SNS等によるインターネット上の誹謗中傷やプライバシー侵害に悩まされている方にとって、投稿者を特定することは重要な課題です。 発信者情報開示請求は、その特定のための有効な手段となりますが、複雑な手続や期限が存在するため、多くの人が戸惑いを感じています。
この記事では、投稿者を特定するために必要な発信者情報開示請求の手続の流れ、期限、そして権利侵害を受けた場合の対応について、分かりやすく解説します。この記事を読むことで、発信者情報開示に関する疑問を解消し、適切な対応を取ることができるようになります。
発信者情報開示請求とは何か
発信者情報開示請求とは、インターネット上で誹謗中傷やプライバシー侵害などの権利侵害を受けた場合に、その発信者を特定するために、インターネットサービスプロバイダ(ISP)やウェブサイト運営者に対して、発信者の情報を開示するように求める手続です。権利侵害を受けた被害者が、加害者を特定し、損害賠償請求などの法的措置を取るために必要な手段となります。
発信者情報開示請求の目的
発信者情報開示請求の主な目的は、権利侵害を行った発信者を特定することです。特定された発信者情報に基づいて、損害賠償請求訴訟、発信者情報開示請求訴訟、刑事告訴などの法的措置を検討することができます。また、発信者特定が抑止力となり、更なる権利侵害を防止する効果も期待できます。
開示される情報の種類

情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)に基づく場合、発信者情報開示請求による開示の対象となる情報は、以下のようになります。
| 開示情報 | 内容 |
|---|---|
| 氏名 | 発信者の氏名または名称 |
| 住所 | 発信者の住所 |
| 電話番号 | 発信者の電話番号 |
| メールアドレス | 発信時に使用されたメールアドレス |
| IPアドレス | 発信時に使用されたIPアドレス |
| 発信日時 | 発信が行われた日時 |
掲示板サイトの運営者への開示請求では、書き込み日時、IPアドレス、ホスト名等が開示される可能性があります。詳しくは総務省|電気通信消費者情報コーナー|インターネット上の違法・有害情報に対する対応をご参照ください。
参考:情報流通プラットフォーム対処法5条、同施行規則2条・3条・4条
発信者情報開示請求については以下の記事もご覧ください。
投稿者特定のための発信者情報開示請求の手続の流れ
インターネット上で誹謗中傷やプライバシー侵害を受けた場合、加害者を特定するために発信者情報開示請求を行うことができます。発信者情報開示請求には、大きく分けて裁判外での発信者情報開示請求と、裁判所の手続による発信者情報開示命令申立ての2つの手続があります。
裁判外交渉の場合、IPアドレスの開示を受けられるケースを受けることができるケースは例外的です。基本的には裁判外交渉ではIPアドレスの開示を受けることはできないため、以下、発信者情報開示命令申立てを中心に解説していきます。
発信者情報開示命令申立て
発信者情報開示命令申立ては、裁判所を使った手続ですが、情報開示用の特別な手続であり、訴訟ではない手続(非訟事件手続)です。
開示請求の対象となるプロバイダ
開示請求の対象となるプロバイダは、書き込みがされたウェブサイトや掲示板を運営するプロバイダ(コンテンツプロバイダ)、および加害者が利用しているインターネット接続業者(アクセスプロバイダ)です。もっとも、掲示板への書き込みの場合、掲示板を運営するコンテンツプロバイダが投稿者の氏名・住所を把握していることは多くありません。そのため、コンテンツプロバイダと書き込みを行った人物のインターネット接続業者であるアクセスプロバイダの両方に開示請求を行う必要があります。

開示請求に必要な情報
開示請求を行う際には、以下の情報をプロバイダに提供する必要があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 権利侵害の事実 | 具体的な権利侵害の内容(誹謗中傷、プライバシー侵害など)と、その内容が確認できるURLやスクリーンショットなどを提出します。 |
| 侵害情報が発信された日時 | 発信日時が特定できる場合は、できるだけ正確に記載します。 |
| 発信者のIPアドレス | プロバイダによっては、IPアドレスの提供を求められる場合があります。 |
| 請求者の氏名・住所・連絡先 | 請求者自身の情報も正確に記載する必要があります。 |
参考:情報流通プラットフォーム対処法発信者情報開示関係ガイドライン 4~5頁、27頁以下
発信者情報開示命令申立てに伴うログの保全
発信者情報開示命令申立てでは、ログの保存期間が大きな制約となります。ログが適切に保全されていない場合、発信者の特定が困難になるだけでなく、裁判で証拠として採用されない可能性もあります。そのため、開示命令申立てを行う前に、ログの保全についてしっかりと理解しておく必要があります。
ログの保全期間

ログの保全期間は、プロバイダやサービスによって異なります。一般的には、3~6ヶ月程度とされていますが、具体的な期間は各社の規定を確認する必要があります。保存期間が過ぎている場合、ログが残っていない可能性が高いため、早期の対応が重要となります。
特に、掲示板やブログなど、情報がすぐに更新されるサイトでは、ログが短期間で消去される可能性があります。そのため、権利侵害を発見したら、できるだけ早くログの保全を依頼することが重要です。
参考:電気通信事業における 個人情報保護に関するガイドライ ン (令和4年個人情報保護委員会・総務省告示第4号)の解説 194頁以下
ログの保全方法

ログの保全方法は、大きく分けて以下の3つがあります。
- 提供命令申立て
- プロバイダへの保全依頼
- 消去禁止命令申立て
提供命令申立て
提供命令申立てとは、①サイト運営者に対して「IPアドレスからわかるプロバイダがどこか」という情報を開示させる、②サイト運営者からプロバイダに対して、問題となっている投稿に関するIPアドレスとタイムスタンプを共有させる、という2つの義務を求める手続です。
これにより、命令を受けたプロバイダがあらかじめ保有する発信者情報(発信者の氏名及び住所等)を特定・保全しておくことが可能となります。また、コンテンツプロバイダに対する開示命令事件における裁判所の開示に関する判断を待つことなく、経由プロバイダに対する消去禁止命令の申立てをすることができるようになります。
参考:裁判所による3つの命令の創設、総務省|インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)|プロバイダ責任制限法Q&A 問21
プロバイダへの保全依頼
プロバイダにログの保全を依頼する場合、書面やメールで連絡を取り、必要な情報を提供します。提供する情報は、権利侵害の発生日時、侵害の内容、侵害を受けたURLなどです。
プロバイダによっては、専用のフォームを用意している場合もあります。プロバイダへの保全依頼は、証拠保全の観点から最も確実な方法です。もっとも、これはプロバイダが判明していなければ利用することができない手続であることに注意が必要です。
消去禁止命令申立て
削除禁止命令申立てとは、発信者情報開示命令事件の審理中に発信者情報が消去されることを防ぐための裁判手続です。裁判所が、申立てにより、発信者情報開示命令事件が終了するまでの間、プロバイダが保有する発信者情報の消去禁止を命ずることができます。これについても、プロバイダへの保存依頼と同様、プロバイダが判明していなければ利用することができない手続です。
参考:総務省|インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)|プロバイダ責任制限法Q&A 問22
発信者情報開示請求とログ保全に関するより詳細な情報については、総務省|インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法) を参照ください。
インターネット上で誹謗中傷等の権利侵害を受けた場合の対応
これまで説明した通り、発信者情報開示命令申立ては、迅速に行う必要があります。以下、手続をスムーズに進めるために必要な対応をご紹介します。

証拠の収集
発信者情報開示命令申立てが認められるためには、証拠によって具体的な権利侵害の事実を証明することが必要です。そのためには、①権利侵害に当たる投稿の本文、②投稿日時、③投稿URLが有力な証拠となります。このことから、証拠を収集する際には、これらの情報が含まれる形でスクリーンショットを撮影しておくようにしましょう。
弁護士への相談
発信者情報開示命令申立ては、法律に関する専門的な知識が必要となる複雑な手続です。特に、権利侵害の事実が争われている場合は、弁護士に相談することを強く推奨します。弁護士は、適切なアドバイスや手続のサポートを提供し、スムーズな解決を導いてくれます。専門家のサポートを受けることは、自身を守る上で非常に重要です。
発信者情報開示請求を行う際は、情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法)や関連法規、判例などを参考に、慎重な判断と適切な行動を心がけることが重要です。
参考:タングラム法律事務所|発信者情報開示命令申立ての具体的な機関とその流れ|コラム
まとめ
インターネット上の誹謗中傷やプライバシー侵害に対して、発信者情報開示請求は有効な手段です。
本記事では、投稿者を特定するための発信者情報開示命令申立ての手続、期限とログの保存方法、権利侵害を受けた場合の対応について解説しました。インターネット上の誹謗中傷やプライバシー侵害等の権利侵害に対する損害賠償請求をするためには、まず、請求の相手方を確定させることが必要です。
そのために、発信者情報開示命令申立ては有効な手段です。発信者情報開示命令の対象となる情報が含まれるログは一定期間しか保存されないため、早急に手続を進める必要があります。また、ログの保存のため、発信者情報開示命令申立てと並行して、提供命令申立て等の手続を行うことが有効です。
これらの手続には、迅速に証拠を収集することが必要です。また、法律の専門知識が必要となる手続であるため、専門家への相談も検討しましょう。適切な手続と迅速な対応によって、権利を守り、インターネット上の健全な環境を維持することが重要です。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。




