債務引受と契約上の地位の移転:条文が答えていないことを、条項が決める

10 共通条項の条項別解説

【応用実務】最終確認:2026年10月25日

一 問題の所在:債権は移せる。では債務と地位は

譲渡制限条項が禁止の対象とするのは、通常3つです。契約上の地位、契約に基づく権利(債権)、契約に基づく義務(債務)(注1)。

このうち債権については、条項があっても譲渡は止まりません。2017年改正で、譲渡制限の意思表示があっても債権譲渡はその効力を妨げられないことになったからです(別稿・債権譲渡制限特約の効力)。

では、義務と地位はどうか。こちらは止まります。債務引受も契約上の地位の移転も、相手方の承諾がなければできません。条項がなくても同じです。

そこまでは分かりやすいのですが、その先が問題です。承諾したとして、何がどこまで動くのか。譲った側は本当に契約から抜けられるのか。担保はついてくるのか。2017年改正はこれらを明文化しませんでした。だから条項で決めることになります。


二 制度の枠組み

1 債務引受には2つある

引受人が債務者と並んで債務を負う型と、引受人が代わって債務者が抜ける型があります。

併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。(注2)

免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。(注3)

改正前は、どちらも明文がありませんでした。判例および学説上これが可能であることについて異論はなく、実務上も重要な機能を果たしていましたが、基本的な要件や効果を定めた規定がなかったため、新たに規定が設けられました(注4)。事業譲渡の際などに、広く行われていたものです(注5)。

「連帯して」という文言により、性質上当然に適用されないものを除き、連帯債務の規定が適用されます(注6)。「同一の内容」とは利息、支払時期等を意味します(期限の利益喪失条項については争いがあります)(注6)。

2 誰と誰が合意すれば成立するか

類型は、それぞれ3つです(注4)。

併存的債務引受免責的債務引受
①債権者・債務者・引受人の三者契約同左
②債権者と引受人の契約債権者と引受人の契約+債権者から債務者への通知(効力発生要件)
③債務者と引受人の契約+債権者の引受人に対する承諾(効力発生要件)同左

②と③のどちらにも、債権者が出てきます。いずれの債務引受であっても、債務者と引受人との間の合意のみでは足りず、債権者(契約に基づく債務であれば相手方当事者)の承諾が必要です(注7)。

免責的債務引受の②には、改正前からの変更があります。債務者の意思に反する債務引受の類型を否定する大審院判例からの変更で、債務者の意思に反する場合にも成立するものとされました(注8)。

その大審院判例は、第三者が売主から買い受ける日用品の代金支払債務を引き受ける契約が、売主と引受人との間で結ばれたと認定された事案です。引受契約の成否は債務者と引受人との内部契約によって決まる、という上告人の主張を、大審院は退けました(注9)。理由に、次の一節があります。

其契約ハ債務者ノ利益トナルモノナレハ必スシモ其同意ヲ経ルコトヲ要セス債務者ノ意思ニ反セサル限リ債権者ト引受人トノ間ニ於テ之ヲ為スコトヲ得ヘキモノト解スルヲ相当トス(注9)

判文が述べているのは「債務ノ引受」一般です。債務者の同意までは要らないが、意思に反するのは駄目だ、という線を引いたものでした。免責的債務引受について、現行法はこの線を越えています。

効力発生要件である通知は、債務者が知らないうちに契約から離脱することを防止するために要求されているものであり、債務者は引受人の属性等を覚知していないのが通常であるため、通知の信頼性を確保するために通知主体を債権者としたものです(注8)。引受人からの通知では足りません。

3 免責的債務引受には、見落としやすい3か条がある

(1)引受人は求償できません。

免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得しない。(注10)

免責的債務引受は、引受人が他人の債務を自己の債務として履行するものであり、それ自体には求償関係を発生させる基礎を欠いています。また、求償権を生じさせる他の方法があるにもかかわらず、あえて免責的債務引受を選択したことから、当事者の通常の意思が推測されます。そのため、この規定は、求償をすることができないことを確認する規定となります(注11)。もっとも、債務者と引受人との間の引受の対価の支払合意が存在する場合や、債務者の委託により引受人が引き受けた場合には、これらの合意ないし契約に基づく求償は可能です(注11)。

(2)担保は自動では移りません。債権者は、債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を引受人が負担する債務に移すことができますが、その移転は、あらかじめまたは同時に引受人に対してする意思表示によらなければなりません(注12)。この意思表示は、免責的債務引受により原債務者の債務は消滅するため、消滅に関する付従性との抵触を回避するために要件とされています(注13)。

引受人以外の者が設定した担保については、その者の承諾が必要です(注12)。ここには債務者自身も含まれます。債務者が免責的債務引受契約の当事者となっている場合でも、免責的債務引受の合意とは別に、担保移転についての承諾が必要です(ただし、債務者と引受人との合意による類型では、不要とする解釈もあり得るとする見解もあります)(注13)。保証人の承諾は、書面でしなければ効力を生じません(注14)。電磁的記録による場合は、書面によるものとみなされます(注14)。

(3)抗弁は引き継ぎますが、相殺だけは別です。引受人は、効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗できます(注15)。ただし、相殺権については、引受人は他人の債権を行使できないうえ、免責的債務引受によって債務者が完全に免責される以上、債務者の有する相殺権は引受人の債務の帰趨に影響しないことから、これを理由とした履行拒絶も認められません(注16)。

4 契約上の地位の移転は、条文が一文しかない

契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。(注17)

要件は、譲渡人と譲受人の間の合意に、契約の相手方の承諾を加えたものです。三者間合意によることもできます(注18)。効果について、逐条解説はこう書いています。

解除権や取消権等を含め、契約上の地位に由来する権利義務が契約の同一性を維持したまま移転する。(注18)

書いてあるのはここまでです。

5 賃貸人の地位だけは別扱い

不動産賃貸借契約の賃貸人の地位の移転については、賃貸人の債務は使用収益させるという消極的なものであり、誰が賃貸人であるかは賃借人にそれほど影響しないうえ、賃貸人の地位の移転を制限するとかえって賃借人の保護に欠けることから、賃借人の承諾を要しないと解されていました(注19)。この理解は改正で明文化され、現行法の605条の2第1項と605条の3が、契約上の地位の移転の一般規定の特則として置かれています(注19)。


三 解釈:条文が決めなかったこと

1 「地位の移転」と「債権譲渡+債務引受」は同じではない

同じ結果になりそうに見えますが、動くものが違います。実務書は、契約上の地位の移転をこう定義しています。

契約上の地位の移転とは、契約に基づき発生するすべての権利義務(契約の取消権や契約の解除権などの一切の権利義務が含まれる)を契約当事者としての地位ごと他者に移転させることをいう。(注20)

差は、正面から現れます。債権譲渡・債務引受によっては、債権債務を生じさせた契約の取消権や解除権は移転しませんが、契約上の地位の移転によると、債権債務のほか取消権や解除権も含めて移転することになります(注21)。

継続的な取引では、この差が効きます。債権だけを譲り受けた者は、その契約を解除できません。取引そのものを引き継ぐつもりなら、地位の移転によることになります。

2 譲渡人は、本当に契約から抜けられるのか

実務上の理解では、抜けます。契約上の地位が譲渡人から譲受人に移転する結果、譲渡人は契約関係から離脱することになります(注20)(注21)。

ところが、条文にはその一言がありません。「譲渡人の当然免責の明文化」は、改正で見送られた項目の一つです。中間試案では免責が原則と考えられていました(注18)。

争いを残さないなら、条項に書くことになります。

3 見送られたのは、7つある

改正で見送られた項目の一覧です(注18)。実務で問題になりやすい順に並べ替えました。

見送られた項目実務での現れ方
相手方の承諾の時期(事前の承諾の効力)取引基本契約で将来の地位移転をあらかじめ承諾する条項が効くか
既発生の債権債務の移転の有無未払いの代金・未履行の納品義務が譲受人に行くのか
譲渡人の当然免責譲った側が残債務を負い続けるのか
譲渡人の債務についての担保を、順位を維持しつつ移転させる方法担保を張り替えると順位が落ちる
相手方の承諾を要しない場合の要件の具体化賃貸人の地位以外に承諾不要の場面があるか
独自の対抗要件制度の創設二重に地位を譲られたときどちらが勝つか
譲渡人の行った将来債権の譲渡の譲受人に対する効力別稿(将来債権の譲渡)が扱います

7つのうち、譲渡人の免責、既発生の債権債務の扱い、担保・保証の扱い、承諾の範囲と条件の4つは、少なくとも当事者の間では、契約書に書いておくことで争いを減らせます。もっとも、事前承諾の効力や担保の順位のように、書いても第三者との関係まで決まらないものもあります。四の3では、これに通知の取り決めを加えた5点を、書くべき項目として示します。

4 併存的債務引受で、保証の規制を回避できるか

改正では個人保証人の保護が強められました。審議の過程では、併存的債務引受が連帯保証債務についての制限を潜脱する目的で利用される可能性があることから、保証目的の併存的債務引受を明示的に制限する必要のあることが指摘されました(注22)。結果として明示的な制限は設けられませんでしたが、同書はこう続けます。

併存的債務引受が保証人保護をもっぱら潜脱することを意図しているような場合には、90条ないし91条によりその効力が否定されることもありえよう。(注22)

実務への影響としても、同書は次のように書いています。

形式が併存的債務引受であっても、保証人保護の趣旨を及ぼすべき場合であるか否かを検討する必要がある。(注23)

引受人が個人であるときは、保証の規制を思い出すべき場面です。


四 契約実務への還元

1 譲渡禁止条項に地位の移転を含めることの意味

現行民法下では、譲渡制限条項において義務の譲渡を制限している部分も、契約上の地位の移転を制限している部分も、確認的意味を有するにすぎないことになります(注7)。条項がなくても承諾が要るからです。

それでも書く理由は3つあります。相手方に禁止されていることを分からせること。違反したときの効果を別に組めること。そして、次に述べる一般承継との線引きを条項の側で調整できることです。

2 組織再編で地位が動く場合は、切り分けが要る

ここが実務でいちばん問題になります。

会社分割や合併といった一般承継(包括承継)においては、契約に基づく権利(債権)も契約に基づく義務も、また、契約上の地位も、すべて相手方当事者の承諾なくして承継先に移転する(ただし、M&A取引の中でも、事業譲渡は一般承継(包括承継)ではない)。(注24)

譲渡制限条項が、このような一般承継の場合にまで譲渡を制限する趣旨であるのかは問題となります。通常は、当事者の合理的意思解釈として、一般承継の場合にまで譲渡制限を各当事者に課す趣旨ではないと解されているのが実務です(注24)。

つまり、譲渡禁止条項は会社分割・合併には効かないのが通常です。それでも望ましくない相手に契約関係が移ることを防ぎたいなら、譲渡制限条項ではなくChange of Control条項を使うことになります。主として継続的な取引関係が構築される契約では、この条項がよく設けられています(注24)。この条項は別稿(Change of Control条項の設計)が扱います。

事業譲渡は一般承継ではないので、個々の権利義務や地位の移転に承諾が要ります。同じM&Aでも、手続の選び方で承諾の要否が変わります。

3 地位を譲るときに、条項で決めておくこと

三の3の見送り項目を、書く側の言葉に直したものです。相手方の承諾を得る場面で、承諾書か覚書にこれらを入れます。

決めること書き方の例
譲渡人の免責譲渡人は移転日以後に生じる債務を負わない/移転日前に生じた債務は引き続き負う
既発生の債権債務移転日時点で未履行の債権債務が譲受人に移転するかを明示する
担保・保証譲渡人の債務の担保・保証を移すか消滅させるかを決める。保証人からは書面で承諾を得る
承諾の時期事前の包括承諾を得るなら、対象と条件を特定する
通知移転日と移転の範囲を、相手方に書面で通知する

事前の包括承諾は、効力に争いの余地があります。改正で見送られた項目にあるとおり、承諾の時期について条文は何も定めていません。承諾する側になったときは、白紙の事前承諾を避けて、譲受人の範囲や通知を条件にするのが安全です。

4 債務引受を使うときに、条項で決めておくこと

免責的債務引受で債務を引き受ける側が、抜ける側(従前の債務者)に後で支払を求めるつもりなら、その合意を別に置きます。二の3のとおり、引受人は条文上求償権を取得しないからです(民法472条の3)。

債権者の側なら、担保移転の意思表示をあらかじめまたは同時に行い、第三者が設定した担保についてはその者の承諾を、保証人については書面の承諾を取ります。引受契約を締結した後で気づいても、担保は移せません。


五 まとめ:明文化されたのは入口だけ

債権の譲渡債務引受契約上の地位の移転
相手方の承諾不要(譲渡は有効)必要(債権者)必要(相手方)
譲渡禁止条項の意味履行拒絶の抗弁を作る確認的確認的
取消権・解除権は動くか動かない動かない動く
譲渡人・債務者は抜けるか—免責的なら抜ける条文に定めなし
会社分割・合併承諾なく移転承諾なく移転承諾なく移転

条文が決めたのは、誰の承諾が要るかまでです。そこから先は、承諾のときに交わす書面が決めます。

将来債権の譲渡は別稿(将来債権の譲渡)が、支配権の変動を契機とする解除は別稿(Change of Control条項の設計)が扱います。


参考文献等

註

(注1)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)153頁
(注2)民法470条1項
(注3)民法472条1項
(注4)大阪弁護士会民法改正問題特別委員会編『実務家のための逐条解説 新債権法』(有斐閣、2021)316頁
(注5)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)635頁
(注6)前掲注4・318頁
(注7)前掲注1・157頁
(注8)前掲注4・321頁
(注9)大判大正10年5月9日民録27輯899頁(大正10年(オ)第314号)
(注10)民法472条の3
(注11)前掲注4・323頁
(注12)民法472条の4第1項・2項
(注13)前掲注4・324〜325頁
(注14)民法472条の4第4項・5項
(注15)民法472条の2第1項
(注16)前掲注4・322頁
(注17)民法539条の2
(注18)前掲注4・430〜431頁
(注19)前掲注5・635〜636頁
(注20)前掲注1・155頁
(注21)前掲注5・635頁の注27
(注22)前掲注4・317頁
(注23)前掲注4・319頁
(注24)前掲注1・159頁


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