既存知財と成果物の切り分け:受託者が自分の資産を使えなくなる条項

10 共通条項の条項別解説

【応用実務】最終確認:2026年10月25日

一 この条項は何をしているのか

1 成果物には、受託者の既存資産が混ざっている

システム開発を受託した会社が、成果物を納品します。契約書には「本契約に基づき乙から甲に対して納品する成果物に関する著作権(著作権法27条、28条所定の権利を含む)は、納品の完了をもって乙から甲に移転する」とあります(注1)。

このとき、何が移転したのか。

納品されたプログラムには、受託者が過去の案件で作り上げた共通ライブラリが組み込まれています。設計の型も、以前から使っているものです。これらは今回の案件のために作ったものではありません。それでも、成果物の一部として納品された以上、条項の文言だけを読めば移転の対象に入ります。

2 切り分けないと、次の案件で使えなくなる

移転してしまえば、受託者は自分が作ったライブラリを次の案件で使えません。使えば、委託者の著作権を侵害することになります。

この事態を避けるのが、既存知財(バックグラウンドIP)の切り分けです。条項例でも、成果物の著作権をユーザとベンダの共有とする案(C案)について「ユーザ、ベンダまたは第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き」という留保を置いています(注2)。

もっとも、切り分ければ委託者が困ることもあります。留保された部分がなければ成果物が動かないのに、その部分を使う権利がない、という状態になり得るからです。この記事は、両側の手当てを扱います。


二 よくある条項例

実務でよく見るのは、次の3つの形です。

(1)留保を書かない形

本契約に基づき乙から甲に対して納品する成果物に関する著作権(著作権法27条、28条所定の権利を含む)は、納品の完了をもって乙から甲に移転する。(注1)

(2)留保だけを書く形

……ユーザまたは第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、ベンダに帰属する。(注3)

成果物をベンダに帰属させ、ユーザ側の既存資産を留保する条項です。向きは逆ですが、留保だけで利用許諾を書かない点は同じです。

(3)留保と利用許諾を組で書く形

1 成果物に関する著作権(著作権法27条および28条の権利を含む。以下同じ)は、乙から甲に対して成果物の引渡しが完了した時点で、乙から甲へ移転するものとする。 2 前項にかかわらず、成果物のうちプログラムの著作物について、当該プログラムに結合されまたは組み込まれたもので、乙が従前から有していたプログラムの著作権および汎用的な利用が可能なプログラムの著作権については、乙に留保されるものとする。ただしこの場合であっても、甲は、納入された当該プログラムの著作物およびその複製物を、自由に使用、複製、翻案することができるものとし、乙はこれに異議を述べない。(注4)

(3)が到達点です。留保と、留保された部分についての委託者の利用権が、1つの条項に収まっています。


三 問題点

1 定義がない

(2)の形でよく起きるのが、「従前から保有していた著作物」が何を指すのか決まらない、という問題です。

契約締結の前から存在していたことを、誰がどう示すのか。受託者が「これは以前から持っていたものだ」と言えば通るのか。委託者が争ったとき、何を出せば足りるのか。条項には書いてありません。

実務的な手当ては、留保の対象を契約時に特定しておくことです。別紙に一覧を作る、リポジトリのコミット履歴で示す、といった方法があります。すべてを事前に列挙するのは現実的でないので、「別紙記載のもののほか、乙が本契約締結前から保有していたことを客観的資料により示すことができるもの」という書き方に落ちることが多いといえます。

2 組み込まれた部分を使う権利がない

(2)の形の、より深刻な問題です。

留保されたライブラリが成果物に組み込まれている場合、委託者は成果物を使うたびにそのライブラリを複製することになります。留保しただけで利用許諾がなければ、委託者が納品されたものを利用・改変できる範囲が不明確になり、成果物の利用に支障が生じかねません。

この点については、成果物の引渡しを前提とする契約においては、受領した側は成果物を自由に利用したり改変したりすることができることを目的としていることが通常です。そのため、知的財産権の帰属がそれを阻害しないように、実施許諾について定めておくことが望ましいところです(注5)。

ただし、契約の目的に照らして必要な範囲の実施は、特に実施許諾を定めていなくても、当然に許諾されていると考えられる場合も多いといえます(注5)。

それでも書くべきです。「当然に許諾されている」という解釈に頼ると、範囲が争いになります。とりわけ、改変(翻案)まで含むかどうかは、条項がなければ読み取れません。

3 汎用的なものをどう扱うか

三の1の裏返しの問題です。

契約締結の前から持っていたわけではないが、今回の案件のために作った部品のうち、汎用的で他の案件にも使えるものがあります。これは「従前から保有していた」に当たりません。しかし受託者からすれば、今後も使いたい部分です。

条項例(3)は、この点を明示的に拾っています。留保の対象を「乙が従前から有していたプログラムの著作権および汎用的な利用が可能なプログラムの著作権」としています(注4)。

「汎用的な利用が可能な」という基準は、それ自体があいまいです。委託者からすれば、対価を払って作らせたものを汎用だからと持ち出されるのは納得しにくい。ここは交渉になります。

4 権利が委託者に集まらない場合がある

条項の書き方とは別に、そもそも権利が動かない場面があることも押さえておきます。

知的財産権の帰属を定める条項には、限界が2つあります(注6)。

  • 契約当事者の従業員が創作した場合 特許を受ける権利は原則として自然人である発明者に原始的に帰属するため、職務発明(特許法35条)の定めを整備しておくか、従業員から承継する必要がある。著作権も同様で、職務著作の要件(プログラムの著作物は著作権法15条2項、それ以外の著作物は同条1項)を充たしておく必要がある
  • 再委託先が関与した場合 当該第三者またはその従業員に知的財産権が原始的に帰属することがあるため、契約当事者が譲渡等によって承継していない限り、当事者間で帰属を合意しても定めたとおりの効果を発生させることができない

2つ目が、この記事の文脈で効きます。受託者が再委託していれば、成果物の一部の権利は再委託先にあります。委託者と受託者の間でいくら帰属を決めても、受託者が持っていない権利は移転しません。再委託を許す契約では、受託者に「再委託先から権利を取得する義務」を負わせておくことになります。


四 改善例

三を踏まえると、条項に置くべきものは4つです。

要素書くこと
① 留保の対象契約締結前から保有していたもの、および汎用的に利用可能なもの。可能な範囲で別紙に特定する
② 委託者の利用権留保された部分について、成果物の利用に必要な範囲で、使用・複製・翻案を認める。無償か有償かを決める
③ 権利の取得義務受託者は、従業員および再委託先から必要な権利を取得したうえで納品する
④ 保証留保された部分が第三者の権利を侵害していないことを保証する

条項例(前掲の(3))は①②を1条にまとめた形です(注4)。②について「甲は……自由に使用、複製、翻案することができる」としており、翻案まで明記している点が実務的です。

特許について同様の建て付けをとる条項例もあります。

2 乙が従前から有していた特許権等を成果物に利用した場合または前項により乙に帰属する特許権等が成果物に利用された場合、乙は甲に対し、甲が成果物を本契約の定める目的のために利用するために必要な範囲で当該特許権等を実施または利用することを、無償で許諾する。(注7)

「本契約の定める目的のために利用するために必要な範囲で」という限定と、「無償で」という対価の定めが入っています。この2つが、②を書くときの型になります。


五 書き分けの分岐

1 委託者の立場

留保を認めないのが最も単純ですが、受託者が飲まないことが多く、飲んだ場合は単価に跳ね返ります。実務的な着地は、留保を認めたうえで②の利用権を厚く取ることです。

見るべき点は3つあります。

  • 利用権の範囲に翻案が入っているか(入っていないと、保守や改修で詰まります)
  • 利用権が無償か(後から使用料を請求される余地を残さない)
  • 第三者への再許諾や譲渡ができるか(グループ会社での利用や、事業譲渡の場面で効きます)

2 受託者の立場

留保を取ることが最優先です。取れないと、自社の資産を1件の受注で失います。

そのうえで、留保の対象を「汎用的な利用が可能なもの」まで広げられるかを試します。ここが取れると、案件ごとに作った部品を蓄積していけます。

3 立場を問わず注意すること

権利の帰属を決めるとき、対価との関係を意識します。実務書は、中小受託取引適正化法との関係で次の指摘をしています。

中小受託取引適正化法については、たとえば、情報成果物等の作成に関し、中小受託事業者の知的財産権が発生する場合において、委託事業者が、委託した情報成果物等に加えて、無償で、作成の目的たる使用の範囲を超えて当該知的財産権を委託事業者に譲渡・許諾させることは、同法が禁止する不当な経済上の利益の提供要請に該当すると評価されるおそれがある(注8)

同法は、委託事業者が中小受託事業者に対し、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることによって、中小受託事業者の利益を不当に害してはならないと定めています(注9)。

「作成の目的たる使用の範囲を超えて」が判断の軸です。目的の範囲内で使うために権利を取るのは通常の取引ですが、目的を超えた部分まで無償で取ると、この規定に触れ得ます。四の表の②で「無償か有償かを決める」としたのは、この点があるためです。

なお、共同研究開発の文脈では、独占禁止法にも注意が要ります。共同研究開発契約において、成果を利用した改良発明等について他の契約当事者に譲渡したり独占的に実施許諾をすることを定めることは、不公正な取引方法に該当するおそれがあります(注8)。

この記事が扱ったのは、成果物と既存資産の切り分けです。誰にどう帰属させるかそのものは、別稿『成果物の権利帰属の定め方:「一切の権利」では足りない』が扱います。


参考文献等

註

(注1)太田大三『契約書一般条項のポイント──ドラフトに効く、レビューに活きる』(商事法務、2026)146頁の記載例④
(注2)阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式──企業実務家視点の雛形とその解説〔第3版〕』(有斐閣、2025)420頁の条項例(C案)1項
(注3)前掲注2・419頁の条項例(A案)1項
(注4)前掲注1・149頁の記載例⑨
(注5)前掲注1・148頁
(注6)前掲注1・143〜144頁
(注7)前掲注1・149頁の記載例⑧2項
(注8)前掲注1・144頁
(注9)中小受託取引適正化法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)5条2項2号


この条項の他の記事知的財産権・成果物の帰属

あわせて読む

「10 共通条項の条項別解説」の目次へ / 契約法務ライブラリの総目次へ

タイトルとURLをコピーしました