保証金・預託金:取引一般の場合

10 共通条項の条項別解説

【応用実務】最終確認:2026年10月25日

一 この条項は何をしているのか

1 保証金は、差し入れて初めて担保になる

継続的な取引を始めるときに、取引先から「保証金を預けてほしい」と言われることがあります。1回の取引で完結する売買と違い、売買が反復される継続的売買契約では、売買代金の支払債務などの履行を確保する手段として、保証金の差入れが取り決められることがあります。売主は、万一買主から代金が支払われないときに、保証金をその債務に充当して債権を回収できます(注1)。

保証金は、譲渡担保などと並ぶ非典型担保の一つです(注2)。担保には、当事者の合意に加えて交付や預託などの行為がなければ効力が生じないものと、合意だけで効力が生じるものがあり、保証金は質権と並んで前者の代表例です(注2)。

保証金の条項が担保の提供を義務付ける条項とならざるを得ないのは、担保の設定の効力を生じさせるためには、合意すること以外に金員の預託という手続が必要であるからである(注2)

条項に保証金の定めがあっても、実際にお金が預けられるまでは担保は存在しません。差入日と金額が決まっていない条項では、いつ・いくら預けてもらえるのかさえ決まりません。

なお、賃貸借の敷金については民法622条の2に規定がありますが、本稿は取引基本契約などで差し入れる保証金を扱い、敷金・建設協力金には立ち入りません。

2 どの債務を担保するのか

保証金が何を担保するかは、条項の書き方で決まります。条項例には、「本契約及び個別契約に基づく乙の甲に対する債務及び損害賠償義務」とするものと、「本契約および個別契約に基づき発生する甲に対する一切の債務」とするものがあります(注1)(注2)。

損害賠償義務まで含むのか、本契約以外の取引から生じた債務まで含むのかで、充当できる範囲が変わります。


二 よくある条項例

よくある条項例は、次のとおりです(注1)。

第○条(保証金) 1 乙(買主)は、甲(売主)が保証金の提供を要請した場合、本契約及び個別契約に基づく乙の甲に対する債務及び損害賠償義務の履行を担保するため、保証金を甲へ預託する。 2 保証金は、本契約終了後、速やかに甲から乙に返還する。(注1)

この条項例のチェックポイントは、保証金の金額・差入日、保証金の任意充当と補填、返還時期の3点です(注1)。


三 問題点

1 金額と差入日が決まっていない

二の条項例は、金額も差入日も書いていません。「要請した場合」に預託するというだけです(注1)。

売主としては、保証金の提供を必要的にし、金額を明確にしたうえで、差入時期も契約締結時にするのがよいところです(注1)。一の1のとおり、預託がなければ担保にならないからです。

2 充当の方法と、充当後の補填が決まっていない

二の条項例には、買主の債務不履行があったときに保証金をどう使うかが書かれていません(注1)。

売主としては、買主の債務が発生した場合に通知などの手続を要することなく当然に保証金をその債務に充当できることを明確にし、充当して保証金が減った分は直ちに補填することを買主に義務付けておく必要があります(注1)。補填を義務付けておけば、契約期間中の担保価値が維持され、買主が補填しない場合には債務不履行となり得るので、契約の解除も可能になります(注1)。

買主としても、充当の範囲をめぐるトラブルを避けるために、返還時にどの債務にいくら充当したのか(充当関係)を明記しておくべきです(注1)。

3 返還前に、買主が保証金との相殺を主張してくる

保証金を預けた側は、代金を払えなくなったときに「預けてある保証金から引いてくれ」と言いたくなります。しかし、保証金はあくまで買主の債務の履行を確保するための手段です。買主が未払代金債務や損害賠償債務について保証金から補填されるべきだと主張して本来の債務の履行を怠ることのないよう、買主に対しては相殺の禁止を明記すべきです(注1)。

賃貸借の敷金については、賃借人は敷金をその債務の弁済に充てることを請求できない、と民法に定めがあります(民法622条の2第2項)。取引一般の保証金には、同じ趣旨の規定はありません。だから条項に書いておく必要があります。

4 返還時期と利息が決まっていない

二の条項例は「本契約終了後、速やかに」返還するとしていて、期限がはっきりしません(注1)。売主としては、返還時に利息を付さないことも明記しておきます。買主としては、「契約終了後○日以内に」として、返還時期をできる限り短く明文化しておくとよいでしょう(注1)。別の記載例でも、保証金には利息を付さないと定めています(注2)。


四 改善例

チェックマニュアルの売主側変更例は、三で挙げた点をまとめて手当てしています(注1)。

1 乙は、本契約締結日に、本契約及び個別契約に基づく乙の甲に対する債務を担保するため、保証金○○○万円を甲に預託するものとする。 2 乙の甲に対する債務不履行があった場合及び乙が甲に対して損害賠償義務を負担した場合、甲は、任意に、かつ何らの手続を要することなく、保証金をこれらの債務額に充当することができ、甲は充当後、速やかに乙に通知する。この場合、乙は、保証金の不足額を直ちに補填しなければならない。 3 乙は、甲に対して負担する債務について、保証金との相殺を、甲に対して主張することはできない。 4 保証金は、本契約終了後に乙の甲に対する債務(本契約に基づくものに限らない)を控除した後、甲から乙に返還されるものとする。但し、保証金の返還には利息を付さないものとする。(注1)

4項の「本契約に基づくものに限らない」は、他の取引の債務まで控除できるようにする書き方です。預ける側から見ると、返ってくる額が読めなくなる部分です。

買主側変更例は、金額を別途合意にし、返還期限を切っています(注1)。

1 乙は、甲が保証金の提供を要請した場合は、本契約及び個別契約に基づく乙の甲に対する債務及び損害賠償債務を担保するため、別途甲乙間で合意した金額の保証金を甲に預託する。 2 保証金は、前項記載の債務を控除したうえ、本契約終了後○日以内に甲から乙に返還されるものとする。(注1)


五 書き分けの分岐

論点預かる側(売主など)預ける側(買主など)
条項を置くか置く。提供を必要的にするまず置かないよう交渉する
金額・差入日金額を明記し、契約締結時に差し入れさせる別途合意とし、関与の余地を残す
充当通知なしに任意充当でき、不足額を直ちに補填させる返還時の充当関係を明記させる
相殺保証金との相殺の主張を禁止する本契約以外の債務の控除は受け入れない
返還利息を付さないと明記する「契約終了後○日以内」と期限を切る

(注1)

表は、チェックマニュアルが売主・買主それぞれに勧める内容をもとにまとめたものです(注1)。

買主の立場からは、保証金の提供が過度の負担になりえます。保証金の提供を求められた場合には、まず保証金条項を設定しないように交渉すべきです(注1)。預ける側にとっての最初の選択肢は、条項の文言を直すことより、条項を置かないことです(注1)。

本稿で扱わなかったこと

賃貸借の敷金・保証金・建設協力金は、賃貸借に固有の仕組みがあるため、19章(不動産・金銭消費貸借・担保・保証)で扱います。

相手方の信用状態が悪化したときに担保を追加で求める条項は、別稿「追加担保請求条項:担保を差し出させる約束は、どこまで効くか」で扱いました。


参考文献等

註

(注1)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)84〜87頁
(注2)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)99〜102頁


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