップ
グレーゾーン解消制度活用の申請手続きは、以下の4つのステップで進めます。
1.事前相談
グレーゾーン解消制度を活用する際、事前相談の期間が非常に重要です。
相談期間が延びることもありますが、サポートを受けて調整が進められます。
事前相談は事業所管省庁が窓口となり、担当官庁が企業と規制所管省庁の間に立って調整を進めます。場合によって、事前相談期間が1年以上かかることもありますが、最終的な回答を得られるため、安心して新規事業を進められます。
サポートを円滑に受けるためには、確認事項を整理してから事前相談を行うと良いでしょう。
2.照会書を作成
次は、現行規制の解釈や適用に関する照会書を作成します。
照会書は、「新事業活動に関する規制について規定する法律及び法律に基づく命令の規定に係る照会書(様式第九)」を使用します。
経済産業省のHPに、「照会書のテンプレート」と「記入例」が用意されているので、ダウンロードして使用しましょう。
グレーゾーン解消制度、新事業特例制度及び規制のサンドボックス制度の様式
3.照会書を提出し回答を待つ
作成した照会書は、担当省庁へ提出し回答を待ちます。
各担当省庁で、記載内容が規制対象かどうかの判断が行われます。複数の官庁にまたがる照会の場合でも、担当省庁が窓口となり、他の官庁に照会を行います。
通常、回答は1カ月以内に行われます。1カ月以上経っても理由の通知がない場合は、事業所管省庁へ問い合わせましょう。
4.主務大臣の回答が伝達される
主務大臣の回答は、担当省庁を通じて企業に伝達されます。
産業競争力強化法第7条第2項では、制度による回答結果は公表することになっていますが、照会者の同意を得た場合に限ります。また、公表される場合も、照会者やビジネスの具体的内容は、抽象化や黒塗り、省略されることが多いです。
第七条(解釈及び適用の確認)
産業競争力強化法(平成二十五年法律第九十八号)
新技術等実証又は新事業活動を実施しようとする者は、主務省令で定めるところにより、主務大臣に対し、その実施しようとする新技術等実証又は新事業活動及びこれに関連する事業活動(以下この項及び第十四条において「新事業活動等」という。)に関する規制について規定する法律及び法律に基づく命令(告示を含む。以下この節及び第百四十七条第一項において同じ。)の規定の解釈並びに当該新技術等実証又は新事業活動等に対するこれらの規定の適用の有無について、その確認を求めることができる。
2 前項の規定による求めを受けた主務大臣は、遅滞なく、当該求めをした者に理由を付して回答するとともに、その回答の内容を公表するものとする。
公開された情報は、経済産業省ページの「規制のサンドボックス制度、グレーゾーン解消制度及び新事業特例制度の活用実績」から閲覧できます。
グレーゾーン解消制度活用の4つのメリット
担当大臣から適切なアドバイスが受けられる
メリットの1つ目は、事業所管省庁から適切なアドバイスが受けられる点です。
例えば、不明点や疑問点があっても、企業側が直接確認する必要はありません。複数の省庁が関わる場合でも、どの省庁からでもアドバイスを受けられます。
例えば、デジタルサービスを開始しようとする企業が、IT分野に詳しくなくても、経済産業省や総務省など、該当する省庁に直接相談できます。事業所管省庁を通じて、規制所管省庁に法規制を確認できるため、企業にとって大きなサポートとなるでしょう。
グレーゾーン解消制度の活用で、適切なアドバイスを受けられ、安心して新規事業に取り組める環境が整います。
全ての法令が対象となる
メリットの2つ目は、全ての法令が対象である点です。
どの業界のビジネスでも活用でき、確認対象の法令に制限がないのが特徴です。
例えば、国や地方自治体の行政機関との電子契約サービスであれば、「デジタル庁」「総務省」「法務省」「財務省」など、各省庁が施行する法令を確認できます。また、金融業であれば、金融商品取引法や出資法について「金融庁」や「財務省」へ一度に照会が可能です。
グレーゾーン解消制度は、多岐にわたるビジネス分野に対応し、関連する法令を幅広く確認できる強力なツールです。
顧客に対してのアピールになる
メリットの3つ目は、顧客に対し事業が法律を守っていることをアピールできる点です。
新規事業が法規制の対象外であることを証明でき、顧客に安心感を与えられます。多くの企業がこの結果を自社のウェブサイトで公表し、顧客や見込み顧客に広め、信頼性向上に繋げています。実際にメディアで取り上げられた事例もあり、PR効果を生まれることもあります。
より多くの人に新規事業やサービスを知ってもらう良い機会になるでしょう。
ビジネスチャンスが広がる
メリットの4つ目は、ビジネスチャンスが広がる点です。
他の企業より先に、積極的に事業を展開できます。
企業が主導して改革を進め、規制の適用を受けると判断された場合でも、「企業実証特例制度」を活用して特例措置を求めることが可能です。経済産業省では、個別の申請への回答内容を抽象化し、ガイドラインとして公表しています。これにより、関連法令の解釈を確認できます。
この制度を活用すれば、企業は規制改革を自ら推進し、ビジネスチャンスを広げられます。さらに、他の制度やガイドラインを利用することで、事業展開を加速できるでしょう。
グレーゾーン解消制度活用 2つのデメリット
照会書に記載された内容のみで判断される
デメリットの1つ目は、照会書に記載された内容でのみ判断される点です。
照会書に記載された情報に基づいて判断をするからです。
例えば、ある企業が新しいオンラインプラットフォームを立ち上げる際、プライバシー保護に関する規制について照会書を提出し、その内容に基づいて適用範囲の確認を受けたとします。しかし、その後、プラットフォームに電子決済機能を追加する場合、当初の照会書には記載されていなかったため、決済関連の規制について新たに対応が必要になります。もしこの追加機能が適切に確認されないまま運営を続けた場合、適用範囲外として保護を受けられなくなる可能性が高くなります。
このように当初の提出内容に基づかない活動は保護を受けられなくなる可能性があるので注意が必要です。照会書にて提供する情報が前提事実として判断されることを周知しておきましょう。
法令改正の影響を受ける場合がある
デメリットの2つ目は、将来的に法令改正の影響を受ける可能性がある点です。
法令は必要に応じて改正されるからです。
事業開始時に合法であった活動が、数年後の法令改正により規制対象になる可能性があります。例えば、ドローンを使ったサービスが、当初は規制対象外でしたが、後に航空法の改正により新たな規制が適用されるようになったケースがあります。このようなリスクを避けるためには、法令改正の動向を常にチェックし、必要に応じて照会書の再提出を検討する必要があります。
今後の改正を見据えた上で、定期的に法令を確認しておきましょう。
気をつけたいグレーゾーン解消制度の類似制度
新事業特例制度
新事業特例制度は、特別なルールを提案し、企業ごとに特例を整備してもらうことで、新しい事業を始められる制度です。
この制度を活用するには、生産性の向上や新たな需要の獲得が期待できるかが重要です。各ルールには達成すべき目的があるため、企業はその目的を達成する別の方法を提案する必要があります。
例えば、規制の目的を深く理解した上で、説得力のある特例措置を提案するためには、弁護士に相談するのも効果的です。特例措置を得て事業を開始すれば、市場での先行者利益を得るチャンスが生まれます。
「特別なルールを作って、新たなビジネスを始めたい」と考えるなら、この制度を活用するのが良いでしょう。目的を理解し、効果的な提案をすることで、成功の可能性が高まります。
規制のサンドボックス制度
規制のサンドボックス制度は、革新的技術を試しながら事業化を進めるための有効な手段です。
この制度により、企業が実施した実証実験の結果をもとに、政府が規制を見直したり変更したりします。AIやドローンなどの革新的技術を使ったビジネスは、未だ規制が追いつかず、事業化が難しいことが多いです。この制度なら規制を一時的に緩和して、ビジネスを進められます。
新しい技術を試しながら、規制の見直しが行われるため、ビジネスの可能性が広がります。「まず技術や事業を試してみて、その結果をもとに規制を変えたり、事業を進めていきたい」と考えている場合、この制度を活用すると良いでしょう。
まとめ
このページでは、グレーゾーン解消制度の概要や、申請時のメリット・デメリットについてお伝えしました。
グレーゾーン解消制度は、法令や規制の曖昧な部分を明確にし、不透明な点を残したまま新事業を進めるリスクを軽減できます。
また、この制度を活用することで、事業を効率的に進めることが可能です。利用が適切かどうか迷っている方は、まず弁護士に相談してみてください。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。