侵害が判明した場合の対応義務と費用負担:「解決し、または協力し」の「または」が争われた

10 共通条項の条項別解説

【応用実務】最終確認:2026年10月25日

一 この条項は何をしているのか

1 保証条項の次に置かれる、手続の条項

第三者の権利を侵害しないことを保証させても、それだけでは動きません(別稿・非侵害保証条項の意義)。侵害が問題になったときに、誰が何をして、費用を誰が持つのかを決めておく必要があります。

その部分を担うのが、この条項です。第三者からの請求等に関する条項で定める内容としては、次の2つを定めている例が多いところです(注1)。

  • 第三者から請求等がなされた場合の手続
  • 第三者からの請求等により負担することとなった費用の負担

2 なぜ手続を決めておくのか

理由は、請求の当否が確定しないまま金銭の負担が生じるからです。

その請求等が法的に正しいものであるのか、さらに契約当事者間の債務不履行に起因するものであるのか否かといった事項を判決等により確定させることなく、なんらかの暫定的な見通しに基づく対応を行ったり和解的な解決等を行ったりした結果、なんらかの経済的負担をすることもあります。このような場合には、契約当事者間において、その経済的負担が適切なものであったか等について紛争が生じることも考えられます(注2)。

だから、解決に向けた判断をどちらが行い、それによる負担をどちらが負うのかを、あらかじめ決めておく(注2)。それがこの条項の役割です。


二 よくある条項例

(1)売主が全部引き受ける形

乙は、物品に関して知的財産権侵害を理由として第三者との間で紛争が生じた場合、自己の費用と責任においてこれを解決し、または甲に協力し、甲に一切迷惑をかけないものとする。万一甲に損害が生じた場合、乙はその損害を賠償する。(注3)

(2)目的物の欠陥を対象とする形

甲は、乙に販売した商品の欠陥に起因して、第三者の生命、身体または財産に損害が生じたことを理由として苦情、請求、クレーム、差止めその他の請求が乙に対してなされたときは、自らの費用および責任をもって対応して紛争を解決するとともに、当該請求に基づき乙が負担した損害を乙に対して賠償する。(注4)

(3)相互の協力を定める形

甲及び乙は、第三者から本件発明の実施につき、第三者の権利を侵害するとの通知又は警告を受けたときは、直ちに相手方当事者にその旨を通知し、当該第三者との紛争を解決するよう相互に協力するものとする。(注5)


三 問題点

1 「解決し、または協力し」の「または」が争われた

(1)の形は広く使われていますが、この文言そのものが争点になった事件があります。

ADSLモデム用チップセット等の売買で、買主が特許権者にライセンス料2億円を支払い、その分を売買代金債務と相殺すると主張した事案です(注6)。売主は、条項の読み方についてこう主張しました。

本件基本契約18条2項は「自己の費用と責任においてこれを解決」する債務と、「控訴人に協力し、控訴人に一切の迷惑をかけない」債務を選択的に規定したものであり、選択権を有する被控訴人は、前者の債務を選択したから、本件紛争の解決権は被控訴人に留保されていたものである(注6)

自分が解決する側を選んだのだから、紛争の主導権は自分にある、という主張です。裁判所は、これを認めませんでした。

本件紛争の解決権が被控訴人に留保されていたことを認めるに足りる証拠はなく、同項の文言から被控訴人が選択権を有すると解することはできない(注6)

そのうえで、契約に紛争の解決手段・解決方法についての具体的な定めがほかにないことから、条項の性質をこう位置づけています。

同条2項は、同条1項により、被控訴人は、控訴人に対し、その納品した物品に関しては第三者の知的財産権を侵害しないことを保証することを前提としつつ、第三者が有する知的財産権の侵害が問題となった場合の、被控訴人がとるべき包括的な義務を規定したものと解するのが相当である(注6)

被控訴人が負う具体的な義務の内容は、当該第三者による侵害の主張の態様やその内容、控訴人との協議等の具体的事情により定まるものと解するのが相当である(注6)

「自己の費用と責任で解決する」と書いても、そこから具体的に何をすべきかは出てきません。裁判所は、事案の経緯を認定したうえで、この事件での具体的な義務を2つに絞りました。

〔1〕控訴人においてWi-LAN社との間でライセンス契約を締結することが必要か否かを判断するため、本件各特許の技術分析を行い、本件各特許の有効性、本件チップセットが本件各特許権を侵害するか否か等についての見解を、裏付けとなる資料と共に提示し、また、〔2〕控訴人においてWi-LAN社とライセンス契約を締結する場合に備えて、合理的なライセンス料を算定するために必要な資料等を収集、提供しなければならない義務を負っていた(注6)

情報を出す義務です。売主はこれを果たさず、条項違反が認められました。

2 「一切迷惑をかけない」と書いても、肩代わりまでは負わない

買主は、さらに進んで、売主が自らライセンス契約を締結してライセンス料を支払う義務まで負っていたと主張しました。裁判所は、これを退けています。

本件基本契約18条2項に基づく具体的な義務として、被控訴人において、自ら又はイカノス社をして、Wi-LAN社との間でライセンス契約を締結すべきであったとまで認めることはできない(注6)

理由は、当事者間の交渉の経緯と内容に加え、契約締結前はもとより判決の時点でも侵害の有無が明らかではないことでした(注6)。

「一切迷惑をかけない」という強い文言があっても、金銭の肩代わりまでは当然には出てきません。

3 買主が単独で和解すると、大きく減る

この事件で最も実務的な部分です。

裁判所は、売主の条項違反と、買主が支払ったライセンス料2億円との間に相当因果関係を認めました(注6)。買主が置かれた状況(売主から情報が出てこない、減額交渉の材料がない、差止請求のリスクを告げられている、侵害が認定されれば損害は2億円をはるかに超える)からすれば、ライセンス契約の締結もやむを得ないと判断したためです(注6)。

それでも、買主は7割を負担することになりました。過失相殺です。

控訴人は、未だWi-LAN社による違反調査等が行われる第2ラウンドに移行しておらず、直ちに差止請求を含む訴訟提起がされる危険性があるとはいえない状況において、Wi-LAN社からは、本件チップセットが本件各特許権を侵害していることについて、技術分析の結果等の客観的資料に基づく具体的根拠が示されているわけではなく、控訴人において、本件チップセットの構成・動作と本件各特許発明の各構成要件を逐一吟味した資料等に基づいて、その充足性を検討することなく、……算定根拠が明らかではないWi-LAN社のライセンス料の提示に対して、その内容を質すこともなく、また、本件ライセンス契約直前にされた被控訴人による制止を顧慮することなく、本件ライセンス契約を締結し、ライセンス料2億円を支払ったことになる。この点については、拙速との評価を免れず(注6)

過失割合は、上の事情に加え、ライセンス契約の対象に問題の特許以外の特許も含まれていたことなどを勘案して、買主7割、売主3割とされ、相殺は2億円の3割である6,000万円の限度で効力を生じるとされました(注6)。

決め手として挙げられた事情のうち、契約実務に直接はね返るのは「制止を顧慮することなく」の部分です。売主は契約締結の半月前に、締結前の協議の場の設定と、特許権者が示した条件の開示を求めましたが、買主はいずれも拒んでいます(注6)。そのうえで売主は契約締結の3日前に、これまで三者協議で対応してきたこと、ライセンス料の是非についてチップメーカーの検討結果を待ってほしいこと、買主のみのビジネス上の判断で売主の同意なく紛争を解決した場合には買主が負担したライセンス料全額を売主が賠償することを約束するものではないことを申し入れていました(注6)。

条項に和解の手続が書いてあれば、この応酬は起きませんでした。

4 全額を書いても、全額は通らない

条項に「すべての費用」と書いた場合の効力についても、注意が要ります。

一方当事者が負担した費用等のすべてを相手方当事者が賠償する内容の条項であっても、その費用等の負担が第三者からの請求等がなされたこととの間に相当な因果関係がない場合には、定めているとおりにすべての費用等の賠償が認められないこともあると考えられます。一般に、弁護士費用などが問題となりやすいところです(注7)。

三の3は、相当因果関係は認められたが過失相殺で7割が削られた例です。入口(因果関係)と出口(過失相殺)の両方で削られ得る、ということになります。


四 改善例

条項に置くべきものは6つです。

要素書くこと
① 通知請求を受けた側は、遅滞なく相手方に通知する。期限を切る
② 情報提供相手方の求めに応じ、侵害の有無の判断に必要な技術情報・資料を提供する。三の1で認められた義務を、条項の側から書く
③ 主導権対応の主導権をどちらが持つか。「解決し、または協力し」と並べず、どちらかに決める
④ 和解の権限相手方の書面による事前の同意なく和解・ライセンス契約の締結をしてはならない。同意を不合理に留保しない旨も書く
⑤ 対応の選択肢侵害が認められた場合の対応(ライセンスの取得、設計変更、代替品の提供、引取りと代金返還)と、その選択権を誰が持つか
⑥ 費用①〜⑤の費用を誰が負担するか。上限を置くか

③と④が抜けている条項が、いちばん多いといえます。三の1と三の3は、まさにそこで争われました。

⑥について、賠償を請求できる範囲を具体的に明記しておく条項例があります。製品の欠陥の場面の例ですが、回収や在庫の廃棄は、必ずしも欠陥等の存在から直接義務付けられるものではなく、当事者の自主的な判断によって行うこともあるため、賠償する範囲に常に含まれると断言できるものではないからです(注8)。侵害品の回収・廃棄にも同じことがいえます。


五 書き分けの分岐

1 請求を受ける側(買主・ライセンシー)の立場

②を厚くします。三の1が示すとおり、相手が持っている情報が出てこないと、応じるべきか争うべきかの判断ができません。

④は、自分の手を縛る条項でもあります。それでも入れる価値があります。三の3のとおり、単独で和解すると後で大きく削られるからです。同意を求める手続を決めておけば、相手が同意しなかったこと自体を、こちら側の事情として主張できます。

2 請求を受けさせる側(売主・ライセンサー)の立場

③と④を取りにいきます。費用を負担するのに主導権がない、という状態がいちばん不利です。

そのうえで、⑥に上限を置きます。補償額を既に支払われた実施料の総額を上限とする条項例もあります(注9)。

3 どちらの立場でも

侵害が確定しない段階で、どちらが動くかを決めておく。これがこの条項の眼目です。第三者からの請求の大部分は、是非が確定しないまま終わります(注10)。確定しないからこそ、手続を先に決めるということになります。


参考文献等

註

(注1)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)74頁
(注2)前掲注1・75頁
(注3)知財高判平成27年12月24日判例タイムズ1425号146頁(平成27年(ネ)第10069号、裁判所ウェブサイト、LEX/DB文献番号25447708)が認定する本件基本契約18条2項。売買代金請求控訴事件。判決文は当事者を「被控訴人」(売主)・「控訴人」(買主)と表記していますが、本稿では読みやすさのため「乙」「甲」に置き換えました
(注4)前掲注1・74頁の記載例①
(注5)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)548頁の条項例2項
(注6)前掲注3の判決
(注7)前掲注1・76頁
(注8)前掲注1・77頁および同頁の記載例③
(注9)前掲注5・548頁の条項例1項ただし書
(注10)前掲注1・78頁のColumn


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