一 この条項は何をしているのか
1 書かなくても遅延損害金は発生する
金銭債務の支払が遅れたとき、損害賠償の額は法定利率によって定まり、債権者は損害の証明を要せず、債務者は不可抗力を抗弁にできません(民法419条)。遅延損害金の条項がなくても、遅延損害金は発生します。
いまの法定利率は年3%です。令和8年4月1日から令和11年3月31日までの期も年3%のまま変わらないことが公表されています(注1)。法定利率の変動の仕組みと、利率を約定しておくことで変動を追わずに済むという点は、別稿「法定利率と約定利率:改正民法の変動利率と、利率を書いておく理由」で扱いました。
2 遅延損害金条項は、損害賠償の額の予定である
当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができます(民法420条1項)。遅延損害金の利率を定める条項は、この予定の一つです。消費者契約法9条1項2号も、支払期日までに支払わない場合の「損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」として、この種の条項を扱っています。
2017年の改正で、改正前の420条1項後段にあった「裁判所は、その額を増減することができない」という文言は削除されました(注2)。裁判実務はすでに公序良俗違反などの一般条項や過失相殺を用いて予定額を増減する判断をしており、この削除は、それを明文化したもので、運用や解釈を変更するものではありません(注2)。予定された額の増減を主張する当事者は、従前どおり、公序良俗違反などによる無効や過失相殺を主張立証しなければなりません(注2)。
二 よくある条項例
チェックマニュアルは、同じ条項について、中立的な条項例と、売主側・買主側の変更例を並べています(注3)。
【条項例】 第○条(遅延損害金) 乙(買主)が代金支払債務の履行を怠ったときは、支払期日の翌日より完済の日まで年3%の割合による遅延損害金を甲に対して支払う。(注3)
【売主側変更例】 乙が甲に対する金銭債務の履行を怠ったときは、乙は支払期日の翌日より完済の日まで年14.6%の割合による遅延損害金を甲に対して支払う。(注3)
【買主側変更例】 乙が甲に対する金銭債務の履行を怠ったときは、乙は支払期日の翌日より完済の日まで年2%の割合による遅延損害金を甲に対して支払う。(注3)
売主側の変更例は、利率を上げただけでなく、対象を「代金支払債務」から「金銭債務」に広げています。代金のほかに、立替金や違約金など、買主が支払うべき金銭がある取引では、この違いが効いてきます。
三 問題点
1 利率の水準:年14.6%はどこから来たか
年14.6%という数字は、国税の延滞税の本則の割合です。延滞税の額は、法定納期限の翌日から完納の日までの日数に応じ、未納の税額に年14.6%を乗じて計算するとされています(国税通則法60条2項)。ただし、同項ただし書により、納期限までの期間と納期限の翌日から2か月を経過する日までの期間は年7.3%とされ、さらに租税特別措置法94条1項の特例により、実際には本則より低い割合が適用されています。
実務上、この年14.6%を用いる例もありますが、法改正や金利情勢も踏まえて検討すべきです(注4)。もっとも、いまの法定利率年3%では、法定利率を適用すると低額の遅延損害金しか発生せず、履行を遅延したことによる痛みを感じさせることができないので、年14.6%または年15%などの高額の遅延損害金を約定することが必要になります。ただし、法律で定められた上限を超えない範囲にとどめる必要があります(注3)。他方で、銀行貸付が低金利で行われてきた時代ですから、利率を低率に設定したいという買主からの変更にも合理性があります(注3)。
年14.6%は、法律が企業間の遅延損害金の水準として定めた数字ではありません。国税の延滞税や、消費者契約の上限(三の3)に使われている数字を、企業間取引が借りてきているということです。
2 起算日:支払期日の翌日か、催告の日か
債務の履行について確定期限があるときは、債務者はその期限の到来した時から遅滞の責任を負います(民法412条1項)。期限を定めなかったときは、履行の請求を受けた時からです(同条3項)。
二の条項例は、どれも「支払期日の翌日より完済の日まで」と書いています(注3)。支払期日が確定していれば、民法412条1項と同じ結果を、日付の数え方まで含めて明確にしていることになります。
問題になるのは、支払期日そのものが決まっていない場合です。「請求書受領後30日以内」のように、請求書の到達で期日が決まる書き方をしていると、請求書がいつ届いたかによって起算日が動きます。起算日を明確にしたいなら、先に支払期日の定め方を固める必要があります。支払期日の定め方は、別稿「支払時期・支払場所の定め方:書かなければ、代金はいつどこで払うのか」で扱いました。
3 消費者契約法9条1項2号:年14.6%の上限
相手方が消費者の場合、消費者が支払期日までに支払わない場合の損害賠償の額の予定や違約金を定める条項は、支払期日の翌日から支払う日までの日数に応じ、支払うべき額(既に支払われた額を控除した額)に年14.6%を乗じて計算した額を超える部分について、無効になります(消費者契約法9条1項2号)。消費者契約では、年14.6%を超える遅延損害金の条項は、当該部分につき無効です(注3)。消費者契約については、消費者契約法9条と10条によって損害賠償額の予定が規律されている点に、注意が要ります(注2)。
事業者向けのひな型を、そのまま個人の顧客との契約に流用すると、この上限にかかることがあります。
4 利息制限法との関係
遅延損害金の利率が一定の割合(元本10万円未満は年29.2%、10万円以上100万円未満は年26.28%、100万円以上は年21.9%)を超える部分は、利息制限法4条1項により無効になるので、注意が要ります(注3)。貸金業者などが行う営業的金銭消費貸借では、年20%を超える部分が無効になります(同法7条1項)。
しかし、利息制限法4条1項が対象にしているのは、金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定です。利息制限法の規定は金銭を目的とする消費貸借契約を対象としているので、売買契約上の義務の不履行にかかる約定には適用がありません(注4)。売買代金や業務委託料の遅延損害金に、利息制限法4条の上限はかかりません。先の数字は利息制限法1条の上限利率(年20%、18%、15%)の1.46倍であり、金銭消費貸借の場合の数字として読むことになります。
上限がかからないからといって、どこまで高くしてもよいわけではありません。一の2で見たとおり、過大な損害賠償額の予定は、公序良俗違反などの一般条項で効力を争われます(注2)。
5 法定利率を下回る利率を書いた場合
民法419条1項ただし書は、約定利率が法定利率を超えるときは約定利率による、と定めています。ここでいう約定利率は、通常の利息について定めた利率です。買主側の変更例のように遅延損害金の率そのものを年2%と定めた場合は、損害賠償額の予定(民法420条)として、原則としてその率によります。法定利率を下回る率の合意も、それだけで無効になるわけではありません。
損害賠償額の予定が過小な額で一般条項に抵触する場合には、債権者は実際の損害額を請求することになり、予定の合意が有効と判断されれば、予定額を限度とする一部認容判決になります(注2)。低い利率の合意は、それ自体が争いの種になりえます。
四 改善例
受け取る側の立場で書く例です。
第○条(遅延損害金) 1 乙は、本契約に基づく金銭債務の支払を遅延したときは、支払期日の翌日から支払済みまで、未払額に対し年○%(1年を365日とする日割計算)の割合による遅延損害金を甲に支払う。 2 前項の遅延損害金の支払は、甲による本契約の解除及び前項の遅延損害金を超える損害の賠償の請求を妨げない。
1項は、売主側の変更例と同じく対象を「金銭債務」とし、日割計算の方法まで書いています。「年○%」の水準は、三の1から三の5を踏まえて決めます。法律上の上限として押さえるのは、相手方が消費者なら年14.6%(消費者契約法9条1項2号)、金銭消費貸借なら利息制限法4条・7条です。受け取る側にとっては法定利率を下回らない水準が目安になりますが、法定利率より低い率を合意すること自体は妨げられません。
2項は、賠償額の予定は履行の請求や解除権の行使を妨げないとする民法420条2項を確認するとともに、遅延損害金を超える損害の賠償を請求する余地を条項に残すものです。予定額を超える損害の請求を認めるかどうかは合意によるので、書いておかなければ争いになりえます。
五 書き分けの分岐:支払う側と受け取る側
| 立場 | 利率 | 起算日・対象 |
|---|---|---|
| 受け取る側(売主・受託者) | 法定利率を下回らない水準が目安(法律上の下限ではない)。高く設定する場合は、過大と争われない範囲にとどめる | 対象を「金銭債務」に広げる。支払期日を確定日で書く |
| 支払う側(買主・委託者) | 利率を下げる交渉をするなら、年14.6%が法律上の水準ではないことを材料にする | 対象を代金債務に限る。起算日を支払期日の翌日より後にすることも交渉の対象になる |
| 相手方が消費者 | 年14.6%を超える部分は無効 | 支払期日の翌日から支払う日までの日数で計算する形に揃える |
遅延損害金には、増額して履行を促す役割のほかに、支払を渋る相手との交渉で、遅延損害金を放棄する代わりに元金だけでも支払うよう求める交渉材料としての役割があります(注3)。受け取る側にとって、利率を高めに書いておくことは、回収の場面で譲れる幅を持っておくことでもあります。
本稿で扱わなかったこと
法定利率の変動制と、約定利率を書いておくことで変動を追わずに済む点は、別稿「法定利率と約定利率:改正民法の変動利率と、利率を書いておく理由」にあります。
中途解約に伴う違約金など、遅延損害金以外の損害賠償額の予定は、別稿「解約一時金・中途解約違約金条項の効力」が扱います。損害賠償額の予定と違約罰の区別そのものは、別稿「損害賠償額の予定と違約罰の区別」が扱っています。
参考文献等
註
(注1)法務省「令和8年4月1日以降の法定利率について」(令和7年3月31日公表)
(注2)大阪弁護士会民法改正問題特別委員会編『実務家のための 逐条解説新債権法』(有斐閣、2021)133〜136頁
(注3)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)36頁のQ24、59〜61頁
(注4)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式〔第3版〕』(有斐閣、2025)60頁
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