最終案の審査と、締結後に法務がやること:差分を取るのが最後の仕事

06 契約審査・レビューの方法

【基礎実務】最終確認:2026年10月25日

一 いつ・誰が・何をするのか

修正案を出し、事業部門が相手方と何往復か交渉して、「これで締結します」という最終版が回ってきました。法務の仕事は、ここで終わりではありません。

契約は最終的に締結された契約内容によって効力が発生するので、審査部門がどんなに的確な審査を行っても、審査内容を最終的な契約内容に反映させなければ、契約審査の意味がありません(注1)。審査部門の仕事は、審査後の契約書案の行く末を見守り、実際に締結される契約書最終案にGOサインを出すところまで続くと考えるべきです(注1)。

依頼部署は営業上の観点から将来のリスクよりも目前の利益を優先する傾向があり、相手方も修正された契約書案を審査して必要があれば再修正します。そのため、交渉の過程で審査部門の主張を貫くことが難しいケースもあります(注1)。

交渉を経た最終版は、法務が出した修正案と同じとは限りません。差分を取るのが、レビューの最後の仕事です。


二 手順

1 最終版と自社の修正案の差分を必ず取る

最終版を読み通すより先に、自社が最後に出した修正案と最終版を機械的に比べます。

まれに、契約の相手方が変更履歴をつけることなく契約書を修正してくる場合があります。Wordの「校閲」タブにある「比較」機能で前のバージョンと比べれば、修正箇所を把握できます(注2)。変更箇所を伝えることなく契約書の文言を変更することは、相手方との信頼関係を破壊しかねない行為であり、避けるべきです(注2)。自社がそうしないのはもちろん、相手方がそうしていないかを確かめるのが、この段階の比較です。

差分が出たら、次のどれに当たるかを確かめます。

差分確かめること
交渉で合意した変更合意した内容どおりの文言になっているか
事業部門が法務を通さずに受け入れた変更法務の審査を通すべき内容か
誰も説明していない変更相手方に経緯を確認する

2 交渉で入った変更が、他の条項と噛み合っているか

交渉では、条項を1つずつ直していきます。1か所を直した結果、別の条項と矛盾することがあります。

契約書中に相互に矛盾する条項がないか、契約書全体の整合性を確認します。特に修正を多く行った箇所については矛盾が生じやすいため、重点的に確認します(注2)。送付前の最終確認では、存続条項に正しい条項番号が書かれているか、他の条項に言及している場合に正しい条項番号になっているかも確認します。既存の条項を条項ごと削除した場合や新規の条項を追記した場合には、特に要注意です(注2)。1か所の修正がどの条項と連動するかは、別稿「条項どうしの相互作用:条項は単独では動かない」で扱いました。

3 別紙・添付書類が最新版か

本文だけ最新版になり、別紙が古いまま、ということが起きます。

最終確認では、契約書中で言及している別紙や添付書類に抜け漏れや誤りがないか、定義で言及している別紙が正しいものになっているか(定義上「別紙1記載の業務」とあるのに業務の内容が別紙2に書かれていないか)も確認します。別紙や添付書類の入れ替えや削除を行った場合には、特に要注意です(注2)。

4 最終版として整っているか

最終版については、コメントがすべて削除されているか、変更履歴が反映されているか、「●●契約書(案)」のようなドラフトであることを示す記載がタイトルやヘッダー・フッターに残っていないか、プロパティ情報に余計な情報が記載されていないかも確認します(注2)。クリーン版を作るときは、「すべての変更を反映」で一度に反映することもできますが、誤りが生じないように1つずつ確認しながら反映していくほうがよい場合もあります(注2)。

5 締結手続と、締結後の管理へ引き継ぐ

確認を終えた最終版は、押印や電子契約の締結手続に回し、締結後は契約書として保管し、期限や更新の管理に引き継ぎます。

契約書の原本を保管することに加えて、契約成立の前提条件が成就したことを示す書面(取締役会議事録、許可書、承諾書など)、相手方の調印者の契約締結権限を示す委任状、義務の履行を示す受領書、そして契約締結交渉に関する書類(審査部門の審査記録、契約書の修正案、交渉議事録、担当者のメモ、メールのやり取りの記録など)も保管すべきです(注1)。交渉過程の記録は、時系列に沿ってファイリングしておくと、どのような経緯で最終的な契約案に落ち着いたのかが明らかになります(注1)。


三 つまずきやすいところ

1 最終版が差し替わっていて気づかない

事業部門から「最終版です」と送られてきたファイルが、法務が見た版の後にもう一度だけ相手方とやり取りした版だった、ということがあります。二の1の比較は、事業部門を信用していないから行うのではなく、ファイルのやり取りの中で起きる取り違えを拾うために行います。

2 覚書や別紙の合意が審査を通っていない

契約書とは別に細かい取引条件を「覚書」などに定めるケースでは、覚書は審査しないという会社も見受けられます。しかし、契約書でなくても当事者間で合意した文書は原則として契約書と同様に法的拘束力を持つので、できるだけ覚書なども審査すべきです(注1)。

締結後に契約内容を部分的に変更する覚書を審査するときは、変更しない条項との間に齟齬が生じないように注意し、変更箇所を除き従前の条項が適用されることを明確にしておく必要があります。保証人がいて主債務の内容を加重する変更であれば、保証人の同意も得ておく必要があります(注1)。主たる債務の内容が保証契約の締結後に加重されても、保証人の負担は加重されないからです(民法448条2項)。


四 仕組みにする:締結前チェックリスト

二の手順を、案件ごとに使える一覧にしておきます。

確認項目見るもの
差分自社の最終修正案と最終版の比較結果に、説明のつかない変更がないか
整合性交渉で直した条項と、存続条項・引用条項・定義との噛み合わせ
別紙別紙・仕様書・添付書類が最新版で、本文の引用と一致しているか
当事者・署名欄正式名称、住所、役職、締結権限
体裁コメント・変更履歴・「(案)」表示・プロパティ情報が残っていないか
保管最終版、前提条件を示す書面、交渉過程の記録を一式で残したか

最終確認は、パソコン上で確認するだけでなく、紙に出して読む、音読する、時間があるときは日を跨いで確認する、といった方法で行うことも考えられます(注2)。

本稿で扱わなかったこと

Wordの比較機能や変更履歴の具体的な使い方は、別稿「Wordの変更履歴・比較を使ったレビュー実務:返す前に消すもの、残すもの」で扱いました。押印・電子契約などの締結手続は08章(締結手続・電子契約・証拠管理)で、契約台帳と期限管理は22章(締結後の履行・変更・更新・終了の管理)で扱います。


参考文献等

註

(注1)愛知県弁護士会研修センター運営委員会法律研究部契約審査チーム編『新民法対応 契約審査手続マニュアル』(新日本法規出版、2018)47〜51頁
(注2)幅野直人『企業法務1年目の教科書 契約書作成・レビューの実務』(中央経済社、2024)43頁、65〜68頁


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