一 この条項は何をしているのか
秘密保持条項には、たいてい「ただし書」が付いています。次のいずれかに該当する情報は秘密情報に該当しない、として並べられる部分です。
この部分が、条項の実際の射程を決めます。別稿「秘密情報の範囲の定め方」で見たとおり、定義の幅が義務の幅を決めるのですが、除外事由は、その幅を後ろから削ります。定義を広く書いても、除外事由が広ければ、残る範囲は狭くなります。
削る理由は、はっきりしています。すでに世の中に出ている情報や、相手方から教わる前から自分が持っていた情報について、契約上の義務を負う理由がないからです。義務を負わせても守れませんし、守らせる意味もありません。
したがって、除外事由は開示する側にとっても必要な条項です。除外事由のない秘密保持条項は、受け取る側にとって履行不可能な義務を課すことになり、結局は守られません。
問題は、どこまで削るか、そして削られたことを誰が証明するかです。
二 よくある条項例
除外事由として一般的に列挙されるのは、次の5つです(注1)。
| 除外事由 | 削る理由 |
|---|---|
| ① 開示を受けた際、既に自己が保有していた情報 | 相手方から得た情報ではない |
| ② 開示を受けた際、既に公知となっている情報 | 秘密として保護する対象がない |
| ③ 開示を受けた後、自己の責めによらずに公知となった情報 | 同上。ただし自分のせいで公知になった場合は除く |
| ④ 正当な権限を有する第三者から適法に取得した情報 | 別ルートで正当に得た情報である |
| ⑤ 相手方から開示された情報によることなく独自に開発・取得していた情報 | 相手方の情報を使っていない |
実際の条項例は、この5つをそのまま並べるとは限りません。たとえば受領者側の変更例には、(1)開示された時点で既に公知となっていた情報、(2)開示後、受領当事者の責めに帰すべき事由によらず公知となった情報、(3)正当な権限を有する第三者から適法に入手した情報、(4)受領当事者が秘密情報を利用せずに独自に開発した情報、(5)法令に基づき開示を強制された情報、の5つを挙げるものがあります(注2)。上の表の①(既に保有していた情報)を挙げず、法令による開示強制を入れている点で、表とは並びが違います。
もっとも、4つしか置かない例も多くみられます。⑤の独自開発が落ちている形です(注3)。
⑤は、技術情報が動く取引で効きます。開示の時点で受領者が保有していなかった情報を事後的に取得する経路には、第三者から取得する場合のほか、自らが研究・開発等を行った結果として取得する場合もあるので、技術上の情報が開示、提供される場合には「開示後において、開示を受けた当事者が、本契約とは無関係に、自ら独自に研究・開発し取得した情報」を加えておくことが考えられます(注4)。
三 問題点
1 立証責任がどちらにあるか書かれていない
除外事由は、書いてあるだけでは足りません。「この情報は開示前から持っていた」と受領者が主張したとき、それを誰が証明するのかが決まっていないと、争いになります。
①④の除外事由は、情報を開示・提供した側においてそのような事実の有無を明確に認識することが困難です(注5)。⑤の独自開発も同じ性質を持ちます。開示者は、相手方の社内に何があったかを知りません。
そこで、除外事由の該当性を主張する者に、除外事由があることについての立証責任を負わせることを明確にする記載が多く見られます(注1)。書き方は簡単で、各号の末尾に「開示を受けた当事者において当該事実を立証し得るもの」と付けるだけです(注5)。
この一句があるかどうかで、条項の意味が変わります。なければ、受領者が「もともと持っていた」と言ったときに、どちらがそれを証明するのかが争いになります。
2 「公知」は、書いてある文言より広く読まれる
②③の除外事由に書かれる「公知」は、条項の文言どおりに読まれるとは限りません。
秘密保持条項に「相手方から開示を受けまたは知得した際にすでに公知または公用の情報」を除外する定めがあった事案で、東京高判平成11年12月8日は、この「公知または公用の情報」に、公然と知られまたは公然と実施されている情報から容易に想到し得る情報も含まれると解しました(注6)(注7)。
第一審が挙げた理由は2つです。契約当事者以外の第三者が現に知りまたは容易に知り得る情報の開示を禁止しても実益がないこと。そして、そのような情報まで秘密保持義務の対象とすると契約当事者に過大な負担を課すことになること(注7)。
争われたのは、この解釈の当否そのものでした。情報を出した側は、特許法が公知・公用発明(29条1項)とそれに基づいて容易に発明できた発明(同条2項)を明確に区別していることを挙げ、契約書に「公知」と書いた以上その法概念で読むべきだと主張しました。控訴審はこれを容れず、原審の解釈を維持しています(注6)。
別稿「秘密情報の範囲の定め方」の三で扱う大阪地判平成24年12月6日も、当事者の意思に合致するよう契約文言を合理的に解釈した点で、同じ解釈手法を採るものと位置づけられています(注7)。除外事由も、秘密情報の定義と同じく、当事者の合理的意思に沿って解釈されます。条項に書いた文言が、そのままの広さで効くとは限りません。
自社が開示する側なら、「公知」の一語だけでは、公知情報の組み合わせから容易に想到できる程度のものまで除外されると読まれるおそれがあると理解しておくことです。守りたいなら、そこから先の具体性を持たせて特定するか、「公知」の意味を条項の中で定めておきます。
3 「独自に開発した」は、後から証明できるか
⑤は、書いてあっても使えないことがあります。
受領者が「これは自社で独自に開発したものだ」と主張しても、実際にはその立証が困難なことが多い(注8)。相手方から情報を受け取った後に似たものを作れば、受け取った情報を使ったのではないかと疑われるからです。
対処は、条項ではなく運用です。秘密指定の方法により対象情報を厳格に特定したり、相手方の情報にアクセスできる担当者と自社で開発する担当者とを物理的に分けておき、「独自に開発したものである」ということを後から立証しやすくしておく必要があります(注8)。
自社が受け取る側で、同じ分野の開発を続けているなら、条項を確保するだけでは足りません。誰がその情報に触れたかを記録に残す運用が要ります。
4 法令に基づく開示を、ここに入れてよいか
実務でよく見るのが、除外事由の中に「法令に基づき開示を強制された情報」を並べる形です(注2)。
この位置づけには、問題があります。
法令に基づき監督官庁等から開示を求められた情報を除外事由に入れる例もありますが、開示した情報がその後公になるとは限らないので、それによって直ちに秘密情報から外すと定めるのは適切ではありません(注9)。
理屈は単純です。除外事由に入れると、その情報は以後ずっと秘密情報でなくなります。捜査機関に出した情報を、その後どこに出しても自由になってしまう。しかし開示者が守りたいのはそこではありません。
したがって、この場合には、法令に基づく開示要求に応じて行う当該開示行為に限って秘密保持義務違反とならないとする条項とするべきです(注9)。
「裁判所その他の公権力から開示要求があった情報」も秘密情報の範囲から除外しようとする例がありますが、公権力の命令に従って当局に開示しても当該情報がただちに公知化するわけではないので、適切ではありません(注10)。
除外事由の側ではなく、義務の例外の側に置く。書き方は別稿「法令・行政機関からの開示要求への対応」で扱います。
四 改善例
除外事由を直すときの手順は3つです。
5つそろっているかを見ます。①既知、②開示時公知、③事後公知、④第三者からの正当取得、⑤独自開発。落ちているのはたいてい⑤です。技術情報が動く取引なら足します。動かないなら、なくても実害は小さい。
立証責任を書き込みます。①④⑤の末尾に「開示を受けた当事者において当該事実を立証し得るもの」を入れます。自社が開示する側なら必ず入れます。受け取る側なら、入れることで自社の負担が増えるので、①だけに限る交渉もあり得ます。
法令に基づく開示が混ざっていないかを見ます。混ざっていれば、除外事由から外し、義務の例外として書き直します。
③の「自己の責めによらずに」も確かめます。この一句がないと、受領者が自分で漏らして公知になった情報まで除外されてしまいます。
五 書き分けの分岐
| 自社の立場 | 除外事由の扱い |
|---|---|
| 主に開示する側 | 5つに絞る。①④⑤に立証責任の一句を入れる。③に「自己の責めによらずに」を確認 |
| 主に受け取る側 | ⑤独自開発を必ず入れる。立証責任の一句は①のみに限る交渉をする |
| 技術情報が動く | ⑤を入れたうえで、開発担当者の分離を社内で手当てする |
| 双方が開示する | 5つを対称に。立証責任も双方同条件にする |
除外事由は、削りすぎても足りなすぎても機能しません。自社が受け取る側で除外事由を広げすぎると、開示する側から「守る気がない」と読まれます。逆に開示する側が除外事由を削りすぎると、相手方が履行できない義務を負うことになり、結局は守られません。
本稿で扱わなかったこと
秘密情報の範囲そのものは別稿「秘密情報の範囲の定め方」が扱います。範囲を広く定めても除外事由が広ければ実質的な射程は狭くなるので、この2つは対で読む必要があります。
法令や行政機関からの開示要求に応じる場面は、三の4で位置づけだけを述べました。開示前に相手方へ通知する義務を書くか、通知できない場合をどう扱うかは、別稿「法令・行政機関からの開示要求への対応」が扱います。
除外事由に該当しない情報について何を禁じるか、その義務がいつまで続くかは、別稿「秘密保持義務の内容と存続期間」が扱います。
参考文献等
註
(注1)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)623頁
(注2)弁護士法人飛翔法律事務所編『実務必携 契約書チェックマニュアル』(商事法務、2024)283〜284頁の開示を受ける側変更例
(注3)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)112〜113頁の記載例①は、公知・事後公知・既知・第三者からの取得の4つを挙げます
(注4)同123頁
(注5)同122頁および122〜123頁の記載例⑩
(注6)東京高判平成11年12月8日(平成10年(ネ)第4839号)製造販売差止等請求控訴事件
(注7)三好豊「企業間の秘密保持義務について」NBL1088号(2016)8頁が紹介する原審(東京地判平成10年9月30日、平成4年(ワ)第8537号)の判示
(注8)塩野誠=宮下和昌『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック』(東洋経済新報社、2015)99頁
(注9)前掲注1・623〜624頁
(注10)橋本孝史「『秘密保持契約書』の交渉──秘密情報の範囲を中心に」ビジネス法務2022年8月号36頁注5
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