フリーランス法×インフルエンサー契約|事務所が今すぐ見直すべき5つの条項

インフルエンサー法務

2024年11月1日に施行されたフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、いわゆる「業務委託でフリーランスに仕事を発注する事業者」全般を対象としています。インフルエンサーやクリエイターと事務所との契約・案件先との契約も、その大半が同法の射程に入るため、業界として無視できない法改正となりました。

インフルエンサー業界の特徴は、所属タレント(クリエイター)が労働者ではなく個人事業主として活動するケースが多い点です。マネジメント事務所が雇用ではなく業務委託で契約を結んでいる以上、事務所自体がフリーランス法上の「業務委託事業者」として規制対象になります。さらに、企業案件をインフルエンサーに発注する場合、事務所がクライアントから見て「特定受託事業者」のポジションに立つこともあります。

本記事では、フリーランス法がインフルエンサー業界に与える影響を整理したうえで、事務所が見直すべき5つの契約条項と、ありがちな実務上の落とし穴を解説します。

なぜインフルエンサー事務所はフリーランス法対応が必要か

インフルエンサー事務所と所属タレントの関係の特殊性

インフルエンサー業界では、「所属」という言葉が使われていても、雇用契約ではないケースが大半です。事務所がYouTuberやVTuberに対して、

  • マネジメント業務(案件営業、スケジュール調整、契約交渉)
  • 制作支援(撮影・編集・配信機材・スタジオの提供)
  • 法務・経理・税務サポート

を提供し、その対価として案件報酬の一定割合を分配するという構造が一般的です。この関係は、法律上は「業務委託契約」(厳密には委任・準委任・請負の組み合わせ)として整理されることが多く、所属タレントは事務所からみて「特定受託事業者(フリーランス)」に該当します。

つまり、事務所と所属タレントとの間で発生している取引は、フリーランス法の規制対象に含まれるのが原則です。

個人事業主としてのインフルエンサーがフリーランス法の対象になる範囲

フリーランス法は、「業務委託事業者」と「特定受託事業者」の取引を規制対象とします。インフルエンサー業界では、以下のような場面が典型的にこの構造に当てはまります。

  • 事務所→所属タレントへの案件配分・マネジメント契約
  • 事務所→外部協力者(編集者・サムネクリエイター・MC等)への業務委託
  • クライアント企業→事務所への案件発注(事務所が「特定受託事業者」になるケースも)
  • クライアント企業→個人インフルエンサーへの直接発注

個人インフルエンサーが法人格を持っていても、実質的に1人で運営している場合は『特定受託事業者』に該当する可能性が高い点に注意が必要です。

その他、個人インフルエンサーが気をつけるべき法的事項については、下記の法律記事で詳しく解説しています。

違反した場合のリスク

フリーランス法に違反した場合、公正取引委員会中小企業庁・厚生労働省による勧告・命令の対象になり得ます。命令に違反した場合は罰則も用意されており、業界全体での法令遵守の機運が高まっているタイミングで違反が発覚すると、レピュテーションへの影響も無視できません。

特に、炎上が起きやすい業界特性を踏まえると、契約上の取り扱いが問題視された場合、SNS等で広がる速度が早く、事務所のブランド毀損が一気に進むリスクがあります。

フリーランス法でインフルエンサー契約に影響する5つの規制

規制1:取引条件の明示義務(3条通知)

業務委託事業者は、特定受託事業者に発注する際に、取引条件を書面または電磁的方法で明示する義務があります。明示すべき項目には、

  • 業務内容・成果物
  • 報酬額・算定方法
  • 支払期日
  • 報酬支払方法
  • 検査・検収の方法

などが含まれます。「LINEで雑に依頼」「口頭で済ませる」という運用は、フリーランス法施行後は法令違反です。

取引条件の明示義務については、以下の法律記事でも詳しく解説しています。

規制2:報酬支払期日(60日以内)

特定受託事業者から成果物を受領した日から60日以内に報酬を支払う必要があります。インフルエンサー業界では、

  • クライアントからの入金後に分配する運用
  • 月締め翌々月払いなどの慣行

が広く存在しますが、「クライアントが払うまで支払わない」という運用は、所属タレントとの関係では認められない場合があります。事務所自身のキャッシュフロー設計の見直しが必要です。

規制3:禁止される7つの行為

特定受託事業者が継続的に業務を受託している場合(特定業務委託事業者と特定受託事業者の取引で、業務委託期間が1か月以上のものに限る)、業務委託事業者は以下の行為が禁止されます。

  • 受領拒否(一方的な仕事の拒絶)
  • 報酬減額(合理的理由のない引き下げ)
  • 返品(理由のない返品)
  • 買いたたき(市場相場から著しく低い報酬)
  • 物の購入・サービスの利用強制
  • 不当な経済上の利益提供要請
  • 不当な給付内容の変更・やり直し

インフルエンサー業界では、「数値が伸びなかったから今回は半額にする」「企画の方向性を変えたから撮り直してほしい(追加報酬なし)」といった慣行が、フリーランス法上は明確な禁止行為に該当する可能性があります。

規制4:育児介護等への配慮(一定期間以上の継続契約の場合)

業務委託期間が6か月以上の継続契約の場合、特定受託事業者が妊娠・出産・育児・介護に従事できるよう、業務委託事業者は必要な配慮を行う義務があります。具体的には、

  • 業務量・スケジュールの調整
  • リモートでの業務実施
  • 中断後の復帰サポート

などが想定されます。所属タレントが妊娠・出産を機にインフルエンサー活動から離脱せざるを得ないケースは現実に存在しており、事務所側の運用ルールを整備しておくことが望まれます。

規制5:中途解除・不更新の事前予告

業務委託期間が6か月以上の継続契約について、業務委託事業者が中途解除または契約を更新しない場合、原則として30日前までに予告する必要があります。インフルエンサー業界では、

  • 突然の所属契約終了(事務所側からの解約)
  • タレント側からの突然の独立

が問題になりやすく、事前予告ルールを契約書に明示することの実務上の意義は大きいといえます。

フリーランス法については以下の法律記事でも詳しく解説しております。

見直すべき5つの契約条項

条項1:業務範囲・成果物の特定

「専属マネジメント契約」「YouTubeチャンネル運営」など、抽象的な業務範囲のままにせず、フリーランス法が求める明示項目を満たす形で具体化する必要があります。

  • どのプラットフォーム(YouTube、TikTok、Instagram等)の運営を委託するか
  • 動画本数・配信頻度の目安
  • グッズ販売・イベント出演などの付随業務の範囲
  • 案件営業を事務所が独占的に行うか、タレントの自営業案件も可とするか

これらを具体的に書き分けることが出発点です。

条項2:報酬・支払期日

報酬の算定方式(売上分配の場合は分配率・分配対象の定義、固定報酬の場合は金額)を明示し、支払期日を60日以内に収まる形で設計します。

実務上、「案件のクライアントから入金された月の末締め翌月末払い」という運用は、クライアントの支払いサイトが長い場合に60日を超える可能性があります。クライアントの支払いサイトと所属タレントへの支払い時期の整合性を、契約書段階で確認しておく必要があります。

条項3:知財条項(著作権・肖像権)

インフルエンサー契約で最も紛争になりやすい領域です。

  • 動画・配信コンテンツの著作権の帰属(事務所か、タレントか、共有か)
  • グッズ・キャラクターIPの権利の所在
  • 事務所離脱後の過去コンテンツの取扱い
  • 肖像・氏名・キャラクター名の使用許諾範囲

フリーランス法は知財条項そのものを直接規律していませんが、契約書の明示義務との関係で、これらが曖昧なまま運用されていると問題になります。

条項4:競業避止・秘密保持

事務所側からの一方的に厳しい競業避止条項は、「不当な経済上の利益提供要請」や「フリーランスの自由な経済活動の不当な制限」として問題視される可能性があります。

  • 専属性の範囲(プラットフォーム単位/ジャンル単位/時間単位)
  • 専属義務の代償措置(最低保証報酬等)
  • 契約終了後の競業避止期間(合理的な範囲か)

「契約終了後5年間競業禁止」のような極端な条項は、改正後はリスクが高まる方向にあります。

条項5:中途解除・契約終了

フリーランス法が要求する30日前予告を契約書に明示するとともに、解除事由・予告手続・残務処理ルールを具体化します。

  • 事務所側からの解除事由
  • タレント側からの解除事由
  • 解除予告期間(30日以上)
  • 解除後の所属チャンネル・SNSアカウントの帰属
  • 案件中の業務の引継ぎルール

案件先(クライアント)への対応

事務所自身がクライアントから見て「特定業務委託事業者」となる場面

事務所がクライアント企業から案件を受注し、所属タレントに実演させる場合、クライアント→事務所→タレントという二重の業務委託構造になります。

この場合、クライアントが「業務委託事業者」、事務所が「特定受託事業者」という関係になることもあり、事務所自身がフリーランス法上の保護を受ける立場になる場面があります。具体的には、

  • クライアントからの案件条件の書面明示を求められる
  • 60日以内の支払いを求められる
  • 一方的な減額・受領拒否を禁止される

事務所として「規制を守る側」だけでなく、「規制で守られる側」のポジションも理解することが重要です。

クライアントとの契約での留意点

クライアント企業がフリーランス法対応として、「事務所への発注書を3条通知の形式に揃えたい」と要望してくるケースが増えています。

  • 発注書の必要項目を満たしているか
  • 修正・追加発注の手続が定型化されているか
  • 支払期日・検収条件が明確か

を、事務所側でも確認する必要があります。

ありがちな実務上の落とし穴

落とし穴1:「マネジメント契約」を委任と整理して逃げようとするケース

「業務委託契約ではなく、委任契約だからフリーランス法の対象外」と整理しようとするのは、多くの場合通用しません。フリーランス法における「業務委託」は、民法上の請負・委任・準委任を広くカバーする概念です。「委任契約だから対象外」という整理で逃げ切れることは、ほぼないと考えるべきです。

落とし穴2:報酬支払期日と案件単位の精算の整合性

クライアントからの入金が遅れると、所属タレントへの分配も遅れるという運用は、クライアント遅延を理由に60日超過しても、所属タレントとの関係では新法違反になり得るという点に注意が必要です。

事務所自身がキャッシュフローを管理して、所属タレントへの支払いを所定期日内に行う体制を構築する必要があります。

落とし穴3:海外案件・プラットフォーム経由報酬との関係

YouTubePartnerProgramからの広告収益や、海外ブランドからの直接案件などは、報酬の発生・支払いタイミングがプラットフォーム側の管理下にあるため、事務所として支払期日を自由に設計できない側面があります。

「プラットフォームから事務所に入金された日から60日」というルールにするか、所属タレントの取り分を別途確定して期日管理するか、運用ルールを契約書段階で決めておく必要があります。

事務所がフリーランス法時代を生き抜く契約設計の視点

フリーランス法は、インフルエンサー業界の慣行を「フリーランス取引の原則」に合わせて再設計することを求めている制度です。事務所と所属タレントの関係、案件先と事務所の関係、外部協力者との関係、いずれも、書面化・期限管理・禁止行為の意識という3つの軸での運用変更が必要になります。

「ベテラン所属タレントとの関係だから書面なしでも信頼で動く」「クライアントからの入金待ちで支払いが遅れるのは仕方ない」「成果が出なかったら報酬を減額する」、こうした業界慣行は、改正後はそのままでは通用しなくなります。

特に重要なのは、契約書のひな型を更新するだけでなく、運用ルール・社内オペレーションを揃えることです。3条通知の様式、支払期日管理、解除予告の運用、育児介護への配慮指針など、書面と実運用の両輪を整えることで、はじめて法令対応として完結します。

業界としては、フリーランス法対応が遅れている事務所が淘汰される構図が見えつつあります。逆に、所属タレントから見て「フリーランス法をきちんと守っている事務所」は信頼の源になり、新しい所属タレントの獲得・既存タレントの定着の両面で有利に働きます。

ひな型の見直しから、案件運用の整備まで、事務所単独で対応するのが難しい領域です。顧問弁護士・社労士・税理士と連携しながら、業界の標準を引き上げていく姿勢が、今後の事務所経営の競争力につながります。

具体的な契約書のひな型整備・運用ルール改定をご検討の場合は、案件ごとの事情に応じて、弁護士など専門家にご相談いただくことをお勧めします。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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