令和6年11月1日から「フリーランス法」と呼ばれる法律が新しく施行されます。
本記事では、このフリーランス法には、どのような規制を含むのか、その概要から具体的な変更点、フリーランスやクライアントにとってどのような影響があるのかなどを詳しく解説し、誤解を避けるための注意点や罰則についても解説します。
フリーランス法とは何か
フリーランス法は、その名の通り、フリーランスとして働く個人を対象にした法律です。この法律は特に、業務委託の形で企業と契約するフリーランス労働者の労働条件や契約に関する規制を詳しく定めており、フリーランスが安心して働くことができる環境を整備することを主眼としています。
フリーランス法概要
正式名称 | 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号) |
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成立日 | 令和5年4月28日 |
施行日 | 令和6年11月1日 |
フリーランスを取り巻く背景
近年、フリーランスの働き方は、その柔軟性と自身のスキルを活かせる点から多くの人に支持されています。クラウドソーシングサービス『ランサーズ』が発表したフリーランス実態調査によると、日本のフリーランス人口は2021年には1,600万人を超えており、労働市場における重要な存在となっています。
しかし、フリーランスは雇用契約ではないため、従来の労働法に基づく保護が限定的であり、報酬の不払いや不当な契約といったトラブルが起こることもあります。このため、フリーランス法の制定が議論されるようになり、より安全で信頼できる働き方をサポートするためのフレームワークが必要とされてきました。
フリーランス法制定の目的・従来の問題点
フリーランス法の目的は、多様な働き方を尊重しつつ、フリーランスとして働く人々に対する法的保障を強化するところにあります。
従来、フリーランスの取引には以下のような問題点が生じていました。
- フリーランスは、発注者の従業員ではないので、労働法の適用はない
- 発注元とフリーランスとの間では、情報収集力・交渉力に大きな差があり、取引における力関係には格差がある
- しかし、下請法は、資本金一千万円以下の事業者とフリーランスとの取引には適用されない。
以上から、フリーランスの取引条件の適正化と就業環境の整備を目的としてフリーランス法が制定されました。
目的 | 内容 |
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取引条件の適正化 | 下請法の適用がない取引でも、力関係の格差を利用した不当な取引が生じないようルールを創設 |
就業環境の整備 | ハラスメント防止等の就業間家用整備の規制を創設 |
第一条(目的)
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)
この法律は、我が国における働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、特定受託事業者に業務委託をする事業者について、特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示を義務付ける等の措置を講ずることにより、特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
フリーランス法で何が変わるのか
フリーランス法の適用範囲
適用対象となる取引
フリーランス法の適用対象となるのは、「業務委託事業者」又は「特定業務委託事業者」から、「特定受託事業者」に対し、「業務委託」をした場合です。
それぞれの法律用語は以下のように定義されています。
「特定受託事業者」
フリーランス法の中では、「特定受託事業者」とは、業務委託の受託をする事業者で以下のいずれかに該当する者をいうと定義されています(フリーランス法2条1項)。
- 個人であって、従業員を使用しない者
- 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役またはこれらに準ずる者をいう)がなく、かつ、従業員を使用しない者
第二条(定義)
1 この法律において「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。一 個人であって、従業員を使用しないもの
二 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。第六項第二号において同じ。)がなく、かつ、従業員を使用しないもの(略)
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)
なお、この「特定受託事業者」が、いわゆる「フリーランス」を想定する者ですが、フリーランス法の条文上は、「フリーランス」や「フリーランス事業者」というような用語は登場しません。
これは、「フリーランス」という言葉が、一般に特定の組織に属さず個人で業務を行う方のこと全般をいうものの、この法律で保護対象となるのは、このような「フリーランス」全員ではなくこのうち事業者から業務委託を受けるフリーランスであるということを明確にするために、あえてこのような定義の仕方をされているとのことです(第211回国会衆議院内閣委員会第10号:三浦政府参考人発言)。
フリーランスは一般に特定の組織に属さず個人で業務を行う方のことをいうわけでございますけれども、今回の法案において保護対象となるフリーランスについては、フリーランス全体ということではなくて、このうち事業者から業務委託を受けるフリーランスであるということを明確にするために、フリーランスの名称についても特定受託事業者とするといったような点につきまして整理を行い、与党の了承も得て、本法案を国会に提出させていただいたというところでございます。
第211回国会衆議院内閣委員会第10号:三浦政府参考人発言
「業務委託事業者」「特定業務委託事業者」
フリーランス法の中では、「業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者をいうと定義されており、「特定業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者で以下のいずれかに該当する者をいうと定義されています(フリーランス法2条5項、6項)。
- 個人であって、従業員を使用する者
- 法人であって、二以上の役員があり、または従業員を使用する者
業務委託事業者からの業務委託か、特定業務委託事業者からの業務委託か、によって適用される条文が変わり、義務の範囲が変わります。
第二条(定義)
(略)
5 この法律において「業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者をいう。
6 この法律において「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。一 個人であって、従業員を使用するもの
二 法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの(略)
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)
「業務委託」
フリーランス法の中では、「業務委託」とは、事業者が他の事業者に以下のいずれか業務を依頼することをいうと定義されています(フリーランス法2条3項)。
- 物品の製造(加工を含む)又は情報成果物の作成を委託すること
- 役務の提供を委託すること
第二条(定義)
(略)
3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)
二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。
適用対象まとめ
以上をまとめると、フリーランス法の適用対象となる取引とは、以下の取引ということとなります。
- 「事業者」又は「従業員を使用する個人又は2名以上の役員がいるか従業員を使用する法人である事業者」から
- 従業員を使用しない個人又は2人以上の役員がおらず、従業員も使用していない法人に対して
- 物品の製造・加工、情報成果物の作成、役務の提供のいずれかを委託する取引
フリーランス法が定めている内容
フリーランス法は、フリーランスの取引条件の適正化と就業環境の整備の観点から、それぞれ以下の内容について定めています。
なお、フリーランス法の規定内容について、フリーランスへの依頼を行う事業者が具体的に行うべき対応については、以下の法律記事をご参照下さい。
フリーランス(特定受託事業者)の取引の適正化
取引条件の明示義務(フリーランス法3条)
業務委託事業者は、フリーランスに対し業務を委託した場合、フリーランス(特定受託業務従事者)の給付の内容、報酬の額等の取引条件を書面又は電磁的方法(メール等)で明示しなければならないものと定められました。
※主体が「業務委託事業者は」となっているので、特定業務委託事業者以外からの業務委託(例:フリーランスからフリーランスへの業務委託)でも取引条件の明示義務は適用されます。
明示しなければならない事項は以下のとおりです。
- 業務の内容
- 報酬の額
- ⽀払期⽇
- 発注事業者・フリーランス(特定受託業務従事者)の名称
- 業務委託をした⽇
- 給付を受領/役務提供を受ける日
- 給付を受領/役務提供を受ける場所
- (検査を⾏う場合)検査完了⽇
- (現⾦以外の⽅法で⽀払う場合)報酬の⽀払⽅法に関する必要事項
第三条(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)
業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならない。
第一条(法第三条第一項の明示)
1 業務委託事業者は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「法」という。)第三条第一項に規定する明示(以下単に「明示」という。)をするときは、次に掲げる事項を記載した書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供により、示さなければならない。一 業務委託事業者及び特定受託事業者の商号、氏名若しくは名称又は事業者別に付された番号、記号その他の符号であって業務委託事業者及び特定受託事業者を識別できるもの
二 業務委託(法第二条第三項に規定する業務委託をいう。以下同じ。)をした日
三 特定受託事業者の給付(法第二条第三項第二号の業務委託の場合は、提供される役務。第六号において同じ。)の内容
四 特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日(期間を定めるものにあっては、当該期間)
五 特定受託事業者の給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所
六 特定受託事業者の給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日
七 報酬の額及び支払期日
八 報酬の全部又は一部の支払につき手形を交付する場合は、その手形の金額及び満期
九 報酬の全部又は一部の支払につき、業務委託事業者、特定受託事業者及び金融機関の間の約定に基づき、特定受託事業者が債権譲渡担保方式(特定受託事業者が、報酬の額に相当する報酬債権を担保として、金融機関から当該報酬の額に相当する金銭の貸付けを受ける方式)又はファクタリング方式(特定受託事業者が、報酬の額に相当する報酬債権を金融機関に譲渡することにより、当該金融機関から当該報酬の額に相当する金銭の支払を受ける方式)若しくは併存的債務引受方式(特定受託事業者が、報酬の額に相当する報酬債務を業務委託事業者と共に負った金融機関から、当該報酬の額に相当する金銭の支払を受ける方式)により金融機関から当該報酬の額に相当する金銭の貸付け又は支払を受けることができることとする場合は、次に掲げる事項イ 当該金融機関の名称
ロ 当該金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとする額
ハ 当該報酬債権又は当該報酬債務の額に相当する金銭を当該金融機関に支払う期日十 報酬の全部又は一部の支払につき、業務委託事業者及び特定受託事業者が電子記録債権(電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子記録債権をいう。以下同じ。)の発生記録(電子記録債権法第十五条に規定する発生記録をいう。)をし又は譲渡記録(電子記録債権法第十七条に規定する譲渡記録をいう。)をする場合は、次に掲げる事項
イ 当該電子記録債権の額
ロ 電子記録債権法第十六条第一項第二号に規定する当該電子記録債権の支払期日十一 報酬の全部又は一部の支払につき、業務委託事業者が、資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第三十六条の二第一項に規定する第一種資金移動業を営む同法第二条第三項に規定する資金移動業者(以下単に「資金移動業者」という。)の第一種資金移動業に係る口座、同法第三十六条の二第二項に規定する第二種資金移動業を営む資金移動業者の第二種資金移動業に係る口座又は同条第三項に規定する第三種資金移動業を営む資金移動業者の第三種資金移動業に係る口座への資金移動を行う場合は、次に掲げる事項
イ 当該資金移動業者の名称
ロ 当該資金移動に係る額2 特定業務委託事業者は、法第四条第三項の再委託をする場合には、前項各号に掲げる事項のほか、第六条各号に掲げる事項の明示をすることができる。
公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則(公正取引委員会規則第三号)
3 第一項第七号の報酬の額について、具体的な金額の明示をすることが困難なやむを得ない事情がある場合には、報酬の具体的な金額を定めることとなる算定方法の明示をすることをもって足りる。
4 法第三条第一項ただし書の規定に基づき、業務委託をしたときに明示をしない事項(以下「未定事項」という。)がある場合には、未定事項以外の事項のほか、未定事項の内容が定められない理由及び未定事項の内容を定めることとなる予定期日の明示をしなければならない。
5 次条第一項第一号に掲げる方法による明示は、特定受託事業者の使用に係る通信端末機器等により受信した時に、当該特定受託事業者に到達したものとみなす。
報酬支払期日の設定・期日内の支払(フリーランス法4条)
報酬支払期日の設定ルール
特定業務委託事業者からの業務委託の場合、支払期日について、発注した物品等を受け取った⽇から数えて60⽇以内のできる限り早い⽇に報酬⽀払期⽇を設定し、期⽇内に報酬を⽀払わなければならないと定められました(フリーランス法4条1項)。
第四条(報酬の支払期日等)
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)
1 特定業務委託事業者が特定受託事業者に対し業務委託をした場合における報酬の支払期日は、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた日。次項において同じ。)から起算して六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。
(略)
そして、この義務に違反して、報酬支払期日が定められなかった場合には発注した物品等を受け取った⽇が、支払期日は定められたが、定め方が上記のルールに違反していた場合には、発注した物品等を受け取った⽇から数えて60⽇を経過する日が、支払期日とみなされます(フリーランス法4条2項)
再委託の場合の特別ルール
再委託である場合には、例外的に、発注元から支払いを受ける期日から 30 日以内(かつ、できる限り短い期間)に報酬支払期日を設定する義務が生じることとなります(フリーランス法4条3項)。
禁止行為(フリーランス法5条)
特定業務委託事業者からフリーランス(特定受託業務従事者)に対し、1ヶ月以上の業務委託をした場合、次の行為をしてはいけないものと定められました。
禁止行為1|受領拒否
フリーランス(特定受託業務従事者)の責めに帰すべき事由がないのに発注した物品等を受け取りを拒むことをいいます。
禁止行為2|報酬の減額
フリーランス(特定受託業務従事者)の責めに帰すべき事由がないのに報酬の減額をすることをいいます。
禁止行為3|返品
フリーランス(特定受託業務従事者)の責めに帰すべき事由がないのに発注した物品等の返品を行わせることをいいます。
禁止行為4|買いたたき
通常の相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めることをいいます。
禁止行為5|購⼊・利⽤強制
正当な理由がなく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制することをいいます。
禁止行為6|不当な経済上の利益の提供要請
自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることをいいます。
禁止行為7|不当な給付内容の変更・やり直し
フリーランス(特定受託業務従事者)の責めに帰すべき事由がないのに、依頼した業務の内容や発注した物品等の仕様を変更させ、またはやり直させることをいいます。
第五条(特定業務委託事業者の遵守事項)
1 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る。以下この条において同じ。)をした場合は、次に掲げる行為(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、第一号及び第三号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。一 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の受領を拒むこと。
二 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること。
三 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
四 特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること。
五 特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。2 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、次に掲げる行為をすることによって、特定受託事業者の利益を不当に害してはならない。
一 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)
二 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた後)に給付をやり直させること。
フリーランス(特定受託事業者)の就業環境の整備
募集情報の的確表示(フリーランス法12条)
特定業務委託事業者が、フリーランスの募集広告等を出す場合には、以下の事項について遵守することが定められました。
- 虚偽の表⽰や誤解を与える表⽰をしてはならないこと
- 内容を正確かつ最新のものに保たなければならないこと
育児介護等と業務の両⽴に対する配慮(フリーランス法13条)
特定業務委託事業者は、フリーランス(特定受託事業者)から申出があれば、その妊娠、出産、育児介護と両立して業務に従事できるよう、「妊娠、出産、育児・介護の状況に応じた必要な配慮」が求められることとなりました(フリーランス法13条)。
6ヶ月以上の継続的業務委託の場合には義務であるのに対し(法13条1項)、そうでない場合(単発や短期の業務委託等)は努力義務とされました(フリーランス法13条2項)。
「必要な配慮」としては、例えば以下のような配慮が考えられます。
- 「子どもの急病により予定していた作業時間の確保が難しくなったので、納期を少し遅らせてほしい」との申出に対し、納期を変更すること
- 「親の介護のために特定の曜⽇についてはオンラインでの作業としたい」との申出に対し、⼀部業務をオンラインに切り替えられるよう調整すること など
第十三条(妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮)
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)
1 特定業務委託事業者は、その行う業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る。以下この条及び第十六条第一項において「継続的業務委託」という。)の相手方である特定受託事業者からの申出に応じて、当該特定受託事業者(当該特定受託事業者が第二条第一項第二号に掲げる法人である場合にあっては、その代表者)が妊娠、出産若しくは育児又は介護(以下この条において「育児介護等」という。)と両立しつつ当該継続的業務委託に係る業務に従事することができるよう、その者の育児介護等の状況に応じた必要な配慮をしなければならない。
2 特定業務委託事業者は、その行う継続的業務委託以外の業務委託の相手方である特定受託事業者からの申出に応じて、当該特定受託事業者(当該特定受託事業者が第二条第一項第二号に掲げる法人である場合にあっては、その代表者)が育児介護等と両立しつつ当該業務委託に係る業務に従事することができるよう、その者の育児介護等の状況に応じた必要な配慮をするよう努めなければならない。
ハラスメント対策に係る体制整備(フリーランス法14条)
特定業務委託事業者は、フリーランス(特定受託業務従事者)に対するセクハラ・マタハラ・パワハラについて、フリーランスからの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制整備等の必要な措置を講じなければならないものと定められました(フリーランス法14条1項)。
また、特定業務委託事業者は、フリーランスが、セクハラ・マタハラ・パワハラの相談を行ったことや、これらの相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、不利益な取扱いをしてはならないものとされています(法14条2項)。
第十四条(業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等)
1 特定業務委託事業者は、その行う業務委託に係る特定受託業務従事者に対し当該業務委託に関して行われる次の各号に規定する言動により、当該各号に掲げる状況に至ることのないよう、その者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない。一 性的な言動に対する特定受託業務従事者の対応によりその者(その者が第二条第一項第二号に掲げる法人の代表者である場合にあっては、当該法人)に係る業務委託の条件について不利益を与え、又は性的な言動により特定受託業務従事者の就業環境を害すること。
二 特定受託業務従事者の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動によりその者の就業環境を害すること。
三 取引上の優越的な関係を背景とした言動であって業務委託に係る業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたものにより特定受託業務従事者の就業環境を害すること。2 特定業務委託事業者は、特定受託業務従事者が前項の相談を行ったこと又は特定業務委託事業者による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、その者(その者が第二条第一項第二号に掲げる法人の代表者である場合にあっては、当該法人)に対し、業務委託に係る契約の解除その他の不利益な取扱いをしてはならない。
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)
中途解除等の事前予告・理由開⽰(フリーランス法16条)
特定業務委託事業者は、6か⽉以上の業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合には、以下の手続を遵守しなければならないものと定められました(フリーランス法16条)。
- 災害その他やむを得ない事由がない限り、少なくとも30 日前までに予告しなければならない。
- 予告日から契約期間満了日までの間に、解除・不更新の理由の開示を請求された場合には、原則として遅滞なく開示しなければならない。
第十六条(解除等の予告)
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)
1 特定業務委託事業者は、継続的業務委託に係る契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。次項において同じ。)をしようとする場合には、当該契約の相手方である特定受託事業者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、少なくとも三十日前までに、その予告をしなければならない。ただし、災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合その他の厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。
2 特定受託事業者が、前項の予告がされた日から同項の契約が満了する日までの間において、契約の解除の理由の開示を特定業務委託事業者に請求した場合には、当該特定業務委託事業者は、当該特定受託事業者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なくこれを開示しなければならない。ただし、第三者の利益を害するおそれがある場合その他の厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。
フリーランス法に関するよくある誤解
フリーランス全員に適用されるわけではない
多くの人がフリーランス法がすべてのフリーランスに適用されると誤解していますが、現実にはそうではありません。この法律の適用対象となるのは、特定の条件を満たす「特定受託事業者」に該当するフリーランスに限られています。具体例を挙げると、例えば、主に一人で業務を行い、従業員を雇用していないフリーランスです。
一般的には「フリーランス」と認識される人々であっても、特定受託事業者に該当しない場合にはフリーランス法の適用はありません。
すべての契約が規制対象となるわけではない
すべての契約がフリーランス法によって規制されているわけではありません。具体的な規制対象は事業者からの業務委託契約です。売買契約やその他の取引、特にフリーランス同士の契約はこの法律の適用範囲外です。
例えば、事業者ではない消費者からの委託を受ける場合、業務委託以外の売買等の取引などにはフリーランス法は適用されません。
フリーランス法違反時の罰則
フリーランス法が守られていない状況では、クライアント(発注側)に対して厳しい罰則が設けられています。この法律の目的は、フリーランスを保護し、公正な取引を促進することです。具体的には、国が、委託事業者に対して、立入検査や必要な措置を勧告・命令することができます。
命令に違反した場合や検査を拒否した場合等には、さらに厳しい措置として50万円以下の罰金が科されることがあります。クライアントは法令遵守を徹底し、フリーランスとの関係を適切に保つ必要があります。
第二十四条
次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、五十万円以下の罰金に処する。一 第九条第一項又は第十九条第一項の規定による命令に違反したとき。
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)
二 第十一条第一項若しくは第二項又は第二十条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又はこれらの規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき。
フリーランス法に関する相談窓口
フリーランスとして働く中で不当な扱いを受けたり、契約や報酬に関するトラブルが発生した場合には、適切な相談窓口を利用することが大切です。フリーランス法に関する相談窓口は、フリーランスの権利を守るための重要なリソースです。どこに相談すればいいのかを詳しく見ていきましょう。
中小企業庁の相談窓口(下請かけこみ寺)
中小企業庁は、日本国内でフリーランスや中小企業のサポートを行っています。この組織は特にフリーランスの取引に関する支援を提供しており、問題が発生した場合にはこちらに相談するのが一つの手です。ここでは、取引に関するトラブルや法律的な疑問を専門家に無料で相談が可能です。
フリーランス協会の支援
フリーランス協会は、日本国内のフリーランスを対象としたサポート団体です。ここでは法律相談サポートや職業に関する教育プログラムを提供しており、フリーランスが安心して働ける環境づくりを支援しています。各種セミナーやワークショップも定期的に開催。詳細は、彼らの公式サイトをチェックしてください。
フリーランス・トラブル110番
フリーランス・トラブル110番は、厚生労働省より第二東京弁護士会が受託して運営している事業で、フリーランスに関する関係省庁(内閣官房・公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁)と第二東京弁護士会が連携しながら運営されています。法律の専門家による無料の法律相談等を提供しており、特に契約や報酬に関して深刻なトラブルが発生したときには非常に有用です。適切なアドバイスを受けることが、問題の迅速な解決につながるでしょう。
これらの窓口は、困ったときに頼りにすることができる貴重なリソースです。フリーランスとしての活動をより安全かつ充実したものにするために、重要な役割を果たしています。これらの支援を活用し、より良い働き方を実現しましょう。
まとめ
フリーランス法は、フリーランスとして働く個人に対して新たな保護を提供し、取引の透明性や契約の安定性を向上させることを目的としています。これにより、フリーランスは不当な扱いから守られ、より良い労働環境が提供される一方で、事務処理の負担が増える可能性もあります。
また、全てのフリーランスや契約が対象となるわけではなく、適用範囲については注意が必要です。
クライアント側も、フリーランスとの良好な関係構築に活用できる反面、契約内容の制約や事務手続きの増加に注意しなければなりません。法令違反にはそれぞれ罰則があるため、関係者はしっかりと制度を理解し、適切に対応することが重要です。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。