一 どういう場面か:聞き取った内容を整理する
事業部門から取引の説明を聞いたあと、契約書を書き始める前に、1枚の図を描きます。
当事者が3名以上いる場合や、ビジネススキームが把握しにくい場合には、依頼部署に当事者関係図を作成してもらい、審査依頼書に添付してもらいます(注1)。図を作ってもらうことで、審査担当者がスムーズにビジネススキームを把握できるようになるだけでなく、依頼部署の担当者の頭の中を整理してもらうこともできます(注1)。依頼部署が作った当事者関係図の有無にかかわらず、審査担当者も当事者関係図を作成して契約当事者を確認します(注2)。
二 何を見るか:3つの流れを別々に描く
1枚の図に全部を描き込むと、線が交差して読めなくなります。モノ、カネ、情報の3つを、同じ当事者の配置のまま別々に描きます。
1 モノ(誰から誰へ、いつ)
目的物や成果物が、誰の手から誰の手に、いつ渡るかを矢印で描きます。売主から買主に直送されるのか、間に倉庫や商社が入るのかで、引渡しの場所と危険の移転時期の定め方が変わります。
2 カネ(誰から誰へ、いつ、いくら)
代金が誰から誰に、いつ、いくら流れるかを描きます。モノの矢印と逆向きになっていない箇所は、立替えや代理受領など、契約書に定めが要る箇所です。
3 情報(何を渡し、何を受け取るか)
秘密情報や個人情報が、誰から誰に渡るかを描きます。契約の当事者でない会社に情報が渡る線があれば、秘密保持義務の範囲や再委託の条件を決める必要があります。
三 直し方(描き方)
1 当事者を箱で描く
分かりやすい当事者関係図を作るコツの一つが、関係を記号化することです(注1)。個人は○、法人は□で囲み、債権は細長い三角形(底辺側が債権者、頂点側が債務者)、保証債務は波線の矢印、権利の譲渡は矢印で表します(注1)。売主Y社が買主A社に対して持つ売買代金債権を自社がY社から譲り受ける債権譲渡契約(審査対象の契約)を例にとると、Y社・A社・自社を□、A社の代表者個人Bを○で描き、代金債権を三角形、Bの個人保証を波線で示した図になります(注3)。
2 3者以上のときこそ描く
当事者が3者以上になると、同じ取引でも契約の組み方が複数ありえます。図を描くと、どの組み方にするかを比べられます。
ある企業の法務担当者は、販売店経由でクラウドサービスを提供する取引について、販売店との契約の法的構成に悩んだ経験を報告しています(注4)。販売店がユーザーにクラウドサービスの営業と契約締結手続を行い、サービス自体は自社からユーザーに提供し、販売店は窓口・料金収受と独自サービスを担い、サービスの契約責任は自社がユーザーに直接負う、という取引です(注4)。担当者は、3つの構成を図にして比べています(注4)。
| 構成 | 契約の流れ | 検討の結果(同論稿) |
|---|---|---|
| 再委託型 | ユーザー→販売店(受託)→自社(再委託) | 販売店がユーザーに一次的に契約責任を負うことになり、自社が直接責任を負うという取引内容に合わない |
| 取次型 | 販売店が自社のサービスの取次ぎを行い、自社が取次手数料を払う | 販売店が導入・初期設定などの独自サービスも提供するので、単なる取次ぎにとどまらない |
| 利用権売買型 | 自社が販売店にサービス利用権を販売し、販売店がユーザーに再販売する | ユーザーは自社のサービスを直接使い、責任は自社が直接負う一方、料金は販売店が収受し、独自サービスとも整合する |
(表の内容は注4による)
担当者は、利用権売買型が取引の実態に最も合致していると考えて採用し、ユーザーとの間で自社が直接契約上の責任を負うために、販売店にユーザーから利用規約への同意を取得する義務を課す条項を置いた、としています(注4)。モノ(サービス)の流れと、カネの流れと、契約責任の線が一致しない取引で、図が構成を選ぶ材料になった例です。
3 流れが交差する点にリスクがある
3つの流れを重ねたとき、モノとカネの矢印が同じ当事者の間で逆向きにそろっていない箇所、情報の矢印が契約の当事者でない会社に伸びている箇所に印を付けます。そこが、契約書で手当てが要る箇所です。
四 相手方への説明のしかた:図を事業部門に確認してもらう
描いた図は、事業部門の担当者に見せて確認してもらいます。図を見せると「この矢印は逆です」「ここに物流会社が入ります」と訂正が入ります。言葉で聞き取ったときには出てこなかった当事者や流れが、図では出てきます。
ヒアリングの冒頭で当事者関係図を示して当事者を確認し、契約目的を確認したうえで、契約書案の条項に沿って確認していけば、流れのよいヒアリングができます(注5)。
五 どこまで直すか
図は、契約書のための下書きです。清書する必要はありません。当事者が2者で、モノとカネが1往復するだけの取引なら、図を描くまでもないことも多いでしょう。
| 場面 | 図 |
|---|---|
| 当事者が2者、単発の売買 | 描かなくてよい |
| 当事者が2者、継続的な取引 | モノとカネの時期だけ書き出す |
| 当事者が3者以上 | 3つの流れを描き、事業部門に確認してもらう |
| 同じ取引で契約の組み方が複数ありうる | 組み方ごとに描いて比べる |
商流図は、法務のためだけに描くのではありません。事業部門との認識合わせのために描きます。
本稿で扱わなかったこと
事業部門から何を聞き取るかは、06章の別稿「事業部門へのヒアリング:何を聞けば条項が決まるか」が扱います。当事者が3者以上になったときの条項の書き方は、10章の別稿「当事者の表示と、複数当事者間の契約:『甲は乙に対し』で足りなくなるとき」が扱います。
参考文献等
註
(注1)愛知県弁護士会研修センター運営委員会法律研究部契約審査チーム編『新民法対応 契約審査手続マニュアル』(新日本法規出版、2018)18頁
(注2)前掲注1・26頁
(注3)前掲注1・19頁
(注4)西田智行「『クラウドサービス販売店契約書』の新規作成」ビジネス法務2022年8月号42〜43頁
(注5)前掲注1・27頁




