「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」の公表について

企業法務全般

令和7年9月30日に公正取引委員会は「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」を公表しました。コンテンツ産業において、これまでも様々な計画や調査が実施されてきましたが、ガイドラインとして明確な指針が公表されたのは今回が初めてです。

この記事では、指針の目的、法的拘束力(罰則の有無)、YouTube・VTuber事務所等への適用範囲、具体的な取引におけるOK/NG例までを弁護士が徹底解説。本指針を理解し、トラブルを未然に防ぎ、適正な契約関係を築くための知識が手に入ります。業界関係者必読の内容です。

実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針とはそもそも何?

「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」(以下、「本指針」とします)は、実演家と事業者との取引を公正に保ち、クリエイターの権利と立場を守ることを目的としたものです。

実演家は、芸能事務所、放送事業者、レコード会社などの事業者と協働することで、創造性を発揮する環境を得ており、このような協働によって我が国が誇るコンテンツの創造活動を担っています。

技術の進展により、コンテンツの競争力の源泉が個人の創造力に移りつつある現在、クリエイターと事業者の協働関係はこれまで以上に重要性を増しています。

こうした状況を踏まえ、独占禁止法の観点から、実演家が不当に不利益を被らないよう、契約や取引のあり方を明確に示したものが、本指針です。

公正取引委員会|「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」の公表について

公表の背景

本指針が公表されるに至った背景として、具体的には以下のような経緯が挙げられます。

令和6年6月:新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版の公表

公正取引委員会はコンテンツ産業について、個人の創造性に重点が移りつつあることに鑑みて、個人を守ることに力点を置いて、音楽・放送番組分野の取引慣行等について実態調査を行い、本年内に完了することを明示しました。

また、この調査結果を踏まえ実演家と事務所との間の契約等を適正化するため、それに反する行為は独占禁止法に抵触するおそれがあることを示す指針の作成を図ることも記しています。

令和6年12月:実態調査報告書の公表

①芸能事務所と実演家の取引、②放送事業者又は番組制作会社(以下「放送事業者等」という。)と芸能事務所・実演家の取引、③レコード会社と芸能事務所・実演家の取引の三つの取引それぞれについて調査が行われました。

実態調査の結果、その一部について独占禁止法上の観点から問題となり得る行為が確認されたことが報告書によって公表されました。

令和7年6月:新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版の公表

実態調査を踏まえて、実演家と事務所との間の契約等を適正化するために、独占禁止法上の考え方を明確にする指針を策定し、関係省庁が連携してその指針の周知徹底を図ることを公表しました。

本指針の策定

実態調査報告書を踏まえ、上記①から③の取引における芸能事務所、放送事業者等又はレコード会社の採るべき行動について行動指針として取りまとめました。

以上の経緯を踏まえると、これまでも調査や実行計画は行われてきましたが、指針として明確に策定されたのは今回が初めてであることがわかります。

詳しくは以下の1頁をご覧ください。

実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との 取引の適正化に関する指針 【概要】

この指針を無視したらどうなるのか?(強制されるもの?参考?強制だとしたら罰則は?)

本指針は内閣官房及び公正取引委員会によって策定されたものですが、本指針に法的拘束力はあるのでしょうか?

本指針の法的性質について

まず、本指針そのものには、直接的な法的拘束力や罰則規定は設けられていません。

本指針は、法律のように違反した場合に罰則が科される「法規範」ではなく、あくまでも業界内における取引の適正化を図るために示されたガイドラインです。

したがって、指針に沿わない行為を行ったとしても、それ自体によって直ちに法的制裁が科されるわけではありません。

指針を無視した取引は問題ない?

それでは、本指針に反する取引を行っても問題はないのでしょうか。

実際には、そうではありません。たしかに、本指針自体には法的拘束力や直接的な罰則規定は存在しませんが、その内容を無視した取引が行われた場合には、独占禁止法違反に該当するおそれがある点に留意する必要があります。

現に、公正取引委員会は、芸能事務所等の事業者が本指針に記載された「採るべき行動」に反するような対応を取った結果、公正な競争が阻害されるおそれが認められる場合には、独占禁止法等に基づき厳正に対処する旨を明言しています。

特に、芸能事務所等が本指針に記載の17の採るべき行動に沿わないような行為をすることにより、公正な競争を阻害するおそれがあり、独占禁止法に違反する場合には、公正取引委員会において独占禁止法に基づき厳正に対処していく。

「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」

したがって、本指針を「罰則がないから従わなくてもよい」と軽視することは、法的リスクを見過ごすことになりかねない点に十分な注意が必要です。

参照:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」4頁~5頁

適用範囲は?いわゆる芸能事務所以外のYouTube事務所・VTuber事務所等のインフルエンサーは?等

本指針は、上記の通り、特定の関係者間における取引の適正化を目指すものです。関係者同士の取引が公正かつ透明に行われるようにすることで、不正やトラブルを防ぎ、健全な取引環境の確立を図ります。

ここでは、具体的にどのような取引や行為が対象となるのか、その適用範囲について、わかりやすく解説していきます。

本指針の対象となる取引及び行為

本指針の対象となる取引及び行為は以下の通りです。

実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針【概要】3頁

大きく分けると以下の三つに分類することができます。

①実演家と芸能事務所の取引
②放送事業者等と芸能事務所・実演家の取引
③レコード会社と芸能事務所・実演家の取引

なお、本指針は独占禁止法上の観点から問題となり得る行為を整理したものですが、実演家が特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第 25号。以下「フリーランス法」という。)の「特定受託事業者」又は下請代金支払遅延等防止法(昭和31年法律第120号。以下「下請法」という。)の「下請事業者」に該当する場合には、独占禁止法だけでなくフリーランス法又は下請法に違反する可能性もあります。

そのような場合には、各事業者においては、この点についても留意が必要です。

例えば、フリーランス法上、業務委託をした事業者は、直ちに、報酬の額、支払期日等の取引条件を明示する義務を負う点に留意が必要です(フリーランス法第3条第1項)。

フリーランス法の適用範囲については、以下の法律記事をご参照ください。

また、下請法は、2026年1月1日から改正法が施行され、中小受託取引適正化法となり、適用範囲が拡大されます。詳しくは、以下の法律記事をご参照ください。

独占禁止法と同様に、これらの法律に違反する場合には、公正取引委員会において厳正に対処されることとなります。

▼詳しくは以下の5頁をご覧ください。
「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」

YouTuber、Vtuber事務所は?

本指針は、あくまでもそれ自体が法的拘束力や罰則による実効性を持つものではなく、独占禁止法や下請法、フリーランス法の解釈指針となるにとどまっています。

以上の事情から、その適用範囲がどこまでか明確に定められてはいません。

しかしながら、コンテンツを創出するクリエイターと当該クリエイターが所属する所属事務所の関係であれば、いわゆる典型的な芸能事務所であっても、YouTuber・Vtuberの事務所であっても、両事務所とそれぞれのクリエイターとの関係は類似の関係性であって、契約トラブル等の問題状況も近いものがあります。

このことから、いわゆる典型的な芸能事務所ではなく、YouTuber・Vtuberの事務所とタレントの関係においても、本指針の解釈は十分参考にされる余地のあるものと思われます。

全体像や内容、OK例NG例を含めて解説

全体像

本指針では以下のような分類に基づき、各取引について採るべき行動指針が規定されています。

実演家と芸能事務所の取引専属義務の期間◆専属義務に係る契約期間の設定◆期間延長請求権
競業避止義務等◆競業避止義務等の規定
移籍・独立に係る妨害行為◆移籍・独立に係る金銭的給付の要求
◆移籍・独立を希望する実演家に対する妨害
◆移籍・独立した実演家に対する妨害
◆共同又は事業者団体による移籍制限等
実演家の権利に対する行為◆成果物に係る各種権利等の利用許諾
◆芸名・グループ名の使用制限
実演家の待遇に関する行為◆報酬に関する一方的決定◆業務の強制
契約の透明性を妨げる行為◆契約を書面により行わないこと、契約内容を十分に説明しないこと
◆実演家に対する実演等に係る取引内容の明示 ◆実演家報酬に係る明細等の明示
放送事業者等と芸能事務所・実演家の取引取引条件◆業務依頼時の十分な交渉、契約条件の書面等での明示
レコード会社と芸能事務所・実演家の取引契約終了後の活動制限◆実演禁止条項の規定◆再録禁止条項

参照:実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針(概要)2頁

指針の内容1|事務所が採るべき行動

事務所が採るべき行動として、さらに以下のように類型化されています。

それぞれの類型について、適切な対応例(OK例)および不適切な対応例(NG例)、ならびにNG例が抵触するおそれのある法令についても併せて紹介していきます。

契約期間・競業避止について

◆専属義務に係る契約期間の設定
  • 専属義務の期間を一定期間確保する必要がある場合には、あらかじめ契約上その期間を明確に規定すること
  • 専属義務を定める契約期間は、契約締結の段階(又は更新の段階)において、実演家の要望も踏まえつつ双方合意の上定めることとし、実演家が芸能事務所提示の期間より短い契約期間を求める場合には、芸能事務所が育成等のための投資費用(以下「育成等費用」という。)を合理的な範囲で回収し、かつ、合理的な範囲で収益を確保するために必要な期間について、実演家に十分説明し、協議すること
  • 契約期間を定めない場合は、通例、両当事者による 解除が可能であることを踏まえ、実演家が希望するタ イミングで、実演家の退所を認めること
  • 契約締結の段階(又は更新の段階)において、実演家に対して、専属義務の内容及び専属義務を定める契 約期間について、十分に説明し、実演家と協議すること
実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」6~7頁

専属義務を定める場合は、その期間を契約上明確に規定し、締結時または更新時には実演家と十分に協議の上、合意によって定めることが求められています。

また、実演家が提示された期間より短い契約を希望する場合には、芸能事務所は育成等費用の合理的な回収期間について丁寧に説明し、退所の希望がある場合には柔軟に応じる必要があります。
具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
実演家から長期の契約をしたいという要望がない場合には、契約期間は新人も含めて短期間の契約としている。
(NG例)
育成中の若年層の実演家だけでなく、業界経験も長く既に著名である実演家も区別 せず、入所する全ての実演家と、十分に協議した上での合意をすることなく、長期間の 契約期間を定める契約書のひな形を一律に用いて契約を締結している。
→ 優越的地位の濫用(独占禁止法第2条第9項第5号)、排他条件付取引又は拘束条件付取引(不公正 な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号。以下「一般指定」という。)第11 項又は第12項)にあたる可能性あり。

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」8~9頁

◆期間延長請求権
  • 期間延長請求権(芸能事務所からの請求により契約 を更新できる権利)を契約上規定する場合には、育成等費用を合理的な範囲で回収し、かつ、合理的な範囲 で収益の確保の必要性があると認められる場合において、1回に限る等合理的な範囲で行使できるものとし、 契約締結の段階(又は更新の段階)において、実演家 に対して、その必要性や行使できる範囲も含め、十分 に説明し、実演家と協議すること
  • 期間延長請求権を行使する際は、金銭的補償による 代替を検討した上で、合理的な範囲で育成等費用の未回収分を回収し、かつ、合理的な範囲で収益を確保するために必要な期間とし、その理由について実演家に 対して十分に説明すること
「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」9頁

期間延長請求権を契約に定める場合は、育成等費用を合理的な範囲で回収して収益確保の必要性があるときに限り、合理的な範囲で行使し、その必要性や条件について契約時に実演家と十分に説明・協議することが求められます。

また、行使する際も、合理的な範囲での回収かつ合理的な範囲で収益を確保するために必要な期間としており、その理由についても実演家に十分説明する事が定められています。
同様に具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
期間延長請求権を行使するケースは芸能事務所と実演家との関係性が悪い状況であ ると想定され、そのような状況では契約期間を延長しても互いにメリットがないため、 期間延長請求権を規定していない。
(NG例)
投資する育成等費用の多寡や、合理的な範囲での当該費用の回収又は収益の確保と は無関係に、一律に、所属する実演家との契約で期間延長請求権を規定している。
→ 優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引にあたる可能性あり。

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」10~11頁

◆競業避止義務等の規定
  • 原則として、契約上、競業避止義務等を規定しないこと(既存の契約で定められている場合は競業避止義務等を定める条項を削除すること) 
  • 仮に、保護すべき営業秘密を実演家が把握するような場合には、より競争制限的でない他の手段として、 まずは秘密保持契約の締結を検討すること
「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」11頁

競業避止義務は原則として契約上規定しないよう求められています。保護すべき営業秘密を実演家が把握するような場合には、他の手段としてまず秘密保持契約の締結の検討を推奨していることから、基本的には「規定しないでください」という方針です。
同様に具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
・ 所属する実演家が営業秘密を知ることはないため、競業避止義務を課すことはない。
・ 競業避止義務は規定していないが、実演家が保護すべき営業秘密を知る際に、秘密保持義務を課すことがある。
(NG例)
・ 実演家の移籍や独立をけん制するため、競業避止義務等を課している。
→ 優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引にあたる可能性あり。
・競業避止義務を課すことはないが、退所する実演家には、一定期間フリーとなることを求める。
→ 優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引にあたる可能性あり。

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」12頁

移籍・独立の妨害について

◆移籍・独立に係る金銭的給付の要求
  • 実演家が退所する際に金銭的給付の要求を行うことがある場合 には、あらかじめ契約上規定しておくことが望ましい。 
  • 特に、合理的な範囲で育成等費用の未回収分を回収し、かつ、 合理的な範囲での収益を確保するため金銭的給付を要求する場合に、要求する金銭の額が高額となり得るときは、どのような場合 に金銭的給付が求められるか等の考え方や算定方法等を契約上規定し、契約締結の段階(及び更新の段階)において、実演家に対 して、その必要性も含め、十分に説明し、協議すること 
  • 金銭的給付の要求は、合理的な範囲で育成等費用の未回収分を回収し、かつ、合理的な範囲での収益を確保するため、必要かつ相当と認められる範囲に限るものとすること
  •  退所する際に実際に金銭的給付の要求を行う場合は、実演家に 対して、要求する金額の算定根拠を示すとともに、その必要性・ 相当性を十分に説明し、実演家と協議すること 
  • 金銭的給付の要求を行う場合は、実演家の移籍又は独立後の収入を考慮しサンセット条項とすることや、移籍先の事務所との間 で合理的な範囲で金銭的給付について協議することも検討すること
「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」13頁

一方、移籍・独立に係る金銭的給付の要求に関しては契約にあらかじめ規定するよう記載されています。金銭的な請求を行う場合は、その必要性や金額の根拠を実演家に丁寧に説明・協議し、過度とならないよう合理的な範囲に限定することが求められています。
同様に具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
実演家の退所に際して、金銭的給付の要求は行っていない。
(NG例)
実演家との契約上では金銭的給付の要求を行うことを定めていなかったが、当該実演家が独立することとなったので、独立を妨害するために高額の金銭的給付の要求を行った。
→ 優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引にあたる可能性あり。

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」14~15頁

◆移籍・独立を希望する実演家に対する妨害
  • 実演家が契約を満了するに当たって移籍・独立の申出を行った際は、円滑に移籍・独立できるよう、移籍後の活動に際して必要となる連絡先、留意事項等を移籍先の事務所に伝達するなど、適切に対応すること
  • 実演家の移籍・独立を妨害するような言動をしないこと
「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」15頁

実演家の移籍・独立に対しては、妨げることなく円滑に進められるよう適切な対応をすることが求められます。
同様に具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
 実演家から退所の申出があった場合は、より良い条件を提示するなどして残っても らうための交渉はするが、実演家の今後の活動に影響を与えるような言動は行わない。
(NG例)
実演家から退所の申出があったが、実演家には退所を許諾しつつも、手続がまだ行えないなどと退所を引き延ばした。
→ 優越的地位の濫用、取引妨害にあたる可能性あり。

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」16頁

◆移籍・独立した実演家に対する妨害
  • 移籍・独立した実演家が、移籍・独立後に円滑に活動できるよう、活動を妨害するような言動をしないこと 
  • 移籍・独立した実演家について、例えば、 放送事業者等に対して円満退所でなかった ことやトラブルがあったことを伝えて、起 用しないことを放送事業者等に忖度させた り、トラブルの可能性があると思わせたりすることにより、起用を見送らせるというようなことにならないよう言動に留意すること
「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針(概要)」

移籍・独立した実演家に対しても、その活動を妨げるような言動は慎み、公正な起用機会を奪わないよう配慮することが求められます。
同様に具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
 実演家が移籍・独立する際には、移籍先の芸能事務所に対して適切に引継ぎを行う、 取引先である放送事業者等に対して連絡等を行うなど、移籍・独立後に実演家が円滑に 活動できるようにしている。
(NG例)
実演家の退所後、放送事業者等や関連事業者に対して、円満退所でなかったことやトラブルがあったことを伝えた
→ 取引妨害にあたる可能性あり。

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」17~18頁

◆共同又は事業者団体による移籍制限等
  • 複数の芸能事務所が共同して、又は事業者団体において実演家の移籍を制限したり、 移籍を希望する実演家との契約を拒絶したりせず、各芸能事務所の自主的な判断により実演家と契約すること 
  • 移籍してくる実演家に一定期間フリーとして活動を行うことを求めず、実演家の自由な選択に委ねること
「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針(概要)

実演家の移籍や契約に関して複数の芸能事務所が共同して制限してはならず、事務所ごとの自主的な判断に委ねた実演家との契約が求められています。
同様に具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
他の芸能事務所からの移籍を希望している実演家への勧誘の判断は、芸能事務所の 自主的な判断で行っている。
(NG例)
事業者団体の会合等において、直近に行われた実演家の移籍の話を引き合いに出し、 批判することなどにより、会合等の参加者内に、今後互いに引き抜きは行わないという 認識を共有した。
→ 不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)にあたる可能性あり。

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」18頁~19頁

実演家の権利・芸名について

◆成果物に係る各種権利等の利用許諾
  • 放送事業者等の取引先等から利用の申出があった場合には、各種権利等の利用を許諾しないこと に合理的な理由がなければ、各種権利等の利用を許諾すること 
  • 各種権利等の利用を許諾しない場合にはその理由について許諾を求めた者に十分説明すること
「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」19頁

権利の利用申出があった際は、正当な理由がない限り許諾し、拒否する場合はその理由を丁寧に説明することが求められています。
同様に具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
退所後の実演家に関する権利の利用の許諾申請があった場合は、名誉毀損的に使用 されるおそれがある等合理的な理由がある場合を除き、全て許諾している。
(NG例)
退所した実演家に係る成果物の使用について、特段の合理的な理由なく、許諾しなか った。
→ 単独の取引拒絶(一般指定第2項) にあたる可能性あり。

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」20頁

◆芸名・グループ名の使用制限
  • 芸名又はグループ名(以下「芸名等」という。)に関する権利を芸能事務所に帰属させる場合に は、あらかじめ契約上に明確に規定した上で、実演家に対して十分に説明し、実演家と協議すること 
  • 合理的な理由が無い限り芸名等の使用の制限を行わず、制限する場合においてもその制限の方法 は合理的な範囲の使用料の支払等の代替的な手段も含めて合理的なものとし、その理由について実 演家に十分に説明し、実演家と協議すること
「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」20頁~21頁

芸名などに関する権利を巡っては、契約で明確に定めた上で実演家と十分に協議し、使用を制限する場合も合理的かつ説明責任を果たすことが求められます。
同様に具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
芸能事務所に所属していた際に使用していた芸名等について、実演家が退所後も制 約なく自由に使うことができる。
(NG例)
契約書には芸名等の扱いについて何ら記載がなかったにもかかわらず、芸名等が芸 能事務所に帰属するとして、実演家の退所時に芸名等の使用を制限した。
→ 単独の取引 拒絶、取引妨害に該当する可能性あり。

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」21頁

実演家の待遇・契約の透明性について

◆報酬に関する一方的決定
  • 契約締結時、契約更新時、又は相当期間ごとに、実 演家と十分な協議を行った上で、報酬(二次使用料、 SNSやファンクラブ運営、グッズ販売による収益等 の配分を含む。)の額・歩合の率、実演家が負担する こととなる経費(報酬から控除する経費)等の条件について、できる限り契約上明記すること 
  • 契約上規定していなかった経費を実演家に請求する 又は実演家の報酬額から控除する場合においては、当該経費について十分説明し、実演家と協議の上、合意 された場合にのみ行うこと
「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」22頁

報酬や経費の条件はできる限り契約で明確にし、実演家と十分に協議・合意した上で適切に取り扱うことが求められます。契約上規定のない経費を実演家に請求したり、実演家の報酬額から控除される場合には十分な説明と合意の上実行することも記載されています。
同様に具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
 報酬の分配比率や支払方法は、契約期間にかかわらず、基本的に毎年、実演家と協議 する。
(NG例)
契約更新において、実演家と交渉することなく一方的に報酬額を決定する。
→ 優越的地位の濫用にあたる可能性あり。

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」23~24頁

◆業務の強制
  • 取引先から依頼を受けた業務の具体的内容について 事前に実演家に提示し、その意向を確認すること 
  • 実演家が希望しない可能性がある内容の業務の依頼 を取引先から受け、実演家の将来を見据えた育成やプ ロモーションなどの観点からその業務を引き受けよう とする場合には、その必要性などを実演家に十分に説 明し、実演家と協議した上で、実演家本人が納得した 場合に限り引き受けること 
  • 実演家が特定の業務を拒否した場合に、当該実演家 について合理的な理由なくその他の業務も含めて一律 に営業活動を行わないというような報復等を行ってはならず、実演家の自由な選択を尊重すること
「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」24頁

業務内容は事前に実演家に説明し協議の上で承諾を得るとともに、拒否に対しては不当な扱いをせず、実演家の自由な意思を尊重することが求められます。
同様に具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
業務の内容や報酬は、判明した時点で実演家に伝え、意向を確認している。
(NG例)
実演家が望んでいない業務を強制し、実演家が本来望む方向の業務依頼が来なくな るようにさせた。
→ 優越的地位の濫用にあたる可能性あり。

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」25頁

◆契約を書面により行わないこと、契約内容を十分に説明しないこと
  • 契約内容(業務の内容、報酬額の算出方法等)を明確化した上で、契約を書面で行うこと
  • 実演家(特に若年の実演家)との契約締結時に、実演家が取得する各種 権利や芸名の帰属に係る条項、報酬に係る条項、実演家の活動(退所後を 含む。)を制約し得る条項などの重要な契約内容については、積極的に、 その目的を含め十分に説明すること 
  • 契約更新時に、重要な契約内容について、実演家の意向を十分に確認すること 
  • 実演家が、弁護士等に相談しつつ契約内容を十分に検討できるよう、契約の案の提示から合意・締結まで一定の期間を設けること(その場での契 約の締結を強要しないこと)
  • 実演家(特に若年の実演家)が、契約内容等について弁護士等の第三者 に相談できるよう配慮すること 
  • 実演家からの契約内容に係る質問や協議の申出に対して、いつでも真摯に対応すること
「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」25頁~26頁

契約内容は書面で明確にし、実演家に十分説明・協議の機会を提供するとともに、第三者への相談にも配慮して誠実に対応することが求められます。契約更新時においても、実演家の意向の十分な確認が求められています。
同様に具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
実演家と初めて契約を締結する際(実演家が入所をする際)は、契約書の読み合わせをした上で、特に報酬及び損害賠償については、重点的に説明している。
(NG例)
実演家との間で契約書は存在しない。
→ 優越的地位の濫用を誘発する行為、欺瞞的顧客誘引にあたる可能性あり。

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」27~28頁

◆実演家に対する実演等に係る取引内容の明示

放送事業者等の取引先からの依頼を受けようとして、実演家へ業務を依頼する際には、実演家が自身の判断により業務を選択できるよう、芸能事務所がその時点で知り得る実演等に係る取引内容の詳細を明らかにすること

「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」28頁

放送事業者等からの依頼を実演家に伝える際は、芸能事務所が取引内容を明確に示し、実演家が自ら判断して業務を選択できるようにすることが求められます。
同様に具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
 放送事業者から業務の依頼を受けようとする場合には、実演家に対して、早めに、実演家が業務を選べるよう放送番組の内容等を伝えている。
(NG例)
 放送番組等の内容を把握しているが、実演家から質問があっても面倒なので直前ま で伝えない。
→ 優越的地位の濫用を誘発する行為にあたる可能性あり。

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」28~29頁

◆実演家報酬に係る明細等の明示

実演家に歩合制により報酬を支払う場合には、①実演家の業務ごと (芸能事務所と取引先との契約ごと)の契約金額の総額、②①のうち芸能事務所及び実演家それぞれへの分配額又は比率、③②の実演家への報酬額から差し引く費用等がある場合は、その項目及び金額について、明示すること

「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」29頁

歩合制報酬を支払う際は、契約金額の総額や分配割合、控除費用などを実演家に明確に示すことが求められます。
同様に具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
実演家への支払明細に、実演の業務ごとの項目名、業務実施日、取引金額及び実演家 への分配比率又は金額を示している。したがって、実演家は、業務ごとの契約金額の総 額及びそこから実演家へどの程度支払われているかを確認できる。
(NG例)
毎月の支払総額だけを実演家に伝えている。個別の業務ごとの項目や金額といった 内訳は示していない。
→ 優越的地位の濫用を誘発する行為にあたる可能性あり。

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」29~30頁

指針の内容2|放送事業者等が採るべき行動

先ほどは芸能事務所が採るべき行動について紹介しましたが、以下では、放送事業者等が採るべき行動について整理します。前項と同様に、適切な事例(OK例)、不適切な事例(NG例)を含めて解説していきます。

業務依頼時の十分な交渉、契約条件の書面等での明示について

  • 芸能事務所・実演家に対して、業務依頼時に、可能な限り具体的な契約条件(報酬 の金額や支払条件、業務内容、拘束期間な ど)を書面等(メールや電子ファイル等を含む。)で示すこと 
  • 芸能事務所・実演家に対して、契約条件 (報酬の金額や支払条件、業務内容、拘束 期間など)等を一方的に提示・変更するの ではなく、交渉の機会を設ける等により、芸能事務所・実演家からの意見を確認し、 十分に説明し、協議すること
「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」30頁

業務依頼時には契約条件をできる限り書面で明示し、一方的な提示や変更を避けて、必ず十分な協議と説明を行うことが求められます。
同様に具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
 出演料は、番組の時間帯、番組の長さ、実演の形態、実演家の実績(過去出演した時 の出演料)などを基に、芸能事務所と交渉して決める。
(NG例)
主演級の実演家の場合は芸能事務所と契約書を取り交わすが、主演級以外の実演家 や、主演級の実演家であっても連続する番組以外への出演の場合は契約書を取り交わ さず、具体的な契約条件を書面等で明示することもしていない。
→ 優越的地位の濫用を誘発する行為にあたる可能性あり。

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」31~32頁

指針の内容3|レコード会社が採るべき行動

最後に、レコード会社のとるべき行動です。

実演収録禁止条項とは、実態調査報告書における「実演禁止条項」と同様の意味で扱っています。指針を策定する中でこのような名称で表記することとしたものです。

こちらも同様に、適切な事例(OK例)、不適切な事例(NG例)を含めて解説していきます。

実演収録禁止条項の規定について

  • 契約終了後に一定期間の実演の収録を禁止する実演収録禁止条項を定める目的を確認 し、契約上実演収録禁止条項を規定することだけでなく規定しないことを含め、当該規定の必要性・相当性を検証し、規定する場合には、必要性・相当性を含め実演家等に十 分説明し、協議すること 
  • 実演収録禁止条項を定める目的から必要性等があると認められる場合であっても、禁止する対象や期間を、当該目的のために必要かつ相当な範囲に限定すること
「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」32頁

実演収録禁止条項の必要性や範囲を慎重に検証し、規定する場合は実演家に十分説明・協議の上、必要かつ相当な範囲に限定することが求められます。
同様に具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
近年は、実演家の楽曲を継続して配信し、ファンを離れさせないことが重要なため、 実演収録禁止条項は規定していない。
(NG例)
音楽の実演のみならず、例えば、配信での対談のようなものも含めて、芸能事務所か ら相談があっても一切の実演を認めていない。
→ 優越的地位の濫用、排他条件付取引又 は拘束条件付取引にあたる

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」33~34頁

再録禁止条項について

  • 再録禁止条項を定めるに当たり、長期間の契約期間中にリリースされた楽曲につい て一律に契約終了時点から再録を禁止するのではなく、合理的な範囲での投資の回収 や合理的な範囲での収益の確保という目的のために必要な楽曲についてのみ再録禁止 条項の対象とし、当該目的のために必要かつ相当な期間を設定すること 
  • 再録禁止条項の効力発生の起算点について、契約終了時点とするだけでなく個別の 楽曲のリリース時点とすることを含め、必要性・相当性が認められる方法で設定すること 
  • 再録禁止条項について、複数回の契約更新を経てリリースから長期間が経過してい る楽曲について、芸能事務所・実演家から交渉された場合には、合理的な範囲での投 資の回収や合理的な範囲での収益の確保ができているのであれば再録を認めるという ように柔軟に対応すること 
  • 再録禁止条項は、既にリリースした楽曲等について他のレコード会社で同一楽曲をリリースするための収録のみならず、収録を伴うライブ、コンサートなども対象の範 囲に含みうるものであるが、楽曲のリリース後の合理的な範囲での投資の回収や合理 的な範囲での収益の確保という目的のために必要かつ相当な範囲に限定すること
「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」34~35頁

再録禁止条項は、投資回収や収益確保のために必要かつ相当な楽曲や期間に限定し、契約終了時点だけでなくリリース時点も起算点に含め、状況に応じて柔軟に対応することが求められます。
同様に具体的な対応例もご紹介します。

(OK例)
 再録禁止条項において、リリースしてから相当の期間が経過した楽曲は対象外とし ている。
(NG例)
芸能事務所から、再録禁止条項の期間中であるものの、相当以前にリリースし、近年ではほとんど売上げのない楽曲について再録したいとの交渉を受けたが、再録を認めない。
→ 優越的地位の濫用、排他条件付取引又は拘束条件付取引にあたる可能性あり。

引用:「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」36頁

本記事内で紹介したOK例NG例は一部抜粋です。
他にも違った事例が記載されているので引用元リンクをご覧ください。

今後の対応について

内閣官房および公正取引委員会は、関係府省庁や業界団体の協力を得て、本指針の周知徹底を図る方針です。

また、公正取引委員会は、芸能事務所等の行為が本指針に沿わず、公正な競争を阻害するおそれがある場合には、独占禁止法等に基づき厳正に対処する姿勢を示しています。

これにより、本指針が実効性を伴った運用へとつながり、業界全体の適正な取引慣行の定着が期待されるでしょう。

まとめ

「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」は、実演家と事業者間の公正な取引を促進し、独占禁止法違反行為を未然に防ぐための重要な基準です。

この指針自体に直接の罰則はありませんが、その内容は独占禁止法上の考え方を示すものであり、違反行為は公正取引委員会による法的措置の対象となる可能性があります。

従来の芸能事務所に留まらず、YouTubeやVTuber事務所等のインフルエンサーをマネジメントする事業者にも参考となる内容になっています。全ての関係者が指針を深く理解し、適切な取引慣行を確立することが、業界全体の健全な発展と実演家の権利保護に不可欠であるといえるでしょう。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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