新商品のキャンペーン、季節セール、リブランディング広告、インフルエンサー起用、サブスクリプションサービスの訴求──広告出稿の場面は年々多様化しています。一方で、消費者庁による景品表示法違反の摘発は近年さらに活発化しており、措置命令の公表により取引先からの信用低下や売上の急落、上場企業であれば株価への影響まで生じる事例が珍しくありません。
景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)は、内容が比較的シンプルでありながら、「実際にどの表現がアウトなのか」という線引きが極めて難しい法律です。同じ「最高峰の品質」という表現でも、根拠資料の整え方ひとつで適法にも違法にもなり得ます。
本記事は、企業の広告・宣伝・マーケティング・法務の各部門が、広告出稿前に最低限押さえておくべき7つのチェックポイントをまとめた実務チェックリストです。各ポイントについて、消費者庁による直近の措置命令事例にも触れながら、社内チェック体制の構築方法、違反時の初動対応まで通しで解説します。出稿フローのレビューや社内研修のたたき台としてご活用ください。
景品表示法の全体像と違反時のリスク量感

規制対象は「表示」と「景品類」の2本立て
景品表示法は、その名のとおり「景品」と「表示」の2つを規制対象とする法律です。「表示」とは、商品やサービスの内容・取引条件について消費者に知らせるあらゆる表現(広告、パッケージ、店頭POP、ウェブサイト、SNS投稿、口頭説明など)を指します。媒体は問われないため、テレビCMだけでなくランディングページの一文や、X(旧Twitter)の140字の投稿も規制対象となり得ます。
規制を受けるのは、商品・役務を「自ら供給する事業者」です。商品の供給主体でない広告代理店やインフルエンサー自身は、景品表示法上の措置命令の名宛人にはなりません。
措置命令と課徴金──ペナルティの実態
景品表示法違反に対する行政処分は、主に①措置命令、②課徴金納付命令の2段構えです。
措置命令は、違反表示の差止め、再発防止策の策定、社内周知、一般消費者への周知(自社ウェブサイト等での違反告知)などを命じる処分で、命令そのものが消費者庁により公表されます。実務上は、この「公表」がレピュテーションへの実質的な打撃となります。取引先や金融機関の与信担当者は措置命令の公表ページを定期的にチェックしており、命令を受けた事業者は取引条件の見直しや一部取引停止に至るケースもあります。
課徴金納付命令は、不当表示の対象となった商品・役務の売上額の3%を国に納付させる処分です。原則として最長3年間の売上が対象となり得るため、課徴金額は数百万円〜数億円規模に上る事案も少なくありません。一方、自主的に違反を申告した場合は課徴金額が50%減額されるなど、事業者の自主是正を促す仕組みも設けられています。
公表される事案は「氷山の一角」
消費者庁は、毎年数十件規模で措置命令や課徴金納付命令を公表しています。直近では、機能性表示食品の効果に関する優良誤認、健康器具のNo.1表示、化粧品の効能効果表示、医療法人の医療広告など、業種を問わず処分が続いています。命令に至らないまでも、消費者庁から行政指導(任意の指導・要請)を受けるケースを含めれば、規制の網にかかる事業者数はその数倍に上るとみられます。
つまり、「うちの業界は摘発が少ないから大丈夫」という油断は通用しません。広告出稿のたびに、以下の7つのポイントを一つひとつ確認していく地道な運用こそが、企業を守る最大の防御策になります。
7つのチェックポイント──広告出稿前に必ず確認する観点

ポイント1:優良誤認表示──「品質・性能の盛りすぎ」を疑う
最初に確認すべきは、商品の品質・規格・内容について、実際よりも著しく優良であると消費者に誤認させる表示(優良誤認表示、景品表示法5条1号)になっていないか、という点です。
たとえば「業界最高水準の精度」「医師の93%が推奨」「3週間で-5kg実感」といった表現は、すべて優良誤認のリスクをはらんでいます。問題となるのは、表現そのものではなく「実態」と「表示」のギャップです。実際に業界最高水準の数値根拠があり、かつ第三者検証データが揃っていれば適法ですが、根拠が曖昧なまま訴求すると違反となります。
特に重要なのが、景品表示法7条2項の「不実証広告規制」です。消費者庁から優良誤認の疑いがあるとして合理的根拠資料の提出を求められた場合、事業者は15日以内に資料を提出しなければなりません。提出できない、または提出した資料が根拠として不十分と判断されれば、不当表示と「みなされ」、措置命令の対象となります。広告制作時点で「いま消費者庁から問い合わせが来たら、何を出すか」を即答できる体制が必須です。
ポイント2:有利誤認表示──二重価格表示と「通常価格」のワナ
次に確認すべきは、商品の価格・取引条件について、実際よりも著しく有利と誤認させる表示(有利誤認表示、景品表示法5条2号)です。
典型例は二重価格表示です。「通常価格10,000円→セール価格5,000円」と表示する場合、「通常価格10,000円」が最近相当期間にわたって実際に販売されていた価格でなければ違反となります。「8週間ルール」と呼ばれる消費者庁ガイドラインを目安に、過去8週間のうち過半(4週間超)かつ2週間以上連続でその価格で販売実績があることが目安とされます。
「最大80%OFF」表示にも注意が必要です。商品ラインナップの中で80%OFFになっているのが1点だけで、ほかは10%程度の割引しかない場合、消費者は全体的に大幅割引と誤認します。「最大」の語を使うときは、対象商品の範囲や条件を併記することが基本です。
サブスクリプション型サービスでは、「初月無料」「いつでも解約可能」といった有利な訴求と、実際の解約手続きの煩雑さ・違約金の存在との乖離が問題となる事案も増えています。初回購入時の条件と継続条件のいずれも、画面上で消費者が容易に認識できる位置・大きさで表示することが求められます。
ポイント3:No.1表示・最上級表示──ガイドラインの3要件を満たしているか
「業界No.1」「顧客満足度第1位」「売上シェアトップ」といったNo.1表示は、消費者の購入意欲を大きく動かす反面、景品表示法上の優良誤認・有利誤認の最頻出論点です。
公正取引委員会・消費者庁のガイドラインでは、No.1表示が適法であるための要件として、概ね次の3点が求められます。
- 客観的な調査に基づくこと:信頼できる第三者機関による調査、または社内調査でも合理的な方法によること
- 調査結果を正確かつ適切に引用すること:調査対象、調査期間、調査機関、調査方法を表示すること
- 「No.1」と表示する事項と調査内容が一致していること:例えば「売上シェアNo.1」と表示するなら売上シェアの調査、「顧客満足度No.1」と表示するなら顧客満足度の調査である必要がある
特に問題が多いのが、調査対象者の選定方法に偏りがあるケース、自社サービス利用者だけにアンケートを取って「満足度No.1」とするケース、調査時点の表示が小さすぎて消費者に伝わらないケースです。出稿前に「No.1の根拠資料一式」をフォルダにまとめ、第三者が見ても再現できる状態にしておくことを社内ルール化すべきです。
ポイント4:比較広告──「実証・正確引用・公正な比較」の3要件
自社商品と他社商品を直接比較する比較広告は、消費者にとって有益な情報であると同時に、不適切に行えば優良誤認・有利誤認・他社の信用毀損を同時に招くリスクがあります。
消費者庁の「比較広告に関する景品表示法上の考え方」では、比較広告が適法となるために、①比較する事項を客観的に実証すること、②実証された数値や事実を正確かつ適正に引用すること、③比較の方法が公正であること、の3要件が示されています。
実務でつまずきやすいのは「公正な比較」の解釈です。たとえば、自社商品の最新モデルと他社の旧モデルを比較する、自社にとって有利な条件下でのみ比較する、調査時点の他社製品仕様が既に変更されているのに古いデータで比較する、といったケースは公正性を欠くと判断される可能性が高くなります。比較広告を行う際は、比較条件を必ず明示することが最低限のルールです。
ポイント5:ステルスマーケティング規制──「広告である」と一目で分かるか
令和5年10月1日から、ステルスマーケティング(いわゆる「ステマ」)は景品表示法上の不当表示として規制対象となりました。具体的には、事業者が自己の供給する商品・役務の表示でありながら、消費者がそれを事業者の表示と認識できないものが、不当表示として違反となります。
最も注意すべきは、インフルエンサーやアフィリエイター、レビューサイトに商品紹介を依頼する場面です。「PR」「広告」「Sponsored」といった表記が、投稿のごく末尾にハッシュタグの羅列の中に紛れている、画像の隅に極小サイズで表示されている、複数行の「続きを読む」を展開しないと見えない位置にある、といったケースはすべて違反リスクが高い状態です。
実務対応としては、事業者側で「広告である旨の表示」のテンプレートとガイドラインをまとめ、依頼先に必ず交付する運用が現実的です。SNSプラットフォームごとに推奨される表記位置・表記方法が異なるため、Instagram・X・TikTok・YouTubeのそれぞれについて社内マニュアルを整備することも検討に値します。
なお、本記事ではBtoB企業向けの社内体制視点で解説していますが、SNS/インフルエンサー起用に特化した実務論点については以下の各記事も合わせてご参照下さい。
ポイント6:景品類(懸賞・総付景品)──金額上限の3パターンを区別する
販促キャンペーンでよく行われる「抽選で○名様に旅行プレゼント」「ご来店者全員に粗品進呈」といった景品類の提供にも、景品表示法上の金額・総額の上限規制があります。区分は以下の3パターンで考えます。

第一に、一般懸賞(くじ引き等の偶然性、クイズの正解等の特定行為により当選者を決める方式)の場合、取引価額が5,000円未満なら景品の最高額は取引価額の20倍まで、5,000円以上なら10万円までです。また、懸賞に係る売上予定総額の2%が景品総額の上限となります。
第二に、共同懸賞(複数事業者が共同で行う懸賞)の場合、取引価額にかかわらず最高額は30万円、総額は売上予定総額の3%が上限です。
第三に、総付景品(取引を条件に、もれなく提供する景品)の場合、取引価額1,000円未満なら景品の最高額は200円、1,000円以上なら取引価額の20%が上限です。
なお、商品・役務の購入を条件としないオープン懸賞(誰でも応募可能なSNSフォロー&リポストキャンペーン等)には景品表示法上の上限規制はありません。ただし、応募条件として「商品を購入した方の中から」と少しでも条件を付けると、たちまち一般懸賞のルール下に入ります。SNSキャンペーン設計の際は、ここの線引きを最初に確認することが肝要です。
ポイント7:業種別の上乗せ規制──景表法だけでは終わらない
景品表示法は全業種共通の一般法ですが、業種によってはさらに厳しい上乗せ規制が存在します。広告出稿時は、自社業種に該当する個別法と業界自主規制(公正競争規約)の両方を必ず併走させてチェックしてください。
代表的なものを挙げると、食品分野では食品表示法、健康増進法(誇大広告等の禁止)、機能性表示食品制度(届出制/届出範囲を超える効能効果表示の禁止)。医薬品・医療機器・化粧品分野では薬機法(医薬品等の効能効果に関する広告規制)。医療分野では医療法(医療広告ガイドライン)。金融商品では金融商品取引法・銀行法等。不動産では宅地建物取引業法・不動産の表示に関する公正競争規約。これらは一例にすぎず、業種ごとに更に細かい規律が存在します。
機能性表示食品の事案では、消費者庁から多数の届出商品に対して措置命令が発出された事例も記憶に新しいところです。「届出をしたから安全」ではなく、「届出範囲を超える訴求になっていないか」「届出時のエビデンスが現在も維持されているか」を出稿の都度確認することが不可欠です。
社内チェック体制をどう組むか──ルールではなく「フロー」を作る

多重チェックフロー──マーケ/商品開発/法務/外部の4層
景品表示法対応は、担当者個人の知識だけで防ぐには限界があります。効果的なのは、広告出稿の決裁フローに4層のチェックポイントを組み込むことです。
第一層はマーケティング部門による自己点検。第二層は商品開発・品質保証部門による「表現の実態適合性」のチェック(実際の商品スペックと一致しているか)。第三層は法務部門による景表法・業種別個別法のチェック。第四層は、特にリスクの高いキャンペーン(大型予算、初回訴求、グレーゾーンの表現を含む場合)について、外部弁護士による事前レビューです。
第四層を内製化したい場合は、法務部員が景品表示法務検定などの体系的な学習を行い、社内で第一次判断ができる体制を構築するという選択肢もあります。中堅以上の事業者では、社内に景表法専門担当者を1名置く運用が定着しつつあります。
合理的根拠資料の保管ルール──「3年・元データ込み」が基本
優良誤認・No.1表示・比較広告のいずれにも共通するのが、「合理的根拠資料を、いつでも15日以内に提出できる状態で保管しているか」という点です。
最低限のルールとして、①根拠資料は出稿日から少なくとも3年間保管する、②調査の元データ(生のアンケート結果、調査会社との契約書、調査票、サンプリング方法の記録)まで保管する、③外部調査会社のレポートだけでなく、社内での解釈・引用のプロセスも文書化する、ことを社内規程に明記しましょう。広告制作の現場では、調査レポートのサマリー部分だけがマーケ担当者の手元に残り、元データは外部委託先にしか存在しないというケースがありますが、これは非常に危険な状態です。
定期研修──「広告に触れる全社員」が対象
景品表示法違反は、法務部員以外の現場社員が起こすことが圧倒的に多い類型です。マーケ部門・PR部門だけでなく、店頭で接客を行う社員、SNS運用担当者、カスタマーサポート部門(口頭での説明にも景表法は適用される)まで含めて、年1回以上の定期研修を行うことが望まれます。
研修内容は、座学だけでなく、実際の措置命令事例の読み込み(消費者庁ウェブサイトに公表)、自社で過去に出稿した広告を題材にしたケーススタディが効果的です。
違反が発覚した場合の初動対応──「自主申告」を制度として知っておく
万が一、社内チェック後の出稿で違反の疑いが浮上した、あるいは消費者庁から報告徴収や立入検査を受けた、という事態に直面した場合、初動の3日間が処分内容を大きく左右します。

まず最初に取るべき行動は、該当する表示の即時停止です。違反の可能性を社内で認識した段階で表示を継続することは、悪質性が高いと判断される要因になります。同時に、社内の関係部門で事実関係の正確な記録を作成しましょう。誰が、いつ、どの根拠資料に基づいて、その表示を承認したのか、を時系列で整理することが求められます。
次に、景品表示法上設けられている「課徴金額の自主申告による減額制度」(景品表示法9条)の活用を検討します。違反事業者が消費者庁の調査開始前に自主的に違反を申告した場合、課徴金額は50%減額されます。事案によっては数千万円規模の減額となるため、違反の蓋然性が高い場合の重要な選択肢です。ただし、いったん自主申告すれば撤回はできず、事実関係の認定に争いがある場合は慎重な判断が必要となります。
消費者庁からの報告徴収や立入検査を受けた場合、提出する報告書・資料の作成は専門性が高く、提出書面の表現一つで処分の重さが変わることもあります。措置命令の通知書を受領した段階では、弁明の機会(聴聞手続)を経て命令が確定するため、この段階でも防御の余地は残されています。命令確定後の取消訴訟・課徴金審決取消訴訟も含め、違反対応の各段階で弁護士の関与が有効に機能する場面が多くあります。
景品表示法対応はルール暗記ではなく「広告出稿フローに組み込まれた継続運用」で初めて機能する
ここまで、広告出稿前にチェックすべき景品表示法の7つのポイント(優良誤認、有利誤認、No.1表示・最上級表示、比較広告、ステマ規制、景品類、業種別の上乗せ規制)を順に見てきました。改めて強調したいのは、これら7つの論点を担当者が「暗記」しても、景品表示法違反は防げないという点です。
実際に違反が起きるのは、知識のない担当者が独断で広告を作ったときではなく、忙しい時期に多重チェックの一つが省略されたとき、過去に問題なかった表現を踏襲したが市場・規制環境が変わっていたとき、外部委託先が作成した広告を社内が十分にチェックできなかったときです。つまり、防御の鍵は知識の量ではなく、出稿フロー設計の質と、その運用の継続性にあります。
本記事で示した7つのチェックポイントを、自社の広告出稿フロー(企画→制作→社内決裁→出稿→効果測定)の各段階に組み込み、定期的に運用状況を点検する仕組みを整えること。そして、判断に迷うグレーゾーンの事案について早期に外部の専門家に相談できる関係を持っておくこと。この2つが、景品表示法リスクを実質的にコントロールするための最も現実的な方法です。
各論点の詳細は今後本サイトで個別記事として展開予定です。優良誤認・有利誤認の細かい線引き、No.1表示の合理的根拠資料の作り方、ステマ規制の運用基準の最新動向など、ご関心に応じてご参照ください。
プロスパイア法律事務所
代表弁護士 光股知裕
損保系法律事務所、企業法務系法律事務所での経験を経てプロスパイア法律事務所を設立。IT・インフルエンサー関連事業を主な分野とするネクタル株式会社の代表取締役も務める。企業法務全般、ベンチャー企業法務、インターネット・IT関連法務などを中心に手掛ける。





