一 この条項は何をしているのか
1 書かなければどうなるか
支払方法の条項は、代金をどうやって払うかと、払うときにかかる費用を誰が負担するかを決める条項です。
書かなかった場合、支払方法は民法の原則に戻ります。金銭債権は、債務者がその選択に従って各種の通貨で弁済できるとされているだけで(民法402条1項)、支払場所は債権者の現在の住所です(民法484条1項)。支払方法について何らの合意もなければ、現金を持参して支払うことになります(注1)。
費用も同じです。弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は債務者の負担になります(民法485条本文)。代金の振込手数料は、書かなければ買主の負担です(注1)(注2)。
2 実務の慣行との差
現金を持参して払う企業間取引は、ほとんどありません。契約書に記載がない場合は現金払が原則ですが、現実には銀行振込や手形払などの方法が採用されることが多いところです(注3)。実務上は、銀行振込等による送金や、電子記録債権法に基づく電子記録債権による決済が多くなっています(注2)。
振込手数料についても、慣行は民法の原則と揃っていません。売主が負担する取引もあり、振込手数料を差し引いて振り込む運用もあります。民法の原則と、取引の慣行と、契約書の文言がそれぞれ別の方向を向いていると、少額でも毎月の請求のたびに差額が生じます。
支払の時期と場所、支払日が休日にあたる場合の処理は、別稿「支払時期・支払場所の定め方:書かなければ、代金はいつどこで払うのか」で扱いました。本稿は、方法と費用に絞ります。
二 よくある条項例
振込先を条項に書き込む型です。
(代金) 第○条 乙は甲に対し、本件目的物の売買代金を、令和元年○月○日限り、甲指定の下記銀行口座宛に振り込む方法により支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。 ○○銀行○○支店普通○○○○ 「甲野太郎」(注3)
継続的な取引で、口座は売主の指定に委ねる型です。
乙は、毎月末日までに引渡しを受けた本件商品の代金を、翌月15日までに甲の指定する銀行口座に振り込んで支払うものとする。(中略)なお、振込手数料は、乙の負担とする。(注1)
三 問題点
1 「振込手数料は甲の負担とする」の甲が誰か
振込手数料の定めは、多くの契約書で「甲の負担とする」「乙の負担とする」と略称で書かれます。二の2つの条項例も「乙の負担」です。
略称で書くこと自体に問題はありません。困るのは、契約書の中で甲と乙の役割が入れ替わる場合です。取引基本契約で、甲が買主として発注する取引と、甲が売主として納入する取引が同じ契約に入っている場合、「振込手数料は乙の負担とする」では、どちらの代金の振込にかかる手数料なのかが読み取れません。
ひな型を流用して甲乙を入れ替えたときにも起きます。売主用のひな型を買主の立場で使うために甲と乙を入れ替えたのに、手数料の条項だけ直し忘れると、意図と逆の負担者が残ります。
契約書上、当事者の記載は、「甲」と書くべきところが「乙」になっているというような誤りが生じやすい部分です。ドラフト中は実際の当事者名を記載したうえで、最後に「甲」「乙」にまとめて置換する、といった工夫があります(注4)。この点は別稿「前文(頭書き)に何を書くか:当事者の表示と、書き足せる一文」でも扱いました。手数料の条項は、金額が小さいぶん、置換の後の読み直しでも見落とされやすい箇所です。
2 支払方法が特定されていない
「代金を支払う」とだけ書いて方法を書かない条項は、一の1のとおり、現金の持参に戻ります。
銀行振込や手形払いの場合は、その旨を契約書上に明記しておくべきです。銀行振込と明記することで、不意に買主から手形での決済を迫られることを防止できるというメリットもあります(注1)。買主側の事情で手形払いを許容しなければならない場合でも、「半額は必ず現金で」などの規定にして、全額を手形決済とすることを避けることも検討すべきです(注1)。ただし、取適法が適用される取引では、2026年1月1日以降の発注について、中小受託事業者の承諾があっても手形で代金を支払うことはできません(取適法5条1項2号)。
振込、手形、電子記録債権のどれで払うかによって、売主が実際に資金を使えるようになる時期は変わります。方法の特定は、実質的には支払時期の問題でもあります。
3 振込先口座の変更の扱いがない
一つ目の条項例のように振込先を条項に書き込むと、口座を変えるときにどう扱うかが問題になります。書かれた口座に振り込めば足りるのか、売主から変更の通知があれば新しい口座に振り込まなければならないのかが、条項からは読み取れません。
民法485条ただし書は、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は債権者の負担とすると定めています。口座の変更で振込手数料が増えた場合も、この考え方で処理されうる場面ですが、条項で決めておくほうが確実です。
四 改善例
第○条(支払方法) 1 乙は、本契約に基づく代金を、甲が別途書面で指定する甲名義の銀行口座に振り込む方法により支払う。振込に要する手数料は、代金を支払う乙の負担とする。 2 乙は、甲の書面による事前の承諾がない限り、手形の交付その他前項以外の方法により代金を支払うことはできない。 3 甲が第1項の口座を変更するときは、変更後の口座により振込を行うべき支払期日の10営業日前までに、乙に書面で通知する。この通知が遅れたことにより乙が変更前の口座に振り込んだときは、その振込をもって代金の支払があったものとみなす。
1項は、振込という方法を特定したうえで、手数料の負担者を「乙」とだけ書かず、「代金を支払う乙」と役割で書いています。三の1の読み違いを防ぐためです。
2項は、銀行振込と明記して不意に手形での決済を迫られるのを防ぐという効果(注1)を、条項の側で確保するものです。取適法が適用される取引では、承諾があっても手形払いはできないので、2項の「承諾」による例外は使えません。
3項は、三の3への手当てです。通知の期限と、通知が遅れたときの効果まで書いています。
五 書き分けの分岐
| 立場・場面 | 書き方 |
|---|---|
| 売主(代金を受け取る側) | 振込を明記し、手形等は承諾制にする(取適法の対象取引では手形払い自体ができない)。手数料は買主負担を明記する(書かなくても買主負担だが、差し引き送金を防ぐために書く) |
| 買主(代金を支払う側) | 手数料を売主負担とするなら、契約書への明記が必須。ただし取適法の対象取引では、合意があっても手数料を代金から差し引けない。振込先の変更の通知期限を入れる |
| 同じ契約で双方向の支払がある | 手数料の負担者を甲乙ではなく「代金を支払う当事者」と役割で書く |
| 手形や電子記録債権を使う取引 | 方法とあわせて、満期や支払期日を支払期日の条項と揃えて書く。取適法の対象取引では、手形や、支払期日までに現金化することが困難な支払手段は使えない |
2行目の買主の側について、代金の振込手数料を売主に負担させたいときは、契約書への明記が必須です(注1)。民法の原則が買主負担だからです。書かなければ自社の負担になる側が、書く責任を負います。ただし、取適法が適用される取引では、中小受託事業者との合意の有無にかかわらず、振込手数料を中小受託事業者に負担させて代金から差し引くことは、代金の減額(取適法5条1項3号)に当たるとされています(注5)。先に適用法令を確かめてから書きます。
本稿で扱わなかったこと
支払の時期と場所、支払日が休日にあたる場合の処理は、別稿「支払時期・支払場所の定め方:書かなければ、代金はいつどこで払うのか」にあります。
支払が遅れたときの遅延損害金は、別稿「遅延損害金条項の設計:利率の水準・起算日・上限」で扱います。
外貨建ての取引で、為替換算の方法をどう定めるかは、本稿では扱っていません。
参考文献等
註
(注1)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)55〜57頁
(注2)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式〔第3版〕』(有斐閣、2025)59〜60頁
(注3)秦周平ほか編『契約書リーガルチェックのポイント──事例でみるトラブル条項例』(新日本法規出版、2020)設問20(代金支払時期、支払場所、支払方法が明確でない場合)
(注4)幅野直人『企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務』(中央経済社、2024)122頁
(注5)公正取引委員会「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」第4の3(1)カ
この条項の他の記事支払(時期・場所・方法)
あわせて読む




