第Ⅱ部 つくる

06 契約審査・レビューの方法

レビューの手順を型にする

契約書のレビューを、通読・構造把握・リスク抽出・修正案の作成・説明の5段階に分ける方法を説明します。読みながら赤を入れる進め方がなぜ遅く、なぜ漏れるのかを、各段階で「何をしないか」の側から整理しました。
05 契約書を作成する技術

商流図とお金・モノ・情報の流れを描く

契約書を書く前に、モノ・カネ・情報の流れを1枚ずつ描きます。当事者関係図の記号化のコツ、販売店経由のクラウドサービスで3つの契約構成を図で比べた実例、流れが交差する箇所にリスクがあるという見方と、図を事業部門に確認してもらう使い方を整理します。
07 契約交渉

契約交渉を3つの目で見る:法的・交渉的・リスクマネジメント

契約交渉には、条項の法的効果を見る目、合意に至る過程を設計する目、リスクの確率と大きさを測る目の3つがあります。同じ交渉が3つの目でどう違って見えるか、条項の議論が動かなくなったときにどう持ち替えるかを、契約交渉の実務書に沿って整理します。
04 契約締結過程と契約の成立

申込みと承諾:契約はいつ成立するか

契約は申込みと承諾で成立し、押印がなくても成立しえます。承諾期間の有無による撤回の可否、2017年改正による到達主義への統一、見積書と注文書がそれぞれ何にあたるか、継続的取引で注文を放置すると承諾とみなされる商法509条まで整理し、この枠組みが実務の交渉型取引では当てはまりにくいことも示します。
08 締結手続・電子契約・証拠管理

署名・記名押印の意味と二段の推定

押印をしなくても契約は成立します。それでも押すのは、契約書が裁判で証拠になるとき、印影が本人の印章のものだと示せば文書全体の成立が推定される「二段の推定」が働くからです。最高裁の昭和39年・昭和50年の判断と民事訴訟法228条4項から、推定の仕組み、崩れ方、署名欄の形ごとの違いまで整理します。
05 契約書を作成する技術

ひな型の選び方と、ひな型が前提にしている取引像

すべてのひな型は、ある特定の取引を想定して書かれています。ひな型の立場(売主寄りか買主寄りか)、想定している取引、作られた時期の見分け方と、目の前の取引との差を洗い出して直す手順を整理します。
07 契約交渉

交渉の5段階プロセス:3つのアプローチをどう回すか

契約交渉の準備を、法的アプローチ・交渉的アプローチ・リスクマネジメント的アプローチの5段階に分けて整理します。実務で飛ばされやすいミッション設定と代替選択肢(バトナ)の置き方、3つを並行して回すという考え方を、契約交渉の実務書に沿って説明します。
06 契約審査・レビューの方法

依頼を受け付ける:何を出してもらうか

契約書だけを渡されてレビューを始める前に、何を出してもらうか。取引の背景、どちらが作った契約書か、締切とその理由、決裁ライン、過去の同種契約の5つを押さえる方法と、依頼フォームの作り方を扱います。
08 締結手続・電子契約・証拠管理

契印・割印・訂正印・捨印

契約書の綴じ目の契印、2通にまたがる割印、書き直した箇所の訂正印、欄外の捨印は、それぞれ何を守るための印か。押し方と押す人、製本テープとの関係、電子契約での扱いを整理し、捨印について「いかなる条項をも記入できるというものではない」とした最高裁の判断から、捨印を押さないほうがよい理由と、求められたときの返し方を示します。
04 契約締結過程と契約の成立

日本の契約成立は「総合判断」で認定される:申込み・承諾型との違い

企業間の取引で、どれが申込みでどれが承諾かを特定できることは多くありません。日本の裁判所が交渉の全体から契約の成立を認定する実際を判決で確かめ、「組織型契約」という理論と照らし合わせたうえで、成立の時点を争わせないための書き方を整理します。
06 契約審査・レビューの方法

事業部門へのヒアリング:何を聞けば条項が決まるか

契約書のレビューに必要な情報を、事業部門からどう聞き取るか。「取引の全体を教えてください」では条項が決まりません。商流・支払・成果物・トラブル・力関係の5領域を、条項から逆算して聞く方法を扱います。
07 契約交渉

交渉の準備:譲歩可能性の事前設計

譲歩の設計を交渉中にやろうとすると、判断のたびに社内へ持ち帰ることになります。どこまで譲れるか(the bottom line と fallback position)、どの順で出すか、何と交換するかを交渉前に決める方法と、社内の合意・決裁プロセスの押さえ方を整理します。
08 締結手続・電子契約・証拠管理

契約締結日をいつにするか

契約書の締結日、効力発生日、実際に押印した日は別のものです。郵送で押印を回すと日付がずれる理由、取引が先行したときに日付を遡らせてはいけない理由、印紙税の「作成の時」との関係を確認し、有効期間を日付で書く改善例と場面ごとの書き分けを示します。
04 契約締結過程と契約の成立

書式の戦い:発注書と注文請書、約款の応酬

注文書と注文請書の裏面約款が食い違ったまま取引が始まる「書式の戦い」は、日本の取引でも日常的に起きています。ラストショット・ルールとノックアウト・ルールの違い、日本ではどちらにも素直に乗らない理由を示し、基本契約を先に結ぶ、個別契約の成立要件を決める、自社書式以外に拘束されない旨を明示する、という3つの仕組みを整理します。
05 契約書を作成する技術

条項の順序と構造化

契約書の条項の順番に法律上の決まりはありませんが、よくある順序はあります。取引に固有の条項と一般条項の並べ方、似た条項が離れて置かれる・後から足した条項が末尾に溜まるという問題と、並べ方・条見出しの付け方を整理します。
07 契約交渉

BATNAと、契約交渉における「降りる」選択

合意できないまま譲歩だけが積み上がる交渉から抜けるための道具が、バトナ(合意できなかった場合の代替案)です。バトナの置き方と改善のしかた、降りる基準の決め方、そして交渉が大詰めに至った後の打切りが不法行為とされた裁判例から、降り方の作法までを整理します。
04 契約締結過程と契約の成立

契約書がなくても契約は成立する:そのとき何を証拠にするか

契約は契約書がなくても成立します。では、裁判所は何を見て成立を判断するのか。「言い値で買い取る」確約書があっても5億円の売買が成立しなかった東京地裁判決から、契約書がない取引で残しておくべき記録と、代金が決まらないまま取引を始めるときの備えを整理します。
08 締結手続・電子契約・証拠管理

契約書の通数と原本の管理:製本・保管・電子化

押印が済んだ契約書を、あとで証拠として使える状態のまま保つための手順です。何通作るか、製本と別紙・最終稿の照合、原本の保管、写しに押印すると印紙税の上で原本が増える落とし穴、スキャナ保存の後に原本を廃棄してよいかまで整理します。
05 契約書を作成する技術

曖昧さを残す技術・消す技術

契約書の曖昧さには、決めきれずにあえて残したものと、書き損じて残ったものがあります。誠実協議条項・努力義務・「等」・定義の不一致・主語の欠落を例に、残すなら記録する、消すなら数値と列挙で消すという書き分けを整理します。
06 契約審査・レビューの方法

自社の立場で読み替える

相手方から届いた契約書のひな型を、自社の立場で読み替える方法を説明します。条項を裏返して読む、相互条項に見えて片務的なものを見分ける、甲乙を入れ替えた版を作って読む、という3つの手順を扱います。
07 契約交渉

修正理由の伝え方:法的根拠/取引上の実害/代替案

修正案に理由を書かずに送ると、相手方の社内で誰も通せません。修正理由を、法的根拠・取引上の実害・代替案の3層に分けて書く方法と、相手方の読み手による使い分け、「修正は一切不可」と言われたときの次の一手を整理します。
04 契約締結過程と契約の成立

契約締結上の過失・交渉破棄の責任

契約が成立していなくても、交渉を一方的に打ち切った側が損害賠償を命じられることがあります。信義則を根拠とする責任の構成、信頼利益と履行利益、情報提供義務の性質を判決で確かめ、打ち切る側と打ち切られた側それぞれが契約実務で備えることを、負けた事例から整理します。
06 契約審査・レビューの方法

抜けている条項を見つける技術:チェックリストと、取引からの逆算

相手方の契約書案は、相手方が必要と考えた条項でできています。書いてある条項の良し悪しは読めば分かりますが、書いていない条項は見えません。チェックリストと照らし合わせる方法と、取引の中身から逆算する方法を組み合わせて欠落を見つけ、どこまで埋めるかを分けて判断します。
05 契約書を作成する技術

日本語として読める契約書を書く:一文の長さと係り受け

読めない条項は現場で守られません。一文が長い、係り受けが2通りに読める、二重否定、「又は」の重なりという4つの問題と、一文一義・項と号への分割・係る語と受ける語を近づける直し方を、条項例の書き換えで示します。
08 締結手続・電子契約・証拠管理

電子署名法の枠組み:2条と3条

電子文書には押印ができません。2026年5月施行の改正民事訴訟法は、文書の成立の規定を電磁的記録に準用しつつ署名・押印の推定(228条4項)だけを外しており、その役割を担うのが電子署名法3条です。2条の電子署名と3条の電子署名の違い、二つの「本人」、固有性の要件、推定が得られない場合の備えまで整理します。
04 契約締結過程と契約の成立

LOI・MOU・基本合意書の法的性質:名前ではなく条項ごとに決まる

LOI・MOU・基本合意書・覚書という名前の違いに法的な意味はありません。拘束力の有無は中身で決まり、具体的な約束を書面にすれば拘束力を持つと解釈されやすいので、持たせたくない条項はその旨を明記する必要があります。拘束力を持たせる条項と持たせない条項の一般的な振り分けを整理します。
06 契約審査・レビューの方法

修正案の作り方と修正理由の書き方:法的根拠・取引上の実害・代替案

「当社に不利なため」とだけ書いた修正案は、同じ理由で元に戻されます。修正理由は、社内を動かす理由と相手方を動かす理由の二通りが要ります。相手方向けには、法的根拠・取引上の実害・代替案の3層で書く。削る・足す・書き換えるの使い分けと、修正履歴での見せ方もあわせて整理します。
05 契約書を作成する技術

別紙・仕様書への切り出し方

別紙に出すのは本文をすっきりさせるためではなく、変更の手続を分けるためです。仕様・作業分担・個人情報の取扱いの切り出し方と、別紙の付け忘れ・変更手続の不在という問題、本文と別紙で変更手続を分ける条項例を示します。
07 契約交渉

相手方の力関係と、それが法的評価に跳ね返る場面

力関係の差そのものは違法ではありません。問題になるのは、差を利用して押し込まれた条項が後で効かなくなったり、押した側の責任の根拠になったりする場面です。優越的地位の判断要素、独占禁止法・取適法・フリーランス法・消費者契約法の規制、条項の私法上の効力を整理します。
08 締結手続・電子契約・証拠管理

立会人型と当事者型:どちらを選ぶか

相手方から別の電子契約サービスを指定されたとき、何を見て判断するか。立会人型と当事者型の違い、電子証明書の有無、電子署名法3条の推定と身元確認の関係、相手方のサービスに合わせるときの手順と後文の直し方、紙の印章の使い分けに対応させて重要な契約だけ当事者型にする線引きを示します。
06 契約審査・レビューの方法

事業部門への説明:法的リスクと事業判断を分けて伝える

事業部門は、その契約を締結すべきだと考えて審査を依頼してきます。「リスクがあります」とだけ返せば、法務は取引を止める部署になります。踏めないリスクと、踏むかどうかを選べるリスクを分け、確率と大きさ、選択肢をそろえて渡す。判断は事業部門がし、その過程を記録に残す、という伝え方を整理します。
07 契約交渉

条項ごとの落としどころの相場観

条項に数値の相場はありませんが、対立したときにどの方向へ動かすと着地するかという型はあります。独占権と最低購入数量のように条項がセットで決まること、義務の強さと違反の効果のどちらを落とすかという型を、2冊の実務書の落としどころから整理します。
04 契約締結過程と契約の成立

独占交渉義務と、破ったときの効果

基本合意書の独占交渉義務は、拘束力を持たせるのが一般的な条項です。最高裁(平成16年8月30日決定)は、違反による損害は最終的な合意が成立するとの期待の侵害にとどまるとし、差止めの仮処分を認めませんでした。期間の区切り方、違約金や交渉費用の賠償の入れ方、独占を受け入れる代わりに何を取るかまで整理します。
05 契約書を作成する技術

自社ひな型を作るか、相手方ひな型を直すか

契約書の案はどちらが出すべきか。相手方の案で交渉する手間と、自社ひな型で進めるメリット、大企業の統一書式を直せないときの変更覚書という手当て、「うちのひな型で」と言うための準備を整理します。
08 締結手続・電子契約・証拠管理

電子契約サービスの選択と社内規程

電子契約では、アカウントを使える者なら誰でも締結の操作ができます。サービス選定で法務が確かめる機能、担当者個人のアカウントで代表者名義の契約を結ぶことの問題、文書管理規程・印章管理規程の直し方、退職者のアカウントや事業部による独自導入の防ぎ方を、規程に書く項目まで整理します。
06 契約審査・レビューの方法

どこまで直すか:譲れない・譲れる・どちらでもよい

気になる箇所に全部赤を入れた修正案は、相手方に「全部は飲めない」と思わせ、いちばん大事な1点も通りにくくします。修正したい箇所を、譲れない・譲れる・どちらでもよいの3つに仕分け、金額・確率・取引の重要度と力関係で判断し、譲る箇所を交渉の材料として使う方法を整理します。
07 契約交渉

交渉経緯を記録することの意味

条項の意味は、文言だけでは決まりません。最高裁は、文言の文理・他の条項との整合性・締結に至る経緯を総合して判断するとし、締結前の担当者の説明やマニュアルの記載を考慮しました。交渉経緯を何のためにどう記録するか、どこまで残すかを整理します。
04 契約締結過程と契約の成立

先の見通しの立たない取引をどう契約にするか

システム開発や共同研究のように、始める時点で何が起きるか分からない取引をどう契約にするか。決まっていることと後で決まることを分け、多段階契約、協議条項と不調時の処理、再交渉条項(ハードシップ条項)、段階ごとの解約権の4つの道具の使い分けを整理します。
08 締結手続・電子契約・証拠管理

電子帳簿保存法と保存要件

電子契約で締結した契約書のデータは、電子帳簿保存法上の電子取引として、印刷せずにデータのまま保存します。改ざん防止の4つの措置、見読と検索の要件と売上高5,000万円以下の例外、保存場所と期間、令和6年からの猶予措置、サービス解約時のデータの扱いまで、契約実務に必要な範囲で整理します。
07 契約交渉

クロスボーダー交渉と契約書の英文化

日本語のひな型を訳せば英文契約になるわけではありません。言語の問題・法制度の問題・商慣習の問題を切り分け、反社条項や請負/準委任のように対応する英語がない概念をどう書くか、準拠法とCISGの扱いをどう決めるかを整理します。
04 契約締結過程と契約の成立

予約・条件付契約

相手方に「本契約を締結する義務」を負わせる方法として、予約と停止条件付契約があります。予約完結権の仕組み、停止条件付契約・基本合意書との違い、入金リンク条項を停止条件ではないとした最高裁判決、条件成就の妨害の規定から、どれをどう書くかを整理します。
08 締結手続・電子契約・証拠管理

印紙税:課税文書の判定

契約書に印紙が要るかは、表題ではなく内容で決まります。課税文書の3つの要件、印紙税法上の「契約書」の定義、売買・請負・委任の区別、1つの文書が2つの号に当たる場合の所属の決定、金額の書き方で号が変わる例、外国の会社との契約まで、契約書の書き方に跳ね返る範囲で整理します。
06 契約審査・レビューの方法

最終案の審査と、締結後に法務がやること:差分を取るのが最後の仕事

レビューは修正案を出したら終わりではありません。交渉を経た最終版は、法務が出した修正案と同じとは限らないからです。自社の最終修正案と最終版を比較して差分を確かめ、交渉で直した条項と他の条項の噛み合わせ、別紙の版、体裁を確認し、交渉記録と一緒に保管する。締結前チェックリストの形で整理します。
06 契約審査・レビューの方法

Wordの変更履歴・比較を使ったレビュー実務:返す前に消すもの、残すもの

変更履歴は、修正を見せる道具であると同時に、見せるつもりのないものまで相手方に渡してしまう道具です。表示を「変更履歴なし」に切り替えても履歴は文書に残ります。比較機能で差分を取る、回ごとに色を分けて返す、送る前にドキュメント検査で内部コメントや作成者情報を消す。Wordでのレビューの作業手順を整理します。
07 契約交渉

事業部門と相手方の間に立つ:交渉の代理と社内調整

「法務がこう言っているので」という一言で修正案が相手方に渡ると、社内の反対と受け取られます。どこで交渉が止まっているかを見て、そのまま送れる形で渡す、同席して条項の説明だけを担当する、外部弁護士を入れる、という手当てを整理します。07章の最後の記事です。
04 契約締結過程と契約の成立

基本合意書の条項設計:何を決め、何を決めずに残すか

基本合意書は、最終契約から逆算して、いま書く範囲を決める文書です。事業譲渡を想定した12か条の標準構成を示し、取引の概要の書き込みすぎ、独占交渉義務違反の効果の不記載、公表の取扱いという3つの問題点と改善例を整理します。
08 締結手続・電子契約・証拠管理

電子契約と印紙税

電子契約だけで締結すれば、現行法上、印紙税はかかりません。政府の答弁書と国税局の文書回答をもとに、課税文書の「作成」の意味、電子で送った後に紙を交付した場合や印刷して押印した場合の扱い、紙を併用する場面ごとの課税・非課税を整理します。
06 契約審査・レビューの方法

AI契約審査サービスとの付き合い方:書いてあることと、起きうること

AI契約審査サービスが得意なのは、契約書に書いてあることの処理です。欠落条項や表記ゆれの洗い出しは任せられますが、この取引で何が起きうるかの判断は任せられません。修正案の文言というグレーゾーンの扱い方、1件の審査での手順、組織として導入するときのポイント、採用の最終判断を人に残す理由を整理します。
08 締結手続・電子契約・証拠管理

締結の記録を残す:あとで証拠になるもの

契約書に署名・押印した後、契約書のほかに何を残しておくか。最終版のデータ、交渉のメール、決裁の記録、送受信記録と本人確認の情報、履行の記録をどこに置き、いつまで残すかを、政府の「押印についてのQ&A」と消滅時効の起算点から整理し、契約台帳に紐づけて残す手順を示します。