取締役会の実効性評価を徹底解説!~ガバナンス強化で企業価値向上へ~

企業法務全般

この記事では、企業ガバナンスの中核をなす取締役会の実効性評価について、定義や必要性、具体的な評価手法・評価項目の選定方法を、実際の成功事例や失敗事例とともに分かりやすく解説します。

自己評価、外部評価、さらにこれらを組み合わせた評価手法のメリットや課題、実施手順と改善プロセスを網羅的に紹介し、投資家からの信頼獲得や企業価値向上を実現するための有効な取締役会運営のポイントと、実践的な知見が得られる内容となっています。

取締役会の実効性評価とは

取締役会の実効性評価とは、企業が自社の取締役会が定められた役割や責務を実効的に遂行できているかどうかを評価するプロセスです。これは、単なる数値化やランク付けのための評価ではなく、企業のコーポレートガバナンス体制の向上および継続的な改善を目的としています。

評価の結果は、取締役会の運営状況や意思決定プロセスを洗い出し、今後の改善活動(PDCAサイクル)の基盤となる重要な情報となります。

取締役会の実効性評価の定義

実効性評価とは、取締役会が経営戦略の策定、リスク管理、内部統制の確保など、企業経営における重要な役割を的確に果たしているかどうかを包括的に検証するものです。各社の企業理念や事業環境に合わせた独自の評価基準を設定し、自己評価や必要に応じた外部評価の手法を組み合わせながら、取締役会の現状と課題を明らかにします。

なぜ取締役会の実効性評価が必要なのか

企業価値向上への貢献

取締役会の運営が円滑に行われることで、企業は迅速かつ適切な意思決定を下すことが可能となり、長期的に企業価値の向上につながります。評価を通じて明らかになった改善点は、経営戦略やリスク管理体制の強化に直結し、株主やステークホルダーに対して信頼性の高いガバナンスを実現するための土台となります。

コーポレートガバナンス・コードとの関係

補充原則4-11③

取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果概要を開示すべきである。

株式会社東京証券取引所|コーポレートガバナンス・コード

コーポレートガバナンス・コードとは、コーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、東京証券取引所が定めています。

ここでいうコーポレートガバナンスとは、会社が株主をはじめ顧客・ 従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みのことです。コーポレートガバナンス・コードについては、5つの基本原則とそれを具体化した原則が定められています。これを基に、企業は経営を進めていくことが必要です。

投資家からの要請の高まり

金融庁が策定している「投資家と企業の対話ガイドライン」では、企業と投資家との間で、企業の中長期的な価値向上に向けた対話をするにあたり、重点的に議論するべき事項がまとめられています。

具体的には、①経営環境の変化に対応した経営判断、②投資戦略・財務管理の方針、③CEOの選解任・取締役会の機能発揮等、④ガバナンス上の個別課題の4項目です。取締役会の実効性評価を通じて、企業はガバナンス体制の現状や改善計画を明確に示すことができ、これが投資家との建設的な対話の材料となります。

取締役会の実効性評価の方法

取締役会の実効性評価を行う際、企業は自社の取締役会が本来果たすべき役割と責務に基づいて、その運営や意思決定プロセスが適切に機能しているかを検証します。

評価の方法は大きく分けて自己評価、外部評価、そして両者を組み合わせた評価とされ、各手法にはそれぞれ特有のメリットと留意点があります。以下では、各評価方法について詳しく解説します。

自己評価

自己評価は、取締役会自身が内省的に運営状況を振り返り、改善ポイントを明確にするための基本的な手法です。

メリットとデメリット

自己評価の主なメリットとしては、回答者に柔軟な時間が確保でき、匿名性を保つことで率直な意見が集まりやすい点が挙げられます。また、同一項目の定期的な評価により、運営改善の進捗を継続的に追跡できるため、改善のPDCAサイクルを円滑に回す基盤となります。

一方で、自己評価のデメリットとして、自社内での評価であるために客観性に欠ける可能性があり、過大評価や見落としが発生しやすい点が指摘されています。

具体的な実施手順

自己評価の実施に際しては、まず企業が目指すべき取締役会の在るべき姿と責務を関係者間で共有し、評価項目を明確化することが必要です。具体的な手順例は次のとおりです。

① 評価基準の策定

② アンケート調査やインタビューの実施

③ 集計と分析

④ 改善策の策定と反映

外部評価

外部評価は、自己評価の限界を補完するために、第三者の立場から客観性を加えて実施される方法です。専門の評価機関やコンサルタント、あるいは独立した外部の専門家に依頼して評価を実施することが一般的です。

メリットとデメリット

外部評価のメリットは、第三者の視点により、内部では気づきにくい問題点や改善課題を明確にできる点です。これにより、評価結果に対する信頼性が向上します。

デメリットとしては、評価費用や外部委託による手続きの複雑さが挙げられます。また、評価基準の設定や評価方法が十分に理解されない場合、評価結果に対する内部の受け入れが難しくなる恐れもあるため、十分な説明と調整が必要です。

具体的な実施手順

以下では、外部評価を行うにあたっての具体的な手順例を紹介します。

評価パートナーの選定
業界経験や知見が豊富な評価機関、または専門コンサルタントを選定します。評価実績や過去の事例を参考に、信頼性の高いパートナーを選ぶことが重要です。

評価方法のカスタマイズ
自社の取締役会の実態や目指す姿に合わせて、外部機関と協力し評価項目や評価方法をカスタマイズします。

評価の実施とフィードバック
実際の評価活動を実施し、得られたデータと専門家の意見を基にしたレポートを作成します。

改善策の議論と実行
外部評価の結果を踏まえ、取締役会内で議論を行いながら、具体的な改善策を定量的かつ定性的に検討し、実行に移していきます。

組み合わせ評価

組み合わせ評価は、自己評価と外部評価の両面を取り入れることで、それぞれの手法のメリットを相補的に活用し、よりバランスの取れた評価を実現する方法です。

この方法では、自己評価による定期的な内部チェックと、一定期間ごとに外部の専門家による客観的な評価とを併用します。これにより、内部視点と外部視点の両方から取締役会の運営状況を把握し、改善策の効果検証を継続的に行うことが可能となります。

こうした組み合わせ評価は、投資家との透明性の高い対話にも貢献し、取締役会全体の信頼性向上につながります。

評価項目の選定

取締役会の実効性を正確に評価するためには、各企業が目指すべき姿に合わせた評価基準の明確化が不可欠です。評価項目は、取締役会全体の機能向上やガバナンス強化を目的として、体系的かつ柔軟に設定する必要があります。

これにより、単なる点数評価ではなく、継続的な改善と具体的な改善策の検討へとつながる仕組みが整います。

コーポレートガバナンス・コードを参考に

まず取締役会に求められる役割や責務を整理することが必要です。経済産業省が公表している、コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)では、取締役会の機能として①経営陣への監督機能、②個別の業務執行の具体的な意思決定を行う機能の2つを挙げています。

参照:コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)

会社の規模や特性に応じた項目設定

評価項目は一律の基準ではなく、企業の規模や事業特性、組織文化に応じて柔軟に設定することが求められます。大企業であれば多様な意見や専門性を反映するための項目を、比較的小規模な企業では実務負担とのバランスを考慮した項目設定を行うといった工夫が必要です。

具体的な評価項目例

以下は、評価項目の具体例です。

項目具体例
取締役会の規模と構成取締役の人数、社内取締役と社外取締役の割合
取締役会の運営状況開催時期・頻度、時間配分、効率性

取締役会の実効性評価の実施手順

準備段階

前述した取締役会の意義や役割、実効性評価をするにあたっての評価項目を確認した上で、各社の状況に応じて議論していくことが必要です。

実施段階

準備段階で設定した評価項目に基づき、取締役会の各構成員や関係部署から情報を収集します。評価方法としては、前述の通り、主に3つの手法が検討されます。

  • 自己評価:各社内でアンケートや各取締役への個別インタビューを実施して、評価する。
  • 外部評価:独立した第三者機関に依頼し、客観的な視点から評価を行う。
  • 組み合わせ評価:自己評価と外部評価の双方を活用し、相互に補完する。

結果分析と改善策の実施

評価結果の収集後、取締役会事務局または専任の評価チームがデータを精査し、評価結果の分析を行います。集計したアンケート結果やインタビュー内容をもとに、現在の運営面・意思決定過程の強みと弱点、さらなる改善が必要な項目が明確化されます。

また、この段階は、PDCAサイクル(計画、実行、評価、改善)における、CとAの段階に位置づけられ、既存の経営手法を改善していくために必要不可欠なプロセスです。

フォローアップ

改善策の実施後は、必ずその効果を検証し、次回の評価に反映させるためのフォローアッププロセスが必要です。このフォローアップ段階では、下記のポイントが重要です。

  • 改善効果の定量的および定性的評価
  • 継続的なPDCAサイクルの運用による、取締役会全体の実効性向上
  • 評価結果の透明性確保、外部への情報開示

取締役会の実効性評価の成功事例と失敗事例

取締役会の実効性評価を通して、企業が取り組むべき改善策や組織体制の見直しが促進される事例が多く報告されています。一方で、評価の方法や実施プロセスに課題が生じ、思わしくない結果に終わった失敗例も存在します。ここでは、成功事例と失敗事例それぞれのポイントを具体的に解説します。

成功事例から学ぶポイント

株式会社東京証券取引所が発表する「コーポレート・ガバナンスに関する開示の好事例集」では、取締役会の実効性の分析・評価をするにあたっての好事例がまとめられています。以下の好事例に倣うことで、実効性評価をより効果的なものにすることができます。

参照:株式会社東京証券取引所|コーポレート・ガバナンスに関する開示の好事例集

三井物産株式会社

  • 具体的なアンケート項目を含めた評価方法の概要の説明
  • 自己評価方式を採用する理由について言及
  • 前年度の実効性評価の結果を踏まえ、本年度の具体的な取り組みを記載
  • 更なる取り組みが必要な事項をこれまでの経緯を含め開示

アサヒグループホールディングス株式会社

  • 前年度に認識した課題への対応に関する評価とそれを踏まえて継続的に改善すべき点を具体的に記載
  • 今後の課題と取り組みの概要を具体的に記載
  • 実効性評価の実施方法を具体的な評価項目と合わせて記載
  • 第三者機関の知見を評価に活用
  • 自社ウェブサイトで公表した分析・評価結果の概要の参考資料において、図解を用いるなどして取り組みを分かりやすく説明する工夫

株式会社荏原製作所

  • 前年度の実効性評価における課題への取り組みを具体的に記載
  • 分析・評価の手法を第三者機関の利用も含めて記載
  • 今後の対応について具体的に記載
  • 取締役会の実効性評価の概要を株式総会前に公表

取締役会の実効性評価に関するよくある質問(FAQ)

費用はどのくらいかかるのか

取締役会の実効性評価にかかる費用は、企業の規模や評価方法、そして内部評価と外部評価の併用の有無によって大きく変動します。たとえば、内部での自己評価のみを行う場合は、比較的低コストで済む傾向にあります。

一方、第三者機関による独立した評価支援を依頼する場合は、外部の専門家の協力が必要となり、内部評価を実施する場合よりも高額になる場合が一般的です。各企業の実情に合わせ、適切な調査手段を選択することが必要です。

どのくらいの頻度で実施するべきか

実効性評価は、企業のガバナンス改善のためのPDCAサイクルの一環として、継続的に実施することが望ましいです。多くの企業では、年次での自己評価を基本とし、環境変化や経営方針の転換があった際に追加で評価を行う事例も見受けられます。

さらに、第三者機関による評価を3年に一度取り入れることで、客観性と独立性を高めた評価結果を得る手法もあります。

外部評価機関の選び方は

外部評価機関を選定する際は、専門性と実績が確かな評価機関を選ぶことが重要です。候補となる機関の評価手法、フィードバックの内容、そして業界内での信頼性や実績などを十分に比較検討する必要があります。

さらに、独立性と客観性が保たれているかも重要な判断基準となります。

まとめ

本記事では、取締役会の実効性評価の定義や目的、評価手法、評価項目の選定と実施プロセスについて詳しく解説しました。コーポレートガバナンス・コードを踏まえ、評価結果を基にした改善策の実施が、企業価値向上に繋がります。継続的な評価とフォローアップを実施し、企業価値を高めていきましょう。



本記事の担当

プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕

損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。

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