条項どうしの相互作用:条項は単独では動かない

09 共通条項総論

【応用実務】最終確認:2026年10月25日

一 この条項は何をしているのか:切り分けて見せている、という断り

この連載の10章は、共通条項を1つずつ取り上げて解説しています。説明のためにそうしていますが、実際の契約書の中で、条項は1つだけでは働きません。解除すれば損害賠償の条項が呼び出され、損害賠償には上限条項がかかり、上限には例外が置かれ、その例外は秘密保持の条項の定義に寄りかかっている。条項は、互いを参照しながら動きます。

各契約に共通する条項は中核的な規定ではないため、契約書の作成や検討で後回しになりがちです。言い回しも共通していることが多いので、詳細な確認や検討を怠りがちになります(注1)。しかし、共通条項は、契約締結当時には想定していなかった事態が生じたり紛争が起きたりした場面で適用すべき重要な条項ばかりです。雛形をそのまま写して利用するのではなく、今回の取引で各条項例が必要・適切か、追加・修正すべき点はないかを十分に検討すべきです(注1)。

共通条項が出番を迎えるのはトラブルの場面で、そのとき呼び出されるのは、何本かの条項の組み合わせです。


二 よくある組み合わせと、その噛み合い

1 責任上限と損害賠償額の予定:どちらが優先するか

損害賠償の額を扱う条項には、額を予め決めておく損害賠償額の予定と、額に上限を置く条項があります。損害賠償額の予定は、債権者にとって損害の立証コストを省けるメリットがあり、債務者にとってはリスクの把握を容易にするメリットがあります。上限との違いは、実損額が上限より低い場合に債務者は実損額を賠償すれば足りる点です(注2)。民法は、違約金を賠償額の予定と推定しています(注3)。

1つの契約書に、対価の額を上限とする条項と、特定の義務違反に違約金を定める条項が両方あるとき、違約金の額が上限を超えていれば、どちらが優先するかという問題が起こります。契約書が答えを書いていなければ、解釈で決まります。

上限条項と、それと食い違う賠償条項が同じ契約に並んでいた事案があります。システム開発の基本契約で、損害賠償の章に「個別契約に定める契約金額の範囲内において損害賠償を支払う」という条項を置く一方、機密保持の章に「本契約内容に違反した場合には、その違反により相手方が被る全ての損害を賠償する」という条項を置いていました(注4)。委託者は、矛盾する条項が併記され、どちらが特則かも明記されていないと主張しましたが、裁判所は次のように解しました(注4)。

本件基本契約は,29条2項で,被告の原告に対する損害賠償金額を原則として個別契約に定める契約金額の範囲内とし,25条は,29条2項の例外として,被告が対象情報を第三者に開示又は漏洩した場合の損害賠償金額については制限しないことを定めたものと解するのが相当である。(注4)

理由は、上限条項が損害賠償の章にあって総則的な規定と解される一方、全額賠償の条項は機密保持の章にあるという、配置でした(注4)。優先関係が書かれていなければ、条項の置き場所も解釈の手がかりになります。

2 解除と存続条項:解除しても残るもの

民法は、解除権の行使は損害賠償の請求を妨げないとし、賠償額の予定も解除権の行使を妨げないとしています(注3)。解除は、損害賠償の条項を呼び出す引き金でもあります。

ところが、契約書記載の条項は、原則として契約終了後には効力を持ちません(注5)。残存条項の対象は秘密保持や知的財産権の取扱いなどで、紛争に備えて、損害賠償に関する条項や準拠法、管轄裁判所に関する条項の効力も存続させることが多くなります(注5)。解除した後に損害賠償を請求する場面で、上限条項が存続の対象に入っているか。合意管轄条項は解除の影響を受けないとする見方もあり、存続条項に入れるかどうかは扱いが分かれます。解除条項を読むときは、存続条項も一緒に開きます。

開発委託契約が合意解除された後に、共同出願条項が効力を持つかが争われた事案では、有効期間の条に置かれた効力存続条項によって、共同出願条項は委託業務の終了後も効力を有すると判断されています(注6)。

3 期限の利益喪失・解除・相殺・担保:倒産時に束で動く

期限の利益喪失事由は任意解除事由と重複する場合が少なくないため、一方を準用して他方を規定することが一般的です(注7)。解除事由としても、期限の利益喪失条項と同様に、契約違反のほか支払停止や差押えなどが挙げられます(注8)。取引先の信用不安の場面では、期限の利益喪失、解除、相殺、担保の4つが順に動いて回収になります。この4つの発動条件がずれていると順に動かないことを、別稿「倒産時に効く条項の束:一つずつは正しいのに、つながっていない」が各論として扱っています。

4 完全合意と修正制限:締結の前と後

完全合意条項と修正制限条項は、時間の前後で役割を分けています。

特許ライセンス契約で、ライセンシーが最恵待遇条項の存在を主張した事案があります。締結前の書簡について、裁判所は、実施料の支払方法を変える重要な条項であれば契約書に記載されていたはずであり、しかも契約書に完全合意条項があるから、契約書に明記されていない最恵待遇条項を含む契約が成立したとは認め難い、としました(注9)。締結後の書簡については、契約を直ちに変更する趣旨ではないうえ、書面かつ代表役員らによる修正を要求する修正制限条項があることから、修正の合意は認め難い、としています(注9)。

完全合意条項は締結前のやり取りを遮りますが、締結後の約束は修正制限条項の守備範囲です。片方だけでは、もう片方の時間帯が空きます。

5 通知と、通知を効力要件とする条項群

解除は相手方に対する意思表示によってし、意思表示は通知が相手方に到達した時に効力を生じます(注3)。無催告解除特約を適用する場合でも、解除の意思表示、つまり解除通知の送付は必要です(注8)。

請求による期限の利益喪失、更新拒絶、表明保証違反の通知も、同じく通知に依存しています。通知の宛先や方法を定める条項は、これらの条項が効くかどうかを左右する土台です。


三 問題点:ひな型を継ぎ足すと噛み合わなくなる

条項の食い違いは、多くの場合、修正の継ぎ足しから生まれます。相手方雛形に自社が修正を加えることで整合性に支障をきたさないよう気をつけることが、審査の重要なポイントです(注10)。単純な条項ズレだけでなく、元からある条項と修正・追加した内容が矛盾したり、修正で生じる他の箇所への影響に対応していなかったりする実質的な不整合もあります(注10)。典型例が、報酬条項に「税込」とだけ加筆して金額をすべて税抜とする税金条項を直さない場合と、請負の雛形の「請負」を「準委任」に変えたのに、請負で使う検収条項や契約不適合責任条項を変えていない場合です(注10)。

二の1で見た事案にも、条項どうしの不整合が残っていました。全額賠償の条項は「本契約内容に違反した場合」と書かれていたのに、裁判所はこれを誤記と認め、「本章の規定に違反した場合」と読み替えています(注4)。例外として置いた条項も、秘密保持の対象を、秘密である旨の明示などがされた情報に絞る定義に寄りかかっていたため、流出した顧客のカード情報には適用されませんでした(注4)。同じ契約の「保証期間は委託業務の完了の後1年間」という定めも、無償補修の条項を前提とした規定であって、損害賠償請求権の期間制限とは解されていません(注4)。

文言だけを見れば効きそうな条項が、隣の条項の定義や前提によって効かなくなります。なお、この事案では受託者に重過失があったため、上限条項そのものも適用されていません(注4)。


四 改善例:1条項を直したら、連動する条項を必ず見る

修正を入れたら、その条項と連動する条項を開き直します。連動の組み合わせは、次のように一覧にしておけます。

直した条項一緒に開く条項確かめること
責任上限違約金、補償、秘密保持・知的財産の賠償条項上限の内か外かが条番号で書かれているか
解除事由期限の利益喪失、相殺事由がそろっているか。準用の参照先が正しいか
契約期間・終了存続条項解除で終わった場合も残るか。損害賠償の条項が入っているか
通知の宛先・方法解除、請求による期限の利益喪失、更新拒絶、表明保証その方法で送った通知が届いたといえるか
報酬・対価税金条項、対価に連動する上限税込・税抜、上限の基準額がずれていないか
契約の性質(請負・準委任)検収、契約不適合責任性質に合わない条項が残っていないか(注10)

優先関係は、配置に任せずに書きます。二の1の組み合わせであれば、たとえば次のようにします。

第○条(損害賠償の上限) 甲又は乙が本契約に関して相手方に負う損害賠償の額は、本契約に基づき乙が受領した対価の額を上限とする。ただし、故意又は重大な過失による場合、及び第○条(秘密保持)又は第○条(違約金)に基づく責任については、この限りでない。

参照で書いた条項は、条項を足したり削ったりしたときに参照先がずれます。最後に条番号の参照をすべて確かめる工程とセットで使います。


五 書き分けの分岐

条項どうしをつなぐ書き方は、3つに分かれます。

書き方向いている場面気をつけること
他の条項を参照する(「前条各号のいずれかに該当したとき」)事由や例外を1か所で管理したいとき条項の追加・削除で番号がずれる
条項ごとに列挙する条項ごとに範囲を変えたいとき(期限の利益喪失は広く、解除は絞るなど)片方だけ直すと食い違う
優先関係を明記する(「ただし、第○条に基づく責任については、この限りでない」)原則と例外が別の章に分かれるとき書かなければ配置や定義で解釈される(注4)

自社が債務者として上限を求める側なら、例外は狭く、条番号で特定して書きます。請求する側なら、上限の外に出したい義務を例外として名指しします。

本稿で扱わなかったこと

個々の条項の中身は、10章の各記事が扱っています。上限の決め方は別稿「責任上限条項の設計と相場:上限は対価とセットで決まる」、予定と違約罰の区別は別稿「損害賠償額の予定と違約罰の区別」、存続させる条項の選び方は別稿「どの条項を残すか:ほとんどは確認、ときどき創設」、変更の手続は別稿「口頭の合意で契約は変わるか:担当者の約束と修正制限条項」、通知の到達は別稿「通知条項の設計:到達主義と通知方法」です。倒産の場面での組み合わせは、二の3で触れた別稿「倒産時に効く条項の束:一つずつは正しいのに、つながっていない」が扱います。交渉を経た最終版で噛み合わせを確かめる工程は、別稿「最終案の審査と、締結後に法務がやること:差分を取るのが最後の仕事」で扱いました。


参考文献等

註

(注1)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)591〜592頁
(注2)前掲注1・612頁
(注3)民法420条、540条1項、545条4項、97条1項。前掲注1・608頁も参照
(注4)東京地判平成26年1月23日判時2221号71頁(平成23年(ワ)第32060号)
(注5)前掲注1・642頁
(注6)知財高判平成20年10月28日判タ1281号303頁(平成19年(行ケ)第10351号)
(注7)前掲注1・600頁
(注8)前掲注1・602頁
(注9)東京地判平成18年12月25日判時1964号106頁(平成18年(ワ)第1710号)
(注10)松尾剛行(コメント:竹井大輔)「連載 AI時代の法務の基礎 第3回 契約審査」NBL1316号(2026)47頁


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