連載シリーズ「プロトキ」では、プロスパイア法律事務所の弁護士等の専門家が、ニュースや時事問題について、法律の観点から解説をしていきます。
※本記事は、令和8年7月8日時点の情報に基づいて執筆されています。
今回は、「ラーメンの『AFURI』と日本酒『雨降』、商標めぐる争いが和解で決着」というニュースについて、そもそも商標権侵害とはどのような場合に成立するのか、今回の紛争はどのような構図だったのか、弁護士の目線から企業がブランド名や商標をめぐってどのような点に注意すべきかなどを解説していきます。
ニュース概要「ラーメンの『AFURI』と日本酒『雨降』、商標めぐる争いが和解で決着」について
神奈川県発祥の人気ラーメンチェーン「AFURI」を運営するAFURI株式会社が、日本酒「雨降(AFURI)」を製造・販売する神奈川県伊勢原市の酒蔵・吉川醸造株式会社に対して起こしていた商標権侵害訴訟について、2026年7月6日、両社が和解に至ったことが各社によって報じられています。
AFURI社は、店名やブランドの由来である丹沢・大山(別名「阿夫利山」「雨降山」)にちなんだ「AFURI」の商標権を有しており、吉川醸造が日本酒に「雨降」と大きく表示し「AFURI」と併記する形で販売していることが商標権を侵害すると主張していました。
2022年8月の警告に始まり、2023年8月の提訴を経て約4年に及んだ紛争は、「円満合意の上、商標権に関する争いを解決した」とする両社の発表をもって決着しました。和解条件の詳細は非公表とされ、両社は大山が「雨降山」「阿夫利山」として親しまれてきた地域の歴史・文化への敬意を共有することを確認しています。
参考:Yahoo!ニュース(弁理士・栗原潔)「ラーメンチェーンAFURIと吉川醸造の商標紛争が和解で決着」(2026年7月8日):https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/6f9ae6e0ed498f7a0d12ba3e6da9c20c8fdbeeed
参考:AFURI株式会社 プレスリリース「商標に関する係争の和解について」(2026年7月6日):https://afuri.com/wp/press/1003
参考:吉川醸造株式会社 ニュース「和解のお知らせ」(2026年7月6日):https://kikkawa-jozo.com/blogs/news/wakai
「雨降」と「AFURI」──今回の商標紛争の構図
当事者と、争われた商品
本件の当事者は、いずれも神奈川県にゆかりのある二つの企業です。原告となったAFURI株式会社は、柚子塩ラーメンなどで知られる人気ラーメンチェーン「AFURI」を運営しています。店名の「AFURI」は、丹沢山系の大山(おおやま)が古くから「阿夫利山(あふりやま)」「雨降山(あふりやま)」と呼ばれてきたことに由来するとされています。一方、被告となった吉川醸造株式会社は、その大山の麓に位置する神奈川県伊勢原市の酒蔵です。同社は日本酒のブランドとして「雨降(AFURI)」を展開しており、ラベルには「雨降」の文字を大きく掲げ、その読みとして「AFURI」を併記していました。
つまり本件は、「ラーメンのAFURI」と「日本酒の雨降」という、商品ジャンルの異なる二つの事業者の間で、同じ「あふり」という音・イメージを持つ表示の使用をめぐって争われた事案です。両者はいずれも大山という同じ土地の歴史的な呼称を出発点にしており、そこに紛争の複雑さがありました。

警告から提訴、そして和解まで
報道によれば、紛争の発端は2022年8月、AFURI社が吉川醸造に対して行った警告でした。AFURI社は、吉川醸造が日本酒に「雨降」と表示し「AFURI」と併記して販売する行為が、自社の「AFURI」商標を侵害すると主張しました。もっとも、この時点では警告の事実は公にされておらず、経緯が広く知られるようになるのは、後の提訴の段階でした。
両社の話し合いでは解決に至らず、2023年8月、AFURI社は東京地方裁判所に商標権侵害訴訟を提起しました。吉川醸造がこの提訴を公表すると、インターネット上では「大手チェーンが地元の小さな酒蔵に対して過大な要求をしているのではないか」といった批判の声が広がり、いわゆる炎上と呼ばれる状態になりました。
訴訟の過程では、AFURI社が保有する商標の有効性そのものも争点となり、後述するように、酒類の分野に関する一部の商標について効力が否定される展開もありました。そして最初の警告からは約4年を経た2026年7月6日、両社は「円満合意の上、商標権に関する争いを解決した」と発表し、長期にわたった紛争は和解によって幕を閉じました。和解の具体的な条件は公表されていません。
そもそも商標権侵害はどのような場合に成立するのか
商標権の効力と「類似」「混同のおそれ」
商標とは、事業者が自社の商品やサービスを他社のものと区別するために用いる目印(識別標識)であり、特許庁に登録することで商標権という独占的な権利が発生します。商標権者は、登録した商標(登録商標)と、その指定商品・指定役務の範囲で商標を独占的に使用できるほか(商標法25条)、他人が同一または類似の商標を同一・類似の商品等について使用する行為を差し止めることができます(商標法36条、37条等)。
商標権侵害が成立するかどうかを判断する際の中心的な要素が、「商標が類似しているか」「商品・役務が同一または類似か」、そして「需要者に出所の混同を生じるおそれがあるか」です。商標の類似性は、外観(見た目)、称呼(読み方・呼び方)、観念(意味・イメージ)の三つの要素を軸に、取引の実情を踏まえて総合的に判断されます。二つの商標を細かく見比べるのではなく、時間や場所を隔てて商標に接した需要者がどのような印象を受けるか、という観点(離隔的観察)から判断されるのが実務上の基本です。
「雨降」と「AFURI」は類似するのか
本件で問題となったのは、「雨降」という漢字表記に「AFURI」という読みを併記する表示が、「AFURI」という商標と類似し、需要者に混同を生じさせるかという点でした。ここは評価が分かれ得るところです。称呼(読み)に着目すれば、いずれも「あふり」と読まれ、共通性があります。他方、外観(見た目)で見れば、「雨降」という漢字と「AFURI」というアルファベットは大きく異なります。観念(意味)の面でも、「雨降」は雨が降ることや雨降山を想起させるのに対し、アルファベットの「AFURI」からは特定の意味が直ちに浮かぶとは限りません。

最終的な商標の有効性の整理としては、AFURI社の「AFURI」商標自体は有効とされる一方、吉川醸造が保有する「雨降」の商標は「AFURI」とは非類似であり有効と扱われる状況にあったと分析する専門家の解説がありますが、このような整理が一見して当然といえるというわけではありません。つまり、読みが共通するからといって直ちに類似・侵害と決まるわけではなく、逆に表記が違うからといって直ちに非類似・適法と決まるわけでもなく、表記全体から受ける印象を踏まえた総合的な判断が必要になるということです。この評価の難しさが、本件が長期化した一因ともいえます。
地名・歴史的呼称を商標にすることの難しさ
「阿夫利」「雨降」は大山の歴史的な呼称
本件を理解するうえで欠かせないのが、「あふり」という言葉が、もともと特定の企業の造語ではなく、地域の歴史・文化に根ざした呼称だという点です。丹沢山系の大山は、古くから雨乞い信仰の対象とされ、「雨降山」「阿夫利山」と呼ばれてきました。その麓には大山阿夫利神社があり、「あふり」は地域の人々にとってなじみの深い名称です。AFURI社の店名も吉川醸造のブランド名も、この共通の歴史的背景から生まれたものといえます。
商標制度は、事業者が自らの商品・サービスを区別するための目印を保護する仕組みですが、その一方で、地名や、多くの人が共有する一般的・歴史的な名称を特定の一社だけに独占させることには慎重であるべきだという考え方があります。商標法上も、単に産地や所在地を示すにすぎない表示など識別力を欠く商標は原則として登録を受けられないとされ(商標法3条1項3号等)、公益的な観点から登録が制限される場合もあります。地域に根ざした歴史的呼称をブランド名に用いる場合、こうした制度上の制約と無縁ではいられません。
商標登録の有効性を争う「無効審判」
いったん登録された商標であっても、その登録に問題があれば、後からその有効性を争う手段があります。その代表が、特許庁に対して行う商標登録無効審判です(商標法46条)。登録要件を満たしていなかったと判断されて無効審決が確定すれば、その商標権は、原則として初めから存在しなかったものとみなされます(商標法46条の2)。
本件でも、AFURI社が保有する「阿夫利」を含む商標のうち、酒類の分野に関する一部のものについては、無効審決によってその効力が否定される結果になっています。他方で、ラーメンなど本来の事業分野に関する「AFURI」商標は有効なままです。同じ企業の似た商標であっても、どの商品・役務の分野で、どの先行商標との関係で見るかによって、有効・無効の結論が変わり得るということです。商標権に基づいて権利行使をしようとする側にとっても、自社の権利がすべての分野で盤石とは限らないという教訓を含んでいます。
訴訟が「和解」で終わることの意味
判決ではなく和解で決着することの実務的な意味
民事の紛争は、必ずしも判決によって白黒がつけられるわけではありません。訴訟の途中であっても、当事者双方が譲り合って合意すれば、和解によって紛争を終わらせることができます。裁判上の和解は確定判決と同一の効力を持ち(民事訴訟法267条)、紛争を最終的に解決する手段として広く用いられています。
和解には、判決に比べていくつかの実務的なメリットがあります。第一に、勝敗の不確実性を回避できる点です。とりわけ本件のように、商標の類似性の評価が微妙で、自社商標の有効性にも争いがあるような事案では、判決まで進んだ場合の結論を見通すことは容易ではありません。第二に、和解では、金銭の支払いだけでなく、表示方法の調整や今後の商標の取扱いなど、判決では実現しにくい柔軟な内容を盛り込むことができます。第三に、解決までの時間やコスト、公開の法廷で争い続けることによる負担を軽減できる点も見逃せません。本件で和解条件が非公表とされたことも、当事者が納得できる着地点を選べるという和解の特徴の表れといえます。
炎上・レピュテーションリスクと権利行使
本件でもう一つ注目されるのが、権利行使そのものが企業の評判(レピュテーション)に影響を与えたという点です。法的には正当な権利行使であっても、その相手や態様によっては、世間から「大手による弱い者いじめ」と受け止められ、批判を招くことがあります。本件でも、提訴が公表された際にインターネット上で大きな批判が生じました。
商標権をはじめとする知的財産権は、企業のブランドを守るための重要な武器です。しかし、その行使が常に社会から好意的に受け止められるとは限りません。特に、地域の歴史や文化に根ざした名称が関わる場合や、相手が地元の小規模事業者である場合には、法的な正当性だけでなく、社会からどう見られるかという視点も踏まえて対応を検討する必要があります。両社が和解の発表にあたって、地域の歴史・文化への敬意を共有することをあえて明記したのも、こうしたレピュテーションへの配慮がうかがえる部分です。
企業がブランド名・商標をめぐって留意すべきこと(予防法務)
ネーミング段階での商標調査と地名リスク
新しい商品名やブランド名を決める際には、まず、特許庁の商標検索システム(J-PlatPat)などを用いて、同一・類似の指定商品・役務の区分に先行する登録商標がないかを調査しておくことが基本的な予防策となります。先行商標の存在を知らずに使用を開始すると、後日、思わぬ形で権利行使を受けたり、逆に自社の登録が無効とされたりするリスクがあります。

特に注意したいのが、地名や、地域に古くから伝わる名称をブランド名に取り入れる場合です。こうした名称は魅力的で物語性がある反面、同じ地域の他の事業者も同様の名称を使いたいと考えることが多く、権利関係が複雑になりがちです。識別力が弱いために登録が認められにくかったり、登録できても効力の及ぶ範囲が限定的になったりすることもあります。地域資源を活かしたネーミングを検討する際には、こうした特有のリスクをあらかじめ理解しておくことが望まれます。
警告・権利行使を行う際の初動と、受けた際の対応
自社の商標権が侵害されていると考えた場合でも、いきなり強い調子の警告書を送る前に、自社の権利が本当に有効か、相手の表示が本当に類似・侵害にあたるか、そして権利行使が社会からどう受け止められるかを冷静に見極めることが大切です。本件のように、自社商標の一部が無効と判断される可能性がある場合、権利の有効性を十分に確認しないまま強硬に出ると、かえって不利な立場に立たされることもあります。
逆に、他社から商標権侵害の警告を受けた場合には、指摘された商標と自社表示の類似性、指定商品・役務の同一性・類似性、自社の使用開始時期などを客観的に整理したうえで、相手方の商標が本当に有効か(無効審判で争う余地はないか)といった点も含めて検討することが出発点となります。いずれの立場であっても、感情的な対立や場当たり的な対応は事態を長期化させがちです。早い段階で弁護士など専門家に相談し、法的な見通しとレピュテーションの両面から方針を立てることが、結果的に円満な解決への近道となります。
「あふり」をめぐる争いが示す、名前と法と敬意のバランス
今回のAFURI社と吉川醸造の紛争は、同じ土地の歴史的な呼称から生まれた二つのブランドが、「あふり」という言葉の使用をめぐって約4年にわたり争い、最終的に和解で決着した事案です。ここには、商標権侵害の判断が外観・称呼・観念の総合考慮という繊細な作業であること、地名や歴史的名称を一企業が独占することには制度上・社会通念上の難しさが伴うこと、そして権利行使には法的な正当性だけでなくレピュテーションへの配慮も求められること、という複数の示唆が含まれています。ブランドは企業にとって大切な資産ですが、それが地域の共有財産と重なるとき、法的な権利と地域への敬意をどう両立させるかが問われます。自社のネーミングや権利行使に不安のある方は、早めに専門家に相談してみることをお勧めします。
まとめ
本記事では、ニュースや時事問題について、法律の観点から解説をする「プロトキ」の第12回として、「ラーメンの『AFURI』と日本酒『雨降』、商標めぐる争いが和解で決着」のニュースを解説していきました。
簡単にまとめると以下のような内容です。
- 神奈川発祥のラーメンチェーン「AFURI」を運営するAFURI社が、大山の麓の酒蔵・吉川醸造の日本酒「雨降(AFURI)」の表示を商標権侵害と主張し、警告・提訴に至った
- 2023年の提訴公表を機にSNSで大きな批判(炎上)が起き、約4年に及んだ紛争は2026年7月6日に円満和解で決着した(和解条件は非公表)
- 大山=「阿夫利山」「雨降山」という地域の歴史的呼称をめぐる争いであり、地名・歴史的名称を一企業が独占することの難しさが浮き彫りになった
- 実務上は、ブランド名選定時の商標調査と地名リスクの確認、警告・権利行使を行う際の有効性チェックと炎上リスクへの配慮が教訓となる
次回以降も、「プロトキ」では、ニュースや時事問題についてプロスパイア法律事務所の専門家が法的観点から解説をしていきます。
次回の更新をお楽しみにお願いいたします。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。




