法令・行政機関からの開示要求への対応:捜査機関から求められたとき

10 共通条項の条項別解説

【応用実務】最終確認:2026年10月25日

一 どういう場面か:出せば守秘義務違反、出さなければ

取引先から預かった資料の中に、捜査機関が関心を持つ情報が含まれていた。あるいは、監督官庁から報告を求められ、その報告に取引先の情報を書かなければならない。

このとき、秘密保持条項が効いてきます。契約上は「第三者に開示してはならない」と約束している。しかし法令上は出さなければならない。

社内が止まるのは、条項に何も書いていないときです。出せば取引先に対する契約違反ではないか、出さなければ法令違反ではないか、という往復が始まり、判断が下りません。

もっとも、条項に書いていないから直ちに違反になるわけでもありません。秘密保持条項において法令に基づく開示についての文章を設けていなかった場合であっても、当事者の合理的意思解釈として、法令により開示が義務付けられる場合や官公庁から開示の要請があった場合においても開示を禁じる旨が合意されているとまで解し得ない場合が多いと考えられます(注1)。

それでも書いておくべきです。解釈に委ねると、その場で判断できません。判断できないことが、この場面のいちばんの問題です。


二 何を見るか

1 どこに書かれているか

まず確かめるのは、法令に基づく開示が条項のどこに置かれているかです。置き場所は2つあります。

置き場所意味
秘密情報の除外事由(「次の各号は秘密情報に該当しない」の中)その情報は、以後ずっと秘密情報でなくなる
秘密保持義務の例外(「前項にかかわらず、~の場合は開示できる」)その開示行為だけが義務違反にならない

実務では、除外事由の側に置く例がみられます(注2)。しかし、この位置づけには実務書からの明確な否定があります。

法令に基づき監督官庁等から開示を要求された情報を上記(イ)の秘密情報から除外される情報として位置づける記載も見られる。しかし、監督官庁等から開示要求を受けて開示した情報がその後公になるとは限らないため、それにより直ちに秘密情報から除外すると規定することは適切ではない。したがって、この場合には、法令に基づく開示要求に応じて行う当該開示行為に限って秘密保持義務違反とならないとする条項とするべきである(注3)

同じ指摘が、企業法務の実務家からも出ています。公権力からの命令に従い当局に開示した場合でも、ただちに当該情報が公知化するわけではないことから、適切ではない(注4)。

理屈は単純です。捜査機関に出した情報は、それで公知になるわけではありません。除外事由に入れてしまうと、以後その情報を誰に開示しても自由になります。開示者が求めているのはそこではありません。

条項の形は次のとおりです。

3 前二項にかかわらず、法令に基づき行政官庁、裁判所から開示を求められた秘密情報については、必要最小限の範囲内で開示することができるものとする。(注5)

「必要最小限の範囲内で」が効きます。求められた以上のことまで出す必要はない、という線が引かれます。

2 どこまでの機関が入っているか

「法令に基づき」だけでは足りない場合があります。次の3つです(注6)。

  • 法令または金融商品取引所の規則に基づき開示が必要である場合
  • 裁判所等の司法機関もしくは準司法機関または行政機関の決定または命令等に基づき開示が必要である場合
  • 日本証券業協会等の自主規制機関に対する回答、報告、届出、申請等のために開示が必要である場合

上場会社であれば、金融商品取引法または金融商品取引所の規則に基づき情報開示を行わなければならない場合があります。また、裁判所からの提出命令や捜索差押等の強制処分によって、秘密情報に含まれる情報を公的機関等に提出せざるを得ない場合があります(注6)。

自社が上場会社であるか、その予定があるなら、取引所規則と自主規制機関を書き落とさないことです。「法令に基づき」だけでは、取引所規則が入るかどうかが読めません。

条項例では「司法機関、行政機関その他これに準じる公的機関・団体、金融商品取引所、日本証券業協会等の自主規制機関の求めに応じて必要な範囲で開示する場合」と並べています(注7)。

3 自社が紛争の当事者になったとき

見落とされやすい論点があります。相手方との間で紛争になり、預かっている秘密情報を訴訟の証拠として出したい場合です。裁判所から開示を求められたわけではなく、自分から出す場面なので、「法令に基づき開示を求められた場合」に当たるかがはっきりしません。

この問題を正面から検討した論考があります。結論は、相手方を被告とする訴訟なら許容されるというものです(注8)。

理由は、当事者の合理的な意思です。裁判管轄を定めた契約なら、紛争は裁判所で解決することが予定されているので、契約書を証拠に出すことも当事者は許していると読めます。裁判管轄の定めがなくても、仲裁などを定めていない限り、秘密保持義務によって裁判を受ける権利(憲法32条)の行使まで制限する合意をしたとは考えにくいところです。そのため、少なくとも訴訟の遂行に必要な限度で開示するのであれば、秘密保持義務違反にはなりません(注8)。

もっとも、線はそこで引かれています。契約の相手方とまったく無関係な第三者と係争中の訴訟において契約書を証拠提出することまで契約当事者が許容しているとはいえないでしょう(注8)。ただし、その場合でも、証明に必要な範囲に限り、不要な部分の黒塗りや閲覧等制限の申立てなどの漏洩防止措置を講じていれば、特段の事情があるとして秘密保持義務違反を否定する余地があります(注8)。同じ「訴訟の証拠として出す」でも、誰との訴訟か、どう出すかで結論が変わります。

これに対しては、開示した秘密情報が受領者によって自社への訴訟を通じた権利行使のために使用されることは開示者側は通常想定も許容もしておらず、閲覧制限やマスキング等をした場合に限り必要な範囲のみ例外的に許容される余地があるに過ぎない、という見解もあります(注9)。

条項に書いていなければ、この解釈に委ねられます。自社が情報を出す側で、この点を明確にしたいなら、例外の対象を公権力からの要求に限ったうえで、紛争時に証拠として提出する場合の扱い(必要な範囲に限る、閲覧制限を申し立てる等)も書いておくことになります。

4 条項自体が無効になる場合

もう一つ、逆向きの場面があります。秘密保持の合意そのものが無効となる場合です。

東京地判平成14年2月14日は、元従業員が差し入れた退職後の秘密保持誓約書について、公共土木工事の予定価格を予測できる非公開の単価情報を対象とする部分につき、こう述べました(注10)。

法的保護に値せず,かえって公共の利益に反する内容の情報については,これを秘密として保持する旨の契約をしても公序良俗に反するものとして,契約当事者はその内容に拘束されないと解するのが相当である(民法90条)(注10)

この判断の前提として、裁判所は不正競争防止法の営業秘密についても、犯罪の手口や脱税の方法等を教示し、あるいは麻薬・覚せい剤等の禁制品の製造方法や入手方法を示す情報のような公序良俗に反する内容の情報は、法的な保護の対象に値しないとして保護を受けないと述べています(注10)。

実務への含意は、公正取引委員会への申告のような場面に出ます。取適法(旧下請法)上の禁止行為に該当する契約条項や、独占禁止法上の不公正な取引方法に該当する契約条項について、その条項が記載された契約書を公正取引委員会に開示する場合、そのような条項を秘密保持する合意は無効と考えられるから、少なくとも当該条項を開示する限度では秘密保持義務違反を構成しません(注8)。

違法な契約内容は、秘密保持条項では守れません。自社が開示を受ける側で、預かった契約書に違法な条項が含まれているとき、秘密保持条項を理由に沈黙する必要はない、ということです。

5 開示前に通知する義務があるか

もう一つ見るのが、開示する前に相手方へ知らせる義務が書かれているかです。

自社が情報を出す側なら、通知義務は入れたい条項です。相手方が自社の情報を捜査機関に出したなら、それを知っておきたい。争う手段を検討する機会にもなります。

自社が受け取る側なら、通知義務は負担になります。そして、履行できない場合があります。


三 直し方

1 置き場所を直す

除外事由の中に法令に基づく開示が入っていたら、そこから外し、義務の例外として書き直します。二の1で見たとおりです。

自社が開示する側なら、必ず直します。受け取る側であれば、除外事由に置かれているほうが有利ではありますが、開示者から見て不自然な条項は交渉で戻されます。争点にする価値の低いところです。

2 範囲を書き足す

「法令に基づき」だけであれば、二の2で挙げた3つの類型を書き足します。自社が上場会社であるか、上場会社との取引か、業法上の監督を受ける業種かで、必要性が変わります。

いずれにも当たらない中小企業間の取引であれば、「法令に基づき行政官庁、裁判所から開示を求められた場合」で足ります。書き足しは、必要な場面がある会社に限ります。

3 通知義務をどう書くか

通知義務は、書き方に幅があります。

事前通知型。「開示に先立ち、相手方に対しその旨を通知する」。開示する側にとってはいちばん厚い保護です。

事後通知型。「開示後、速やかに相手方に対しその旨を通知する」。

法令上の制約を付ける型。「法令上可能な範囲で、あらかじめ相手方に通知する」。通知の義務そのものを努力義務にするなら、「通知するよう合理的な努力をする」のように別に書きます。

自社が受け取る側であれば、事前通知型は避けます。捜査の秘密が理由です。捜索差押えを受けた場合、その事実を第三者に告げることが捜査に支障を生じさせるおそれがあります。事前通知を約束していると、契約上の義務と捜査への協力が衝突します。

現実的なのは、法令上の制約を付けたうえで努力義務にする型です。「法令上可能な範囲で」という留保があれば、法令上通知が禁じられる場面などでは、通知しなくても契約違反になりません。通知義務に「法令上可能な範囲で」という留保を付けるのは、本稿の提案です。条項例では、法令等に基づき開示が義務付けられる範囲において開示できるとしたうえで、「当該開示に際し、事前に相手方(開示者)に対して通知するとともに、必要最小限の範囲での開示となるよう合理的な措置を講ずるよう努めるものとする」としています(注11)。事前通知と必要最小限の措置を、どちらも努力義務として置いています。自社が開示する側であっても、この留保は飲めます。通知できない場面が実在する以上、無留保の事前通知を押し通しても、相手方が守れないだけだからです。


四 相手方への説明のしかた

この条項は、相手方の利害と正面から衝突しにくい条項です。説明の順序を間違えなければ、通ることが多いはずです。

置き場所を直すときは、相手方の利益になる直しであることを説明します。除外事由から義務の例外に移すのは、開示者の情報を守る方向の修正です。自社が受け取る側であっても、「捜査機関に出したというだけで御社の情報が秘密でなくなるのは、御社にとっても不都合でしょう」と説明できます。

通知義務を努力義務型に落とすときは、履行できない場面があることを具体的に述べます。捜索差押えを受けたときに、その事実を取引先に伝えてよいかは、その場では判断できません。無留保の事前通知義務を負うと、守れない約束をすることになります。

範囲を書き足すときは、自社の属性を説明します。上場会社であること、業法上の報告義務があること。相手方が同じ立場なら、双方向の条項として提案できます。


五 どこまで直すか

この条項は、直す優先順位が低い部類です。条項がなくても解釈で処理される可能性が高く(注1)、しかも、取引や業種によっては、この場面が実際に起きる頻度は高くないからです。

したがって、レビューの時間が限られているなら、次の順で見ます。

除外事由に入っていれば直します。ここだけは直します。条項の構造の問題で、修正も1か所です。

通知義務が無留保の事前通知型なら、留保を足します。自社が受け取る側で、この義務を負っているときに限ります。

範囲の書き足しは、必要のある会社だけです。上場会社、金融機関、業法上の監督を受ける業種。それ以外は放置してかまいません。

条項がまったくない場合は、追加を提案するかどうかを判断します。相手方のドラフトに何も書いていないとき、この1条のために交渉ラウンドを増やす価値があるかは、取引の性質によります。捜査機関や監督官庁と接点のある業種なら足します。そうでなければ、他の論点に時間を使うほうが合理的です。

本稿で扱わなかったこと

秘密情報の除外事由そのものは別稿「秘密情報から除外される情報」が扱います。本稿の二の1で述べた置き場所の問題は、そちらの三でも触れています。

開示できる第三者の範囲(役職員、外部専門家、グループ会社)は、法令に基づく開示とは別の話です。別稿「秘密保持義務の内容と存続期間」が扱います。

実際に捜査機関から開示を求められたときの社内対応の手順は、契約書の話を超えます。本稿は、そのときに契約書が判断の妨げにならないようにしておく、という範囲にとどめています。


参考文献等

註

(注1)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)116頁
(注2)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)284頁の開示を受ける側変更例は、除外事由の第5号に「法令に基づき開示を強制された情報」を置きます
(注3)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)623〜624頁
(注4)橋本孝史「『秘密保持契約書』の交渉──秘密情報の範囲を中心に」ビジネス法務2022年8月号36頁注5
(注5)前掲注3・624頁の条項例
(注6)塩野誠=宮下和昌『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック』(東洋経済新報社、2015)102頁
(注7)前掲注3・255頁の株式譲渡契約書雛形13条2項(2)
(注8)三好豊「企業間の秘密保持義務について──契約内容の開示が秘密保持義務に違反しない場合の検討」NBL1088号(2016)10〜11頁。同論文は「下請法」と表記していますが、同法は2026年1月1日から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改称されています
(注9)前掲注4・37頁注9
(注10)東京地判平成14年2月14日(平成12年(ワ)第9499号)損害賠償等請求事件
(注11)前掲注8・6頁の参考例第2条4項

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