一 この条項は何をしているのか
1 書かなければ、株主が変わっても契約は続く
取引先の株式が競合他社に買われました。契約の当事者は変わっていません。法人が同じだからです。
契約の当事者が法人である場合、株式の譲渡等で支配権が第三者に移っても、契約の当事者は変わらないので、権利義務に変動は生じません(注1)。ただし、法人が形式的には同一でも、支配権の変動によって、実質的には当事者が変わったと評価される場合はあり得ます(注1)。
譲渡禁止条項も、ここでは効きません。あちらが止めるのは契約上の地位や権利義務の移転で、株主が入れ替わることではありません。別稿(債務引受・契約上の地位の移転)で見たとおり、合併や会社分割による一般承継についても、譲渡制限条項は通常そこまで及ばないと解されています。
そこで、支配権の変動そのものを契機とする条項を置くことになります(注2)。これがChange of Control条項です。
2 この条項は二階建てになっている
条項が果たす役割は2つに分かれます。
| 何をするか | |
|---|---|
| 一階 | 支配権が動いたことを知る(通知義務) |
| 二階 | 知ったあとに何かできる(解除・事前承諾) |
支配権の変動があった場合の効果としては、解除権を認める、契約を当然に終了させる、あるいは、契約の相手方に通知義務を課す、期限の利益を喪失させ弁済期を到来させる、などを規定することが考えられます(注3)。並列に見えますが、通知だけは性質が違います。知るための仕組みであって、知ったあとに何かする根拠にはならないからです。
二 よくある条項例
解除だけを書く型です。
第〇条(支配権の変動) 甲および乙が、合併、会社分割、株式交換、株式移転を行った場合、または、自らの支配権に実質的な変動が生じた場合(全議決権の3分の1を超えて変動した場合を含むが、これに限られない)には、相手方当事者は、本契約を解除することができる。(注4)
通知だけを書く型もあります。契約書チェックマニュアルが「組織変更等に係る通知条項」として挙げるものです。
第○条(通知義務) 甲及び乙は、次の各号のいずれかに該当する事実が生じた場合には、速やかに相手方に通知しなければならない。 (1) 合併、分割、事業譲渡、支配株主の異動その他これに準ずる経営上の重要な事項の変更 (2) 減資、増資その他会社の資本の変動が生じたとき (3) 商号、本店所在地その他取引上重要な事項に変更が生じたとき(注5)
同書は、この条項の目的をこう説明しています。
取引の相手方に合併等の組織変更など与信や契約管理に影響を与え得る事由が生じる場合があります。そのような場合に、相手方に通知義務を課しておくことで、自社の与信調査の負担等を軽減することができ、各種対策を講じることができます。(注5)
三 問題点
1 通知は来るが、何もできない
この記事のいちばんの主張です。
契約書チェックマニュアルは、通知を受けた後についてこう書いています。
それが取引上重要な変更である場合には、契約当事者としては取引相手の信用状態等を検討し、取引自体の見直しや契約条件の変更などの検討を行うことになります。(注6)
検討はできます。しかし、検討した結果として取引をやめる根拠が、通知条項からは出てきません。相手が応じなければ、契約は続きます。
同書の共通事項32項目には、支配権の変動を扱う項目が「組織変更等に係る通知条項」しかありません(注7)。解除は債務不履行解除の項目にあり、支配権の変動と結びついていません。実務のチェックリストの側でも、通知と解除が別々の棚に入っている、ということです。契約書で片方だけになるのは、その反映と見ることもできます。
2 「支配権の変動」の線がどこにあるか
二の条項例は「全議決権の3分の1を超えて変動した場合」を挙げています。別の条項例も同じく3分の1を基準にしており、その理由は、会社の重要な意思決定に関する特別決議事項について拒否権を持ち得るシェアだからです(注8)。
もっとも、事案によって変えることも考えられます。株主が少数で頻繁に変動することが想定されていない場合には、株主の一人でも変動があれば支配権に変動があったとすることも考えられます。また、支配権者の支配権者(株主の親会社など)に変動があった場合のように、実質的な支配権の変動を規定することも検討に値します(注8)。
「実質的な変動」とだけ書いて例示を置かないと、動いたかどうかで争いになります(注8)。
3 解除権が強すぎると、相手方のM&Aを事実上封じる
支配権が変動しても、友好的なものや不利益が生じない場合も多いところです(注3)。そのために、当然終了ではなく解除権にとどめる条項例があります(注3)。
それでも、解除権は強い武器です。取引先が買収されようとするとき、主要な取引契約に無条件の解除権があれば、買い手はそれを織り込みます。自社が買われる側なら、この条項は自社の売却価格を下げる方向に働きます。
さらに、通知義務には別の落とし穴があります。契約書チェックマニュアルの指摘です。
取引当事者が公開会社である場合には、通知義務により得た情報に基づき相手企業の株式の売却等を行おうとする場合には、金融商品取引法上のインサイダー取引規制にも注意を要します。(注6)
四 改善例
1 通知事由を列挙する
通知義務の対象とする事項の例としては次の5つがあり、それを踏まえた条項例もあります(注9)。
| 対象 | 例 | |
|---|---|---|
| ① | 組織変更 | 合併、会社分割 |
| ② | 事業内容の変更 | 事業譲渡 |
| ③ | 資本構成の変更 | 大株主の異動、株式の過半数または相当割合の第三者への譲渡、実質的な経営主体の変更 |
| ④ | 減資等 | 資本金の減少、資本準備金の減少 |
| ⑤ | 登記事項の変更 | 本店所在地、商号、代表者の変更 |
これらはあくまで例示ですから、個別の契約締結の場面で、そのほかに契約の相手方の信用状態を把握するために有益と思われる事項があれば、その事項に関する変更も加えておくのが望ましいところです(注9)。例えば、特許権を主たる資産としライセンスを業とする相手方であれば、無効審決の確定や特許の存続期間の満了等により保有特許権数が大幅に減少した場合を、通知事項とすることが考えられます(注9)。逆に、登記事項の変更は第三者において確認可能であることを理由に、事務処理の簡略化を図る観点から、通知事項から外すこともあります(注9)。
書きぶりで見落とされやすいのが、通知の時期です。条項例には、「事前に書面をもって相手方に通知しなければならない」とするもの(注9)と、「速やかに」として事実が生じた後とするもの(注5)があります。事前でなければ、支配権が動く前に手を打つことはできません。
2 解除ではなく、事前承諾にとどめる
解除権を置くと三の3の問題が出ます。そこで、支配権の変動に相手方の事前の承諾を要するという形も考えられます。
ただし、承諾を要すると書く方式には、譲渡制限条項の場面と同じ限界がそのまま当てはまります。譲渡制限条項では、合理的な理由がない限り承諾を拒めない旨の条項例がありますが、その効果には次の留保が付いています。
ただし、このような定めを行ったとしても、相手方当事者が実際に承諾しない限り、譲渡制限が解除されるものではないし、何が合理的な理由であるのか定かではない。このため、精神条項的な効果しかもたらさないおそれがあることに留意しておく必要があろう(注10)
承諾を得られなかったときにどうなるかを書かなければ、条項は止まります。現実的な組み方は、解除権を置いたうえで、その行使を絞ることです。
3 条項に落とすときの項目
三で見た問題を、書く側から並べたものです。
| 決めること | 書き方の例 |
|---|---|
| 通知の時期 | 事実が生じた後ではなく、行う場合の事前通知とする |
| 通知事由 | 四の1の①〜⑤を基に、相手方の業態に合わせて足し引きする |
| 支配権の定義 | 「実質的な変動」だけで済ませず、議決権の割合と親会社の変動を例示する |
| 解除権の期間制限 | 通知を受けた日から一定期間内に限って行使できるものとする |
| 代替措置 | 解除に代えて、担保の追加提供や取引条件の見直しの協議を求められるものとする |
五 書き分けの分岐:自社が買われる側か、取引先が買われる側か
同じ条項が、立場によって逆向きに効きます。
| 取引先が買われる側(自社が守る側) | 自社が買われる側 | |
|---|---|---|
| 通知 | 事前通知を求める | 事前通知は、公表前の情報管理(秘密保持・インサイダー情報)と両立する範囲にとどめる。対象も絞る |
| 解除権 | 置く。行使の要件は広めに | 置かせない。置くなら期間制限と要件の限定を求める |
| 支配権の定義 | 広く(親会社の変動まで) | 狭く(直接の議決権の変動に限る) |
| 双方向か一方向か | 相手方のみに課したい | 双方向にする |
契約書チェックマニュアルは、この最後の行について実態を書いています。
本条項は、双方向規定で定められている場合もありますが、契約当事者の力関係に差がある場合には弱い立場の企業のみが負わされていることも多い規定です。(注6)
通知義務を負う企業は、通知対象が細かければ細かいほど通知の負担が大きくなります。義務を負わされる側は、可能な限り通知の対象を削減するよう提案するのが望ましいところです(注6)。
将来M&Aの可能性がある会社は、取引基本契約を結ぶ段階でこの条項を見ておく必要があります。買収の話が出てからでは、相手方に条項の削除を求める立場が弱くなります。
六 まとめ:通知と解除は、二つで一つ
| 通知条項だけ | 解除条項だけ | 両方 | |
|---|---|---|---|
| 支配権の変動を知れるか | 知れる | 知れない(自分で気づくしかない) | 知れる |
| 知ったあと動けるか | 動けない | 動ける | 動ける |
| 相手方のM&Aへの影響 | 小さい | 大きい | 調整できる |
通知だけの契約は、知るためだけの条項を置いていることになります。それが目的なら問題はありません。取引をやめる余地まで残したいのであれば、二階が要ります。
譲渡制限条項そのものは別稿(債権譲渡制限特約の効力、債務引受・契約上の地位の移転)が扱います。支配権の変動をM&Aの側から見る話は、本稿では扱いません。
参考文献等
註
(注1)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)638頁
(注2)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)159頁
(注3)前掲注1・639頁
(注4)前掲注2・159〜160頁の記載例③
(注5)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)81頁
(注6)前掲注5・82頁
(注7)前掲注5の第3章第1節「共通事項」の項目一覧(1〜32)
(注8)前掲注1・638〜639頁
(注9)前掲注1・639〜640頁
(注10)前掲注2・161頁
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