日本語として読める契約書を書く:一文の長さと係り受け

05 契約書を作成する技術

【基礎実務】最終確認:2026年10月25日

一 この技術は何をしているのか

契約書を読むのは、法務担当者だけではありません。発注する担当者、納品を受ける現場、支払をする経理部門が、それぞれ自分に関係する条項を読んで動きます。読んで意味が取れない条項は、その人たちに守られません。

法律文書では、「美しい水車小屋の乙女」のように、水車小屋が美しいのか乙女が美しいのか分からない書き方は避けます。文学的な余韻は曖昧で脆弱な箇所を作ってしまうので、法律文書では係り受けの関係を明確で分かりやすくして、安定感を増したほうがよいところです(注1)。

本稿は、契約書の一文をどう組み立てるかを扱います。「及び」「並びに」といった接続語の使い分けは、03章で扱っています。


二 よくある問題

1 一文が長い

国の文書の書き方を示した文化審議会の建議に付された解説は、一文が長くなるとその構造は複雑になりやすく、前の語句と後の語句との係り受けや主語と述語の関係が乱れるなど、読みにくくなりがちだ、としています(注2)。適当な長さは一概に決められないが、50〜60字ほどになってきたら読みにくくなっていないか意識するとよい、という目安も示しています(注2)。

契約書では、100字を超える一文は珍しくありません。たとえば次のような条項です。

乙は、本件業務の遂行にあたり甲から提供を受けた資料及び本件業務の遂行の過程で乙が作成した資料のうち甲が指定するものについて、本契約が終了したとき又は甲から請求があったときは、甲の指示に従い、速やかにこれを返還し、又は廃棄し、廃棄した場合にはその旨を証する書面を甲に提出しなければならない。

この一文には、対象の資料、返還・廃棄の時期、方法、廃棄後の報告という4つの内容が入っています。

2 係り受けが2通りに読める

上の例で、「甲が指定するもの」は、「乙が作成した資料」だけに係るのか、「甲から提供を受けた資料」にも係るのかが分かりません。

「違法な危険行為による結果」という表現では、危険行為が違法なのか結果が違法なのか分かりません。結果が違法なのであれば、「危険行為による違法な結果」とすべきです。係り受けの関係で誤解を招く可能性がある部分は、特に文書の正確性が求められる法律文書では、複数の解釈の可能性のない形に直しておきます(注3)。同じ解説も、言葉の係り方によって複数の意味に取れる表現を避けること、読点をどこに打つかによって文の意味が変わる場合があることに注意すること、を挙げています(注4)。

3 二重否定

「甲の承諾を得た場合を除き、乙は、第三者に再委託してはならない。」は、実質的には「乙は、甲の承諾を得た場合に限り、第三者に再委託することができる。」と同じ内容です。前者の書き方が必ず悪いわけではありませんが、「除き」と「てはならない」を読み合わせる手間がかかります。

同じ解説は、二重否定やそれに類する表現を用いると否定しているのか肯定しているのか分かりにくくなることがあるので、強調したいことを効果的に伝えようとする場合を除き、なるべく避けるとしています(注5)。

4 「又は」が一文に何度も出てくる

「A又はBのC又はD」という形の文は、まれに「AのC」と「BのD」とを対応させてしか読まない場合がありますが、普通は「AのC」「AのD」「BのC」「BのD」の4通りの組み合わせを頭に入れて読むことになります(注6)。義務付けをする条文で「AのC」と「BのD」だけと読まれることを封じるために、あえて「A及びBは、C又はDのことをしてはならない」とする立法技術もあります(注6)。

二の1の設例には、「及び」が1回、「又は」が2回出てきます。たすき掛けの形ではありませんが、2種類の資料、2つの時期、2つの方法を一文で掛け合わせているため、どの資料をいつどうするのかを読み手が組み合わせて確かめる必要があります。


三 問題点:読めない条項は運用されない

読みにくい条項は、法的に誤っているわけではありません。それでも、現場の担当者が読んで意味を取れなければ、条項に書いたとおりの行動は起きません。紛争になったときに、条項の意味を争う余地も残ります。


四 改善例

1 一文一義

1文に含める内容を1つだけにする「一文一内容」という方法があります(注7)。1文に複数の内容が入るよくあるパターンとして、原則に例外の留保を混ぜる「言い訳」、複数の立場や問題に同時に触れる「二股」、同様のポイントを並べる「列挙」、文の途中で流れを変える「転換」があります。まず要素ごとに分解し、そのあとで組み直します(注7)。同じ解説も、一つの文で扱う論点はできるだけ一つとし、論点が変わるときは文を区切ったほうが読み取りやすい、としています(注8)。

2 条件を項に分ける

二の1の設例を、項と号に分けると次のようになります。

1 乙は、次の各号に掲げる資料(以下「返還対象資料」という。)を、本契約が終了したとき、又は甲から請求があったときは、甲の指示に従い、速やかに甲に返還し、又は廃棄しなければならない。 一 本件業務の遂行にあたり甲から提供を受けた資料 二 本件業務の遂行の過程で乙が作成した資料のうち、甲が指定するもの 2 乙は、前項の規定により返還対象資料を廃棄したときは、その旨を証する書面を甲に提出しなければならない。

号に分けたことで、「甲が指定するもの」が二号だけに係ることがはっきりします。資料を号に出したことで1項から「及び」がなくなり、廃棄後の報告を2項に分けたことで、1項は「いつ、何をするか」だけを定める文になります。

3 係る語と受ける語を近づける

係る言葉と受ける言葉は離さず、できるだけ近づけます。修飾語が多くてどう並べても遠くなる場合は、文章を分けるか、括弧書きにするなど違う表現を工夫します(注9)。同じ解説も、係る語とそれを受ける語は近くに置くこと、複数の修飾節が述部に掛かるときは長いものから示すか、できれば文を分けること、三つ以上の情報を並べるときは箇条書を利用することを挙げています(注10)。


五 書き分けの分岐

場面書き方
条件が1つ、効果が1つ一文で書く
対象が3つ以上号に分けて列挙する
効果が2つ以上(返還と報告など)項に分ける
修飾語が1つの語に2つ以上係る語順を入れ替えるか、括弧書き・定義で外に出す
例外を強調したい二重否定を使ってもよいが、例外の範囲を号で列挙する

一文に入れる内容を1つに絞り、係る語と受ける語を近づけます。日本語として読めることは、法的な正確さを損ないません。

本稿で扱わなかったこと

「及び」「並びに」「又は」「若しくは」の使い分けは、03章の別稿「『及び』『並びに』『又は』『若しくは』:どちらとも読める箇所を見つける」が扱います。主語と条件節の読み方は、同じく03章の別稿「主語・時制・条件節の読み分け:義務者は誰か、いつ発生するか」が扱います。


参考文献等

註

(注1)芦原一郎『法務の技法〔第2版〕』(中央経済社、2019)212頁
(注2)文化審議会「公用文作成の考え方(建議)」(令和4年1月7日)付属解説32頁(Ⅲ-3ア)
(注3)前掲注1・213頁
(注4)前掲注2・33頁(Ⅲ-3シ・ス)
(注5)前掲注2・33頁(Ⅲ-3コ)
(注6)吉田利宏『新法令用語の常識〔第2版〕』(日本評論社、2022)19〜20頁
(注7)前掲注1・200〜202頁
(注8)前掲注2・32頁(Ⅲ-3イ)
(注9)前掲注1・214頁
(注10)前掲注2・32〜33頁(Ⅲ-3ウ・ク・サ)


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