会社が自社の製品やサービスの販売を目的として行われる広告ですが、広告には様々な法的規制があります。
違反をすると行政処分・刑事罰の対象になるほか、違反の事実が報道されるなどして広く知られることによって、社会的信用を失うことになるなど、会社にとって大きなリスクがあります。
そこでこのページでは、これらのリスクを回避する広告のリーガルチェックについてお伝えします。
広告を規制する法律
企業の商品・サービスを広く知ってもらうために行われる広告について、何を宣伝する広告か、どのような手法の広告かにより関係する法律は様々ですが、特に注目すべきは次の2つの法律です。
景品表示法
景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年法律第百三十四号))は、広く広告を規制する、広告規制の一般法です。
広告で実際のものよりも良く見せるような表示が行われたり、課題な景品付きの販売が行われることによって、消費者が商品やサービスを誤認して取引してしまうことがあります。
景品表示法は、商品やサービスの品質・内容・価格などを装うことや、過大な景品の提供を防ぎ、これによって消費者が商品やサービスを誤認しないようにするための規制を行う法律です。
この景品表示法において、商品やサービスの品質・内容・価格の誤認をするような広告方法が規制されています。
薬機法
薬機法(正式名称:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号))は、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器などの医薬品等についての品質・有効性・安全性の確保のために様々な規制を行い、保健衛生の向上を図ることを目的とする法律です。
かつては薬事法という表現をされていましたが、2014年の法改正で現在の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律に名称が変更されたことに伴って、これを省略した薬機法という名称で呼ばれます。
薬機法は、医薬品等についての広告表現で問題となる法律ですが、薬機法との抵触関係が問題になる広告が非常に多く出稿されていることから、特に着目されることが多いです。
景品表示法で規制されている広告
景品表示法で規定されている広告規制としては次のものがあります。
優良誤認表示
景品表示法で規制されている広告として優良誤認表示があります。
景品表示法5条1項は、次のいずれかによって、不当に顧客を誘因し、一般消費者が自主的かつ合理的な選択を阻害するような広告を規制しています。
- 自社の商品やサービスが実際のものよりも著しく優良であると示すこと
- 事実に反して競争相手よりも著しく優良であると示すこと
前者の例としては次のものが挙げられます。
- 海外産牛肉であるにも関わらず国産牛肉と偽って販売する
- 10万キロ以上走行しているのに走行距離は3万キロであると表示して中古車を販売する
後者の例としては次のものが挙げられます。
- 他の予備校と異なる方法で数値化して、適正な比較をしていないにも関わらず、大学合格実績No.1と表示する。
これらの表示を行う広告は景品表示法違反となります。
景品表示法第五条(不当な表示の禁止) 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年法律第百三十四号)
:
(略)
有利誤認表示
景品表示法で規制されている広告として、有利誤認表示があります。
景品表示法5条2項は、次のいずれかによって、不当に顧客を誘因し、一般消費者が自主的かつ合理的な選択を阻害するような広告を規制しています。
- 実際のものよりも取引条件が著しく有利であると一般消費者に誤認されるもの
- 事実に反して競争相手よりも取引条件が著しく有利であると一般消費者に誤認されるもの
前者の例としては次のものが挙げられます。
- 「今なら半額!」と表示して取引をしたが実際には半額にはなっていない
- 外貨預金の受取利息を手数料無しで表示したが手数料を差し引きすると1/3以下になってしまう
後者の例としては次のものが挙げられます。
- 自社の割引プランを他社の割引プランを除外して最も安いと表示していた
これらの表示を行う広告は、景品表示法違反となります。
景品表示法第五条(不当な表示の禁止) 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一(略)
不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年法律第百三十四号)
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
:
(略)
指定表示
景品表示法5条3項は、以上の一般的なルールの他に、消費者が不当な広告によって誤認するケースを、別途指定する権限を内閣総理大臣に与えています。
この内閣総理大臣に指定された表示のことを指定表示と呼んでおり、現在では次のような表示が景品表示法5条3号によって禁止されています。
- 無果汁の清涼飲料水等についての表示
- 商品の原産国に関する不当な表示
- 消費者信用の融資費用に関する不当な表示
- 不動産のおとり広告に関する表示
- おとり広告に関する表示
- 有料老人ホームに関する不当な表示
- 一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示
これらの指定における表示方法に違反することは景品表示法違反となります。
第五条(不当な表示の禁止) 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一(略)
不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年法律第百三十四号)
:
三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
指定告示のうち、いわゆるステルスマーケティングを意味する「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」については、下記の記事で詳しく解説していますので、こちらをご参照ください。
薬機法で規制されている広告
薬機法で規制されている広告には次のものがあります。
誇大広告等
薬機法で規制されている広告として誇大広告が挙げられます(薬機法66条)。
誇大広告とは、医薬品等の名称・製造方法・効能又は性能に関して虚偽や誇大な表現をすることをいいます。
効能・効果又は性能について、医師その他のものが保証したものと誤解される広告をすることも誇大広告にあたります。
また、堕胎を暗示するもの、わいせつな文書や図画を用いて記事・広告を広めることも、禁止されています。
例えば次のような事例があります。
- アトピーが治った
- ズタボロだったズタボロだった肝臓が半年で復活
第六十六条(誇大広告等) 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)
2 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。
3 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品に関して堕胎を暗示し、又はわいせつにわたる文書又は図画を用いてはならない。
特定疾病用の医薬品・再生医療等製品の広告制限
薬機法では、特定疾病用の医薬品・再生医療等製品の広告について制限が定められています(薬機法67条)。
がんや白血病などの治療に用いられることが目的とされている医薬品又は再生医療等製品については、医師の指導のもとに使用されるものでなければ危害を生じるおそれがあるので、厚生労働省令に従った広告制限が行われます。
次のような広告が例として挙げられます。
- (一般人向けに)ガンが消えた
- 白血病に効く
第六十七条(特定疾病用の医薬品及び再生医療等製品の広告の制限) 政令で定めるがんその他の特殊疾病に使用されることが目的とされている医薬品又は再生医療等製品であつて、医師又は歯科医師の指導の下に使用されるのでなければ危害を生ずるおそれが特に大きいものについては、厚生労働省令で、医薬品又は再生医療等製品を指定し、その医薬品又は再生医療等製品に関する広告につき、医薬関係者以外の一般人を対象とする広告方法を制限する等、当該医薬品又は再生医療等製品の適正な使用の確保のために必要な措置を定めることができる。
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)
2 厚生労働大臣は、前項に規定する特殊疾病を定める政令について、その制定又は改廃に関する閣議を求めるには、あらかじめ、薬事審議会の意見を聴かなければならない。ただし、薬事審議会が軽微な事項と認めるものについては、この限りでない。
承認前の医薬品や医療機器・再生医療等製品の広告禁止
薬機法では、承認前の医薬品や医療機器・再生医療等の製品についての広告を禁止しています(薬機法68条)。
健康食品などで承認を受けていない成分について、効果効能を標ぼうした広告を用いると、68条違反となります。
次のような広告が例として挙げられます。
- (承認前の医薬品について)バストアップに効果がある
- 血糖値が下がる
第六十八条(承認前の医薬品、医療機器及び再生医療等製品の広告の禁止) 何人も、第十四条第一項、第二十三条の二の五第一項若しくは第二十三条の二の二十三第一項に規定する医薬品若しくは医療機器又は再生医療等製品であつて、まだ第十四条第一項、第十九条の二第一項、第二十三条の二の五第一項、第二十三条の二の十七第一項、第二十三条の二十五第一項若しくは第二十三条の三十七第一項の承認又は第二十三条の二の二十三第一項の認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない。
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)
景品表示法・薬機法に違反した場合のペナルティ
景品表示法・薬機法に違反した場合にはどのようなペナルティがあるのでしょうか。
景品表示法に違反した場合のペナルティ
景品表示法に違反した場合のペナルティとしては次のものが挙げられます。
- 行政指導
- 措置命令
- 課徴金納付命令
- 罰金
- 確約手続き
行政指導
違反が疑われる場合でも行政指導が行われることがあります。
措置命令
不当表示を行ったと認定された場合には、消費者庁によって措置命令が行われます。
措置命令とは、違反行為の差止め、再発防止に必要な事項の実施、今後同様の違反行為をしないことを命じることをいいます。
令和3年3月30日に高知県農業協同組合に対して行われた措置命令では、景品表示法に違反するものである旨を一般消費者に周知徹底することを命じられており、これに応じて高知県農業協同組合では「米の不適切な取扱いに関する調査結果並びに再発防止策等について」という掲示をホームページに行っています。
参照:JA高知県Webサイト(https://ja-kochi.or.jp/informations/press-release/13105/)
また、措置命令に違反すると刑事罰が科される旨が規定されています(景品表示法36条)
課徴金納付命令
景品表示法違反の広告を行った場合、対象期間における売上額の3%を課徴金として納付するように命じる、課徴金納付命令が出されることがあります(景品表示法8条)。
例えば、平成31年2月22日、消費者庁は株式会社TSUTAYAに対して1億1,753万円にもおよぶ課徴金納付命令を下しました。
罰金
従来は措置命令に従わない場合に刑事罰を課すという運用がされていたのですが、2023年の法改正によって、故意に優良誤認表示・有利誤認表示をした場合には、措置命令なしで100万円以下の刑事罰を課す、いわゆる直罰規定が定められました。
この改正は2024年11月までに施行されることになっています。
確約手続き
同じく2023年の法改正によって、事業者が自主的に是正計画を策定し、内閣総理大臣の認定を受けて、措置命令や課徴金納付命令を回避できる確約手続という制度が導入されます。
措置命令や課徴金納付命令を避けるために、自主的な是正計画を策定しなければならなくなる必要があります。
薬機法に違反した場合のペナルティ
薬機法に違反した場合のペナルティとしては次のものがあります。
措置命令
薬機法に違反した場合にも同様に措置命令が課せられます(薬機法72条の5)。
違反行為の差止め、再発防止に必要な事項の実施、今後同様の違反行為をしないことを命じるのは景品表示法と同様です。
課徴金納付命令
薬機法に違反した場合にも同様に課徴金納付命令が課せられることがあります(薬機法72条の5の2)
薬機法違反の広告を行った場合には、対象期間における売上額の4.5%を課徴金として納めるよう命じられることがあります。
刑事罰
薬機法に違反した場合には、薬機法85条で2年以下の懲役または200万円以下の罰金のどちらかまたは両方が科される可能性があります。
景品表示法とは異なり懲役刑があることに注意が必要です。
報道などによる企業イメージダウンは避けられない
上記のような法的なペナルティ以外にも、報道などによるイメージダウンが避けられないことにも注意が必要です。
景品表示法違反や薬機法違反があると、ニュースなどで報道がされます。
昨今はSNSでの拡散効果などもあり、企業や商品に対するイメージダウンは避けられません。
返金を求められることも
商品・サービスを利用した消費者から、返金を求められ、場合によっては裁判を起こされる可能性も否定できません。
広告規制についてリーガルチェックを弁護士に依頼するメリット
以上のように広告規制に違反した場合のデメリットは非常に大きく、きちんとリーガルチェックをするのが望ましいです。
そのリーガルチェックの方法として、弁護士に依頼するメリットには次のものが挙げられます。
複雑な規制に確実に対応できる
複雑な規制に確実に対応できます。
景品表示法・薬機法に違反しないようにするためには、広告規制に関する法令に精通する必要があります。
その規制内容は非常に複雑であり、かつその複雑な規制を一つ一つの広告に具体的にあてはめていく必要があります。
弁護士に依頼することで、漏れなく複雑な規制のチェックを行えます。
最近の改正に確実に対応できる
最近の改正に確実に対応できます。
景品表示法・薬機法については、頻繁に改正が行われるなど、常に新しい情報に触れている必要があります。
例えば、景品表示法の指定表示のうち「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」については2023年10月1日に指定されたものです。
この改正は社会問題になっているステマに対応するものであり、このように社会情勢の変化に伴って規制内容が追加されることは珍しいことではありません。
弁護士に依頼すればこれら最新の改正内容にも確実に対応できます。
まとめ
このページでは、広告のリーガルチェックが必要な理由とは?広告規制違反の効果などについてお伝えしました。
広告には景品表示法・薬機法という法律に基づく規制があり、違反すると措置命令・課徴金・刑事罰といったペナルティが課せられることになります。
広告規制の内容は非常に複雑・難解ですので、弁護士によるリーガルチェックを受けることをお勧めします。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。